新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
第5波でコロナ感染の視覚障害者
十分な支援得られなかった人も

2021年10月30日

新型コロナウイルスの感染が急拡大した第5波では視覚障害者の感染も確認されました。血液中の酸素の測定値を自分で把握できないなど視覚障害者特有の課題に直面するケースもあり、専門家は「次の感染拡大に備えて当事者の声を聞き、支援策を考えることが重要だ」と指摘しています。

厚生労働省によりますと全国で視覚障害者は障害者手帳が交付されている人だけで2年前の時点でおよそ33万人います。

日本視覚障害者団体連合によりますと2020年以降、視覚障害者の新型コロナの感染も相次いでいて、感染が急拡大したこの夏の第5波でも複数確認されたということです。

団体連合によりますと視覚障害者はものに触れて情報を得たり、外出の際に支援者のひじなどにつかまって誘導されたりすることから日頃から感染予防に難しさを感じることが少なくないということです。

自宅療養する場合でもパルスオキシメーターで血液中の酸素の値を測って健康観察しますが、自分の測定値を見て知ることができず症状の把握が難しい場合があるということです。

また、入院した場合も検査の詳しい状況が分からなかったり出された食事の内容がわからなかったりして不安な思いをしたケースもあったということです。

特に保健所や医療機関がひっ迫した第5波では十分な支援が得られなかった人もいて支援の体制を整えることが課題となっています。

コロナ感染の全盲女性は

この夏の第5波で新型コロナに感染し、中等症と診断された全盲の女性は数日間の自宅療養ののち入院しましたが、自宅でも病院でも十分な支援が得られず、不安な思いをしたといいます。

千葉県の戸村みどりさん(62)は持病で視力が低下し、小学生のころから全く目が見えません。

夫で同じく全盲の正志さん(62)と高齢の義理の母親の3人で暮らしています。

買い物など外出の際にはガイドヘルパーなどの腕につかまって誘導してもらうなど日頃から新型コロナの感染予防に難しさを感じる場面も少なくないといいます。

こうした中、2021年8月19日ごろにみどりさんは発熱し、背中に痛みを感じて8月21日に病院でPCR検査を受けたところ、感染が確認されました。

症状が悪化したため救急車を呼びましたが搬送先は決まらず、自宅療養を余儀なくされました。

パルスオキシメーターの測定値わからず

自宅療養中は保健所から届けられたパルスオキシメーターで血液中の酸素の値を測って健康観察をするように指示されましたが、夫婦ともに視覚障害があり画面を見て測定値を知ることはできませんでした。

機器に測定値を音声で読み上げる機能はなく、夫の正志さんが保健所に問い合わせたところ「誰かに見てもらってください」と言われ、離れた場所に暮らす長女に来てもらうほかありませんでした。

みどりさんは「自分で測定できればいいのにと何度も思いました。感染リスクがあるのに娘には本当に申し訳ない思いでした」と振り返ります。

長女は当時を振り返って「コロナに感染して体がつらい状況で、自分の体調を知る大事な情報が分からないというときの母親の歯がゆさをずっと頭の中でぐるぐる考えて涙が止まらなくなりました。自分も仕事や家庭があり、感染は不安でしたが自分が行くしかないと覚悟を決めました」と話していました。

長女はマスクに加えてゴム手袋やレインコートを着用するなど思いつくかぎりの感染対策をとりましたがその後、感染が確認されました。

さらにみどりさんの症状は悪化し、何度も正志さんが電話で保健所などに掛け合ってようやく8月25日に入院が決まりました。

入院先の病院に行くのも保健所からは自家用車で行くように言われ、コロナの陽性が確認されていた長女が運転する車で向かったということです。

病院では肺炎が悪化していて、酸素吸入が必要な「中等症2」と診断され、9月まで3週間入院していました。

入院先で十分な説明なく 何を食べているのかわからない

入院先では慣れない場所での生活でしたが十分な説明がなかったため、トイレの場所や操作方法がわからなかったうえ、出された食事も説明してもらえないときがあり、味覚障害の影響で何を食べているかわからない状態だったということです。

また、医療スタッフに酸素の値を測ってもらっても測定値を教えてもらなかったり、検査の詳しい説明がなかったりして自分の体調が把握できず不安な気持ちが募ったということです。

みどりさんは「病院でもわからないことは聞くようにしていましたがそれでもよくわからず忙しいんだろうなと思って諦めてしまうこともありました。少しでも見えていればできることが全盲の自分にはできないということが悲しかったし、不安でした。私は見えないから目で見る部分のところを助けてほしかったしサポートが整うといいなと思います」と話していました。

長女は「自分たち家族でどうにかしなければならない状況でした。視覚障害がある人の状況にももう少し目を向けてもらってお手伝いしてもらえるようになってほしいと思います」と話していました。

必要な支援まとめたパンフレットも

視覚障害者が新型コロナで入院した場合にどのような支援が必要かパンフレットにまとめて医療従事者らに知ってもらおうという取り組みが進められています。

このパンフレットは障害者への医療情報の提供などの研究者や医療・福祉の専門職のグループが2020年に作成しました。

医療従事者や支援スタッフに向けて視覚障害がある人が入院や宿泊療養の際に必要なサポートや声かけの具体的な方法についてイラストでまとめられています。

例えば、入院時に誘導する際には患者が白じょうを持っていない側で半歩前に立ってひじなどをつかんでもらうことが紹介されているほかトイレに向かう通路にはものを置かないことなど注意事項も記されています。

また、検査の前には検査の流れや所要時間の目安を詳しく説明することや説明資料の文字は大きめのゴシック体にすると視力が弱い人も読みやすいことなどが紹介されています。

このほかPCR検査のときの声かけの内容や検温の際は結果が患者本人にもわかるように読み上げることなども記されています。

また、宿泊療養施設でも部屋についたときには入り口を起点に部屋の広さやベッドなどの位置関係を説明することや食事の中身も口頭で説明することが紹介されています。

研究班ではこのパンフレットを医療機関や宿泊療養施設などで活用してもらいたいと11月に全国におよそ500ある保健所に送付することにしています。

研究班の代表で国立がん研究センターの八巻知香子さんは「新型コロナによる入院では家族などが同行することはできず、視覚障害がある方が慣れない場所で周囲の状況を自分で把握することは困難だ。医療従事者の側でニーズに気付くことがいつも以上に大切だと思うので各地の医療機関などで役立ててもらいたい」と話しています。

専門家「感染落ち着いている今こそ支援策検討を」

視覚障害者の支援に詳しい慶応大学の中野泰志教授は「視覚障害がある人にとって自宅療養が難しい場合が多く、なるべく優先して入院してもらえる体制づくりが求められる。病床が足りずに入院できない場合でも感染対策のトレーニングを受けたスタッフを訪問させるなど行政には対策を考えていただきたい」と話しています。

また、入院後の支援については「感染拡大時には医療機関だけに任せるのではなく行政とも連携して視覚障害がある人を病院内でサポートする体制をとることが必要だ」と指摘しました。

そのうえで「通常であれば丁寧な支援ができた場面でも第5波では行政も医療機関もひっ迫して障害がある方の困りごとに十分に寄り添えない状況が出ていた。第6波に備えて少し感染状況が落ち着いている今こそ、当事者の声をよく聞きながら支援策を考えることが重要だ」と話しています。