解説委員の清永聡です。突然ですがみなさん、
不動産の相続登記が、2024年(令和6年)4月から義務化されます!
例えば親が亡くなったあと、土地や建物を相続したのに名義を亡くなった親のままにしておくと、一定の期間経過後には10万円以下の過料の対象になってしまいます。
この相続登記、たいていの人が思うよりもはるかに大変です。
私は数年前、1人で相続登記をやってみました。私は司法取材を担当して20年以上の経験があります。特に問題無くできるでしょうと思うかもしれませんが、実際はつまづいてばかりで、へとへとに疲れ果てました。
山本恵子解説委員の「相続手続きは続くよどこまでも」に続く、解説委員がやってみたシリーズ第2弾。「相続登記をやってみた」をお伝えします。
私も「必要な書類一覧」を作成して記事の中に掲載しましたので、参考にしていただければと思います。
どうして義務化されるの?
私は母親を早くに亡くし、父親も数年前に亡くなりました。きょうだいは3人で、私が長男です。
亡くなった後の手続きの大変さは、山本恵子委員が書いた記事とほぼ同じ。きょうだい3人で手分けして何とか手続きを終えました。
実家の土地と建物は100坪ほどの敷地と40坪の古い家で、誰も住む人がおらず空き家になりました。
春になると不動産にかかる「固定資産税」の通知が父親宛に郵便で届き、私が受け取って手続きをしていました。
「名義がだれであっても、税金を払っておけば、大丈夫だろう」
そう思っていたのです。
ところが相続した不動産の登記が義務化されることになりました。
相続登記の義務化は「所有者不明の不動産」の発生を防ぐためです。
登記を怠ると、例えば空き家があってもどこに連絡したらいいかすぐにはわからない。あるいは取り壊そうとしても権利関係が複雑で、全員の同意を得ることが難しくなります。
2024年(令和6年)4月から義務になって、3年以内に行われない場合、10万円以下の過料(制裁金)の対象にもなります。
ところで、私はふだん司法担当の解説委員をしています。
といっても法律に詳しいわけではありません。法律家の資格など持っておらず、文学部卒です。
数年前のこと。法務省の取材をしていて、相続登記が実は「必要」であることを初めて知りました。
まだ義務化が検討される前のことですが、
「せっかくなら、自分一人でやってみよう」
そう思い立ちました。
忙しい人は司法書士に依頼することが多いと思います。実際に専門家にやってもらう方がはるかに楽です。しかしできるところまで誰にも聞かず、自分でやってみようと思いました。
ところが
数か月かかり、へとへとになりました。
(今回ご説明するのはあくまで私の例ですので、一般とは異なる部分があると思いますが、その点はご了承ください)
必要な書類①亡くなった人の書類
まずは必要な書類の一覧を作ってみました。
これは法務省のハンドブックを元に日本司法書士会連合会に監修してもらいました。もちろんこれも一例で、事例によっては異なる場合もあります。参考にしてください。
相続登記の際の一覧として作成したものです
まず「亡くなった人や不動産に関する書類」です。
亡くなった人の書類とは分かりやすく言うと、
「その人が生まれてから死亡するまでが分かる書類」です。
法律上の相続人は誰なのかを明らかにするための書類です。
まずここで、つまづきました。
父は私が生まれる前の若い時に一度本籍を移し、しばらくしてもとの場所に戻っていました。ところが私が生まれる前のことで、親戚に聞いても誰も覚えていません。
半信半疑で転居先だったという自治体に問い合わせたところ、確かに一時的に本籍を移していたことが分かりました。
そうすると、そこからも書類(私の場合は除籍謄本)をもらう必要があります。
聞けば郵便でも取り寄せることができるということですが、今回はきょうだいに仕事の合間に受け取りに行ってもらいました。
こんな感じで、まず亡くなった親の書類を集めるのに時間がかかりました。
必要な書類②相続人の書類
続いて「相続人の書類」です。
私の場合、父の遺言書はなく、法律上の相続人は私を含めてきょうだい3人だけ。全員家を出ているため、実家の不動産は私が1人で相続することになりました。
ここでも私は誤解していました。
1人で引き継ぐので相続人の書類は私1人分でよいと思っていたのです。
ところが法律上相続人になる、全員の戸籍と印鑑証明書が必要でした。つまり私を含むきょうだい3人の書類が必要でした。
連絡を取って、戸籍などを送ってもらう必要があります。それと印鑑証明書はこの後の書類で使います。
印鑑登録をしていない場合、まず登録から手続きをしてもらう必要がありました。
でも、みんなそれぞれ仕事をしています。戸籍などを全員分集めるのも時間がかかりました。
必要な書類③自分で作成する書類も
そして「自分で作成する書類」などです。
こちらは私が作った「遺産分割協議書」です。
