トランプ陣営 実績アピール
トランプ大統領の経済政策の特徴を論じるとき、よく「大企業や富裕層を優先している」と評される。
就任直後から法人税減税や所得税の最高税率の引き下げを実施したためだ。
しかし、本人は「労働者のためになる」と主張してきた。そして現実に、最高値を繰り返す株価に連動するように、雇用環境は好調だった。全米の失業率は、3.5%という半世紀ぶりの水準に改善。黒人やヒスパニックの失業率も史上最も良い水準に達した。
これは「トリクルダウン」と呼ばれる経済理論で、企業や株式市場を刺激することで、その恩恵が労働者らにも染みわたっていくというものだ。
2019年秋、トランプ経済の影を取材しようとミシガン州を訪れた際、失業中の白人労働者に出会った。
政権への批判を聞き出そうとしたが「株式市場が好調なおかげで私の資産は倍になった。だからこの先も心配していない」と真逆の答えが返ってきたことに驚かされた。
貿易政策についても、トランプ流は異例尽くしだった。
国内の鉄鋼産業を保護するために海外製の鉄鋼製品に25%もの関税を上乗せ。中国からの輸入品にも高い関税を上乗せし、結果、アメリカ産の農産品の大量購入を強引に約束させた。
国内工場の流出を生んだNAFTA=北米自由貿易協定も見直した。
製造業の復活は、掛け声ほど成果が出ていないという受け止めもあるが、歴代の大統領が手をつけなかった労働者向けの施策を繰り出した。NAFTAに苦しめられたという中小企業を取材した際、経営者や従業員が「民主党に代わって共和党が労働者の党になった」と評価していた。
こうした順調なトランプ経済に対して、民主党は攻めの手を考えあぐねているようにも見受けられた。
バイデン陣営 コロナ失策を攻める
「50年ぶりの好調な雇用環境が、わずか2か月後に、過去90年の最悪を記録した」
FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は7月、アメリカ経済をこう言い表した。
アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大で一変した。
感染者は557万人、死者は17万人と世界最悪だ(8月21日現在)。
3月から4月にかけて全米の経済活動はほぼ一斉に停止し、失業率は14%(4月)、GDPはマイナス32%(4‐6月速報値)と、大恐慌以降で最悪の事態に陥った。
空前の景気悪化につられるように、トランプ大統領の支持率も低下した。
歴史的に経済が悪化したときの選挙は現職に不利に働くケースが多い。
大統領選挙でも、第2次オイルショックの1980年当時のカーター大統領、湾岸戦争不況に見舞われた1992年当時のジョージ・ブッシュ大統領が、それぞれ再選に失敗した。
新型コロナウイルスの感染拡大のあと、バイデン陣営は「感染拡大はトランプ大統領の失策」と位置づけ、活気づいた。
党の方針の違いも鮮明にした。共和党が経済活動の再開を重視したのに対して、民主党は感染対策を重視した。
今、議会では、追加の経済対策をめぐる予算攻防が続いているが、共和党の総額1兆ドル案に対して民主党は3兆ドルを要求。国がより積極的に危機を救うべきだと訴える。
内容を見ても、共和党が雇用を守る企業を支援することに重きを置いている一方、民主党は経済活動の再開を急ぐことなく失業者に手厚い生活支援をつぎ込むとして、“優しさ”を印象づけようとしている。
バイデン氏がビルド・バック・ベターのスローガンをもとに発表した経済公約や党の政策綱領でも、新型コロナウイルスの混乱から国を再建していくことを強調している。
また、黒人やヒスパニックなどマイノリティー向けの経済政策もアピールする。
民主党の課題は、党内左派勢力との融和だ。
この4年間、党内で存在感を出してきたのは、国民皆保険や学生ローン免除などの具体的な政策をもとに国家の格差是正を訴えるサンダース氏、ウォーレン氏、そしてオカシオコルテス氏といった左派の議員たちだ。彼らの主張に多くの若者たちが賛同する。
ところが、資本主義が浸透するアメリカで、大企業や富裕層に対する税制や環境規制で極端な政策を打ち出せば、党の支持層や無党派層であるビジネスマンや高齢者らに背を向けられるリスクがある。
すでに党の政策綱領などに対して、左派議員の間から物足りないという批判が出ている。
難しいかじ取りが続きそうだ。
有権者の生活実感がカギ
歴史的な大量の失業者を抱えるアメリカでは今、先の見えない不安を抱き、政権に強い不満をぶつける人もいる。その一方、国が緊急に手当てした特別な失業給付によって、失業者の7割が失業前よりも収入を得ていて、リーマンショックのときのような深刻さはないという分析もある。
また、新型コロナウイルスは、冬が近づけばさらなる感染拡大が起きて経済を長期に停滞させるという警戒もあれば、ワクチンさえできれば一気に国民の安心感が広がり、景気は急回復するという見方もある。
いずれにせよ、投票日の前に有権者がどんな生活実感を持ち、候補者を評価するのかがカギになりそうだ。