「大型連休も自宅で過ごして」専門家会議 現状を強く懸念

2020年4月22日

新型コロナウイルスの対策について話し合う政府の専門家会議が、4月22日、新たな「状況分析」と「提言」を出しました。

4月7日に「緊急事態宣言」が出されたあと、多くの人が外出を控えるなど行動を変えているものの、「人との接触8割削減」が達成できているかどうかについては、現段階では確認できていないという認識を示しています。

そのうえで、大型連休中の帰省や旅行での移動によって感染が拡大することが強く懸念されるとして、大型連休期間でも感染拡大を防ぐために自宅で過ごし、食料品などの買い物についてもすいている時間帯に必要最小限の家族のみででかけるようにするよう求めています。

さらに、「帰省はオンラインで」など、人との接触を8割削減するための10のポイントを示しました。

専門家会議が示した「状況分析」と「提言」の、ポイントと全文です。

専門家会議による「状況分析」と「提言」のポイントは

緊急事態宣言から2週間 現状と課題は
  • 日本国内の感染者数は、4月20日時点では1万人超に。
  • 13の「特定警戒都道府県」での増加が、全体の7割強を占めている。
  • 東京や大阪では、感染源が分からない患者が約8割にのぼっている。
  • 「特定警戒」以外の34県でも感染者数が増えている。こうした地域での集団感染のきっかけに、東京など都市部との移動が関係しているケースが多くなっている。
市民の行動は変わったか?
  • 「人と人との接触機会を8割削減する」という目標は、短期間で感染者数を十分に減少させるために必要となっている。
  • 「7割程度の削減」だと、新たな感染者を十分に減らすまでには時間がかかることになってしまう。
  • NTTドコモのデータでは、4月19日(日)までの1週間、1~2月の平均値と比較して、渋谷駅周辺の日中時間帯で、平日はおよそ65%、人が減少した。休日はおよそ77%、人が減少した。
  • 平日は人の減少が十分ではない。
  • 公園に関する調査では、4月11日(土)は、東北地方を中心に、通常よりも利用者数が増加した。
  • 都心部に比べ、地方で人の減少が不十分に。
  • また、都市部と地方との間での人の移動を通じて、地域で流行が発生するケースが後を絶たない。
  • 3月の中旬から連休にかけて、警戒が一部で緩み、都道府県をまたいだ帰省や旅行により、感染が拡大したと考えられる。
  • ゴールデンウィークを迎えるにあたり、帰省や旅行により、全国に感染が拡がることが強く懸念される。
  • スポーツ、文化、宗教、娯楽などで、多くの人が集まることを避けることを、さらに徹底していくことが必要。
  • 公園やスーパーなど、週末に多くの人が集まっている場所での感染対策が課題に。
さらなる行動の見直しを
  • これまでに、人の移動は大きく減少したが、必要とされる「人と人との接触、8割削減」が達成できたかどうかは現段階では確認できていない。
  • 確実に8割の接触削減をするために、より一層の努力を。
  • オフィスでの仕事は原則として自宅でテレワークに。
  • 出勤が必要となる職場でもローテーションを組むことなどで、出勤者の数を最低7割減らして。
  • 引き続き「不要不急の外出の自粛」や「3つの密」を避けるための取り組みの徹底を。
  • 公園は、一律に閉鎖するのではなく、地域での話し合いなどにより使い方を工夫し、感染対策について利用者への協力の呼びかけも行い、継続して利用ができることが望ましい。
  • スーパーや商店街では、人が触りやすい扉などの定期的な消毒や、混雑時の入場制限、一方通行での誘導、対面する場所へのパーティションの設置などの感染対策を。
  • 大型連休は、都道府県境をまたぐか否かに関わらず、人混みに出かけることを厳に慎んで。
  • それぞれが自宅で過ごし、食料品の買い物などについてのみ、空いている時間帯に、1人、もしくは必要最小限の家族で出かけるようにご協力を。
  • 人との接触を8割減らす10のポイント

    (1)ビデオ通話でオンライン帰省
    (2)スーパーは、1人、または少人数ですいている時間に
    (3)ジョギングは少人数で 公園はすいた時間、場所を選ぶ
    (4)待てる買い物は通販で
    (5)飲み会はオンラインで
    (6)診療は遠隔診療
    (7)筋トレやヨガは自宅で動画を活用
    (8)飲食は持ち帰り、宅配も
    (9)仕事は在宅勤務
    (10)会話はマスクをつけて
医療従事者などへの「偏見」「差別」は絶対にあってはならない
  • 医療従事者や福祉従事者などに対する偏見や差別が広がっている。
  • 医療従事者・福祉従事者本人のみならず、その家族に対しても影響が及んで、子どもの通園や通学を拒まれる事例も生じている。
  • 感染症に対する偏見や差別、特に、医療従事者・福祉従事者をはじめとした社会のために働く方々に対する偏見や差別は、絶対にあってはならない。
  • 偏見や差別を防ぐための啓発を進めることが必要。この感染症は、誰もが感染しうるし、誰もが気付かないうちに感染させてしまう可能性がある。
  • 医療従事者をはじめとして、感染するリスクと隣り合わせで働いている皆さんへの敬意を。
都道府県の知事は、より強いリーダーシップを
  • 重症や中等症の人の病床を確保するために、こうした患者を集中的に受け入れる「重点医療機関」を、全都道府県で速やかに設定すべき。
  • 地域の中での医療機関の役割分担や、PCR検査体制の強化、保健所の体制の強化などについて、都道府県の知事や、保健所が設置されている自治体の市長・特別区長には、これまで以上に、強いリーダーシップが求められる。
緊急事態宣言の期限 5月6日に向けて
  • 専門家会議としては、5月6日の緊急事態宣言の期限に向けて、引き続き、現状や対策についての分析を進めていく。
  • その際には、市民の行動が変わったかや、感染状況、医療体制の状況、海外の状況などを勘案していく。

国の専門家会議が示した「提言」全文

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言

2020年4月22日

Ⅰ.はじめに

○ 本専門家会議は、4月1日の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」に おいて、都市部を中心にクラスター感染が次々と生じるなど患者数が急増し、医療供給体制が逼迫しつつある地域があること、継続的に注視すべき状況にあること等を指摘した。

○ その後、4月7日には、新型コロナウイルス感染症対策本部決定により、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の 7 都府県に対し、新型インフルエンザ等対策特別措置法第 32 条第 1 項に基づく緊急事態宣言が発出された。