タイトルだけ聞くと物々しいですが、簡単に言えば「話し合って、私が不動産を相続します」という内容です。
そして法律上の相続人全員の住所氏名と実印。ここで先ほどの印鑑証明書が必要になります。
この書類も、法律上の相続人が全員集まって署名して押印するか、郵便で1人ずつ回していくことが必要です。
ちょうど3人が集まる機会があったので一度で済みましたが、もっと多かったり、海外に住んでいる人がいたりすると、全員の署名と押印を集めるのも大変そうです。
もう1つが「相続関係説明図」。これも私が作ったものです。
亡くなった人と相続人との関係を、図で示したものです。
こうした自分で作る書類は、法務局のホームページに書式があります。ダウンロードできますので、自分に合わせて作り直すことができます。
このほかに「登記申請書」という書類もあります。こうした書類を戸籍などと一緒に、不動産を管轄する法務局へ提出します。
ところが私はここでまた、つまづいてしまいました。
私は登記申請書に登記簿に書かれている不動産番号という数字を書いたのですが、土地・建物それぞれ13ケタあります。私は1つを間違えて書いてしまいました。このため持ち帰って書き直すことにしました。
ところが法務局は平日しか開いていません。
もう一度平日に休みを取りなおして出直すことになりました。
あと「登録免許税」という税金もかかります。この登録免許税の額は不動産の価格によっても異なります。相続登記の場合、一般的には固定資産課税台帳の価格の1000分の4です。
例えば課税価格が1500万円なら6万円です。その金額の収入印紙を貼ります。
このように書類を準備したり手続きをやり直したりしたため、結局、終わるまでに数か月かかったわけです。
教えて司法書士さん!どういう場合は専門家に頼む?
全部終わった時には、へとへとになりました。
今回この解説をするため、日本司法書士会連合会の副会長、里村美喜夫さんを訪ねました。
自分で相続登記をしている人は、私と同じように苦労している人が多いようです。もう少し上手に手続きできないでしょうか。
そのほかにも自治体によっては、相続に関する窓口を設けているところもあるそうです。そういう場合は、ぜひそこも利用してください。
でも、分からないのはどこまでなら個人でもできるのか。どんな場合は専門家に頼らないと難しいのか、です。
例えば登記が50年くらい放置されていると、法律上の相続人は、子供、孫と広がって時には数十人になり、個人では手に負えなくなってしまうのだそうです。
こうした状態を放置すれば「所有者不明の土地」や「空き家問題」が発生する原因にもなります。
私の場合は幸い、父が若い時に祖父から相続登記をしていました。このため法律上の相続人はきょうだい3人だけで済みました。
3人でも大変だったのですから、もし、父が相続登記をしてくれていなかったら、きっと私ひとりではできなかったでしょう。
そう考えると私も、自分の子どものために相続登記をやっておいて良かった。苦労しましたが、そう考えることにしました。
それとすべての手続きが終わると、「登記識別情報通知書」という書類を受け取ります。
里村さんはこの書類の扱いにも注意するようにとアドバイスしてくれました。
私も手続きが全部終わってほっとしたため、「登記識別情報通知書」はほかの申請書類のコピーと一緒に置いていました。
先生の注意点を聞いて、きちんと貴重品を保管する場所に移しました。
手続きの参考資料や相談先は?
2024年4月から相続登記の義務化がスタートします。
私のように自分でやってみようという人に参考になるのは、法務省民事局が2022年12月にまとめた「登記申請手続きのご案内」というパンフレットです。
こちらの「法務省」のホームページからダウンロードできます。(NHKのサイトを離れます)
それから全国に相続登記相談センターを作っているのが、日本司法書士会連合会です。
ホームページはこちら。(NHKのサイトを離れます)
電話番号は0120-13-7832です。平日午前10時から午後4時まで、最寄りの司法書士会の相談予約窓口へつながります。センターへの電話は無料です。具体的な受付時間は、各地によっても異なります。
このほか法務局や弁護士会なども手続き案内や相談への対応を行っています。
相続登記は“ルーツをたどる旅”だった
苦労した一方で、自分で相続登記をやってみて、戸籍を通じて私が生まれる前の親のことや祖父母のことなども分かりました。
まったく知らない地名が出てきたほか、半世紀以上前に亡くなった親戚の名前を知ることもできました。
相続登記が「自分のルーツをたどる旅」でもあるのだということを実感しました。
一方で実感したのは、やはり1人でやるのはとても負担が重いということです。法律上の相続人が3人しかいなかった私でも、これだけ時間と手間がかかりました。
義務化までの間に、国には少しでも手続きを軽減できるようにしてほしいですね。
この記事へのコメント