「医療現場 機能不全も」専門家会議が危機感【提言全文】

2020年4月1日

新型コロナウイルスの対策について話し合う政府の専門家会議が4月1日、新たな提言を出しました。

この中では、現在の日本国内の状況について、都市部を中心に感染者数が急増し、クラスターと呼ばれる集団感染が次々に報告されているとしたうえで、現状を考えれば医療現場が機能不全に陥ることが予想されると強い危機感を示しています。

そのうえで、医療崩壊を防ぐため、市民には「3つの密」を徹底して避けるなど行動を変えるよう呼びかけ、政府や自治体にも地域ごとの状況に応じて対策をとるよう求めています。

さらに、記者会見で、専門家会議の脇田隆字座長は、提言の中で、流行状況に応じて3つの段階に分けて地域ごとに対策を進めるよう求めたことについて、少なくとも東京と大阪は感染者数の増加状況などから3つの段階の中で最も厳しい対策が必要となる「感染拡大警戒地域」にあたるという認識を示しました。

その提言の【ポイント】と【全文】です。

専門家会議の提言のポイントは

●国内の状況の分析
  • 3月26日に初めて1日の新規感染者数が100人を超え、累積感染者数は3月31日には2000人を超えている。
  • 都市部を中心に感染者数が急増している。
  • こうした地域ではクラスター(集団感染)が次々と報告されている。
  • 感染源が分からない患者数が増加する状況も。
  • 最近は、若年層だけでなく、中高年層もクラスター(集団感染)の発生の原因となってきている。
  • また、最近のクラスター(集団感染)の傾向として、「病院内感染」「高齢者・福祉施設内の感染」「海外への卒業旅行」「夜の会合の場」「合唱」「ダンスサークル」などがあげられる。
  • 日本では今のところ、諸外国のようなオーバーシュート(爆発的な感染拡大)はみられていないが、都市部を中心にクラスター(集団感染)が次々と報告されている。
●ひっ迫する医療体制
  • こうした状況の中、医療体制がひっ迫しつつある地域が出てきている。
  • クラスター(集団感染)が頻繁に報告されている現状を考えれば、爆発的な感染拡大が起きる前に医療体制の限度を超える負担がかかり、医療現場が機能不全に陥ることが予想される。
●市民の行動を変える必要性
  • 3月19日の提言で市民に行動を変えることをお願いしたが、「3つの密」を避ける必要性について、そのメッセージが市民に十分に届かなかったと考えられる。
  • このところの「コロナ疲れ」「自粛疲れ」で一部の市民の間で警戒感が予想以上に緩んでしまっている。
●地域ごとの医療体制の検討と整備が必要
  • 今後、患者が大幅に増えた場合に備えて、死者を大幅に減らすために、地域の医療体制の検討や整備を行うことが必要。
  • 大分県、東京都、千葉県などで数十名から100名近い病院内感染、施設内感染が判明した。医療、介護、福祉の関係者は、いっそうの感染対策を行うことが求められるほか、利用者を介した感染拡大も防止していくことが求められる。
●東京などは医療体制が切迫
  • 特に東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県では、医療体制が切迫しており、きょうあすにでも抜本的な対策を講じることが求められている。
  • 軽症者には、自宅療養以外に施設での宿泊の選択肢も用意すべき。
●「地域区分」に応じて地域ごとに対応を
  • 3月19日の提言で示した3つの地域区分については、それぞれ次のような名前で呼ぶことにする。「感染拡大警戒地域」「感染確認地域」「感染未確認地域」それぞれの地域区分で求められる対応や行動は、例えば次のとおり。
  • 「感染拡大警戒地域」
    ▽期間を明確にした外出自粛要請
    ▽10名以上が集まる集会やイベントを避ける
    ▽家族以外の多人数で会食などは行わない
    ▽地域内の学校の一斉休校も選択肢として検討すべき
  • 「感染確認地域」
    ▽「3つの密」を徹底的に回避したうえで、感染拡大のリスクが低い活動については実施する
    ▽屋内で50名以上が集まる集会やイベントは控える
    ▽感染拡大の兆しが見えた場合にはリスクが低い活動も含めて対応をさらに検討する
  • 「感染未確認地域」
    ▽感染拡大のリスクが低い活動について注意をしながら実施する
    ▽「3つの密」を徹底的に回避する対策は不可欠
●専門家会議から市民へのメッセージ
  • これまでも多くの市民の皆さんに自発的な行動自粛に取り組んでもらっているが、法律で義務化されていなくとも「3つの密」を徹底して避けるなど、社会を構成する一員として、自分を守るために、社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこう。