○ 4月 16 日には、上記7都府県と、同程度にまん延が進んでいると考えられる北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び京都府の6道府県との合計 13 都道府県が新たに「特定警戒都道府県」として指定されるとともに、それ以外の 34 県についても、


  1. 都市部からの人の流れで、都市部以外の地域に感染が広がりクラスター感染が起き始めたこと

  2. そうした地域では都市部に比べ医療機関などの数も少なく感染が広がれば医療が機能不全に陥る可能性が極めて高いため、先手先手の対策を打つ必要があること、

  3. 4月7日の緊急事態宣言発出後、多くの国民の方が求められる行動変容に協力していただいたが、未だ改善の余地があること、

  4. 我が国における更なる感染拡大を抑制するためには全都道府県が足並みを揃える必要があること、などの観点から、緊急事態宣言の対象とされた。

○ 今般、前回の提言から3週間が経過したこと等を踏まえ、最新の情報に基づいて状況分析を更新するとともに、提言を行うこととした。

Ⅱ.現状と課題

1.国内の状況等

○ 現在の全国的な状況については、

  • 新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、1日の新規感染者数は 455 人にのぼって おり、累積感染者数は4月 20 日には 10,200 人を超えるに至った。
  • 特に、特定警戒都道府県の増加が全体の7割強を占めており、累積患者数は東京都が 2,984 人、大阪府で 1,162 人となり、このうち、感染源(リンク)が分からない患者数 の割合は、約 8 割にのぼった。
  • さらに、それ以外の 34 県でも感染者数の増加を認めている地域があり、集団発生の契機 として東京都を含む都市部との間での人の移動に伴うものが多かった。

【図1.累積患者数(左)と人口 10 万対患者数(右)】

※ 4月 17 日までに感染が確定した都道府県別患者数をもとに計算。グレーは累積患者数が 20 人未満の都道府県

○ 海外からの感染に起因したと考えられる国内発生例を確定日別にみると、3月 22日、23 日頃には4割近くを占めていたものの、4月1日から4月 20 日では 0.65%程度に低下している。

○ また、4月 21 日現在の諸外国の累積死亡者数については、アメリカ 41,872 人、イタリア 24,114 人、スペイン 20,852 人、フランス 20,265 人などとなっている一方で、我が国は 244 人となっている。諸外国と比較すると累積死亡者数は少ないが、増加の一途をたどっている。

2.行動変容の状況等

(1)緊急事態宣言下における接触機会の8割の削減

○ これまでの対策では、「3つの密」を徹底して避けることを周知してきた。加えて、緊急事態宣言下においては、ハイリスクの屋内環境に限らず、全ての市民を対象として人と人との接触を削減することを通じて2次感染を劇的に減少させることが必要である。
人と人との接触機会を8割削減するという目標は、単に2次感染を減少させるために必要
となるだけでなく、短期間で(例えば、8割という劇的な削減であれば、緊急事態宣言後 15 日間で)感染者数が十分な程度減少するためにも必要である。接触機会の8割削減が達成されている場合、緊急事態宣言後おおよそ1か月で確定患者データの十分な減少が観察可能となる。他方、例えば、65%の接触の削減であるとすると、仮に新規感染者数が減少に転じるとしても、それが十分に新規感染者数を減少させるためには更に時間を要する。なお、8割削減の達成ができた場合には、1 か月後には、感染者数が限定的となり、より効果的なクラスター対策や「3つの密」の回避を中心とした行動変容で感染を制御する方法が一つの選択肢となり得る。不十分な削減では感染者を減少させる期間が更に延びかねないことを十分に理解した上で、できるだけ早期に劇的な接触行動の削減を行うことが求められる。

【図2.接触が流行開始後 20 日目に削減された場合のシナリオ】

※ 流行対策開始前までは R0=2.5 で感染者数が増加する。感染日別の新規感染者数は 80%の接触削減により 15 日間で 1 日 100 人まで減少する(青線)。しかし、接触の削減が 65%であると 1 日100 人に達するには 90 日以上を要する(灰色線)。また、確定患者として報告されるにはおおよそ 2 週間の遅れを要し、80%削減のとき 1 日 100 人に到達するには緊急事態宣言から約 1 か月を要する(オレンジ線)。黄色線は 65%削減のときの確定患者数である。

○ 接触行動の変容は、主に 2 つの指標に基づいて評価をする予定である。その1つ目は、都市部などの人口サイズ(以下「人流」という。)そのものの減少を直接的に評価するものである。
外出の自粛要請がなされ、テレワークが推奨される等によって、人流が減少するものと期待されるが、これは携帯電話の位置情報や公共交通の利用者数を活用した都市部における人口密度の減少をもって一定の評価が可能である。
NTTドコモによるデータでは、4月13日(月)から4月19日(日)までの1週間、1-2月のベースライン(平均値)と比較して渋谷駅周辺の日中時間帯で、平日は63.6%から65.2%の人口減、休日は77.6~77.8%の人口減を認めた。他方、ソフトバンク社のデータを活用したAgoopによる情報でも、4月18日(日)は東京都内の主要駅(東京、新橋、新宿、品川、六本木)において68.9%~87.3%の人口減少を認めている。また、携帯端末利用者に基づく日内変動を検討した結果、平日では午前7-9時と午後6-8時の通勤時間帯に利用者数が集積していた。さらに、東京都交通局都営地下鉄の利用者数は、改札通過人数に基づく利用者数情報によれば、4月8日(水)-10日(金)の利用者数は昨年の同曜日に比して67~74%減となっており、4月11日(土)-12日(日)の休日は 84-89%の利用者減となっていた。Google社によるGoogle community mobility report(コミュニティにおけるヒト移動報告)によると、3月29日(日)と4月11日(土)の期間について、都心部を中心に娯楽施設の利用者数に減少を認めた。ただし、減少幅は 30-50%台に留まっているものと考えられた。

【図3 3月29日(日)(左)と、4月11日(土)(右)の娯楽施設の利用者数】

また、同様の比較を公園に関して実施したところ、4月11日(土)の東北地方を中心として平時よりも利用者数の増加を認めた。こうした屋外環境における実際の人と人との接触については、その状況により必ずしも一律でないものの、注意喚起を要する局面が存在しうることが示唆された。

【図4 3月29日(日)と4月11日(土)(右)の公園の利用者数】

以上のように、地域メッシュ別にみた主要駅の状況からは、一時的な人口減少が十分ではないケースが平日においてより顕著であり、テレワークが必ずしも進捗していないことや、通勤時間帯の利用者数から時差通勤が進んでいないことなどがうかがわれた。地域別にみれば、東京都や大阪府などの都心部における娯楽施設、公園における人口密度の減少は顕著である一方で、地方ほど不十分であることが示唆された。

