実は「史上最強の大統領」??
ノーキスト氏に初めて会ったのは、おととし秋。
その後も取材を続け、ことし1月。ノーキスト氏の自宅に招かれた。
廊下には、ノーキスト氏が小泉元総理大臣、イギリスのサッチャー元首相、そして、レーガン元大統領とともに写る写真がずらりと飾ってある。
そして、レーガン元大統領の肖像は自宅のみならず、事務所の至る所に飾られている。
レーガン元大統領の下で税制改革のプロジェクトに携わり、大統領の仕事ぶりを間近で見てきたノーキスト氏。
そんな彼は、トランプ大統領をどのように見ているのだろうか。
実は、ノーキスト氏は前回の大統領選挙で、共和党の候補者を選ぶ予備選挙では、トランプ氏を応援していなかった。
元ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカー氏を推していた。
知事時代の実績を評価していたためだという。
ノーキスト氏 「当初、トランプ氏は資金集めにも苦労しているようだったし、政治経験もない彼が大統領候補になるとは予想していなかった。ただ、振り返ると、彼は選挙戦でたくさん失敗しても、それを乗り越えるだけの力があった。私は、彼のことをよく理解していなかった」
「外から来た」トランプ大統領は、根っからの共和党員ではない。政治経験もない。
当初は、その手腕に懐疑的だったという。
しかし、それが一転。今ではトランプ氏のことを、「史上最強の大統領」と絶賛する。
なぜなのだろうか。その理由は、3つあるという。
(1)かつてないほどの大減税を実施したこと
(2)規制緩和を推進したこと
(3)最高裁判所の判事の保守派を増やしたこと
つまり、共和党が求めることを、着実に実現していることを評価しているというのだ。
ノーキスト氏 「トランプ大統領は、ほかの共和党の大統領がなしえなかったことをやってのけた。攻撃されても反撃する強さがあり、これまでとは異なるやり方を貫いている。政治家は方針を変えることで、批判されることを恐れる傾向があるが、状況に応じて変化できることも彼の強みだ」
そして、こう続けた。
ノーキスト氏 「彼は声が大きいし、顔を真っ赤にさせて大げさにものを言うけど、レーガン元大統領と同じで、自分が何をしたいかがはっきりしている」
意外にも、レーガン元大統領に通じるところがあるという。
さらに、「トランプ大統領は打ち合わせでは静かだし、ファクトを求めてくる。俳優が舞台上と舞台からおりたあととでは違うのと一緒だ」と、意外な一面も明らかにしてくれた。
一方で、移民の規制や中国との貿易摩擦など、相いれない点もあると話す。
「トランプ大統領だから何でもいい」というわけではなく、共和党の理念である「徹底した減税と小さな政府」を実現させてくれる存在だから、トランプ大統領を後押ししている、ということなのだろう。
ノーキスト氏の“選挙メソッド”とは?
トランプ大統領の再選に向けて動くノーキスト氏。
その戦略とは、どういうものだろうか?
それはシンプルだ。
「地方の怒りを察知しろ」
大統領選挙になると、安全保障、中東問題、外交など、つい大きな問題に目を向けがちだが、ノーキスト氏はこう話す。
ノーキスト氏 「有権者は、アメリカがイラクに侵攻すべきかといった大きな問題ではなく、自分の生活に直結する争点で、投票する候補者を選ぶ傾向がある。人々は自分たちの日常生活が脅かされたときに投票に向かう。だからこそ、人々は何に悩み、何にいらだっているかを知ることが重要だ」
そして、悩みやいらだちといった有権者の怒りが最も現れるのが地方だという。
だから、ノーキスト氏は、地方を軽視しない。
全国的なロビー団体のトップだが、地方の詳細な状況が頭に入っていることに驚かされる。
地方で何が起きているのか、それをいち早く察知するための彼の情報源となっているのが、43の州にある連携団体だ。
ノーキスト氏のロビー団体には、年中、地方を飛び回る専門スタッフが5人いて、そのスタッフたちは各州の連携団体から、その州の現状を学ぶ。
丁寧に有権者の声を拾い、ノーキスト氏に報告をあげるのだ。
ノーキスト氏は、ここで報告される身近な問題こそが、選挙に勝つカギになると考えている。
なぜなら、そうした問題は、支持政党に関係なく、幅広い層から票を集めることができる可能性があるからだ。
接戦であればあるほど、共和党でも民主党でもない、全米におよそ4割いると言われる無党派層の票の取り込みが必要となる。
今だと、間違いなく、新型コロナウイルスがこれにあたる。
感染者と死者の数が世界で最も多いアメリカでは、経済活動の再開が大きな議論となっている。
