新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
ガラス越し 夫にトランシーバーで呼びかけた

家族が新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。関東地方に住む50代の男性は新型コロナウイルスに感染し一時、重篤となりました。妻が、夫の発症から治療、そして感染者の家族だからこそ思うことを語りました。

新型ウイルスとのたたかいは日常のなかで突然に

夫は営業職。毎日のようにスポーツジムに通うなど体力には自信があった。2月下旬、仕事だと言っていたのに朝、夫が起きてこない。それが始まりだった

朝、高熱がある。ふだんの平熱が35度台の人が38度台まであるというから、おかしいなと思ったんです。ただ、インフルエンザの季節でもあったので、体も痛いと言っていましたから、新型コロナウイルスも言われ始めているけど、まずインフルエンザを疑ったんですよ。それで病院に行ったら、「(インフルエンザは)陰性」と言われたから、えーっと思ったんですよね。私も会社に行こうと思ってたんですが、もしコロナウイルスだったら危ないので休んで。会社に言ったら、「インフルエンザもすぐに出ないから、翌日調べたら」と言われて。翌日に病院に行ったら翌日も陰性で。そこでちょっと疑わしいなと思いましたけど、まだコロナウイルスとは違ってればいいなという感じではありましたね。

感染確認までの1週間

夫は最初から新型コロナウイルスへの感染を心配し、仕事を休み、みずから保健所にも相談していた。しかし、すぐに検査を受けることはできなかった

熱が出たその日に夫が保健所に電話してみたんですけど、折り返し電話がかかってきて、何かいくつか聞かれていたようです。何を聞かれていたのかは私はわかりませんが、「こんな感じですね」と答えていて、「それではちょっと検査ができませんね」と言われたようで。
医者から解熱剤を出されていたので、飲むと熱が下がるじゃないですか。本人も熱が下がれば治った気でいると、そういうのが3日くらい続きました。

ただ、5日目に39度くらいまで上がっちゃって、私も怖くなっちゃって、解熱剤を一時期やめていたのをまた服用させて。翌日、熱が下がったんですけど、夫がもう1回、保健所に電話して。そうしたら「病院が検査をやる必要ありと言われればできますよ」と言われて、ではもう1回内科に行ったほうがいいということで行ったんです。

病院に行ったら、「熱がない間は調べられない。夕方、熱が上がったらまた来てください」と言われ、夕方にまた行って。そのとき初めて肺のレントゲンを撮ってもらいました。先生も最初は「そんなの(新型ウイルスへの感染)はないと思うよ」と言われていたんですけど、肺の状態がちょっと悪そうだということで、初めて保健所に電話してくれて、翌日、検査を受けることになりました。

検査を受けるため病院に行った夫は即入院となった

入院したときに本人の肺の写真を見せられたんですけど、前の日に近所の内科で撮った肺の写真と比べると、ちょっと進行している、このスピードで進行していくとかなりよろしくないと。でもなんだか私は実感がわかなくて。写真を見せられても本人のものなのかなって、半信半疑というか。そんなに悪くなっているように見えなかったから、私は。そのときは本人は普通にできているし、苦しくないって言っていて。

でも先生たちは「大変だ大変だ」と。「酸素の値がこれ以上下がると危ないです」と言うけど、本人は苦しそうにしてないから、なんかちょっと違う人の写真を見せられているんじゃないかという気持ちはありました。

それが入院した初日の夜中に病院から電話があって、「酸素の値がよくないので、ICUに移していいですか」と言われたんです。それからは、あれよあれよという間に悪くなっていってしまった。

ICUに移った直後に陽性と分かり、別の病院に転院させるという連絡が入る。妻も濃厚接触者として自宅待機となった

「こちらの病院では新型コロナウイルスに感染した重症患者を診られないので、重症患者を診られる病院に搬送します」と。「人工呼吸器は本来は付けないんですが、向こうの病院から『挿管してきてください』と言われているんで挿管します。ただ、その際は意識が飛びますんで」と言われたんですよ。

転院する前に本人とちょっとだけ電話ができて、「挿管するらしいよ、意識が飛ぶらしいよ」と言ったら「そのほうが楽だからいい」って言って。夫は「ごめんね。かかっちゃった」って。ごめんねなんて言わなくていいのにと思うけど。「気をしっかり持って、早く帰ってきてね」って話しました。それが最後の会話です。

運ばれた先の病院名は聞きましたけど、いつ運ばれてどんな状態なのか全くわからなくて。無事に行ったのかなと思いながらいたら、入浴中に留守電が入っていて「留守電には内容は残せません。また電話します」ということばだけあって、先生のお名前を入れてくださっていたので、夜中の12時すぎで申し訳ないなと思ったんですが電話してつないでもらって、転院できたことがわかったんです。

病状の確認などこちらから電話してもいいかと聞いたら、「ばたばたしていることもあるので、何かあればこちらから電話します」ということで、定期的にお電話いただくことになったんですが、かかってくる電話は悪い電話しかなくて。「よくないんです」って。たいてい「よくないんです」「横ばいです」って言われる。「よくないからこの処置をしたいのですがいいですか」という確認の電話が多かった。

見えないところで進む治療

自宅から出ることができないなか、夫の症状は悪化する。次々に行われる治療の話を電話で聞き続けるしかなかった

「治療法がまだ確立されていなくて、医療業界でもまだ手探り状態だ」と。「なので、あちらこちらで試されているものを試してみたりはします。中国で試されているHIVの薬を投与することもします」と言われて、投与するときもお電話をいただきました。ただ、効果があるかもわからないし、逆に他の機能を弱めることもあり得ると。わりと最初の頃から「最悪の事態もありえます」と言われていて、それは入院したときから言われているんですよね。