○ 2つ目の評価は接触率(時間あたりの接触数)そのものであり、現在、その定量化に向けた検討を開始している。これは、社会全体で接触の機会を減らそうと努力いただいている中で、社会的な接触(その定量化に当たっては、例えば、身体的な接触や 2~3 文程度の会話によってカウントする。)が実際にどの程度だけ減少したかを評価しようとするものである。これは特定の地域(例.仕事場、会議スペース)でどれくらいの時間を他者と共有していたかを携帯端末の位置情報を基に推定する方法や、社会的な接触を日記のような形で記入してもらった結果を集計する方法により、推計することが可能となる。これらの評価方法の具体化に向けては、現在、厚生労働省クラスター対策班で検討を行っているところである。

(2)接触の削減やテレワーク等をめぐる問題

○ 緊急事態宣言が発出されるに至った状況下で、市中での感染リスクへの対応の必要性や、不要不急の外出を控え、人と人の接触を減らすことの重要性を強調されているが、一方では、日常生活において接触を削減するための具体的な工夫が求められている。
また、テレワークについては、働く方々が外出を控え、職場おける人と人との接触を減らす効果が期待できることから、政府においても積極的な呼びかけ等が行われているが、いまだ平日における主要駅の人口減少が十分でないケースもあるなど、テレワークの取組が必ずしも十分に進捗していない状況が伺われる。

○ さらに、現時点までに東京都を含む都市部への出張・人の移動を通じて地域で流行が 発生する事例が後を絶たない。これは医療体制が必ずしも十分でない地域において突然に クラスターへの対応を強いることに繋がっており、看過することのできない状況にある。

○ 具体的な感染者数の推移をみても、例えば3月の中旬から連休にかけて、警戒が一部 緩み、都道府県をまたいだ帰省や旅行により人の流れが生じ、感染が拡大したと考えら れる。現在、大都市圏を中心に新型コロナウイルス感染症がまん延が見られる状況を踏 まえると、今後、ゴールデンウィークを迎えるに当たり、こういった帰省や旅行による 人の移動により、全国に感染が拡がることが強く懸念される。また、スポーツ、文化、 宗教、娯楽等の各種行事等を含め、大人数の集まる場所や、イベントを避けるというこ とについて、更に徹底していくことが必要である。

○ 外出自粛が要請されているなかで、公園やスーパーなどにおいて週末に多くの人が集 まっている場での感染対策の必要性が課題となっている。

(3)偏見と差別について

○ 医療機関や高齢者福祉施設等で、大規模な施設内感染事例が発生し、医療・福祉従事者 等に対する偏見や差別が広がっている。こうした影響が、医療・福祉従事者本人のみならず、その家族に対しても及び、子どもの通園・通学を拒まれる事例も生じている。
また、物流など社会機能の維持に必須とされる職業に従事する人々に対しても、同様の事例がみられる。さらに、こうした風潮の中で、新型コロナウイルス感染症に感染した著名人などが、「謝罪」を行う事例もみられる。

○ こうした偏見や差別は、感染者やその家族の日常生活を困難にするだけでなく、

  • 感染者やその家族に過度な不安や恐怖を抱かせること
  • 感染した事実を表面化させることについて、本人が躊躇したり、周囲の者から咎められたりする事態に及び、そのために周囲への感染の報告や検知を遅らせ、それによって更なる感染の拡大につながりかねないこと
  • 医療・福祉従事者などの社会を支える人々のモチベーションを下げ、休職や離職を助長し、医療崩壊や、物流の停止などといった極めて大きな問題につながりかねないことなどの事態を生むおそれがある

3.医療等をめぐる現状と課題

(1)医療提供体制

○ 現在、全国的に感染が拡大する中、医療現場の逼迫が深刻になりつつある地域も増えている。特に、東京や大阪などの感染者が急増している大都市圏では、症状別の病床の役割分担を進めており、重症者・中等症については対応可能な病床の確保を図る一方で、無症候や軽症例については自宅待機やホテル等での受入拡大などを図るべく、懸命な努力が続けられている。しかし、感染者数の増加のスピードに追いついていない状況にある。
一方、医療基盤の弱い地方では、今後、さらに少ない感染者数の増加でも、早い時期に医療現場への圧迫が生じてしまうことが懸念される。

○ また、入院を要する中等症以上の患者について、医療、感染対策の効率化という観点から重点医療機関を定めるよう都道府県に要請されているが、設置が十分には進んでおらず、医療機関の役割分担の検討と合わせ、都道府県知事の強いリーダーシップのもと早急に議論を進める必要がある。

○ 患者受入れ調整のために必要な、地域の医療機関の病床の確保状況、空床情報などの見える化がなされていない。

○ 本感染症の重症患者は長期管理を要し、病床を一定期間占有するため、医師や看護師、 さらには高度機器を扱う臨床工学技士など多数の動員が必要であり、対応に当たる専門人材の確保が追いつかない状況にある。
さらに、N95 マスク、サージカルマスク、フェイスシールド、ガウン等の個人防護具は、不足する施設も生じている。

○ 最近、医療機関や介護施設等での大規模な院内感染・施設内感染が続発しており、そ の対策が急務となっている。一般の感染対策の徹底とともに、院内感染・施設内感染が発生した場合に、被害を拡大させないためにも、早期発見・早期対応が重要である。
一方で、院内感染・施設内感染が確認されると、報道などでその施設の責任を強く糾弾する風潮があり、迅速な報告が行われず、早期対応につながらない状況となっている。
しかし、入院患者や施設入所者は、高齢で基礎疾患を有していることが多く、感染による重症化リスクが高いことを踏まえると、早期に院内感染・施設内感染を報告し、感染が拡大しないように対処することこそを推奨する空気を、社会全体で醸成していくことが求められる。

(2)PCR等検査

○ PCR等検査(Smart Amp、LAMP など新規に導入された検査手法を含む。以下同じ。)は、医師の判断により必要な者に迅速に実施されることが重要である。しかし、感染拡大に 伴う検査ニーズの高まりに対し、帰国者・接触者相談センターの人手が絶対的に不足している、帰国者・接触者外来の体制が十分に確保されていない、検体採取を行う人員、PCRを実施する人員が不足している、などの状況にある。

