新型コロナ 世界からの報告
中国のコロナ対策
カギを握る徹底した監視と水際対策

2021年6月3日

変異ウイルスが世界的に拡大しているいま、厳しい対策を講じているのが、人口14億の中国です。中国の保健当局の発表では、この1か月間の感染確認は70人余りと、感染拡大を抑え込んでいるとしています。
日本の感染対策との違いはどんな点にあるのか、取材しました。

厳しい水際対策

 

中国は、入国する際に厳しい水際対策を取っています。

中国に渡航する人は原則、国籍を問わず全員に対し、出発日の2日前以内にPCR検査と抗体検査の2種類の検査を受け、いずれも陰性であることが必要とされています。

さらに入国の際に空港で改めてPCR検査を受けます。

空港からは、地元政府が手配したバスで指定された宿泊施設に移動し、ほとんどの都市で2週間の隔離措置が義務づけられています。

また、首都 北京などいくつかの都市に入る場合は3週間の隔離措置がとられるケースもあります。

当局は、隔離措置に従わない場合は法的責任が問われることもあるとしています。

荷物は、場所を移動するごとに消毒されます。

5月、日本に一時帰国し、先週、中国に戻ったばかりのNHKの記者によりますと、隔離期間中は宿泊施設の部屋から一切出ることができず、ホテルの従業員などとの接触も制限されていて、食事は多くの場合、1日に3回、部屋の前に弁当が置かれます。

記者によりますと、隔離先のホテルの部屋に入ってからドアを開けたのは、食事の弁当を受け取る時と、PCR検査の時ぐらいだということです。

PCR検査は、防護服を着た担当者が部屋を訪れて、ドア越しに検査をされたということです。

隔離中のPCR検査で陰性であることが確認されたうえで、隔離期間を終えると、ようやく移動できるようになります。

日本との違いは

中国の水際対策、日本の対策との違いはどうなっているのか。

日本では空港を出たあとの手配はすべて自分で行うことになっていますが、中国では空港からの移動の車もホテルも、すべて当局が指定したものを利用しなければなりません。

また、中国では、当局の目が行き届く施設にとどめられるので、個人の自由は厳しく制約されます。

中国では隔離中の感染対策が地元政府に任されていて、問題が生じたら中央から責任を追及されるため、当局の必死さが伝わってきたということです。

この1か月 自国内の感染確認は70人余り

中国の保健当局の発表では、6月1日までの1か月間に新型コロナウイルスの感染が確認された人は、海外から入国した人を除くと70人余りとなっています。

対策の大きな柱となっているのが、ワクチンの大規模接種と、感染した人が確認された時の徹底した周囲のPCR検査です。

このうち、ワクチンについては中国で製造された4種類が承認されているほか、3種類のワクチンの緊急使用が認められていて、各地で大規模な接種が進められています。

中国政府は、6月1日までの接種回数が延べ6億8000万回以上にのぼったとしています。

感染確認の地域 移動制限と全員へのPCR検査

また、市中感染が確認された場合、その地域の住民の移動を制限し、全員にPCR検査をするなど、感染者の把握を徹底し、広がりを抑え込んでいます。

5月、内陸部の安徽省で合わせて10人の感染が確認された時には100万人以上の住民にそれぞれ3回、PCR検査が行われました。

2021年1月には、北京市内のオフィスビルが突然当局によって閉鎖され、敷地内の広場が臨時のPCR検査の会場となり、入居している企業の従業員などおよそ6000人が検査を受けることになりました。

理由は、感染が確認された人、1人がビルに出入りしていたためで、PCR検査の結果がわかるまで全員がオフィスで一夜を明かしました。

ビルに入居している日系企業の駐在員は「突然のことで何が起こっているのかわからなかった。このまま隔離されるのではないかという不安があった」と話していました。

地区の封鎖も

一方で、こうした対策にもかかわらず、南部の広東省広州では5月下旬から変異ウイルスによるものとみられる感染が広がり、6月1日までに41人の感染が確認されました。

このため一部の地区が封鎖され、住民が地区の外に出られなくなっているほか、鉄道や飛行機などで市外に移動する際は3日以内に受けたPCR検査の陰性証明の提出が求められるなど警戒が強められています。

導入進む「健康コード」

感染を封じ込めるため、個人の行動も徹底して監視します。
空港や観光地、ショッピングセンターや飲食店などに入る際に提示を求められるのが、スマートフォンを活用した「健康コード」という仕組みです。

新型コロナウイルスの感染リスクがないことを証明するもので、各地で導入されています。

このうち、首都 北京で運用されている健康コードは、SNSのアカウントやスマホの決済アプリと連携させ、名前と顔写真のほか、IDカードやパスポート番号を登録すると、通信記録などをもとに当局が行動を把握します。

そして新型コロナウイルスの感染リスクが高い場所に行ったかどうかによってアプリの画面が「赤」、「黄」、「緑」の3段階に変わり、異常がないとされる「緑」でなければ、店などに入ることができません。

また、健康コードには、PCR検査の結果やワクチンの接種履歴も登録されます。

感染拡大前に戻り 大勢の客でにぎわう飲食店

こうした徹底的な感染抑え込み対策の効果もあって、中国では、5月のメーデーの5連休に延べ2億3000人が国内を旅行し、中国政府は、感染拡大前のおととしの水準まで回復したとしています。
5連休の期間中、北京駅は大きな荷物を持って地方に向かう人でごった返し、世界遺産の故宮には大勢の観光客が訪れていました。

また、北京では、2021年1月下旬から海外から入国した人を除いておよそ4か月間、感染者が確認されておらず、飲食店は多くの人でにぎわっています。

北京に住む女性は「みんなワクチンを接種しているので何の心配もありません。今、世界で中国がいちばん安全だと思います」と話していました。

また、若い男性は、市中感染が確認されるたびに地域を挙げて大規模なPCR検査が行われることについて「コストがかかり、生活も不便になるが、今はそれ以外に有効な手だてがない」と話していました。

活発化する経済活動

経済活動も活発化しています。
26年前に中国に進出し、自動車などの軸受けに使われるベアリングという部品の研究開発拠点となっている日本の企業です。

250人余りいる従業員のうち、感染者はゼロです。
職場単位で、ワクチン接種が進み、接種率はすでに80%に上ります。

この企業の責任者は「感染防止対策を継続して徹底した結果、すでにコロナ前の生活に戻りつつあるという風に感じている」と話しています。

会社では、早くもポストコロナを見据え、中国市場で急速に進む自動車のEV化に向けた研究開発を進めているといいます。

人口14億 ワクチン接種率の向上がカギ

欧米や日本よりも感染拡大を抑えられているとして、自信を深めているように感じる中国。
今後は、14億もの人口を抱える国でいかにワクチンの接種率を上げていけるかがカギとなります。
一方で、感染拡大の初動対応の遅れに対する不満の声が封じ込められている状況やウイルスの起源の調査などをめぐっては、透明性ある説明が国際社会から求められています。