国の専門家会議が示した「提言」全文

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言

2020年4月1日

Ⅰ.はじめに

〇本専門家会議は、去る3月19日に「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(以下「3月19日の提言」という。)を発表し、その後、海外からの移入が増加していたことも踏まえ、3月26日に「まん延のおそれが高い」状況である旨の報告を行った。これを受け、同日付けで政府では政府対策本部を立ち上げられたが、前回の提言から約2週間が経過したので、最新の情報に基づいて状況分析を更新するとともに、提言を行うこととした。

Ⅱ.状況分析

1.国内(全国)の状況

〇前回の「3月19日の提言」から2週間が経過した現在の全国的な状況については、

  • 新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、3月26日に初めて1日の新規感染者数が100人を超え、累積感染者数は3月31日には2000人を超えるに至っている。特に、確定日別でも発病日別でも都市部を中心に感染者数が急増している。31日は、東京都で78人、大阪府では28名などの新規感染者が確認された。こうした地域においては、クラスター感染が次々と報告され、感染源(リンク)が分からない患者数が増加する状況が見られた。

    【図1.日本全国における流行曲線】

    【図2.累積感染者数(日本)】

  • 日本全国の実効再生産数(感染症の流行が進行中の集団のある時刻における、1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)は、3/15時点では1を越えており、その後、3月21日から30日までの確定日データに基づく東京都の推定値は1.7であった。今後の変動を注視していく必要がある。
  • また、海外からの移入が疑われる感染者については、3月上旬頃までは、全陽性者数に占める割合が数%台であったものの、3月11日前後から顕著な増加を示し、3月22日、23日頃には4割近くを占めるようになった後、直近はやや減少に転じている。
  • 最近は、若年層だけでなく、中高年層もクラスター発生の原因となってきている。
  • また、最近のクラスターの傾向として、病院内感染、高齢者・福祉施設内感染、海外への卒業旅行、夜の会合の場、合唱・ダンスサークルなどが上げられる。特に、台東区におけるクラスターについては全貌が見えておらず、引き続き注意が必要である。

【図3.実効再生産数 日本全国、東京と東京近郊、大阪】

※推定された感染時刻別の新規感染者数(左縦軸・棒グラフ;黄色は国内発生推定感染時刻別の感染者数、紺色は推定感染時刻別の輸入感染者数)とそれに基づく実効再生産数(1人あたりが生み出した2次感染者数・青線)の推定値。青線は最尤推定値、薄青い影は95%信頼区間である。

【図4.都道府県別にみた感染源(リンク)が未知の感染者数の推移(報道ベース)】

※2020年3月16日〜22日、3月23日〜29日の間に報道発表された各都道府県の感染源が分からない感染者数の推移(報道ベース)。これらのうち積極的疫学調査によって感染源が探知された者は、今後、集計値から引かれていくことになる。流動的な数値であることに注意が必要である。

【図5.夜の街クラスターについて(東京都)】

〇以上の状況から、我が国では、今のところ諸外国のような、オーバーシュート(爆発的患者急増)は見られていないが、都市部を中心にクラスター感染が次々と報告され、感染者数が急増している。そうした中、医療供給体制が逼迫しつつある地域が出てきており医療供給体制の強化が近々の課題となっている。

