新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
感染 治療なき入院 20代女性が語る

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。北海道に住む20代の女性は3月5日に感染が確認され、20日間近く入院しました。「自分が感染するとは全く思っていなかった」という女性。あまり知られていなかった症状や入院中の日々などを語りました。

新型コロナウイルスとは疑いもしなかった

女性が発症したのは3月1日。しかし一緒に暮らす母親の感染が確認されるまで、新型ウイルスによる症状だとは全く考えなかった

3月1日日曜日に、朝起きて頭が痛いなというのと軽いせきがコンコン続くようになったなったなというのが最初の印象です。ふだん、せきはしないので変だなと思いました。その後にのどの痛みが追加されて、あ、かぜひいたなと思って、熱も測ったんだけどそんなに高い熱が出るわけでもなく、37度5分が1回出たくらいで。普通のかぜだと思ってました。

テレビで見ていたら、37度5分以上が4日間続いたら新型コロナウイルスというふうに言われていたので、それが全くなかったので、あー普通のかぜだなと思っていました。身近に感染者がいなかったら、たぶん私は病院にかかることもなかったと思います。

その4日前の2月26日、母は仕事から帰ってきて、「のどに少し違和感がある」と言っていたんです。もしかしたら疲れもあるのかもしれないし、かぜかもしれないねということで、あったかくして寝たほうがいいよと言って食べて寝たんですけど、次の日に熱と体の異常なだるさがあるというので昔からのかかりつけの病院に行って抗生物質と普通のかぜの時に出してもらう薬と、あと点滴もしてもらって帰ってきたんです。

次の日になっても症状が全然改善されないので、もう一度点滴をしに行ったんですが、トイレに行くのもやっとみたいなくらいの熱が出てきて。解熱剤を飲んでも下がらない、抗生物質を飲んでも全く効いていない様子、どんどん体調が悪化しているのが見えたので、もしかしてと、そこで思いました。

それで妹が保健所に電話をして、「コロナウイルスに感染している方と接触したかもしれない」と話すと、保健所の方が「じゃあ病院で検査してもらってください」と言うので連れて行ったんですけど。

その間はほとんど食べられないという状態ですね。だから人によって本当に症状が違うんだなと思いました。

経験したことのない異変

母親は3月3日に感染が確認された。女性もその2日後に陽性と分かり入院するが、しばらく前から、味やにおいがしないという異変を感じていた

陽性が出て入院すると言われた前日ぐらいから、食べ物のにおいがしないので、私おかしいのかなと思って。シャンプーもにおいがしないですし、1番何よりもにおいの強いイメージのある香水を持って鼻に近づけてみても全くにおいがしないんですよ。その衝撃というか、本当に何もにおいがしないことにびっくりしました。

今までかぜは何度もひいてきたんですが、それとは全く違って、しょっぱいも甘いも感じなくて、辛いは少し感じました。野菜にドレッシングをかけて食べても、全く味がしないので目隠しされた状態で食べているような感じでした。そんなことは今までなかったので、これはコロナの影響なのかなと少しは思いました。

でもテレビで言われてなかった症状だったので、自分だけなのかなという思いと、これがそうなのかなという不安がありました。

入院してからも1週間ぐらいは、においと食べ物の味がしないというのは続きました。病院食なのでそんなに濃い味ではないものだということは分かっていたんですが、みそ汁の味はもちろんしないですし、お肉料理も出てきたんですがその味も全くしないですし。

看護師さんや先生たちも初めてコロナの診療しているので情報が足りないというか知らないみたいで、「そんな話もあるんだよね」とは言っていたと思います。

においや味が完璧に戻ったのは、入院してから10日間ぐらいたってたんじゃないかと思います。熱が下がって食べ物をよく食べられるようになってからすごく感じたことです。

症状がおさまってきて、味覚と嗅覚が戻ってきたときのごはんは、食べる楽しさとかうれしさとかがありましたね。

“治療が行われない”入院

入院後は熱が上がったり下がったりがしばらく続いたが、女性が驚いたのは、特別な治療が行われなかったことだという

6時に起床して基本的にはベッドの上です。担当の先生が1日に1回ぐらい見に来て、頭にネットをかぶってメガネかけて長袖のエプロンのようなものを着て手袋はもちろんしていて、本当に厳重な、テレビで見る真っ白な防護服ではないんですけど、入ってくる。部屋を出るときには、着ていた服や手袋を全部ゴミ箱に捨てて出ていくという感じです。