○ また、検査を実施する現場からは、検体採取時必要なスワブ、個人防護具(PPE)などの資材や、PCR等検査に必要な試薬類等の不足あるいは逼迫した状態を指摘する声が日増しに高まっている。

○ 都道府県は、医療機関等の関係機関により構成される会議体を設けること等により、PCR等検査の実施体制の把握・調整等を図ることとされているが、十分な実施がなされていない。

○ 検体の輸送に関しては民間輸送業者による受託もすでに開始されており、今後は検体採取から PCR等検査の迅速な実施が期待される。

(3)サーベイランス

○ 地域における感染状況を把握することは、今後の対策を行う上で極めて重要であるが、広く一般に活用可能な血清抗体検査がないために、地域の感染状況を正確に把握することができない状況となっている。

(4)治療薬等の開発について

○ この感染症に対して、有効性が確認された特異的な抗ウイルス薬やワクチンは現時点で存在せず、確立した治療法も現時点ではない。中等症から重症へ急速に進行する症例も散見されるため、現在、緊急避難的な対応として、日本感染症学会 「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第 1 版(2020 年2月 26 日)」(第2版発行予定)をもとに、効果が期待される可能性のある治療薬について、医療施設内で所定の手続きをとり、患者の同意を取得したうえでの投与が行われている。

○ さらに、「重症化する患者」の特徴や経過、薬剤投与後の経過などを明らかにすることを目的とした患者登録による観察研究(レジストリ)も開始されている。

(5)医療の重要性に係る市民との認識の共有

○ 医療機関の努力によって必要な病床数を確保できたとしても、院内感染による医療従事者の減少、さらに医療従事者とその家族に対する偏見や差別を原因とする医療従事者の離職、休診や診療の差し控え、財政悪化等などの複合的な要因によって、適切な医療が提供できなくなることが生じうる。今後とも、こうした事態の回避が求められる。

○ 人工呼吸器や人工心肺装置など、限られた集中治療の活用について、今後、一部の医療機関では治療の優先度をつける必要に迫られる局面も想定されうる。ただし、現状では、限られた集中治療の活用をめぐる方針が存在せず、医療機関ごとに一任することとなっている。こうした状況下では、優生思想による判断が行われかねないという懸念も示されている。

4.保健所業務、水際対策などの現状と課題

(1)保健所等の現状

○ 保健所の業務については、基本的対処方針で、「政府および地方公共団体は保健所の体制強化に迅速に取り組む」と明記され、厚生労働省の取組のみならず、総務省からも全庁的な対策を講じるよう依頼するなど、政府をあげた対策が講じられている。

○ しかし、こうした対策を講じてもなお、現場の業務負荷とそれによる疲弊感はすさまじく、今後、更に相談件数や患者数が増加していくことも見据えて、人員の更なる追加に向けた知事部局の取組や、業務の外注、簡素化による負荷軽減、それに伴う経費の補充が不可欠となっている。

○ また、感染症法上、入院勧告を受けた患者等の医療機関への移送は、都道府県、保健所設置市、特別区が行うことができるとされているが、実際の移送を担う保健所においては、入院勧告の手続、濃厚接触者のフォローアップや帰国者・接触者相談センターの対応など様々な業務を行っており、保健所が患者等の移送業務を行うことは現実的ではない。移送業務について、都道府県等との間の協定等に基づいて消防の救急隊の協力を得ている自治体もあるが、保健所以外の機関による移送が進んでいない現状がある。

(2)水際対策の現状と課題

○ 本専門家会議では、3月 17 日に、入国拒否の対象となる地域からの帰国者は検疫時において健康状態を確認し、症状の有無を問わず、検疫所における PCR等検査を実施し、陽性者については検疫法に基づき隔離の対象とすることなどの要請を行った。

○ その後、政府においても、こうした方針に基づく取組がなされるに至ったが、入国拒否の対象となる地域は、ヨーロッパ諸国、アメリカ、東南アジアなど世界 73 カ国に拡がっており、現在は、連日、千件程度の PCR等検査が実施されている。

○ これまでに空港検疫で PCR等検査陽性となったのは、3月1日以降の数値では、有症状者 34 例、無症状病原体保有者 93 例の合計 127 例(4月 19 日時点)となっており、水際対策として一定の成果を上げてきた。その一方、陽性者の割合は、4月以降低下傾向にあり、入国拒否の対象となる国を 73 カ国まで拡大した4月3日から4月 19日までの検査では、20,296 例中 52 名が陽性であり、割合は 0.26%にまで低下してきた。諸外国でも厳格な行動制限などによる感染リスクの低下が背景にあると考えられる。

○ こうした中、国内において緊急事態宣言が発出され、国内における新規感染者数の増加に伴う PCR等検査の拡充が求められる状況下にあっては、効率的な資源投入が行われているかを検討すべきではないか、との指摘もされている。

○ また、直近までの陽性率を踏まえた数理モデルによる推計では、入国拒否の対象となる地域からの入国者全員の検査を実施した場合と、その中でも有症状者のみを選択的に検査した場合とを比較しても、大規模流行のリスクはほぼ異ならないものと考えられる。

(3)ICT(Information Communication Technology)の利活用に係る現状と課題

○ 3月 31 日に内閣官房・厚生労働省・総務省より、外出自粛要請等の実効性の検証、クラスター対策として実施した施策の実効性の検証などを目的として、プラットフォーム事業者・移動通信事業者等が保有する、地域での人流把握やクラスター早期発見等の感染拡大防止に資するデータの提供について呼びかけがなされた。これに応じた事業者との協力のもと、顧客のプライバシー等を十分に保護したうえで、各省へデータ提供がなされ、人口変動分析、人流の減少率、交通関係の状況などが内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策(corona.go.jp)」にて公開されているほか、施策の検証や分析に用いられている。

○ 4月 1 日付の提言において、「様々な意見・懸念が想定されるため、結論ありきではない形で、一般市民や専門家などを巻き込んだ議論を早急に開始すべきである」と述べたが、まだそのような議論の場は設けられていない。

○ 公衆衛生政策への ICT 利活用は、新型インフルエンザ流行後に位置情報の適切な利用が議論された経緯もあるが、実現には至っていない。新型コロナウイルス感染症対策においては、社会経済活動の犠牲(移動の自由や営業の自由の制限)を最小化しながら、感染拡大を収束の方向に向かわせるため、また再流行に備えるため、様々な ICT技術の活用を考えることは喫緊の課題である。諸外国の実例と議論を参考にすると、①調査・個別通知、②統計情報二次利用、③集計・公開の合理化、④接触追跡(Bluetooth アプリ、GPS 位置情報その他)、⑤健康管理・報告のアプリといった手法が考えられる。しかしながら、公衆衛生上の利益とプライバシーへの影響を比較考量し、倫理的、法的、社会的な問題を議論することが重要である。