〇いわゆる「医療崩壊」は、オーバーシュートが生じてから起こるものと解される向きもある。しかし、新規感染者数が急増し、クラスター感染が頻繁に報告されている現状を考えれば、爆発的感染が起こる前に医療供給体制の限度を超える負担がかかり医療現場が機能不全に陥ることが予想される。

2.海外の状況

〇この間、欧州や米国では感染が爆発的に拡大し、世界の状況はより厳しいものとなっている。こうした国々では、医療崩壊により十分な医療が受けられない状況が起きており、日本でもその場面を取り上げた報道がなされている。

【図6.累積感染者数の国別推移】

※オーバーシュート:欧米で見られるように、爆発的な患者数の増加のことを指すが、2〜3日で累積患者数が倍増する程度のスピードが継続して認められるものを指す。異常なスピードでの患者数増加が見込まれるため、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)を含む速やかな対策を必要とする。なお、3月21〜30日までの10日間における東京都の確定日別患者数では、2.5日毎に倍増しているが、院内感染やリンクが追えている患者が多く含まれている状況にあり、これが一過性な傾向なのかを含め、継続的に注視していく必要がある。

【図7.新規感染者数の国別推移(確定日ベース)】

Ⅲ.現在の対応とその問題点

1.地域ごとの対応に関する基本的な考え方について

〇「3月19日の提言」における「Ⅱ.7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方」においては、クラスター連鎖の防止を図っていくための「対策のバランス」の考え方を、地域の感染状況別に整理したものである。

〇しかし、自治体などから、「自らの地域が3分類のどこに当たるのか教えて欲しい」という要望があることや、前提となる地域のまん延の状況や、医療提供体制の逼迫の状況を判断する際の、国・都道府県で共通のフォーマットとなる指標の考え方が対外的に示されていない、という課題が指摘された。

2.市民の行動変容の必要性

〇「3月19日の提言」においては、「短期的収束は考えにくく長期戦を覚悟する必要があります」とした上で、市民の方に対し、感染リスクを下げるための行動変容のお願いをした。

〇しかし、(1)集団感染が確認された場に共通する「3つの密」を避ける必要性についての専門家会議から市民の方へのメッセージが十分に届かなかったと考えられること、(2)このところ、「コロナ疲れ」「自粛疲れ」とも言える状況が見られ、一部の市民の間で警戒感が予想以上に緩んでしまったこと、(3)国民の行動変容や、健康管理に当たって、アプリなどSNSを活用した効率的かつ双方向の取組が十分には進んでいないことなどの課題があった。

3.医療提供体制の構築等について

(1)重症者を優先する医療提供体制の構築

〇今後、新型コロナウイルス感染症の患者が大幅に増えた場合に備え、この感染症による死者を最大限減らすため、新型コロナウイルス感染症やその他の疾患を含めた、地域の医療提供体制の検討・整備を行うことが必要である。

(2)病院、福祉施設等における注意事項等

〇大分県、東京都、千葉県などで数十名から100名近い病院内・施設内感染が判明した。高齢者や持病のある方などに接する機会のある、医療、介護、福祉関係者は一層の感染対策を行うことが求められるほか、利用者等を介した感染の拡大を防止していくことが求められる。

Ⅳ.提言

1.地域区分について

(1)区分を判断する際に、考慮すべき指標等について

〇地域ごとのまん延の状況を判断する際に考慮すべき指標等は以下のとおりである。

〇感染症情報のリアルタイムでスムーズな情報の把握に努められるよう、都道府県による報告に常に含む情報やタイミングに関して統一するよう、国が指示等を行うとともに、国・都道府県の双方向の連携を促進するべきである。

