詳報 ウクライナ疑惑② 大統領をめぐる証言の記録

トランプ大統領が、軍事支援などと引き換えにウクライナの大統領に民主党の政敵に関する情報を得ようとしたとされる、いわゆる「ウクライナ疑惑」。アメリカ議会下院は18日に本議会を開き、トランプ大統領の弾劾訴追を採択する方針で、賛成多数で可決される見通しです。これによりトランプ大統領は、弾劾訴追をされるアメリカ史上3人目の大統領となります。(ワシントン支局・国際部取材班)

目次

    公聴会の証言録

    今回の弾劾訴追に向けて、アメリカの歴史上の弾劾調査では異例となる、公開の公聴会が11月に5日間にわたって行われました。

    公聴会には政府高官ら12人が出席し、トランプ大統領がウクライナへの支援を見返りにバイデン前副大統領に関する調査を求めたなどと証言しました。

    政権内部からの「内部告発」をきっかけに明らかになった疑惑。公聴会に出席した要職者からは驚くべき証言が次々明らかにされ、テレビの生中継を見守った国民に大きな衝撃を与えました。

    公聴会で、どういった証言が行われたのか、まとめました。

    証言1:見返りの認識~テイラー臨時代理大使、ケント次官補代理

    テイラー臨時代理大使(右)とケント国務省次官補

    初日の11月13日の公聴会には、ウクライナ側との外交交渉を担うテイラー駐ウクライナ臨時代理大使と、国務省のケント次官補代理の2人が証言しました。

    11日から行われた審議では、トランプ大統領の不正は弾劾に値すると主張する民主党の議員に対し、与党・共和党の議員は不正の証拠が示されていないと反発していましたが、「権力乱用」と「議会妨害」のいずれの条項も、賛成23票、反対17票の賛成多数で可決されました。

    テイラー氏はトランプ大統領がみずからの政治的な目的のためにアメリカの外交政策を悪用したかどうかを巡って、「(トランプ大統領側が)ホワイトハウスでの会談と軍事支援の問題を利用しようとしていた」と証言しました。

    そして、バイデン氏の息子が役員を務めていたウクライナの会社に言及し、「『ブリスマ』の捜査が条件になっていると私は考えるようになった」と述べ、バイデン氏に関する調査が、首脳会談や軍事支援の条件だったという認識を明らかにしました。

    証言2:二重外交~テイラー臨時代理大使、ケント次官補代理

    テイラー臨時代理大使

    また、テイラー氏はアメリカ国務省や大使館を経由した正規の外交ルートとは別に、トランプ大統領の顧問弁護士のジュリアーニ氏が非公式にウクライナ政府と接触する「異常な状態が存在した」として、二重外交の問題を明らかにしました。

    国務省でウクライナ外交を担うケント氏も「(バイデン氏の)捜査を加速させようというジュリアーニ氏の政治的な動機に基づく行動が、アメリカとウクライナの外交関係に影響を及ぼした」と証言し、ジュリアーニ氏の行動を批判しました。

    証言3:キーパーソンの存在~テイラー臨時代理大使

    テイラー氏は大統領の意を受けてウクライナへの働きかけに関わった別の大使の存在も明らかにします。

    それがトランプ大統領に近いとされるEU=ヨーロッパ連合を担当するソンドランド大使です。

    テイラー氏は、問題となったトランプ大統領とゼレンスキー大統領の電話会談翌日の7月26日にソンドランド氏がキエフのレストランでゼレンスキー大統領の側近と接触したと証言。

    その場に居合わせたテイラー氏の部下の話として、ソンドランド氏がトランプ大統領と直接、電話で話をしたとしたうえで、ソンドランド氏が「『トランプ大統領はバイデン氏をめぐる捜査のことを気にかけている』と答えた」と述べました。

    証言4:見返りあった~ソンドランド駐EU大使

    ソンドランド駐EU大使

    そのソンドランド氏は、公聴会4日目の11月20日の公聴会で証言にたちました。

    ソンドランド氏は、トランプ大統領に多額の選挙資金を援助した有力な支援者で、当初、非公開の場での証言で一連の疑惑を「知らない」と否定していました。しかし、その後、追加で提出した書面で一転してウクライナへの働きかけに関わったことを明らかにし、その証言に注目が集まりました。

    公聴会を通して、民主党がトランプ大統領による権力の乱用とアメリカの外交政策の悪用を立証しようとしたのに対し、ソンドランド氏は「見返りがあったかどうか聞かれれば、答えはイエスだ」と述べて、民主党はソンドランド氏が、事実上、疑惑の核心部分を認めたとしています。

    トランプ大統領の顧問弁護士 ジュリアーニ氏

    さらに、二重外交の問題を巡っては、トランプ大統領の顧問弁護士のジュリアーニ氏が主導していたとしたうえで、「ジュリアーニ氏とは一緒に働きたくなかったが、大統領の指示に従った」と述べ、トランプ大統領の指示で協力させられたと主張しました。

    証言5:政権幹部も把握~ソンドランド駐EU大使

    ソンドランド氏はウクライナへの働きかけを政権中枢の幹部も把握していたと明かしました。

    証言では当時、ウクライナ側とのやり取りの内容をポンペイオ国務長官に報告していたほか、9月にはペンス副大統領にも懸念を伝えたと主張しました。

    証言6:大統領からの直接の指示は~ソンドランド駐EU大使

    一方で、ソンドランド氏は電話会談翌日のトランプ大統領との電話に関しては「詳細は覚えていない」として、はっきりとは証言しませんでした。

    さらに、疑惑が内部告発されたあとの9月になってトランプ大統領と話をした際、「トランプ大統領に『ウクライナに何を求めているのか』と尋ねたところ、『何も求めていない。見返りは要らない』と言われた」とも証言し、見返りに関するトランプ大統領からの直接の指示にはあいまいな主張を繰り返しました。

