新型コロナ 世界からの報告
変異ウイルス拡大する
ロンドンの今

2021年1月29日

変異した新型コロナウイルスの感染拡大が続くイギリス。1日あたりの死者は1000人を超える日が続き、これまでに亡くなった人は10万人を超えました。変異ウイルスの感染力の強さに、イギリスで暮らす多くの人たちが大きな不安を感じながら生活をしています。ロンドンで暮らす向井麻里支局長に、今のロンドンの様子について聞きました。

感染の状況は?

12月上旬には、1日あたりの感染者は1万人台でしたが、その後、3万人、4万人と増え、12月下旬には5万人台に。1月に入ると6万人を超えた日もあります。ロンドンなど南東部では特に深刻で、変異ウイルスによる感染が80%を占める地域もあるとみられています。

1月中旬ごろから1日あたりの感染者は減少し始めましたが、死者は1000人を超える日が続き、これまでに亡くなった人は10万人を超えました。ヨーロッパでは最多です。入院患者は、去年春のピーク時に比べ2倍近くになり、医療のひっ迫が連日、大きく伝えられています。

イギリスの人口は6600万人あまりと日本の半分ほどなのに、感染者数も死者数も大きく上回っています。その深刻さは想像できると思います。

変異ウイルスについて、イギリスの人たちは?

目に見えないのに、死者や感染者がものすごい勢いで増えていく状況に、私自身もイギリスの人たち同様、不安を感じる毎日です。1月初めには、「ロンドンでは、地域によっては20人に1人が感染」という推計が発表され、衝撃が走りました。感染した人、そして亡くなったという人の話を身近に聞くようになり、誰もが他人事ではないと感じているようです。

感染への不安は?

私自身も不安は常にあります。感染しても無症状のケースも多いとされ、多くの人たちが常に不安を感じています。街のあちこちに「自分が感染していると思って行動するように」という政府の警告があります。

私は、先日、取材前に、簡易検査を行って陰性かどうかを確認しました。最近、出かけたと言えばスーパーや職場くらいだし、人と会うのもオンラインが多いし大丈夫だろう、と思いつつも、やはり不安になってしまいます。先日の検査では陰性でしたが、いつ感染しても不思議ではないと感じています。

街はどんな様子?

どうしても必要な外出以外は制限され、基本的に在宅勤務を求められています。1日1回の運動は認められています。生活必需品以外の小売店は、原則として店舗での営業は禁止、飲食店も持ち帰りや配達のみの営業です。学校も閉鎖、授業はリモートです。

「ちょっと雑貨店をのぞきたいな」とか、「書店で本をゆっくり探したいな」と思っても、開いていません。「友達とカフェに行きたい」というのもできません。美術館や博物館、映画館も閉まっています。通っていたヨガスタジオも、またオンラインに移行しました。また、変異ウイルスの感染対策として、イギリスからの入国を禁じたり、停止したりする国も多くなりました。特にロンドンは、多くの旅行客やビジネス客が行き交うにぎやかな街だっただけに突然、世界から隔離され、閉じ込められたようにも感じます。

みんなどう過ごしているの?

去年の春に比べたら、外出している人は多いと感じます。変異ウイルスへの不安がある一方で、規制への慣れ、そして閉じこもることへのストレスもあるようです。暗い冬ということもあってか、これまでの規制よりも、きつく感じるという話も聞きます。ただ、営業している店舗も施設も少ないので、行けるところはあまりありません。

よく見かけるのは、公園や街なかで散歩やランニングをしている人、そして自転車に乗っている人たちです。通常なら、買い物客や観光客で賑わうロンドンの繁華街や公園では、なんとなく手持ち無沙汰な様子で、散歩する人の姿が目につきます。

ただ、生活必需品の買い物や、1日1回の運動などでない外出は法律違反となります。警察は取り締まりも行っています。地域によって金額は異なりますが、ロンドンのあるイングランドでは、200ポンド(約2万8000円)の罰金が科されます。ホームパーティーが摘発される例も出ていて、最近、15人以上のパーティに参加した人への罰金は800ポンド(約11万4000円)と4倍になりました。

店舗など経済への影響は?

店をたたむところも目立つようになりました。政府からの支援はあるものの持ちこたえられなくなっている飲食店や小売店も出てきています。イギリスの社交場、パブも、ノンアルコールドリンクや料理の持ち帰り販売しかできません。(アルコールは配達販売であれば可能) 空き店舗が、有料の自転車置き場に変わっていたりするなど、街なかでもその影響が目立つようになっています。

マスクは浸透?

イギリスでは着用の習慣がなかったマスクは最近では一般的になりつつあります。地下鉄では着用が義務化されていますが、先日、着用せずに乗り込んできた男性に対し、マスクをつけた男性が「ここは地下鉄だ。マスクをつけてくれないか」と丁寧に、しかしきっぱりと注意していました。以前なら考えられなかった状況です。依然として、日本と比べると「着用していない人が多い」と感じますが、それでも1年足らずでずいぶん状況は変わりました。

規制への不満は?

私自身も、取材でも、もちろんプライベートでも、思うように動けず、ストレスは感じます。

去年の春は感染が落ち着いたら元の生活に戻れるだろうと考えていました。でもこの1年近く、「規制緩和→感染拡大→再び規制」というパターンが繰り返され、簡単に元には戻れないことがわかってきました。行きたいところに行き、会いたい人に会うという、これまで普通にやってきたことができないのは、大きなストレスです。ただ一方で、さまざまな世論調査の結果では、多くの人が厳しい規制を支持していて、80%が支持という調査もあります。不満はあるけれど、規制を緩和すると、また感染が広がる。ジレンマを抱えている人が多そうです。

ワクチンへの期待は?

イギリスでは、去年の12月上旬から接種が始まり、高齢者や医療従事者に対し、優先的に進められています。1年近く、外出をなるべく我慢し、閉じこもってきた人たちも多いこともあり、接種を終えた人たちに話を聞くと、「ようやく孫に会える日が近づいてきた」「思いもかけなかったプレゼントだ」「こんなに安心感が得られるとは思わなかった」と、うれしそうな様子でした。 高齢者施設では、全員が接種を終えたあと、パーティーを開いて、お祝いをしたところもあるそうで、接種した医師は、「ワクチンによって、前向きな気持ちになり、精神面にもいい影響を与えている」と話していました。

まだ出口が見えない厳しい規制の中での生活。ロンドンに暮らす人たちは、変異ウイルスの状況に一喜一憂し、時には絶望的になりながらも、なんとか乗り越えようとする力強さも持っています。厳しい規制から解き放たれ、自由な生活に戻れる日を待ち望んでいます。

ロンドン支局長

向井 麻里
(むかい まり)