【地域ごとのまん延の状況を判断する際に考慮すべき指標等】

指標 考え方
(1)新規確定患者数 〇感染症法に基づいて届出された確定患者数。各確定日で把握可能。約2週間程度前の感染イベントを反映することに注意を要する。
(2)リンクが不明な新規確定患者数 〇都道府県内保健所による積極的疫学調査の結果、感染源が不明な感染者。地域におけるコミュニティ伝播を反映する。
〇報告時点では、リンクがつながっていないことも多く、把握には日数を要する。
〇海外からの輸入例はここから別途集計すべきである。
(3)帰国者・接触者外来の受診者数
(4)帰国者・接触者相談センターの相談票の数項目
(5)PCR検査等の件数及び陽性率
〇オーバーシュート(爆発的患者急増)を可能な限り早く捉えるために、確定患者に頼らないリアルタイムの情報分析が重要である。
〇(1)~(5)の数値の動向も踏まえて総合的な検討を要す。

【地域の医療提供体制の対応を検討する上で、あらかじめ把握しておくべき指標等】

〇また、都道府県は、これ以外に、地域の状況を判断する上で、医療提供体制に与えるインパクトを合わせて考慮する必要がある。ついては、
(1)重症者数
(2)入院者数
(3)利用可能な病床数と、その稼働率や空床数
(4)利用可能な人口呼吸器数・ECMO数と、その稼働状況
(5)医療従事者の確保状況
などを、定期的に把握しておかなくてはならない。

〇地域ごとの医療機関の切迫度を、これらの指標から適宜把握していくことにより、感染拡大や、将来の患者急増が生じた場合などに備え、重症者を優先する医療提供体制等の構築を図っていくことが重要である。

(2)地域区分の考え方について

〇「3月19日の提言」における「Ⅱ.7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方」において示した地域区分については、上記(1)の各種指標や近隣県の状況などを総合的に勘案して判断されるべきものと考える。なお、前回の3つの地域区分については、より感染状況を適切に表す(1)感染拡大警戒地域、(2)感染確認地域、(3)感染未確認地域という名称で呼ぶこととする。
各地域区分の基本的な考え方や、想定される対応等については以下のとおり。
なお、現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられている。したがって、学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である。また、子どもに関する新たな知見が得られた場合には、適宜、学校に関する対応を見直していくものとする。

1.「感染拡大警戒地域」

〇直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して大幅な増加が確認されているが、オーバーシュート(爆発的患者急増)と呼べるほどの状況には至っていない。また、直近1週間の帰国者・接触者外来の受診者についても、その1週間前と比較して一定以上の増加基調が確認される。

〇重症者を優先する医療提供体制の構築を図ってもなお、医療提供体制のキャパシティ等の観点から、近い将来、切迫性の高い状況又はそのおそれが高まっている状況。

<想定される対応>

〇オーバーシュート(爆発的患者急増)を生じさせないよう最大限取り組んでいく観点から、「3つの条件が同時に重なる場」(以下「3つの密」という。)を避けるための取組(行動変容)を、より強く徹底していただく必要がある。

〇例えば、自治体首長から以下のような行動制限メッセージ等を発信するとともに、市民がそれを守るとともに、市民相互に啓発しあうことなどが期待される。

  • 期間を明確にした外出自粛要請、
  • 地域レベルであっても、10名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けること、
  • 家族以外の多人数での会食などは行わないこと、
  • 具体的に集団感染が生じた事例を踏まえた、注意喚起の徹底。

〇また、こうした地域においては、その地域内の学校の一斉臨時休業も選択肢として検討すべきである。

2.「感染確認地域」

〇直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して一定程度の増加幅に収まっており、帰国者・接触者外来の受診者数についてもあまり増加していない状況にある地域(1でも3でもない地域)

<想定される対応>

  • 人の集まるイベントや「3つの密」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動については、実施する。
  • 具体的には、屋内で50名以上が集まる集会・イベントへの参加は控えること
  • また、一定程度に収まっているように見えても、感染拡大の兆しが見られた場合には、感染拡大のリスクの低い活動も含めて対応を更に検討していくことが求められる

3.「感染未確認地域」

〇直近の1週間において、感染者が確認されていない地域(海外帰国の輸入例は除く。直近の1週間においてリンクなしの感染者数もなし)

