学校の感染対策 不十分? やりすぎ? 学びを守るヒントとは…?

「給食の時間にしゃべったらおかわり禁止」
こんなルールがある小学校もあるようです。
感染対策に悩む小学校。
皆さんのお子さんが通う小学校は、いかがですか?

子どもの感染対策 保護者の声…

おはよう日本では新型コロナウイルスの感染対策について視聴者にアンケートをしています。その中で気になったのが「子ども」の感染対策についての保護者からのこんな声です。

・“3密回避と言われているのに教室内の子どもどうしの距離が近く、3密を回避できていないのではないでしょうか?給食も不安です”
・“この1年、修学旅行や卒業式での合唱・別れのことばが中止に。子どもたちがかわいそうです”

1年前の春、一斉休校の状態から始まった今年度もまもなく終わります。保護者によって感染対策への意見が大きく分かれる中、今、学校ではどんな対策がとられているのか?
東京都多摩市立東寺方小学校を訪ねました。

音楽. 合唱は「ハミング」 マスクしたまま声も抑え

見学させてもらったのは5年生の「音楽」。文部科学省のマニュアルでも、合唱やリコーダーの演奏などは特にリスクが高いとされています。

この日は合唱でしたが最初の5分間は「ハミング」をして音を確認。その後、教室いっぱいに広がって歌いましたが、飛沫が飛ばないようにマスクはしたままで声も抑え気味でした。

音楽. リコーダーは「あご笛」で

リコーダーも自由に演奏とはいかない状態でした。子どもたちはマスクをしたまま、あごにリコーダーをあてて指の動きだけを確認しています。

これ「あご笛」と呼ぶそうです。
演奏する時はクラスの半分だけで半分はこの「あご笛」による練習です。教諭は音楽の授業にはこうした工夫が欠かせないと言います。

(音楽教諭)
「合唱はいつもの半分くらいで歌おうと声をかけています。リコーダーは吹くときよりもマスクを外すことが飛まつが飛ぶリスクにつながっているので、外す人数と時間を最小限にしています。お互いの声が響いて気持ちいいなとか心が1つになる経験ができる、そこを止めずにどういうふうに工夫できるかということをずっと考えながらやってきました」

体育. 密にならない工夫で

次に気になった授業が体育です。2年生が行っていたのは足でボールをドリブルして自分の陣地に集めるゲーム。

サッカーに似ていますが違います。人がドリブルしているボールに触ってはいけないのがこのゲームのルールです。
そのため1つのボールを複数で取り合うことはありません。密にもならないため、文科省のマニュアルに沿ってマスクの着用も任意とされていました。子どもたちも思い切り体を動かし楽しそうでした。

休み時間. 鬼ごっこは禁止 その代わりに…

休み時間にも制限が設けられ子どもたちに人気の鬼ごっこは禁止されていました。文部科学省のマニュアルでは休み時間は状況に応じて各学校でルールを作ることになっていますが、体育で「接触する運動」は「特にリスクが高いもの」とされています。

でも、さすが子どもたち。ちゃんと別の楽しみを見つけていました。それが縄跳びです。ことし作られた「縄跳び板」で二重跳び、はやぶさなど、それぞれの技を練習していました。

(3年生の男の子)
「1人でもできる縄跳びをしたり走ったりする時間が増え、これまで苦手で嫌いだった体育が好きになった」

給食. 食器とはしが触れる音だけが響く…

取材中に「これは大変だなあ」と感じたのが給食です。
手洗いとアルコール消毒、配膳前にそれぞれの机を消毒し全員が前を向いて黙って食事していました。

食器と箸が触れるカチャカチャという音だけが、廊下まで響いています。
校長に低学年も黙って食べられますかと尋ねたところ「1年生が実はいちばん静かです。給食は黙って食べるものだと思っているのです」とつらい胸の内を明かしました。

学校は今も試行錯誤 学びを守るヒントとは?