(4)倍化時間について

○ 倍化時間については、地域における感染者数の将来予測などに有用であるが、推計方法が分からない、との声も多い。

Ⅲ.提言

  • ◎ 日本では、これまで、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするとともに、「医療崩壊防止」並びに「重症化防止」による死亡者数の最小化を図るため、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「③市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。
  • ◎ 既に、緊急事態宣言が発出された状況下においては、「③市民の行動変容」については、都市部を中心に市中感染のリスクが拡大している中、「3密」に代表されるハイリスクの環境を徹底して回避するための行動制限に加えて、接触の8割を削減するという市民の行動変容をいかに徹底するかにより、まん延の区域の拡大を収束に向かわせることが求められる。
  • ◎ また、「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」については、医療機関の役割分担の促進、PCR等検査の実施体制の強化、保健所体制の強化及び業務の効率化等に関し、都道府県知事等による更なるリーダーシップが求められる。
  • ◎ 対策のフェーズが変わる中、まん延をいかに食い止め、「医療崩壊防止」並びに「重症化防止」による死亡者数の最小化を図っていくかに、力点を置きつつ、今後の対策の在り方について、以下のとおり提言する。

1.行動変容の徹底について

(1)緊急事態宣言下における接触機会の8割の削減

○ これまでに、人の移動は大きく減少したが、必要とされる人と人との8割の接触の削減が達成できたかどうかは現段階では確認できていない。確実に8割の接触削減をするためには、社会機能の維持に必須とされる者以外の労働者は、テレワークやシフトの変更等を徹底することを通じて、より一層の努力をいただきたい。また、今後の感染状況の拡大に応じて、更なる対応の可能性について取り得る選択肢の検討も必要である。

○ 接触行動の変容の評価については、

  • 都市部において、感染し得る者の人口減少に相当する人流評価に関する暫定的な評価では、各携帯電話会社・公共交通機関から内閣官房などにサマリーデータが提供される形で記述統計結果が公表されている。ただし、人口数の相対的減少の考え方(例:ベースラインをいかに設定するか)や、特異的な地域メッシュとして人通りの多い都市部を選択していること、全てのメッシュ人口における人流が評価されていないなど、いくつかの技術的課題を包含しており、今後、更に分析手法の改善を行った上で検討を継続することが必要である。
  • 加えて、接触率(時間あたりの接触数)の減少に関して調査を開始しており、今後、その評価結果を専門家会議等の場を通じて公表をしていく。なお、以下に、暫定的な分析のイメージを示す。

【図5.4月 17 日と1月 17 日を比較した渋谷駅周辺の接触の減少率(上:昼間、下:夜間)】

(参考)ある平日(4月 17 日)におけるベースライン(1月 17 日)と比較したときの、渋谷駅周辺の昼間(08:00-16:00)と夜間(16:00-24:00)の接触率の相対的減少に関する推定値。昼間は 43.0%、夜間は 51.1%の接触率の相対的減少が起こったと評価される。NTT ドコモモバイルのデータを用い、時間の共有を根拠として「接触」と位置付け、統計学的推定を実施することによって定量化を実施した。

(2)接触の削減やテレワーク等をめぐる対応

○ まん延の拡大防止に向け、確実に、人と人との接触機会が8割程度低減されなければならない。このため、引き続き、不要不急の外出の自粛や、「3つの密」を避けるための取組の徹底等について、市民の皆様にご協力を求めていくことが不可欠である。
また官公庁においても、職務に支障を来さぬよう、テレワークやオンライン会議等の実施に努めるとともに、必要なシステム変更や、予算配分等に努めるべきである。

○ これまでに、外出禁止と都市封鎖(いわゆるロックダウン)を解除したことのある中国やシンガポールでは、日本において「3 つの密」と表現しており実際にクラスターが発生する場となった環境(例えば、フィットネスジム、ライブハウス、夜間の接待飲食店など)を行動制限の解除後も休業とすることで2次感染防止を図っている。この結果、今までのところ、中国では大規模な再流行は発生していないと報告されている。今後、地域によって、感染者数の低減などが見込まれた際の感染予防戦略として、伝播が生じるハイリスクの場や地域間移動を伴うようなイベントなどについては、自粛などの要請を継続する可能性があることを関連する事業者は想定しておく必要がある。

○ 高齢者への感染は重症化リスクが高いことに鑑み、高齢者との接触の際には細心の注意や対策を行うこと、また、高齢者自身も感染しないように気をつけていくことが重要である。市民の皆様に心がけていただきたいことは、


  1. 手洗い、咳エチケット等の感染防止対策の徹底

  2. 「3つの密」の徹底的な回避(人混みや近距離での会話、多数の者が集まる室内で大声を出すことや歌を避ける等)

  3. さらに、人と人との距離をとること(social distancing;社会的距離の確保、最近は physical distancing:身体的距離の確保とするように言われており、以下「身体的距離の確保」という。)
  4. 不要不急の外出の自粛(特に、日本国内における地域を超えた不要不急の移動の自粛)

など、これまでにも繰り返し伝えてきた基本的な行動の徹底が基本である。これらの取組によって、ご自身への感染を防ぐとともに、大切な家族・友人・同僚や地域で生活する隣人・市民への感染拡大を防ぐことができる。市民の皆様には、引き続き、日常生活におけるもう一段のご協力を強くお願いしたい。
  合わせて、当分の間は、緊急性を要する場合を除き、医療施設や福祉施設における面会、帰省などで高齢の両親、祖父母と接することを控えることをお願いしたい。

○ 加えて、人と人との接触機会を8割削減していくためには、それぞれの職場においても、


  1. オフィスでの仕事は原則として自宅でテレワークにする

  2. 例外的に出勤が必要となる職場でもローテーションを組むこと等により出勤者の数を最低7割は減らす

  3. 出勤する者については時差通勤を行い、社内でも人と人の距離を十分にとること(身体的距離の確保)

  4. 取引先などの関係者に対してもこうした取組を説明し、理解・協力を求める

  5. 他方で、これらの努力を行った上でも、医療・物流・社会インフラ等現場で出勤を要する業務がある。その分、それ以外の業務における出勤を大きく減少させる必要がある。社会を維持するために出勤せざるを得ない人と自宅勤務が可能な人との間で分断を招くことのないよう、社会的な理解を深めていく、といった取組を進めていく必要がある。