<想定される対応>

  • 屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用、参加者が特定された地域イベントなどについては、適切な感染症対策を講じたうえで、それらのリスクの判断を行い、感染拡大のリスクの低い活動については注意をしながら実施する。
  • また、その場合であっても、急激な感染拡大への備えと、「3つの密」を徹底的に回避する対策は不可欠。いつ感染が広がるかわからない状況のため、常に最新情報を取り入れた啓発を継続してもらいたい。

2.行動変容の必要性について

(1)「3つの密」を避けるための取組の徹底について

〇日本では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするため、「(1)クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「(2)患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「(3)市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。
しかし、今般、大都市圏における感染者数の急増、増え続けるクラスター感染の報告、世界的なパンデミックの状況等を踏まえると、3本柱の基本戦略はさらに強化する必要があり、なかでも、「(3)市民の行動変容」をより一層強めていただく必要があると考えている。

〇このため、市民の皆様には、以下のような取組を徹底していただく必要がある。

  • 「3つの密」をできる限り避けることは、自身の感染リスクを下げるだけでなく、多くの人々の重症化を食い止め、命を救うことに繋がることについての理解の浸透。
  • 今一度、「3つの密」をできる限り避ける取組の徹底を図る。
  • また、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことを避けていただく。
  • さらに、「3つの密」がより濃厚な形で重なる夜の街において、
    (1)夜間から早朝にかけて営業しているバー、ナイトクラブなど、接客を伴う飲食店業への出入りを控えること。
    (2)カラオケ・ライブハウスへの出入りを控えること。
  • ジム、卓球など呼気が激しくなる室内運動の場面で集団感染が生じていることを踏まえた対応をしていただくこと。
  • こうした場所では接触感染等のリスクも高いため、「密」の状況が一つでもある場合には普段以上に手洗いや咳エチケットをはじめとした基本的な感染症対策の徹底にも留意すること。

(2)自分が患者になったときの、受診行動について

〇感染予防、感染拡大防止の呼びかけは広まっているが、患者となったときの受診行動の備えは不十分である。例えば、受診基準に達するような体調の変化が続いた場合に、自分の居住地では、どこに連絡してどのような交通手段で病院に行けばいいのか、自分が患者になった時、どのように行動すべきか、事前に調べて理解しておき、家族や近しい人々と共有することも重要である。

〇こうした備えを促進するため、新型コロナウイルス感染症を経験した患者や家族などから体系的に体験談を収集し、情報公開する取り組みにも着手すべきである。

(3)ICTの利活用について

〇感染を収束に向かわせているアジア諸国のなかには、携帯端末の位置情報を中心にパーソナルデータを積極的に活用した取組が進んでいる。感染拡大が懸念される日本においても、プライバシーの保護や個人情報保護法制などの観点を踏まえつつ、感染拡大が予測される地域でのクラスター(患者集団)発生を早期に探知する用途等に限定したパーソナルデータの活用も一つの選択肢となりうる。ただし、当該テーマについては、様々な意見・懸念が想定されるため、結論ありきではない形で、一般市民や専門家などを巻き込んだ議論を早急に開始すべきである。

〇また、感染者の集団が発生している地域の把握や、行政による感染拡大防止のための施策の推進、保健所等の業務効率化の観点、並びに、市民の感染予防の意識の向上を通じた行動変容へのきっかけとして、アプリ等を用いた健康管理等を積極的に推進すべきである。

3.地域の医療提供体制の確保について

(1)重症者を優先した医療提供体制の確保について

〇今後とも、感染者数の増大が見込まれる中、地域の実情に応じた実行性のある医療提供体制の確保を図っていく必要がある。

〇特に、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5県においては、人口集中都市を有することから、医療提供体制が切迫しており、今日明日にでも抜本的な対策を講じることが求められている。

〇また、その際には感染症指定医療機関だけでなく、新型インフルエンザ等協力医療機関、大学病院など、地域における貴重な医療資源が一丸となって、都道府県と十分な連携・調整を行い、どの医療機関で新型コロナウイルスの患者を受け入れるか、また逆にどの医療機関が他の疾患の患者を集中的に受け入れるか、さらに他の医療機関等への医療従事者の応援派遣要請に応じるか、などそれぞれの病院の役割に応じ総力戦で医療を担っていただく必要がある。

