2022年7月1日
イスラエル 中東

【詳しく】イスラエルでまた選挙? 3年半でなぜ5回も そのわけは?

「イスラエルに外交政策はない、国内政治だけだ」
アメリカのヘンリー・キッシンジャー元国務長官の言葉です。
議会が解散され、この3年半で5回目の総選挙が行われることになったイスラエル。
いったい何が起きているのか、なぜそんなに選挙をするのか。わかりやすく解説します。
(エルサレム支局長・曽我太一)

イスラエルで何が起きてるの?

解散の議決を行ったイスラエル議会

6月30日、イスラエル議会が解散し、ことし11月1日に総選挙が行われることになりました。

イスラエルで総選挙が行われるのはこの3年半で実に5回目です。

イスラエルでは2021年6月、8つの党による新たな連立政権が発足。しかし、与野党の勢力がきっ抗して議会はこう着状態に陥り、政権運営に行き詰まったベネット首相は議会の解散を決意したのです。

なぜそんなに選挙になるの?

8党連立政権を支えたベネット前首相(右)と、外相として政権を支えたラピド新首相(左)

連立政権が毎回、過半数ギリギリで成立しているため、政権運営が不安定になるのです。

長期にわたり政権を担ってきた右派のネタニヤフ元首相は汚職疑惑などを抱える中、2019年4月、2019年9月、2020年3月、そして2021年3月と総選挙を行ってきました。
いずれも議会で重要法案を可決できなくなったり、連立交渉がうまくいかなかったりして解散総選挙に突入した形です。

なぜ不安定な連立政権が続くの?

少数政党が乱立しているのも政権の不安定さの要因の1つです。

イスラエルの総選挙は比例代表制で1948年の建国以来、これまで単独で過半数を取った政党はありません。議会は上院や下院などの区別がない「1院制」で定員は120人。

現在の議会には13の政党や政党連合がありますが、最も多いネタニヤフ元首相率いる右派のリクードでも29議席。次いで、反ネタニヤフのイェシュアティドが17議席ですが、残りの11政党はいずれも10人以下。

さまざまな主張や理念を持つ政党が連立には必要なため、連立政権内での意見や政策の調整が複雑になっている上、近年はこうした要素に、ネタニヤフ派か反ネタニヤフ派かという要素も加わり、一段とより複雑になっています。

いろんな政党があるのはなぜ?

ユダヤ教の教えを厳格に守る超正統派のユダヤ人

イスラエルの人口はおよそ930万。第2次世界大戦後、世界各地からそれぞれ異なる文化を持ったユダヤ人が集まりました。

金曜の日没から土曜にかけての安息日「シャバット」で、一切の電化製品や車を使わない敬けんなユダヤ教徒もいれば、車を運転してビーチに向かい、ユダヤ教では禁じられているチーズバーガーを食べる人たちもいます。政治的な主張もさまざまで、右派や中道、左派、イスラエル国籍を持つパレスチナ人が支持するアラブ系の政党など、支持政党もバラバラです。

こうしたユダヤ教に対する姿勢やパレスチナとの和平への意見などによって支持政党がほとんど固定化されているため、選挙が繰り返されたとしても構図が大きく変わることがないのです。

今回はなぜ行き詰まった?

入植地政策を強力に推し進めようとする極右政党の議員

いかにイスラエルで国内政治が重要なのか、冒頭のキッシンジャー元国務長官の言葉の意味するところが如実に表れたのが、今回の議会でした。

まず、問題になったのは、ユダヤ人入植者の保護をめぐる規則です。占領下にあるパレスチナのヨルダン川西岸地区には、国際法に違反してユダヤ人入植地が建設されています。

ここに住む入植者を保護するための規則が6月末までに議会で延長される必要がありました。延長されず、入植者が法的に守られなくなるようなことがあれば、ベネット政権にとっては痛手となります。

ヨルダン川西岸の入植地( 2018年2月) 

このユダヤ人入植者の数は年々増え続けていて、ネタニヤフ元首相を中心とする右派や極右の政党はこうした入植地政策を奨励してきた側です。

しかし今回、右派や極右側はこの規則の延長に反対したのです。

背景には、ベネット首相率いる連立政権からは離脱する議員が出ていて、すでに議会の過半数を割り込んでいたことがありました。右派や極右側は議会を機能不全に陥らせれば、政権を奪還できるチャンスだと見たのです。

右派の主張と違うのでは?

そうなんです。論理的に考えれば、入植地政策を奨励してきた政党が入植者の保護に反対するということは理解できません。しかし、そうした右派や極右を支持する人たちにとっては、アラブ系の政党までもが入った連立政権自体が、受け入れられないのです。

このため、右派や極右の政党がこの規則の延長に反対したとしても、その支持者からは批判の声がほとんど上がっていません。支持者にとっても、この連立政権が崩壊すれば自分たちが支持する政党が再び政権に返り咲く可能性があるからです。

今回の選挙はどうなる?

政権返り咲きを虎視眈々と狙うネタニヤフ元首相

同じことが繰り返される可能性が高いです。

ネタニヤフ元首相は2021年3月の4回目の総選挙で第1党を獲得したものの連立交渉では支持を集められず、逆に「反ネタニヤフ」の連立政権発足を許してしまいました。

ネタニヤフ前首相が政権を失った背景には、そのワンマンショーとも言える政権運営に対し、これまで共に連立を組んできた他の政治家の間で不満が募り、連立政権入りを拒否されたことがありました。

ただ、イスラエルでは選挙の構図が大きく変わる可能性が低いため、今回も同じような結果になり、非常に厳しい連立交渉にもつれ込むのではないかと予想されています。

中東情勢への影響は?

次の選挙が行われるのは、ことし11月1日。それまではこれまで外相を務めていたラピド氏が、暫定的に首相となりました。

ラピド首相

ラピド首相は、強硬右派だったベネット前首相とは異なり、みずからを右でも左でもない中道だと位置づけ、パレスチナ問題では「2国家共存」を容認する立場で和平の実現に向けてパレスチナ側と対話すべきだとしています。

総選挙を控え、パレスチナ問題が大きく動くことは考えられませんが、暫定だとしてもラピド首相がどのような政権運営をするかは選挙情勢にも少なからず影響を与えるとみられています。

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