投票所に行かなくてもOK!コロナで変わる?投票方法

選挙になると、投票所に長い列ができるアメリカ。
投票所に多くの人が詰めかけると、新型コロナウイルスの感染を広げてしまうおそれがある。
どうやって投票の安全を確保すればよいのか、今、さまざまな模索が始まっている。

自宅からスマートフォンで投票できる「スマホ投票」や、郵便で送られてきた投票用紙に記入して送り返す「郵送投票」。
新型コロナウイルスの感染拡大は、アメリカの投票方法を変える契機となるのか?

目次

    スマホ投票に寄せられる熱い視線!

    「うちの州でもスマホ投票の導入を検討したい」
    「投票アプリのセキュリティについて詳しく教えてほしい」

    新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、スマホ投票用のアプリを開発している会社には、こうした問い合わせが各州の選挙管理委員会から相次ぐようになったという。

    スマホアプリ会社 ニミット・ソウホニー社長 「すでに、複数の州の担当者と話し合いを進めていて、この状況だと今後さらに多くの州が導入に向けて動きだすのではないかとみている」

    「スマホ投票」について、アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は、セキュリティ上の課題はあるものの、ウイルス感染を防ぐうえで有効な手段の1つだとしている。
    そのうえで、「スマホ投票」に必要なシステムへの投資を行っている会社の代表の話として、すでに6つの州が一部の有権者への導入を検討しているなどと報じた。
    新型コロナウイルスの感染拡大を機に、スマホ投票への関心が高まっていることがうかがえる。

    国を守っている人が大統領選挙で投票できない?!

    「スマホ投票」をめぐっては、新型コロナウイルスが流行する前から、全米初となる大統領選挙での導入を決めていた州がある。

    南部・ウェストバージニア州。
    背景にあるのは、選挙を取りしきる、マック・ワーナー州務長官がアフガニスタンに駐留していた経験だった。

    在外投票の場合、まずメールで送られてきた投票用紙を印刷。
    投票したい候補者の名前が書かれた欄を塗りつぶしたら、本国に郵送で送り返す仕組み。
    ただ、戦闘地域では、プリンターが無かったり、電気が通っていなかったりして、現実的な方法ではないという。

    『軍の関係者は、アメリカという国のために海外に派遣され、国の安全を守る仕事をしているのに、自国の大統領を選ぶ選挙で、きちんと投票できないのはおかしい』

    そんな思いから、「スマホ投票」の導入を決めた。

    考え方を180度変えるきっかけになった新型コロナ

    ただ、ウェストバージニア州で「スマホ投票」ができる人は限られている。
    海外に駐留する軍の関係者、仕事や留学で海外在住の在外投票者、それに、身体的な障害があり、投票所に行くのが困難な有権者のみを対象としている。

    万一、ハッキングなどセキュリティに問題が生じた場合、「スマホ投票」をした人の数が少なければ迅速に対処できる。
    しかし、対象を全有権者に広げてしまうと対応が難しくなるため、ワーナー長官は、一気にすべての有権者を対象にすることには慎重だった。

    そんなとき、そうも言っていられない事態が起きる。
    それは、新型コロナウイルスの感染拡大。

    いつもなら問題なく投票所に直接出向いて投票できる有権者にも、長蛇の列に並んで投票したり、人が密集する投票所で投票したりすれば、ウイルス感染の危険が及ぶおそれがある。
    緊急事態に直面したワーナー長官は、考え方を180度転換せざるをえなくなった。

    マック・ワーナー州務長官 「『スマホ投票』を使える有権者の数を徐々に増やすことが理想的だと考えてきた。しかし、こうした緊急事態の場合にかぎっては、すべての有権者に『スマホ投票』を可能にするのが、堅実な解決策だと思う。各州の政府がそれぞれ、『スマホ投票』に必要なテクノロジーの開発に投資し、その安全性を向上させるべき。そうすれば選挙にスマートフォンを使うことに反対している人たちも含め、多くの人に『スマホ投票』が受け入れられるようになるだろう」

    「スマホ投票」を阻む“壁”

    しかし、なかなか思いどおりにはいかない。

    ウェストバージニア州の場合、選挙のルールを定めた条例を次に変更できるタイミングは来年の1月。
    それまでは、「スマホ投票」を利用できるのは、あくまで在外投票者と障害者だけで、州内に住むすべての有権者への適用は、どう頑張ってもできない。

    では、どうすればいいのか?

    ワーナー長官が今、活用しようとしているのが、郵送で投票用紙をやり取りできる、不在者投票の活用。

    ウェストバージニア州チャールストンの投票所

    事前に「新型コロナウイルスの感染拡大のため投票に行けない」と理由を明確に示した有権者に対し、投票用紙を自宅に郵送し、記入した投票用紙を送り返してもらうというもの。

    マック・ワーナー州務長官 「選挙のルールをすぐには変えられないので、ひとまず投票所に行かなくてすむ不在者投票の利用を広く呼びかけている。ことし6月の民主党の予備選挙では、不在者投票の利用者が、50%近くに上るのではないかと予測している。現時点においては、最善の投票方法だと考えている」

    バーチャル議会の実現も?

    ちょっと話はそれるが、アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、ついに「バーチャル議会」が登場するのではないか、と予測する専門家もいる。

    マサチューセッツ工科大学の研究機関で政治に活用できるテクノロジーなどについて研究している、イーサン・ザッカーマンさんは、アメリカメディアの取材に対して、こう話している。

    「議員たち自身も新型コロナウイルスに感染する中、みんなで議会に集結するのは賢くない。これを機に、インターネットで各地を結ぶバーチャル議会にして、議員たちは、それぞれ地元にとどまるようにすべきだ」

    ザッカーマンさんは、議員たちが首都ワシントンに集まるのではなく地元にいることで、地方が抱える問題に、より耳を傾けやすくなり、バーチャル議会は結果的には、政治によい影響をもたらすのではないかとも指摘していて、プラスの面もあるらしい。

    コロナウイルスの感染拡大が、具体的にいつ収束するのかは誰にも分からない。
    しかし、目の前で起きている問題が大きければ大きいほど、それを何とか解決しようという社会のうねりにつながっていくのだと感じる。
    ピンチをチャンスに変えることができるのか、アメリカの模索から私たちも学んでいくべきではないか。

    山田 奈々

    国際部記者

    山田 奈々

    2009年入局。長崎局、千葉局を経て2014年から経済部。
    大手電機メーカー・東芝の経営問題やG20などの国際会議の取材を経て2019年から国際部。
    アメリカ、ヨーロッパ、経済を担当。