また、新型コロナウイルス感染症の流行は、今回の緊急事態宣言の期間だけではなく長期にわたって続く可能性があるため、以上の取組がいつでもできる体制を整えておくべきである。こうした取組は、感染症対策だけではなく、働き方改革を進めて、全ての人にとって働きやすい職場にすることにもなる。

○ さらに、このような出勤が避けられない職場においては、常に「3つの密」が同時に重なる場を避けるとともに、人と人との距離をとることを意識した上で、職場や職務の実態に応じて、


  1. 換気の徹底

  2. 接触感染防止(電話・パソコン等の共有をできる限り回避、こまめに消毒等)

  3. 飛沫感染の防止(会議のオンライン化、咳エチケットの徹底、対人距離の確保(2m以上)等)

  4. 風邪症状を有する者の出勤免除、安心して休暇を取得できる体制の整備といった取組を着実に定着させていく必要がある。なお、雇用主においては、感染の疑いがあると判断される特段の理由があるわけではないような従業員に対し、PCR 検査の結果を提出させることは適切ではない。

○ これらの8割の接触機会の低減の具体策については、市民にとって、公園やスーパー、 商店街などにおいて、人と人との距離をとるよう気をつけることなど具体的にどのように行動すべきかが分かりやすいような形での周知広報に努めるべきである。

○ 外出自粛によってこれまでより人が増加する場(公園やスーパーや商店街など)において、管理者や事業者は感染リスクを評価し、リスクに応じた対策を行う。

  • 共通する対策としては、体調不良時の利用の控えと基本的な衛生習慣(こまめな手洗い、会話時の距離の確保、密集にならないように人が多い時間を避ける)の実践である。
  • 公園は、一律に閉鎖するのではなく、地域での話し合いなどにより、使い方の工夫、感染対策についての使用者への協力を呼びかけることにより継続して利用ができることが望ましい。
  • 事業者はそれぞれの業界団体において事業の性質に基づいた感染リスクを評価し、対策を検討することが求められる。例としてスーパー、商店街の事業者が考慮すべき感染対策としては入店前後の手指衛生、人が触りやすい扉や共用部の定期的な消毒、レジなどの行列位置の指定、混雑時の入場制限、一方通行の誘導、パーティションを対面の場所に設置するなどがある。

○ 事業者は、体調不良のある社員などに新型コロナウイルスの検査や陰性を証明する書類を求めることは避けるべきである。医療機関が陰性の証明を提供できる体制にないことや、陰性であっても、体調不良があれば感染している可能性は否定できない。
体調不良があれば、休暇がとれるように配慮すること、また症状が継続するようなら受診して加療させる。

○ なお、外出自粛要請等を受けて臨時休業となる学校が増えており、子供たちが家庭で学べる環境づくりが重要となる。政府は、子供たちが、オンライン教材等を活用した学習、同時双方向型のオンライン指導を通じた学習など ICT 等を活用した家庭学習が行えるようにするとともに、最大限の感染拡大防止措置を講じた上で、学校等における学習指導の模索や学習状況の把握に努める必要がある。

(3)ゴールデンウィーク中の対応について

○ ゴールデンウィークにおいては、伝播が地理的に拡大している状況を鑑み、都道府県境をまたぐか否かに関わらず、人混みに出掛けて自らを接触のリスクに曝してしまう機会を厳に慎むことを求めたい。3月の三連休において、感染が拡大したと考えられることを踏まえ、不要不急の旅行、観光による感染拡大を防ぐため、市民・宿泊事業者がともに協力して取り組むことが必要である。流行の制御のために、各人が自宅で過ごし、食料品の買い物等のみを、空いている時間帯に一人あるいは必要最小限の家族等のみで出掛ける、という状況を達成するのにご協力いただきたい。

○ 特に、帰省などは、遠距離の人の移動と重症化するリスクの高い高齢者との接触が重なることから、重点的にメッセージを発出すべきである。

(4)偏見と差別の解消に向けて

○ 感染症に対する偏見や差別、特に、医療・福祉従事者をはじめとする社会のために働く方々に対する偏見や差別は、絶対にあってはならない。全ての市民に対して、早急に感染症や感染予防に関する知識を提供する必要がある。

○ 市民に対して、偏見や差別を防止するための啓発を進めることが必要である。本感染症に対する偏見や差別の解消に向け、

  • 誰もが感染しうる感染症だという事実
  • 誰もが気付かないうちに感染させてしまう可能性のある感染症だという事実
  • 病気に対して生じた偏見や差別が、更に病気の人を生み出し、感染を拡大させるという負のスパイラル
  • 医療従事者をはじめとして本感染症への感染リスクと隣り合わせで働いている人々に対する敬意

といった事柄について、市民に啓発する活動を展開することが求められる。

○ 法務省や地方公共団体では、本感染症に関連する偏見、差別、いじめ等の被害に遭った方からの人権相談を受け付けている。相談窓口についての周知をよりいっそう強化し、利用を促すべきである。

2.医療提供体制の今後の在り方

(1)医療機関の役割分担、病床・宿泊療養施設の確保

○ まず、何よりも、重症者・中等症者に対する病床を確保するために、現在、東京都、神奈川県、大阪府など一部の都道府県でしか定めていない、これらの患者を集中的に受け入れる「重点医療機関」を、全都道府県で速やかに設定するべきである。

○ 特に、重症者に対する医療体制は人工呼吸器などの医療機材の問題よりも、そのような集中治療を行える人材の養成が最も重要である。できるだけ短期間でそのような人材を養成できるようなプログラムを整備すべきである。

○ 特に、病床数が逼迫している都道府県については、必要に応じ医療機関に対し不要不急の受診や予定入院・予定手術の延期の要請を行うなど空床確保に努めるべきである。
また、重症者・中等症者の増大に伴い、入院施設が逼迫している都道府県においては、必要に応じて、新型インフルエンザ等対策特別措置法で定められている「臨時の医療施設」の枠組みを用いることも視野に入れ、早急な対応を講ずるべきである。

○ さらに、無症候例・軽症例の自宅療養には様々な困難が予想される場合も多いので、療養先となるホテルなどの施設の確保と具体的な準備を、まだ感染者がそれほど多くない都道府県も含め、迅速に行う必要がある。また、症状が改善した無症候例・軽症例について、病床の確保状況等を踏まえ、自宅や施設における療養への移行を強く求める必要がある。

