離れて住む親と自由に会うことができなくなりました。好きだった演劇の鑑賞もできません。渋滞の悪化、観光客がいなくなった中心部。街の景色は、大きく変わってしまいました。
（ロンドン支局 向井麻里支局長）
パブやレストランは様変わり
新型コロナウイルスの感染拡大で、一時は厳しい外出制限がかけられていたロンドン。
それでも6月ごろから徐々に規制が緩和され、3か月以上営業を取りやめていた、イギリス人の大切な社交場、パブも、7月に営業を再開しました。
イギリスに住む人たちの多くは、少しずつ日常が戻っていくことを期待していました。
しかし、ヨーロッパでは感染が再び拡大。ロンドンの街の姿は、今も大きく変わったままです。
パブに行ってみると、立ち飲みする人たちであふれていた店内は、今はテーブル席に座っている人ばかり。
店の外を見ると、ビール片手に語り合っている人の姿も見えましたが、「密」を避けることを求められているため、心なしか距離を感じました。
レストランも様変わりしました。換気のよい屋外を選んで食事を楽しむ人が増えたため、道路にまでテーブル席を設けて料理やお酒を提供している店も少なくありません。
屋外のテーブルで夕食を食べましたが、今の季節、すでに寒さが身にしみました。
1週間で道路が歩道に
街を歩いていると、あちこちで道路工事が行われたり、道路に仕切りが置かれたりしているのが見えます。
5月、イギリス政府が歩道や自転車のためのレーンを広げると発表したためです。政府は、「密」の状態を避けるため、地下鉄やバスといった公共交通機関よりも、徒歩や自転車での移動を推奨。そのため、車道を歩道や自転車専用レーンに変えているのです。
数週間ほどで工事を終えたところもありますが、車道と歩道などを区切るための仮の仕切りが置かれた場所も目立ちます。
一方で、車道が減ったことであちこちで渋滞が発生。ロンドン中心部の慢性的な渋滞がさらに悪化しています。
デモを行う舞台関係者
劇場が数多く集まる地区、ウエストエンド。ミュージカルをはじめとした舞台の本場です。
年間1500万人を超える観客でにぎわっていた劇場周辺を訪れてみると、人はまばら。あんなに多かった各国からの観光客もめっきり減りました。
ことし3月、感染拡大を防ぐために、劇場が一斉に休演してからすでに半年以上がたちます。仮に、観客の数を限って公演を再開しても、収益は見込めず、多くの劇場が再開の見通しを立てられないといいます。
舞台関係者は先月、ロンドンの中心部でデモを行いました。「劇場に支援を」「芸術を守ろう」と書かれたプラカードを掲げ、窮状を訴えていました。
デモに参加していた1人の女性に話を聞くことができました。22年間、この業界で働き、今は舞台監督を務めていると言います。仕事が無くなった今、スーパーのレジ係などの仕事をしてなんとか生計を立てているそうです。
「このままでは、イギリスの大切な文化が失われてしまいます。政府は支援を考えてほしいです」（舞台監督の女性）
舞台関係者に対して共感や連帯を示そうと、バスや車はクラクションを鳴らして、デモの横を通り過ぎて行きました。
規制されていく行動
感染の拡大とともに、日に日に私たちの行動は制限されていきます。
ことし9月、ロンドンのあるイングランドでは、多くの人との接触を避けるため、一緒に過ごせるのは6人までという「6人ルール」が再び導入されました。
先日、夫と子ども3人の合わせて5人で暮らす知人の女性が「6人ルール」にこんな愚痴をこぼしました。
「きょう両親が家に遊びに来ているんだけど、私が帰宅すると、子どもと両親と合わせて6人。夫が帰宅する前には、両親には帰ってもらわないと」。
しかし、それから1週間後、ロンドンではさらに感染が拡大。3段階のうち2番目に厳しい規制がかかることになりました。屋内では、原則、世帯が異なる人たちは会うことすらできなくなったのです。
たとえ両親であっても世帯が異なれば、家の中では基本的に、孫の顔を見せることすらできないのです。
今後、感染がさらに拡大し、最も厳しい規制がかかることになれば、屋外で人と自由に会うことも制限されることになります。
広がる不安
例年クリスマスの時期、ロンドン中心部の繁華街、ピカデリーサーカスは、イルミネーションで彩られます。街を歩くと、ことしもクリスマスに向けた準備が進められていました。
ただ、イギリスでは感染が拡大し、ウイルスによって亡くなる人は1日300人を超える日もあり、再び不安が広がっています。
もうすぐクリスマス、1年で最も大切な時間を家族や友人たちとともに迎えたい。そのことが、イギリスに住む人たちのいちばんの願いです。
ロンドン支局長
向井 麻里
（むかい まり）