    証言7:「大統領の声を聞いた」~ホームズ駐ウクライナ米大使館参事官

    ホームズ駐ウクライナ米大使館参事官氏

    トランプ大統領本人の関与を明らかにするため、民主党側は最終日の21日、ソンドランド氏とウクライナ側の接触の場にいたテイラー氏の部下のホームズ参事官にも証言を求めます。

    ホームズ氏は目の前でソンドランド氏がトランプ大統領と電話で会話していたと説明。電話の向こうの大統領の声が大きかったため、直接、内容を聞き取ることができたと証言しました。

    それによりますと、トランプ大統領は電話で「彼は捜査をするのか?」と述べて、ゼレンスキー大統領がバイデン氏に関する捜査の要求を受け入れるかどうかを気にかけていたとしています。

    さらにホームズ氏は、ソンドランド氏が「『トランプ大統領はバイデン氏をめぐる捜査のことを気にかけている』と答えた」と改めて証言したうえで、「私の明確な印象は大統領が軍事支援を保留していたのは、ウクライナに捜査をするよう圧力を強めるためのものだった」と述べました。

    証言8:首脳会談を条件に~NSC ヒル前欧州・ロシア上級部長

    NSCのヒル前欧州・ロシア上級部長

    ホワイトハウスでウクライナ政策を担ったNSC=国家安全保障会議のヒル前欧州・ロシア上級部長も証言に立ち、ソンドランド氏から、ことし7月、バイデン氏に関する捜査がウクライナとの首脳会談開催の条件だと聞かされたと証言しました。

    ボルトン前大統領補佐官

    この際、当時のボルトン大統領補佐官もこの条件を聞いた時、「麻薬の取り引きには関わらない」と述べて、外交を政治利用する不正な行為だとの認識を示していたと明らかにしています。

    証言9:隠蔽の疑い~NSC ビンドマン陸軍中佐

    NSC ビンドマン陸軍中佐

    公聴会では、問題となった電話会談の場にいたNSCのビンドマン陸軍中佐も証言し、その後の隠蔽工作の疑いに言及しました。

    ビンドマン中佐はまず、電話会談でトランプ大統領が調査を求めたことに関して「不適切で国の安全保障とは関係のないやり取りだ」と懸念を抱いたとしたうえで、NSCの主任弁護士に通報したことを明らかにしました。

    ビンドマン中佐は、電話会談の記録が、その場の判断で通常の保管場所とは異なる機密性の高いサーバーに移されたと証言し、「会談内容が漏れるのを防ぐため意図的に移された」という見方を示しました。

    証言10:異常な事/ペンス前大統領側近ウィリアムズ外交顧問

    ビンドマン中佐とともに証言に立つウィリアムズ外交顧問(左)

    問題の電話会談を巡っては、ペンス副大統領の外交顧問で側近のウィリアムズ氏も19日に証言。

    ウィリアムズ氏は、「ウクライナの国内政治に関連する話題に立ち入っており、これまでに立ち会ってきた大統領の電話会談と比べても異常だと受け止めた」と述べました。

    証言11:軍事支援~クーパー国防次官補代理 へイル国務次官

    ウクライナへの軍事支援が見返りだったのかどうかを立証する上で鍵となったのが、ウクライナがいつの時点で軍事支援の保留を把握したかです。共和党側はウクライナ側が保留を把握したのは電話会談のかなり後だったと主張し、会談の時点では見返りにはなりえないという認識を示していました。

    クーパー国防次官補代理

    しかし、20日に証言したクーパー国防次官補代理は電話会談の当日、ウクライナ側から「軍事支援はどうなっているか」という問い合わせがあったと証言。この時点でウクライナ側に軍事支援の保留が伝わっていた可能性を示唆しました。

    ヘイル国務次官

    また、クーパー氏とともに証言した国務省ナンバー3のヘイル国務次官はウクライナへの軍事支援を保留したことに関しては「ホワイトハウスの行政管理予算局の当局者から、トランプ大統領の指示だと説明を受けた」と証言しました。

    証言12:不当解任 脅迫も~ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使

    ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使

    公聴会では、ウクライナ側への捜査の要求に否定的な姿勢を見せていた駐ウクライナ大使が不当に解任された疑惑も浮かび上がりました。

    15日に証言したヨバノビッチ前駐ウクライナ大使は、ことし4月、真夜中にかかってきた電話で、突然、理由も言われずに解任を言い渡されたと証言しました。

    このヨバノビッチ前大使の証言が行われている時間帯に、トランプ大統領はツイッターで「ウクライナの大統領は電話会談でヨバノビッチのことを悪く言っていた。大使を任命するのは大統領の権限だ」と投稿し、解任に問題はなかったと主張しました。

    これに対し、民主党側はヨバノビッチ氏の証言さなかのツイートが連邦法に違反する犯罪行為で、「証人への威嚇」にあたるとしてと主張しました。

    疑惑に国民も高い関心寄せる

    ウクライナ疑惑をめぐる一連の公聴会は、アメリカの4大ネットワークと呼ばれる主要テレビ局すべてが全米に生中継し、大きな関心を持って伝えられました。

    テレビの視聴率などのデータを提供する調査会社ニールセンによりますと、今月13日の第1回目の公聴会では累計でおよそ1380万人が生中継か時間差放送を見たと推計しています。

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