○ こうした医療機関の役割分担の確立にあわせて、各都道府県の受入れ本部において、新型コロナウイルス感染症の患者を診察する医療機関に対する支援や患者の移送、受入れ調整、空き病床の見える化などを行うために、災害医療コーディネーター、DMAT 等の災害時の対応に精通した医師を地域の実情に応じて配置するなど、スムーズな移送調整を行える体制を整備すべきである。

○ 医療機関では、院内感染を防ぐために感染管理を徹底する。院内感染の可能性が生じた場合には直ちに保健所と相談し、また保健所や自治体は、必要に応じて、速やかに FETP又は FETP 修了生など感染症、疫学に関する専門家並びに感染制御に関する専門家による助言を依頼する。また、院内の医療体制を維持するため、地域の職能団体や DMAT、JMAT、災害支援ナースなど様々な仕組みを活用するべきである。

○ 院内感染を防止するためには、都道府県及び医療機関は、必要に応じて適切に PCR 等
検査を実施できる体制を整えなければならない。加えて、都道府県は、医療従事者や入院患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合でも、当該医療機関が十分に機能を維持できるよう、医療機関に対して職員の就業制限等に関する勧奨や指導は科学的に最小限かつ妥当な範囲とし、過度の勧奨や指導を行わないようにすべきである。
さらに、手術(挿管を伴うもの)や医療的処置前などにおいて、当該患者について医師が感染を疑う場合には、PCR等検査が実施できる体制が望まれる。その際、これまでの RT-PCR の十分な活用に加え、病院内で LAMP 法、Smart Amp 法などの迅速検査が実施可能な体制を整備することも有効な対策となりうる。

○ 今後増加すると思われる小児の医療は、成人と異なる点が多々あり、政府は、日本小児科学会などの意見を聞きながら、早急に診療体制の整備を進めることが必要である。

(2)PCR等検査体制の拡充について

○ 都道府県等は、地域の医師会等と連携して帰国者・接触者相談センター業務の更なる外注や委託の推進により、できる限り保健所の負担を縮小化できるよう工夫する。また、政府及び都道府県等は、検体の送付先として、民間検査機関の更なる活用を推進する。

○ 都道府県等は、地域の医師会等と連携して、保健所を経由しなくても済むように、帰国者・接触者相談センター業務の更なる外注を推進するとともに、大型のテントやプレハブ等の設置や地域医師会等と連携した地域外来・検査センターの設置など、地域の実情に応じた外来診療体制を増強する。
併せて、人材の確保に当たっては、一般社団法人 日本臨床検査技師会などにも応援を要請する。
なお、帰国者・接触者相談センターや、帰国者・接触者外来の名称については、市民に分かりやすく周知するため、地域の実情に応じて、「新型コロナ受診相談センター」や、「新型コロナ紹介検査外来」などの呼称を用いることも検討するべきである。

○ PCR等検査の速やかな拡充に向けて、知事主導で、医療機関等の関係機関により構成される会議体を設けること等により、検査の実施体制の把握・調整等を行う。また、今後、帰国者・接触者相談センターを経由しない検査の増加が予想されることから、都道府県等は、帰国者・接触者外来並びに(保健所が関与しない)検査センターにおいて、検査陽性が判明した際にその振り分け(宿泊施設あるいは自宅における健康観察、体調が変化した場合の入院の誘導)を担える体制の整備を図っていくことが不可欠である。

○ 医師が感染を疑い、重症化リスクを考慮して検査が必要と認める場合には、行政検査だけでなく保険診療による検査も活用して、遅滞なく確実に検査ができる体制は確保した上で、速やかに検査を実施すべきである。なお、無症状の濃厚接触者などについては、まずは2週間の健康観察を指示するなど、医学・公衆衛生上の必要性を踏まえた対応を行っていく。一方、都道府県等においては、速やかに PCR等検査体制の拡充を図っていくことが求められる。

○ 患者数が大幅に増えた地域等では、医療機関や高齢者施設におけるクラスターに対応する場合等における検査を優先させることが必要である。このため、院内感染や施設内感染が疑われる場合には、疑い患者や感染者が発生した際の濃厚接触者の検査を優先的に実施できる体制を準備する。

○ PCR等検査対象者については、重症化リスクの高い人(肺炎が疑われるような強いだ るさ、息苦しさ、高熱等がある場合、また、高齢者、基礎疾患のある方)は、4日を待たず、場合によってはすぐにでも相談という旨を市民に周知すること。

(3)都道府県知事等による更なるリーダーシップの発揮

○ 緊急事態宣言が発出された今、上記(1)の医療機関の役割分担の促進、上記(2)の PCR等検査の体制強化、下記3(1)で後述する保健所の体制の強化、業務の効率化、関係機関との連携等については、都道府県知事及び保健所設置市長・特別区長の今まで以上の強いリーダーシップが求められる。

○ 上で述べる3つのテーマ、「空床状況の見える化・PCR等検査の体制強化など・保健所
体制の強化及び業務の効率化等」について、更に地域の感染状況の把握については、これらの自治体の長が地域における実務リーダーを指名し迅速に進めることを期待したい。

○ また、感染状況の共有などについても、都道府県及び保健所設置市・特別区にこれまで以上の連携をお願いしたい。

○ 更に下記3(1)で述べる如く、感染者などの救急車による搬送などについては、知事がリーダーシップを取り、消防機関を所管する市町村長や民間事業者の協力を得る必要がある。

(4)感染防護具、検査試薬、検体採取スワブ等の確保

○ 政府は、医療現場で危険と隣り合わせで過酷な診療に従事する医療者のために、感染防護具等の確保、検査試薬、検体採取スワブ等資材の安定確保に向けた最大限の努力を図るとともに、必要度に応じた適正な配分に努めていくべきである。

(5)地域の流行状況を把握するためのサーベイランスの拡充

○ 新型コロナウイルス感染症の正確な国民の感染状況を確認し、適切な対策につなげるため、政府は、現行のサーベイランスに加えて、新型コロナウイルス感染症の国民に対する潜在的な感染状況を確認し、適切な対策につなげるため、政府は本ウイルスの抗体保有状況に関する調査研究を早急に進めるべきである。

(6)治療薬等の開発について

○ 関係省庁・関係機関とも連携し、有効な治療薬やワクチン等の開発に引き続き鋭意取り組む必要がある。特に、重症化を少しでも防ぎ、一人でも多くの命を救うため、効果が期 待されている治療薬については、観察研究及び治験等を通じエビデンスの集積を急ぎ、一 刻も早い薬事承認を目指すことが重要である。しかし、迅速に進んだとしても、薬事承認 までには一定の時間を要するため、今後新たな抗ウイルス薬候補が報告された際には、副 作用などを慎重に検討しつつも、迅速に臨床での使用を検討することが求められる。