〇併せて、軽症者には自宅療養以外に施設での宿泊の選択肢も用意すべきである。

(2)病院、施設における注意事項

〇大分県、東京都、千葉県などで数十名から100名近い病院内・施設内感染が判明した。一般に、病院内感染、施設内感染における感染ルートは、(1)医療従事者、福祉施設従事者からの感染、(2)面会者からの感染、(3)患者、利用者からの感染が考えられる。

〇このうち、医療従事者、福祉施設従事者等に感染が生じた場合には、抵抗力の弱い患者、高齢者等が多数感染し、場合によっては死亡につながりかねない極めて重大な問題となる。こうした点を、関係者一人一人が強く自覚し、「3つの条件が同時に重なる場」を避けるといった感染リスクを減らす努力をする、院内での感染リスクに備える、日々の体調を把握して少しでも調子が悪ければ自宅待機する、症状がなくても患者や利用者と接する際には必ずマスクを着用するなどの対策に万全を期すべきである。特に感染が疑われる医療、福祉施設従事者等については、迅速にPCR検査等を行えるようにしていく必要がある。

〇また、面会者からの感染を防ぐため、この時期、面会は一時中止とすることなどを検討すべきである。さらに、患者、利用者からの感染を防ぐため、感染が流行している地域においては、福祉施設での通所サービスなどの一時利用を制限(中止)する、入院患者、利用者の外出、外泊を制限(中止)する等の対応を検討すべきである。

〇入院患者、利用者について、新型コロナウイルス感染症を疑った場合は、早急に個室隔離し、保健所の指導の下、感染対策を実施し、標準予防策、接触予防策、飛沫感染予防策を実施する。

(3)医療崩壊に備えた市民との認識共有

〇我が国は、幸い今のところ諸外国のようないわゆる「医療崩壊」は生じていない。今後とも、こうした事態を回避するために、政府や市民が最善の努力を図っていくことが重要である。一方で、諸外国の医療現場で起きている厳しい事態を踏まえれば、様々な将来の可能性も想定し、人工呼吸器など限られた医療資源の活用のあり方について、市民にも認識を共有して行くことが必要と考える。

4.政府等に求められる対応について

〇政府においては、上記1~3の取組が確保されるようにするため、休業等を余儀なくされた店舗等の事業継続支援や従業員等の生活支援など経済的支援策をはじめ、医療提供体制の崩壊を防ぐための病床の確保、医療機器導入の支援など医療提供体制の整備、重症者増加に備えた人材確保等に万全を期すべきである。

〇併せて、3月9日、3月19日の専門家会の提言及び3月28日の新型コロナウイルス基本的対処方針で述べられている、保健所及びクラスター班への強化が、未だ極めて不十分なので、クラスターの発見が遅れてしまう例が出ている。国及び都道府県には迅速な対応を求めたい。

〇さらに、既存の治療薬等の治療効果及び安全性の検討などの支援を行うとともに、新たな国内発ワクチンの開発をさらに加速するべきである。

Ⅴ.終わりに

〇世界各国で、「ロックダウン」が講じられる中、市民の行動変容とクラスターの早期発見・早期対応に力点を置いた日本の取組(「日本モデル」)に世界の注目が集まっている。実際に、中国湖北省を発端とした第1波に対する対応としては、適切に対応してきたと考える。

〇一方で、世界的なパンデミックが拡大する中で、我が国でも都市部を中心にクラスター感染が次々と発生し急速に感染の拡大がみられている。このため、政府・各自治体・には今まで以上強い対応を求めたい。

〇これまでも、多くの市民の皆様が、自発的な行動自粛に取り組んでいただいているが、法律で義務化されていなくとも、3つの密が重なる場を徹底して避けるなど、社会を構成する一員として自分、そして社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこう。

以上