新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
集団感染 それから起きたこと

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。集団感染が起きた北海道北見市の展示会に参加していた60代の男性。激しい症状とのたたかいや感染後の苦境を明かしました。

“クラスター”の現場で

北見市で電化製品の販売店を営む男性。2月14日と15日、のちに11人の感染が確認される展示会に参加していた

合同展示会って言って、案内状出して招待して、品物見てもらって、相談にのって買っていただくってかんじですね。会場は広くて体育館くらいあるかな。長い机あるでしょ。それを4つくらいをひとかたまりにして、そのスペースを20個くらい作ってって感じ。

お客さんを招待する時間は午前10時から午後5時。2日目は商品の片づけとかあるから10時から午後4時半くらいかな。

会場内ざわつきがありますからね、声のトーンはこういう会話よりは大きい。対面のお客さんと1メートルは離れていますが、大事な話になるとぐーっと寄って話しますね、価格の交渉とかそういうときは。ふだんの商売と同じですね。それは結構、密接な距離になると思います。まぁ30人から50人くらいとは話してるんじゃないですかね。

3密ですか? 密接、密閉に、密集か。それにはあたってない気がする、広いからね。換気はしてないよ。体育館みたいに広いから。僕のイメージする密閉はスナックとかですけど、ああいうところを想像するからどうしても違うかなって。

展示会の会場 消毒が行われた

数日後「なんか変だな」

2月の18日、19日あたりにね、悪寒ていうのかな、寒気がする状態でした。ふだんはセーターなんか着ないんだけど、セーター着て仕事してたんです。なんか湯冷めするなって感じで布団に入ってもあったまんない。

熱なのかなっていうのは昼すぎから感じてた。たまたまその晩、飲み会があった。自分が言い出しっぺだったから断れなくて、焼き肉行ってすごくおいしかった。でも、なんか具合悪いな、なんか変だなって思って、途中でちょっとトイレ行きたくなって、どうもならん感じになって、うちにタクシーで帰ったら37度8分くらいかな、発熱してる。

これはかぜかインフルエンザだと思って、一緒に飲んでた友達にLINE送って。「俺発熱してるから、かかったら大変だから気を付けて」って。LINEが返ってきて冗談で「コロナかもしれないね」なんて言ってね。「間が悪いね」っていうやりとりはしました。

僕としては嗅覚や味、そういうものは違和感なかった。咳や痰も全然ないんですよね。ただ、下痢。下痢と発熱。もう下痢が半端じゃない。トイレに1日に5、6回は行ってるんじゃない。なんでこんなひどいのかなって。

24日は振替休日でしょう? けん怠感すごかったから、いつも行ってる病院に点鼻薬もらいかたがた熱を診てもらった。インフルエンザだったら嫌だから検査してもらったら「大丈夫、インフルでないよ」って言われたから、あーよかったよかったなんて言って。

でも25日になっても熱下がらんし。そしたら展示会の主催の会社からね、25日か26日に電話かかってきて、「コロナの患者が2人いた」って聞いて。これは間違いない、コロナだって確信した。

「あなたコロナの肺炎になってる」

展示会の参加者に感染者がいたことを知り、男性はすぐに保健所に電話をした。しかし検査をしてもらえたのは3日後。感染確認は発症から10日後だった

コロナと確信持ったときは、うつるんじゃないかって。保健所への電話でも、なんとかしてくれって懇願しました。自分を早く検査してくれって。ここ(自宅)からいなくなりたいって。だって一家全滅したら大変でしょ。とにかく家族にうつったら大変だって、ものすごく不安でした。

あれは28日、保健所から電話来て「○○病院の発熱外来行きなさい」って。26日に「病院紹介する」って言われて、なしのつぶてだったんだけど。

救急車が入るところの横っちょで血をとられて「待ってなさい」って言われて。そのあと「血液から炎症反応出てるから、別の病院で診察受けなさい」って。それで別の病院に行ってCTスキャン受けた後、ドクターがバタバタって走って入って来て、ドアをがらっと開けて、「あなたコロナの肺炎になってる」って。

そのときショックを受けました。がーんと頭痛くなって。疑ってはいたけど、肺炎になってると思ってなかった。

「このまま家に帰ったら呼吸不全を起こすかもしれない」と告げられ、男性は北見市外の病院に救急搬送された

「とにかく今悪いところを探しましょう。コロナ菌を追い出しましょう」って。

写真見ると、大腸がばんばんに腫れてるのさ。まず下痢を止めようってなって、点滴に栄養剤入れてもらって、丸2日くらい絶食したんですよ。全く口から入れないで、水くらい。それが功を奏して、かなり腸炎のほうが改善されたと。レントゲン見せてもらったら、少しずつ腸が元に戻ってますよって。肺炎のほうもよくなってるよって言ってくれた。

絶食終わってからは五分がゆ。体力つけてコロナを体から出すんだって、とにかく食べました。熱が下がったのは3月3日。熱上がるたびに解熱剤飲んでさ。部屋には毛布が1枚しかないから看護師さんに頼んでもう1枚持ってきてもらって。解熱剤飲むと汗かくのさ、だーっと。それが怖いのさ。

熱が上がる、薬飲む、汗かくの繰り返し。あとはけん怠感が強い。熱が下がってもけん怠感が強くて、眠い。寝て過ごしていたような感じ。だから不精ひげがぼーぼーでした。

いやもう自分は暇持てあまして、詠んだんだ、一句。「陰性となる身は天に舞い上がり」。わはは。へたくそなんですよ。不安打ち消すために、一生懸命考えて、詠んで、直してまた詠んでっていうのを支えにやってました。

“売り上げゼロ” でも前を向いていく

入院中に男性の頭をめぐっていたのは営んでいる店のことだった

仕事への不安は重たいものがありました。とにかく入院して何が不安だって言ったら仕事の不安ですよね。

商売しているのに、感染したといううわさが流れたらどうなってしまうんだろう。きっと流れるなって。店が何週間も閉まってるぞって。入院中お客さんから電話来ました。

「今、お店の前通ったらシャッター閉まってるんだけど、やっぱりあれかい?」「今入院してるよ」「俺、あれほしいんだ。退院したらカタログ持ってきてくれな」って。

僕はそのとき、そのお客さんの言葉がいちばんの薬だって言って「本当にありがとうございます」って言いました。そのお客さんはまた電話くれて「つらいだろうけど、応援するからね」って、そういうお客さんがいます。

男性は退院後、自主的に2週間、自宅で待機。4月1日に仕事を再開した。休んでいる間、収入はなかった。再開にあたり、取引先にあいさつのはがきを送った

元どおりの自分だから元どおりのようにつきあっていただきたい。感染する前の体に戻っているから、一生懸命仕事させてくださいって。

あいさつのはがきを回したから偏見があるっていうことはないです。ないけど、退院してからのいろんなことっていうのはごまんとあります。やっぱりうわさだよね。「関わったら、コロナうつるよ」って。仕事の影響は100%ある。売り上げゼロ。不安はあるよ、売り上げなかったら生活できない。借金払っていけないし。

時間だと思います。安心していただくのも時間がかかると思う。ひと月かふた月。秋にはみんな忘れてるんじゃないかなって。

僕より被害にあってる人いると思うけど、飲食業界は大変だと思うけど、早くみんなして立ち直って、経済立て直したいっていう気持ちが強いです。みんなと飲んで騒いで遊びたいです。

(2020年4月2日取材 北見放送局 関口祥子)