○ 現在、緊急避難的な対応として、医師の判断によって行われている治療薬の投与は、日本感染症学会 「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第 1 版(2020年2月 26 日)」(第2版発行予定)の見解をもとに、医療機関内で所定の手続きをとり、患者の同意を取得したうえで、引き続き継続すべきである。重症化するリスクの高い患者に対しての適切な治療薬の選択及び重症化する前の投与は、研究として行われるべきである。また、患者から要望があったとしても、既存薬やサプリメントのやみくもな投与等は避けるべきである。

○ 政府は、既存薬を適応外使用する事例については、患者登録による観察研究(レジストリ)を引きつづき推進するとともに、治験や臨床研究の参加に関しても、多くの医療機関の協力を促すべきである。 また、治療薬開発への社会的な期待が強いなかで行われる研究開発であることから、研究結果が歪められたものとならないよう、細心の注意を払って進める必要がある。

○ 重症な症状が出現する前にその予兆を示唆する重症化予測マーカーについても、研究班を立ち上げ、その結果を早急に取りまとめ、臨床現場で活用できるように検討するべきである。

(7)ゴールデンウィーク中の対応について

○ 本年は、ゴールデンウィーク中も患者が一定程度発生し続けることが見込まれ、更に地域によっては、この期間に急激な感染者数の増加が起こり得る。このため、地域の医療機関に相当な負担をかけることになる。このため、都道府県、地域の医師会及び医療機関は、大型連休期間中の新型コロナウイルス感染症患者の診療・治療体制について、輪番制を検討するなど、予め準備・構築に取り組んでいただく必要がある。

(8)医療の重要性に係る市民との認識の共有

○ 市民にできることは、医療従事者とその家族に対する偏見や差別を原因とする医療従事者の離職、休診や診療の差し控え等が生じないよう、本感染症を正しく理解することである。政府は、医療従事者やその家族が利用できる人権相談の窓口を設け、幅広く啓発をすべきである。

○ 人工呼吸器や人工心肺装置など、限られた集中治療の活用をめぐる方針については、学会が中心となって、緊急事態に限った倫理的な判断を多様な立場の人々の意見を取り入れて、更に議論を進めるべきである。

3.保健所支援、水際対策等の今後のあり方

(1)保健所体制の強化及び業務の効率化等について

○ 都道府県知事、保健所設置市長・特別区長のリーダーシップの下、保健所の体制を強化するための人材の確保するべきであり、在宅保健師、退職した保健師・看護師などに応援を依頼する。こうした支援は、単なる声がけに留まらず、現に、実効あるものとしていくことが求められる。そのための財政支援も、必要に応じて国が行うべきである。

○ また、感染が疑われる方の救急搬送や転院搬送を含む患者の移送について、知事がリーダーシップを発揮して、消防機関を所管する市町村長や民間事業者の協力を得るべきである。その際には既存の救急医療の仕組みを活用し、業務が集中している保健所以外の機関が移送を可能な限り行うようにすべきである。また、感染拡大防止について技術的な支援が必要となるが、保健所だけで担うことは困難な地域が多いと考えられるため、地域の感染症の専門家の協力を得るべきであり、こうした活動を関係省庁が連携して支援すべきである。

○ 都道府県、保健所設置市・特別区は、帰国者・接触者相談センターの外注や委託をはじめとして、検査で陽性が判明した際の患者の振り分けなどに要する保健所の負担の軽減に努めるべきである。
さらに、検体の輸送に関しては、民間輸送業者を活用することにより、保健所業務の軽減が可能となることから、その積極的な活用が図られるべきである。

○ 緊急事態宣言下で、感染経路不明の感染者数が拡大傾向にある地域では、実質的に、全ての陽性者について、行動履歴調査を含む重点的な積極的疫学調査を行うことは現実的ではない。このため、それぞれの地域の実情に応じて、確認されているクラスターへの対策や、院内感染・施設内感染の探知、メガクラスターへの対応など、効率的な対策の実施を図っていく必要がある。

○ なお、緊急事態宣言下の接触機会の低減等により、感染者が一定程度にまで抑えられた場合は、その段階で、また従来の積極的疫学調査による、クラスター特定と介入の対策を行うことを想定する。

○ 政府は、患者報告をはじめ様々なデータの入力・提供業務につき、様式や報告事項の簡素化を進めるとともに、登録システムの多重化等にも配慮しつつ、民間活力も活用し、より効率的な新たな ICT システムの導入も含めて検討する。

(2)水際対策の今後のあり方

○ 今後は、国内における新規感染者数の増加、水際対策における陽性率の動向を踏まえつつ、国内における試薬、スワブ、防護具など PCR等検査に必要な資源の効率的、かつ効果的な使用を目指す必要がある。このため、政府においては、


  1. 入国拒否の対象となる国・地域におけるまん延の状況

  2. 入国拒否の対象となる国・地域におけるまん延防止策の取組状況(いつから、どの程度の期間、ロックダウン的取組が講じられているか等)

  3. 当該国・地域からの入国者の陽性率の推移

などを把握した上で、国内のまん延状況や科学的な有効性も踏まえつつ、PCR等検査の実施対象を有症状者に限定する等の選択肢も含め、より効率的・効果的な水際対策を進めるべきである。

(3)ICT の活用等

○ 個人情報とプライバシーにかかわる専門家を集めたうえで、新型コロナウイルス感染症対策テックチームと連携しながら、倫理的・法的・社会的観点からの議論を行い、実施の条件や適切なガバナンスについて助言する仕組みを構築していくべきである。

(4)倍化時間の算定方法について

○ 各都道府県が倍化時間の推計を行うことができるよう、その算定方法について、考え方、算出方法に係るマニュアル、算式のエクセル等の作成を行い、ホームページ等に掲載すべきである。

Ⅳ.終わりに

○ 専門家会議としては、引き続き、緊急事態宣言下における現行の行動変容に対する評価を進めていくとともに、今後、5月6日の緊急事態宣言の期限に向け、現状や対策についての分析を進める。

○ その際、現行の行動変容の評価に加え、我が国における感染状況、医療提供体制をはじめとする各対策の状況、海外における行動変容の移行に関する例など、様々な要素を総合的に勘案するものとする。

以上