そして、各地では、再開を求める抗議デモが起き、混乱が生じている。
これについて、ノーキスト氏は、こう話す。
ノーキスト氏 「民主党の知事は、例えば、教会を閉めたり、ドライブするだけで取り締まったりするなど、新型コロナウイルスに乗じて必要以上の規制を進めている。それに反発し、経済活動の再開を求める動きが出ているのだ。これは、2010年の中間選挙で共和党が躍進した原動力ともなったティーパーティー運動と同じように見える。トランプ大統領の再選にとって、よい兆候だ」
ノーキスト氏は、「ワシントンだけにとどまっていると、感覚が鈍る」として、集めた情報を、共和党の議員やスタッフにも伝えている。
有権者が何を求めているかを知ってもらい、共和党の政策に反映してもらうことで、選挙で有利に戦ってもらいたいという戦略だ。
こうした情報は、トランプ大統領にも伝えている。
そして、時には、地方の怒りを分かりやすい形で見せるために、デモを仕掛けることもある。
例えば、トランプ大統領が電子たばこを規制する考えを示したことを受けて、去年11月にホワイトハウスの前で行われたデモ。
これは、ノーキスト氏の団体が仕掛けたものだった。
ノーキスト氏によると、たまたまヘリコプターからデモを見たトランプ氏は「あれは何だ」と驚いたという。
その後、トランプ大統領は電子たばこ規制の方針を撤回した。
ノーキスト氏 「ロムニー氏やマケイン氏など過去の共和党の大統領候補は、保守派のネットワークの大切さを全く理解しておらず、落選した。ブッシュ元大統領(息子)は少しは分かっていたが、トランプ大統領はとてもよく分かっている。トランプ大統領は政治的に賢い人だ」
ノーキスト氏は、保守派のネットワークを最大限活用し、地方の怒りを大きくさせて、争点化する。
争点となった問題は、有権者にとって自分の生活に関わるため、投票へと向かう。
こうして票を積み上げていく。
これがノーキスト氏の“選挙メソッド”なのだ。
バイデン氏は強力な相手候補となりうるか?
ノーキスト氏は、今後、より陣営に近い立場で、トランプ大統領の選挙運動を支えていくことになる。
特に、税制に精通していることから、政策面でのアドバイスが多くなるという。
ことし2月に会ったときには、「これからは、民主党候補との討論会の準備などで休みが無くなる」と話していた。
ところで、民主党の指名獲得が確実となっているバイデン前副大統領のことをどう見ているのだろうか。
まだ民主党の候補者選びが始まったばかりの去年の秋、来日したノーキスト氏にインタビューした際は、「民主党の候補者は誰も強敵には思えない」と一蹴していた。
とはいえ、接戦になることは認めていた。
そして、新型コロナウイルスの感染拡大という前代未聞の事態が起きた。
これがトランプ大統領の再選にどう影響するか、ノーキスト氏もまだ分からないという。
では、バイデン氏の評価は?
ノーキスト氏 「バイデン氏は、左派の政策に賛同した過去があるし、ばかげた発言も多い。スピーチを忘れることもある。民主党内では、(新型コロナウイルスの対応で評価されている)ニューヨーク州のクオモ知事を候補者に推す声も出ている。これは現実的ではないが、もしもバイデン氏の言動が不適切と見なされたら、民主党は彼に候補者から撤退するよう求めることがあるかもしれない」
連日、記者会見を開き、評価を高めているクオモ知事。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大後、バイデン氏の動向が伝えられる機会は減ったばかりか、大々的な選挙活動もできず、存在感を示せていない。
ノーキスト氏は、こうした状況は、トランプ大統領の再選にとってはプラスになるとみている。
そして、ノーキスト氏は、トランプ大統領が再選した場合、共和党は連邦議会で勢力を伸ばすことができると期待を示す。 トランプ大統領が再選し、議会上院の多数派を維持すれば、議会下院で多数派を奪還することも夢ではないという。 そうなると、ノーキスト氏が目指す共和党の理念でもある「徹底した減税と小さな政府」に近づくというのだ。
ノーキスト氏 「トランプ大統領は、この4年で公約をすべて果たした。だから、次の4年も約束したことは果たすだろう。これまで、こうしたリーダーはいなかった。共和党にとって、またとない機会なのだ。“We” will win(=「われわれ」は勝つ)」
国際部記者
岡野 杏有子
2010年入局。
前橋局、岡山局を経て、大阪局。
2018年から国際部。
前回の中間選挙では、オバマケアをめぐる動きを取材。
社会保障関連の分野に関心がある。