2022年4月14日

「いつ避難できるかわかりません」
思いがけない答えに、一瞬戸惑いました。
話を聞いた男性は、母国インドに家族と一緒に避難できるものだと思い込んでいたからです。
男性の名前は、シャルーク・カーンさん。3月中旬、ウクライナから大勢の避難民を受け入れている、隣国モルドバの避難所を取材している際に出会いました。
インド人のシャルークさんは、医学を学ぶためウクライナに留学し、そこで出会ったウクライナの女性と結婚。南部オデーサで暮らし、1か月ほど前に、男の子が生まれたばかりでした。男の子にはアリヤンという名前を付けました。

しかし、アリヤンくんが生まれた直後、ロシア軍による侵攻が始まりました。オデーサでも、空襲警報のサイレンが数時間おきに鳴り続け、日に日に危険を感じるようになり、家族とともに母国インドへ避難することを決めたといいます。
シャルークさんからこうした話を聞いたので、私が「いつインドに移動するのですか」と尋ねたところ、冒頭の答えが返ってきたのでした。
インドに避難することができない理由は、生まれたばかりのアリヤンくんにパスポートがないからでした。

脱出するのに必死で、ウクライナでパスポートを作る余裕はとてもありませんでした。出生証明書があったことから、隣国モルドバまではたどりつくことができました。
ただ、ここから先、インドに向かう具体的な方法が分からないと、シャルークさんは途方に暮れていました。
「子どもや妻のためにも、安全なインドに早く避難したいだけなんです。でも、どうしたらいいのでしょう」
少し大きめのベビー服を着た、アリヤンくん。か細い泣き声が、避難所に響いていました。

※この記事は2022年4月14日に公開したものです