薬を投与した翌週くらいに「気管切開したい」と言われたんですね。「切開したほうが楽になるので」と言われて、今度はその翌日に、「やはり状態がよくない。このままだと命を救う自信がわれわれもありません」と。なので「人工心肺をつけさせてください」と。ECMOですね。「治療ではなくて、ご自身の肺を休ませるためのものです。首と股のところに小指くらいのチューブを入れます。この病院は経験があるので大丈夫です。ただ何かしら支障が出ることもあります」と言われました。

本当は私はECMOは嫌だった。ECMOを自分なりに調べると、すごいたいそうな機械で、血液を外に出して中に戻すなんて、あんなものをつけると聞いて、かなりショックでした。でも私は医者ではないので、プロに任せるしかないので結局お任せしましたけど、その段階まで行っちゃったというのはショックでした。

2週間の自宅待機が終わり、3月中旬、初めて面会が許された

陰圧室のガラス張りの中に主人が入っていますので、面会できてもそこの外からで、コミュニケーションがとれるかどうかわかりませんと、もともと言われていました。鎮静剤で全く寝たままでしたが、生きててよかったなと思いましたね。

ただ、面会の前の日に担当の先生から「ECMOをつけている弊害でばい菌が体に入って、熱も出てきて出血しています」と聞いていて、私はその出血が大したものではないと思っていたのですが、結構な出血だったようで、面会に行ったら「血が止まらなくて止血剤を入れていたけれど、それでも止まらないのでECMOを抜くことにしました」と言われて、ショックでした。

ガラス越しの呼びかけはトランシーバーで

ECMOは外すことになったが、夫はその後、徐々に回復し意識が戻った。4月7日の面会ではトランシーバーを使って夫に呼びかけることができた

中には入れませんので、先生が中と外をつなぐ電話のようなものを用意してくださって、看護師さんがそれを夫の耳元に当ててくださって、私の声を聞いてもらった。ただ気管切開していて声を出すことができないので、私のことばがわかっているのかわかっていないのか、それはわからない。本人はもどかしいと思いますけど。とりあえず近況と、家族はみんな元気でいること、みんなが心配していることと、よくなったら何しようってことを話しました。

寝ている間は命をつないでほしいということを思っていましたけど、目を覚めたときに何もしてあげられないというのはもどかしいですよね。横で声をかけてあげられるのならしたいし、手を握ってあげられるなら握りたいし、足をさすってあげたいと思うけど、それはできない、それはもどかしい。この後どういう過程で回復していくのか、私はわからないから。それに本人が耐えられるのかなとか、そういうことも考えてしまいます。

痛感するウイルスの怖さ そして今、恐れているのは

発症から2か月近く。病状は油断できない状態が続いている。元気だった夫の姿を変えてしまった新型コロナウイルス。その怖さについて妻は―

私も最初は、そこまでひどくなるとは思わなくて、普通のインフルエンザより感染力が強いだけなのかなって思ってたんですけど、こんなにあっという間に悪くなるなんて思いもよらなかったし。そういうのを目の当たりしていると、怖くてしようがなくて、自分自身もかかるのではないかと思うと、不安な気持ちがありますよね。知っているだけに、外に出るのも怖いし。何をしてても、体が熱っぽくなったら、もしかしてって思っちゃうし。かかったら夫に会えなくなるし、いろんな不安が渦巻いて。本当に恐ろしいウイルスだと思います。
やっぱりこれは、身近にいないとわからないと思いますよ。

面会も行きたいなと思いますけど、面会に行くことで医療関係の人に感染したり、私がうつっちゃったりしたら夫に二度と会えないし、行くべきなのか行くべきでないのかも常に悩んでいます。

あとは医療崩壊が怖くて仕方がないですよね。今、病院に入っている人もちゃんと診てもらえなくなるのではないかとか、重症になった時に入れる病院がないんじゃないか。私も含めて同じようなことになってしまったら、主人の面倒も見れないんじゃないかと思うと怖くて怖くて仕方がないですよ。

もっと早く検査が受けられていればとは考えないかと尋ねると、それよりも訴えたいことがあるという

なかなかPCR検査をやらないってワイドショーとかでも言ってましたけど、本当にやらないんだって、保健所を恨んで、というか国を恨んでたんですね。自宅待機中に保健所から毎日、体調確認の電話があって、恨みのひとつでも言いたい気持ちになったんですけど、よく考えたらそうでもないなと今は思っています。

治療法がないということなので、重症者を早く見つけて早く命を助ける処置をするほうが有効なのかなと。結局、ワクチンとか薬があればすぐ検査して見つけて対処できますけど、今はそれができないので、ウイルスを広めないことと、重症になったらすぐ受け入れて処置をしてあげないとだめなんだと思います。家族としては、なんで検査やってくれないのかしらと思っていましたけど。

今、多分、国がやろうとしていることは時間稼ぎなので、時間稼ぎに私たちが協力しないとだめなんだと思いますね。医療崩壊しないように、ちょっとずつ感染者を増やしていくようにしないとだめなんだと思います。うちの主人のように重篤になると、3か月スパンだと思うんですね、入院。3か月もベッドを埋めてしまうことになるんですから、3か月間入れない人が出てきちゃうかもしれない、その間に命がってことになるから、みんなが協力してやらなきゃいけないのかなって。だから、ここは我慢のしどきで。みんなそれぞれ事情があるし、会社に行かなきゃ、働かなきゃっていう気持ちはあるんだけど、ここはぐっと我慢しなきゃいけないと思います。

(2020年4月7日取材 社会部 山屋智香子)