東京都 小池知事 全数把握は当面継続
「見直しは混乱ないよう」

2022年8月26日

東京都の小池知事は8月26日の記者会見で、新型コロナの感染者の全数把握を当面、続ける考えを重ねて示したうえで、政府には制度を見直す場合は、現場に混乱がないようにすべきだと求めました。

新型コロナ対策をめぐり、政府は感染者の全数把握を見直し、自治体の判断で報告の対象を重症化リスクが高い人などに限定できるようにする方針を示したものの、東京都の小池知事は当面、これまでと同様の全数把握を続ける考えを示しています。

8月26日の記者会見で、小池知事は「最近は軽症や中等症から突然、亡くなる人が目立つ。重症者だけの部分では、軽症から突然亡くなる人を見逃してしまう。これまでも全数把握ができるよう検査キットの配布や発熱相談の工夫などをしていて、ここで変えるとかえって現場に混乱が生じることを危惧した」と述べ、重ねて全数把握を続ける考えを示しました。

また、全国一律での全数把握の見直しを求められた場合の対応について記者団から問われると、「政府には対策にあたっている現場に混乱を来さないようお願いしたい。使いやすくて安心できるデータを積み重ねられることを期待している」と述べました。

都内のクリニック 全数把握継続に一定の理解も

新型コロナウイルス感染者の全数把握をめぐり、東京都の小池知事が当面、見直さない考えを示したことについて、都内のクリニックからは、データの入力作業は大変だが、コロナ対策に生かすうえでデータは重要だとして、一定の理解を示す声が聞かれました。

東京 墨田区の「すみだ石橋クリニック」では、発熱外来を受診する患者は減少傾向にありますが、8月26日午前中にも4人の患者が陽性と診断され、スタッフが患者の情報を「HERーSYS」という国のシステムに入力しました。

全数把握では新型コロナ感染者全員のデータを入力する必要があり、このクリニックでも多いときで一日20人ほどの患者が陽性と診断され、作業に1時間以上かかることがあり、負担となっていました。

こうした全数把握について、政府は、都道府県の判断で、報告の対象を重症化リスクが高い人に限定できるようにする方針を決め、これに対し、東京都の小池知事は、都内では当面、見直さずに続ける考えを示しています。

クリニックの石橋励院長は、「統計データがなくなると、ウイルスの変異に気付くのが遅れ、現場の対策も後手に回る可能性があると心配していた。全数把握のためのデータ入力の作業は体力的にきついが、頭ではデータの重要性を理解しているので、このままでもしかたないと思う」と一定の理解を示していました。

政府の見直し方針に懸念の声も

新型コロナの感染者の「全数把握」を見直す方針について、都内の医療現場からは重症化リスクが低いとされる若い世代などが、自宅療養中に体調が悪化した場合把握できなくなるのではないかといった懸念の声があがっています。

7月下旬に新型コロナに感染して入院し、数日前に退院したばかりの20歳の女性です。

この女性は、感染が確認され、39度から40度の発熱が続いたものの入院できず、2週間ほど自宅療養を続けました。

しかし、病院でCT検査をしたところ肺炎が確認されたため、入院が決まりました。

女性は「感染前は若い世代は悪化しないと思っていたのですが、まさかこんなに悪化するとは思わず、コロナは怖いと思いました」と話していました。

女性が入院した東京 江戸川区の東京臨海病院では、入院患者の多くは高齢者ですが、50代以下の患者も2割程度いるということです。

山口朋禎副院長は「全数把握をやめれば医療機関の事務作業が減って負担は減ります。しかし、若い世代でも体調が悪化する人もいて、全数把握をやめるとこうした人たちの症状を把握できなくなる懸念があります」と指摘します。

さらに「『全数把握』は、入院患者を受け入れる病院としても国のシステムに患者のIDを入力すれば症状の経過など必要な情報が確認できるので病状の把握に有効です。東京都が全数把握を当面見直さないとしていることは、患者や病院にとってもよかったと思います」と話していました。

埼玉県 大野知事「感染状況の把握は全国統一で」

埼玉県の大野知事は、8月24日に発表したコメントで「感染状況の把握は自治体の判断に任せるのではなく、国の責任において全国統一で行うほうがよい」という考えを示しています。

また、今後の対応について、「国の通知の内容や本県の現状、専門家の意見を踏まえ、速やかに対応を検討する」としています。

埼玉県は8月26日夜、医師や県の幹部らが参加する専門家会議を開くことにしていて、全数把握を見直すかどうかについても意見が交わされる見通しです。

千葉県 熊谷知事「『自治体の判断で』には驚いた」

千葉県の熊谷知事は、全数把握の見直しを評価する考えを示す一方、自治体の判断で報告の対象を高齢者や重症化リスクが高い人などに限定できるようにするとした国の方針については、「『自治体の判断で』というのは想定していなかったので、大変驚いた。自治体にゆだねるというのが適当でない場合も多々ある」と述べました。

また、「政府が責任を持って、新型コロナとの向き合い方をシフトしていくという方針を示し、対応していく必要がある。そう簡単には採用というわけにはいかず、周辺都県の状況も含めて慎重に検討したい」と述べました。

神奈川県 黒岩知事「このままでは見直しに乗れない」

神奈川県の黒岩知事は、国に見直しの詳細を確認したところ、課題が明らかになったとして、「このままでは乗れない」と述べました。

黒岩知事が懸念しているのは、神奈川県が独自に行っている自主療養の制度への影響です。

この制度は、重症化リスクの低い人が市販の抗原検査キットなどで陽性となった場合、自分でオンラインでシステムに登録すれば医療機関や保健所を通さずに自宅療養ができ、保険の請求などに必要な療養証明書も発行されます。

黒岩知事は8月26日、NHKの取材に応じ、「県が独自に行っている自主療養届け出制度が使えなくなることが分かった。制度設計が十分精査されていなかったと思わざるをえない」と述べ、今後、国に対して、見直しを求めたいとしています。

神奈川県は8月26日夜、緊急の対策会議を開き対応を決めることにしています。

専門家「フォローできる方法が必要」

新型コロナウイルス感染者の全数把握の見直しについて、国の専門家会合に参加している専門家は、見直した場合、軽症と判断した人の情報が保健所や自治体に届きにくくなり、病状の把握や食料支援などが難しくなる可能性があるため、フォローできる方法が必要だと指摘しました。

新型コロナ感染者の全数把握について、政府は、都道府県の判断で、報告の対象を重症化リスクが高い人に限定できるようにする方針を決めています。

これについて東京 北区の保健所の前田秀雄所長は「報告の対象を重症化リスクの高い人により重点的にしぼるように一部の自治体から要望があったので、その点では妥当だと思う」と述べました。

一方で、見直しに伴う課題について「軽症などの人が重症化する可能性もあるので、軽症と判断した人の情報が保健所や自治体に届きにくくなることには懸念を感じている。重症化リスクが高い人以外への対応について、国は感染者が相談できる体制を作るとしているが、自治体側に患者の情報がないと本人から病状を聞き取る場合、時間がかかって対応に遅れが出る可能性がある」と指摘しました。

さらに「軽症でも外出の自粛を求めるという国の方針が変わらないのであれば、食料支援などが必要だ。全数把握を見直すと、自治体がこうした人たちを把握するのが難しくなるので、フォローできる方法をしっかり考えなければならない」と述べました。