新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
「これが差別か」
新型コロナ陰性~退院のあとに待っていたもの

福岡市に住む38歳の自営業の男性は、新型コロナウイルスが陰性となって退院したあと、病院や美容室の利用を拒否されたといいます。「これが差別かと思った」。男性の話です。

コーヒーの味がしない 病院からは“来ないでくれ”

男性に症状が出たのは3月下旬。友人たちと食事をして帰宅しようとしたとき、異変を感じた

ごはん食べて、帰りにコンビニでコーヒー買って飲んだら全く味がしなくて。コーヒー一気飲みできるくらい、味がなかったですね。

まさかと思って(自宅で)目の前にあった香水をにおったらにおいがなくて。熱を測ったら38度5分あったんですよ。

で次の日、自分の知り合いの内科に電話して、こういう症状だっていうふうに言ったら、「薬を出すからとりあえず病院には来ないでくれ」と。「処方箋だけメールで送るから、それを持って薬局に行って飲んでくれ」と。「それを3日間飲み続けて症状が治まらなければ、コロナの可能性が高い」と。

結構強い抗生物質とせき止めと鼻水の薬、あと熱さましをもらって3日間飲んだんですけども、全然、症状が改善されず、「改善されません」と先生に言ったら、「保健所に電話しよう」って言って電話してくれたんですよ。

でも保健所は門前払いで全然取り合ってくれなかった。「検査できません」と。

その後も熱は下がらなかったがなかなか検査を受けられなかった。医師のすすめで胸のCT画像を撮ったところ新型ウイルスの症状が出ていた

「(保健所に)何を言ってもだめだから、結果で示すしかないから」って言われて、胸のCTを撮りに行ったんですよ。肺炎像が胸のところに出てて、コロナの可能性が高いって、その病院の先生から保健所に連絡してもらったんですよ。

そしたら「いったん帰って保健所からの連絡を待ってくれ」って言われて。そこから丸1日半全く連絡がなくて、1日半後に連絡が来てやっとPCR検査が受けられたっていう感じですね。

“家で耐えてください”

男性は4月4日、陽性と確認されたが、保健所から思わぬことを告げられた

翌日、陽性ですっていうことで連絡があって、「どうしたらいいですか」って言ったら、「とりあえず症状を教えてください」って言われて。

その時には熱が6日間ぐらい出てたんで「熱が6日間出っぱなしで、今も39度ちょっとです」って言ったら「耐えられますか」って言われて。「えっ、これ自宅でですか?」って言って。

僕、先生から聞いたのは「絶対入院だ」って言われてたんで。「入院て聞いてるんですけれど」って言ったら「実は入院できる病院がない」と。「ベッドが空き次第そちらのほうに回すんで、とりあえず家で耐えてください」って言われたんですよ。

薬もらってたんで、飲んでいい薬っていうのと、飲んだらだめっていう薬がネットで出てたから、「どれを飲んでよくて、どれを飲んだらダメなのかっていうことだけでも教えてくれ」と。

「飲んだらいけないものを飲んで悪化するとまずいんで」って言うと、「それも言えない」と。「だから薬も飲まないでくれ」って言われて、とりあえずもう「分かりました」って言うしかなくてね。

「分かりました」って言って電話切った後に、僕の先輩にコロナで入院している人がいたんですよ。その人にどういうふうになったか聞こうと思って連絡とったら、その3日前までICUに入っていて、「死にそうだったんだ。お前、絶対病院に入院したほうがいいよ」と。「アビガン飲んで回復に向かったから、アビガン飲んだほうがいいよ」って言われたんですよ。そういうのLINEで交換しながら。

“マジでやばい”

男性は入院できる場所をみずから探すことにした。家族を介して連絡がついた病院に行ってみるとー

肺のCTを撮ったら、僕が見てもわかるくらい肺が真っ白だったんですよ。それで先生から「あんた、こんなんだったら死ぬよ」って言われて。酸素レベルを測ると80%位まで落ちていて。

「あんたきつくないねー?」って言われるけど、マスクと、鼻水が詰まってたんで、それできついのかなあと思ってたんですよ。

「息苦しいけどもマスクのせいだと思っていました」って言ったら、「もしここでアビガンが効かなかったら、でかい病院に転院させないといけないし。死ぬ覚悟しないといけないよ」って言われて。これ、やべえなと思って。

男性はそのまま入院したが、ウイルスの症状は想像以上につらかったという

もうマジで立てないぐらいきつい。熱が最高で41度2分まで上がったんですよ。熱がちょっとすごいですね。息苦しさとかは、僕は鼻づまり程度だったんですけども、熱と体のだるさ、インフルエンザかかってタミフル飲む前のきっかけがあるじゃないですか。あれが7日間続く感じです。

世間の人たちがSNSで「甘く見るなよ」って言ってたじゃないですか。なった本人からすると、周りの人に「ほんとに甘く見ないほうがいいよ」って言ってます。マジでやばいよ。アビガン投与して3日ぐらいかけて熱が下がっていった。4日目ぐらいからは自分でシャワーも浴びられるし、普通に生活できるぐらいまでに回復したんですよ。

“これが差別か”

男性は11日間入院。検査で2回陰性となり退院した。しかしその後、思いもよらない事態に直面した

退院した時は先生に、きょうから誰に会ってもいいかっていうことや、やってもいいこと、だめなことを教えてくださいって聞いたら「別に何もないよ」と。「陰性2回出て、あんたはたぶん日本でいちばん安全な人だよ」って言われて出てきたんで。保健所にも確認したんですよね、「やっちゃいけないことがありますか」って聞いたら保健所も「ない」と。じゃあどこにでも行けるんだなぁと思って。

男性は肺炎の経過観察で病院を受診しようとした

退院してきて5日目なんですけども、紹介状もあるんで「肺炎を見てもらいたい」(と言ったら)「来ないでくれ」と。「僕もう完治してるんですよ。肺炎の薬だけでもほしいんですけど」って言ったら「コロナにかかった人は一切受け付けてない」と。

「もしあなたがコロナの発生源になったらうちの病院も困るんで」って感じだったから。ネットで「クリニック・肺炎・福岡」で検索して、8件くらい病院に電話して、ことごとく全部断られて、もういいやってなって。

今、薬も飲んでなくてそのまま放置してる状態なんですね、肺炎の治療をしていなくて。美容室も髪切りたかったんですけど(断られたんで)…。

入院していた時に(融資の相談をしている政策金融公庫と)面談の日程が決まったんですね。たぶんこのぐらいには(病院を)出られると思いますということで金曜日に決まったんですよ。

(退院後に)電話がかかってきて、「電話で面談します」と。「なんで行ったらだめなんですか?」って。「いやもう来なくていいです。○○さんはコロナにかかっていたんで」と政策金融公庫から言われて電話で面談になりました。

やべえなと思いましたよ、ほんとに。僕、こういうことされたことないから、これが差別かと思いました。僕がされてるぐらいだからいっぱいあるだろうなと思ってるんですけど。

(感染したほかの人も)相当嫌な思いをしてると思います。おかしな世の中だなぁと思った。差別する人っていうのは情報量が足りなくて、うちの社員も僕が説明したら「あーそうなんだ」っていうのがほとんどなんですね。だからもっとそういう情報流せばいいのになぁって。例えばPCRを受けて陰性で出てきた人はカードがあるとか、「私は治療が終わった人ですよ」という証明があったりすると認識が変わるのかなあと思うんですけどね。

(2020年4月27日取材 福岡放送局 森並慶三郎)