私の場合は熱が出たら解熱剤を飲んでくださいということで、それ以外は点滴もないですし、決まった時間に体温をチェックして、決められた時間にごはんが出てということ以外は特別大きな処置というものはありませんでした。

薬がない状況なので、せきやのどの痛みを先生に伝えても、特別この薬を出すとかいうようなことはなく、ほんとに一般的にメジャーな解熱剤、普通のかぜのときに使う解熱剤を出されて、あとはどうすることもできないというか、自力で治してください、そしてこの部屋から出ないでくださいっていう形です。

いつ自分の熱が下がりきるんだろうとか、先が見えないので、自分ではわからないので不安ですね。

女性は症状が軽く1週間ほどで回復してきたが、退院までには20日近くかかった

入院してから1週間後くらいには、もう熱も下がってせきもたまに出るくらいで、のどの痛みもなくなっていたので、先生からは「もしかしたら早めに退院できるかもしれないよ」と伝えられていました。

1週間ちょっとくらいで1度目の検査をしたと思います。自分としては体調はもう戻っていたので、検査したら陰性になるだろうと思っているんですが、結果は「陽性だったよ」と。

いちど陽性になると、検査した日から48時間おかないと次の検査ができないようになっているので、結果が陽性だった場合は次の日にまた検査をするという形です。検査と検査結果との交互でした。

検査を繰り返して陽性が出るたびに、本当にいつになったら終わるんだろう、いつになったら病院から出られるんだろうと、先の見えない不安がありました。

私の場合は5回目でようやく陰性が出て、2回続けて陰性が出ないと退院できないので、計6回検査しました。

“自分はかからない”後悔と教訓

入院中、女性が何より心配だったのは濃厚接触者となった家族や友人のことだった。感染するまでの本音と、感染して痛感した教訓を語ってくれた

家族は濃厚接触者なわけじゃないですか。どうしても肩身の狭い生活をするというか、“コロナの菌”みたいな感じで思われるだろうし、その目をすごく気にしているんじゃないかなと思うんですよね。日中は外を出歩かないようにしているんじゃないかなと思うんですよ。そこが申し訳ないですよね。

人によっては、汚い、悪い菌を持ってる人たちみたいな、そういうふうに思う人はいるんじゃないかなと思うんですよ。テレビで見てたら、ただアジア圏ってだけで差別されるという話をやってるので、家族はすごく気にしているっていう感じが連絡とっていたらわかりますね。

正直、テレビであんなにやってはいたけれど自分はかからないだろうと、自分がかかるわけはないだろうと思っていました。北海道で感染している人は、私がかかったときは90人もいなかったのかな、まさかその中に自分が入るなんて全くと言っていいほど思ってもいなかったし、隔離されるような経験をすると思っていなかったので。

60代以上の人たちがかかっていて、20代30代の人がかかってるとはあんまり言われていなかったので、かかっても簡単に自力で治せると思ってたのが正直な気持ちです。

思いのほか時間がかかったことの衝撃というか、びっくりした感じなんですが、家に帰ってきてまず安心しました。

本当に基本的なことになっちゃいますけど、手洗いとうがいの徹底。アルコールはなくても、せっけんでもいいから、ちゃんと手を洗ったほうがいいんだろうなって、今になって思います。

あとはちょっとした体調の変化を軽く考えないで、少しでも変化があれば外出は控えてみるということが大事なんじゃないかなと。簡単に治る病気ではないので、自分たちが原因で、もしかしたら誰かにうつしてるのかもしれないと思ったら、手洗い、うがいをちゃんとしておけばよかったなと、それに尽きますね。

(2020年3月12日、27日取材 札幌放送局 北井元気)