この学校では先生方も感染対策と教育を何とか両立させようと必死で模索してきました。子どもたちも、そんな不自由な生活に適応しようと前向きに頑張っていました。

全国的にピーク時より感染者は減っていますが、変異ウイルスの増加などで引き続き対策が必要な状況に変わりはありません。まもなく始まる新学期を前にそれぞれの専門家に子どもたちの学びを守るヒントを聞きました。

1. “学びの継続を優先” 地域の感染状況に応じた対応を

国際医療福祉大学 和田耕治教授(公衆衛生学)
「学校現場の対策は基本的には徹底されていると思う。マスクの着用や換気が難しくなるような状況、小学校では給食や休み時間、多くの子どもが集まる場所でいかに注意できるかがポイント。しかし一部に厳しすぎるところもある。“学びの継続を優先”にしつつ何でもかんでも中止や禁止にしないようにしたい。またマスクができない小さな子たちなどもいるので、みんなでできる対策をするという視点が大切。都道府県単位よりも生活圏の地域での感染状況に応じた対応が今後は必要。ある程度落ち着いているときは、できることをする。感染が広がりそうな時は対策を強めるなどメリハリのある対策が大事になってくる」

2. 大人の徹底した対策が子どもを守る

沖縄県立中部病院 高山義浩医師(感染症対策)
「今後、変異ウイルスによる状況は注視が必要だが、現状では子どものリスクは低いことを踏まえ、無理なく継続して実践できる対策が理想。『マスクの着用』『換気』『手指の消毒』が大前提で、それ以外の対策は+αという捉え方でよい。重要なのは『子どもたちが無理なく続けていける対策』。子どもたちと話し合って、どんなことなら自分たちは続けていけるか考えていくことが大事。国内の感染の報告数で見ると子どもは大人に比べて非常に少なく、これまで重症者も死亡者も出ていない。小学生の感染経路は家庭内感染が79%に対して学校内感染は4%。国内で感染を拡大させているのは子どもどうしではなく、大人であることを忘れてはいけない」

3. 学習意欲 そがれないよう工夫を

京都大学大学院 明和政子教授(子どもの脳と心の発達)
「いちばん心配なことは子どもどうしのコミュニケーションが制限されていること。小学生にとっては大きなストレスになる。家庭では身体的接触を積極的に取ってあげてほしい。人間は親しい相手と身体的接触をすることで、ストレスを和らげる物質の分泌が高まる体の仕組みを持っている。家庭で身体的接触を積極的に取ってあげることは、日常生活を突然奪われた子どもたちのストレスを軽減するもっとも効果的な解決策の1つになる。また、体育や音楽といった体験実技型の科目の制限は『みんなと目標を共有して協力して物事を行う』という協働の体験までをも制限してしまう。学校生活で友達や先生と共に喜び合う、感じあう体験が減ることは、クラスの親密度の低下につながる。さらに、そうした日常の変化によって高まるストレスが算数や国語などの座学の科目に対する学習意欲を低下させることにつながる可能性もある。合唱ができない場合は飛まつが飛ばない楽器での合奏をする、サッカーができない場合は密集しないような別の団体競技を行うなど、感染予防対策をさまざまに工夫しながら子どもたちが仲間と協働し、共感しあう経験を学校生活に積極的に取り入れてほしい。マスクをした日常では相手の表情が理解しづらく、新しく出会う友達と親しくなることがこれまで以上に難しいと感じてしまう子どもたちも増えると思われる。クラス替えを行わないなどの選択も考えられるのではないか」

4. 家での勉強は“やり取り”や“実際の体験”を

京都大学 石井英真准教授(カリキュラム論)
「学校のカリキュラムは実技教科などは複数年度での運用が可能。そもそも核となる内容には繰り返し触れるようになっている。ことしのフォローを来年度以降できれば大きな問題はない。ただ、新型コロナによって授業時間の短縮やグループ活動の制限などから生じる影響はありえる。プリントを穴埋めするような学習が増えると、公式を意味から確認したりブロックを使って数を理解したり、粘土を使って図形を理解したりといった、やり取りや体験から意味を深める学習ができていない可能性がある。ぜひ家で勉強するとき特に小学校低学年の子どもがいる家庭では子どもの説明や音読の聞き手になってあげたり、実際にモノを使って事象を確認したりしてあげてほしい」

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