日本経済がコロナ前の水準に戻るのは
いつなのか

2021年2月1日

2020年2月、中国で拡大する“新型肺炎”の影響で、春節の連休に日本を訪れる中国人観光客が減少。国内のデパートの春節にあわせた連休中の免税売り上げが落ち込んだ…。これが、今からちょうど1年前の出来事。その後、日本経済は「コロナ禍」と呼ばれる感染拡大に飲み込まれていきました。

日本経済がコロナ禍を脱して感染拡大前の水準に戻るのはいつなのか。
NHKは国内の企業100社にアンケートを行い、その結果をまとめました。各社から寄せられた回答から、感染に揺れる日本企業の“現在地”と“これから”を読み解きます。(経済部記者 池川陽介)

[主要企業100社アンケート]
・実施時期:2020年12月23日~2021年1月15日
・実施方法:WEBアンケート
・対象:国内企業100社(全社から回答を得た)

2021年中の回復は無理?

Q. 日本経済が感染拡大前の水準に戻るのはいつごろと見ていますか。

「感染拡大前の水準に戻る時期」として、
最も多かった回答は「2022年前半」の27社。
次いで「2022年後半」が19社。
2つの回答を合わせると、46社。実に半数近くが、コロナ前に戻るのは来年と考えています。

次に多かったのが「2023年後半」で12社。
「2021年後半」と「2023年前半」がともに7社。
「2024年」「2025年以降」というかなり先の回答も合わせると、全体では7割の企業が日本経済の回復には少なくとも1年はかかるとみています。

コロナの影響が長引き、もとの水準に戻るのは簡単ではないという企業の考えがうかがえます。

最も多かった「2022年」と回答した企業から、感染対策と経済活動の関係をどう考えるか、自由記述で寄せられた声がこちら。

「両立又は経済活動を優先している現状が、感染拡大の事態を招いている。中途半端な政策ではコロナは収束しない。まずは感染拡大防止に全力をあげるべき」(2022年後半/小売)

「感染対策または経済活動のどちらかに偏ることなく、双方のバランスを図り、国民の健康と生活の維持を確保していくことが求められる。ウイルスの変異、国民の意識や生活様態の変化も踏まえて、柔軟、迅速な政策変更も必要だと考える」(2022年前半/金融)

「感染症とのたたかいは長く続くので、感染対策に完璧を求めすぎると経済的なダメージが課題になる」(2022年後半/商社)

2022年よりも慎重な見方の「2023年」と回答した企業の声は。

「ワクチンの期待もあるが、ワクチンが十分に行き渡り集団免疫を獲得できるまでは数年かかるとされているため、長期戦を見据え両立を図る観点が重要」(2023年前半/エネルギー)

「重症者が増加し医療体制がひっ迫する懸念が強まっている中では、Go Toキャンペーン等の需要刺激策の縮小はやむを得ない」(2023年後半/金融)

半年後には景気拡大?

今回のアンケートの実施期間中に、新型コロナの感染拡大を防ぐための政府による緊急事態宣言が出されました。景気の現状に対する各社の認識に、どう影響したのでしょうか。

Q. 国内景気の現状をどのように認識していますか。最も近いものを選んでください。

「横ばい」と答えた企業が41社。
「緩やかに拡大」が35社。
「緩やかに後退」、「後退」と続き、
「拡大」と答えた企業はありませんでした。

「緩やかに拡大」の理由を複数回答で尋ねたところ、
最も多かったのは「中国経済の回復」で51.4%。
「個人消費の伸び」が48.6%。
「経済活動の再開」が45.7%。
「政府の経済対策」が42.9%でした。

「横ばい」の理由では、
「個人消費の伸び悩み」が80.5%、
「外出自粛や営業時間の短縮要請」が61%で、
この2つの答えが圧倒的多数でした。
感染拡大による消費の冷え込みや、緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業などの影響を懸念する声が多くなっています。

では、半年後の景気はどうなっていると企業は見ているのでしょうか。

Q. 半年後(2021年6月ごろ)の国内景気は現在と比べてどうなると見ていますか。最も近いものを選んでください。

「緩やかに拡大」が7割近くを占めました。

その理由を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「個人消費の伸び」と「経済活動の再開」で、いずれも全体の65%を占めました。
ワクチンの接種が始まるなどして感染が徐々に収束すれば、経済が持ち直してくるとみている企業が多いようです。

五輪はカギを握る?

東京オリンピック・パラリンピックが予定どおりこの夏に開催できるかどうかも、日本経済の回復に大きな影響を及ぼします。

Q. 2021年夏に東京オリンピック・パラリンピックを開催すべきと考えますか。

「規模を縮小して開催すべき」という回答が最も多く48社。ほぼ半数です。
「通常に近い形で開催すべき」が13社。
この2つを合わせると、およそ6割がなんらかの形でこの夏に開催すべきと回答しています。

「開催すべき」と答えた企業の理由は。

「多角的な国内需要の喚起により経済回復への貢献が見込まれるため、感染対策を十分に実施したうえでの開催を期待する」(縮小して開催/エネルギー)

「個人消費やインバウンド需要の回復など、景気浮揚の一助となるとともに、25年度の大阪万博などの国際的な大型イベントにおけるウイルス対策の前例となることにも期待している」(縮小して開催/インフラ・建設)

「開催すべきではない」と答えた企業は3社でした。

「完全にコロナが収束しきれていない状況の中での海外からの人の往来は非常に大きなリスクのため、再延期を検討すべき」(メーカー)

アンケートでは「無回答」が36社ありました。開催による景気浮揚か、感染拡大の防止に注力するのか、判断が難しいという各社の“心境”も見て取れます。

「オリンピックの経済効果、日本国民の心情に鑑みれば今夏に当初計画規模で開催できることが望ましいが、新型コロナ感染状況を踏まえた慎重な判断をおこなうべき」(メーカー)

新卒採用はどうなる?

景気や企業の業績と大きく関わるのが、新卒の採用計画です。2022年春に入社する予定の大卒の採用について、前の年度と比べて、どう考えているか聞きました。

Q. 2021年春に入社する予定の大卒採用者は前の年度と比べてどうなりましたか。

Q. 2022年春に入社予定の大卒採用計画について聞きます。前の年度と比べた採用数はどう考えていますか。

左側のグラフは今年度の採用実績。右側のグラフが2022年春入社の採用計画です。

2022年春入社の採用計画は「まだ決めていない」と答えた企業が半数以上です。次いで「変わらない」が3割を占めています。
コロナで先行きが見通せない中、アンケートの時点で、来年入社する大卒の採用計画を決めるのは難しいのかもしれません。

「まだ決めていない」と答えた56社のうち、今年度、つまりこの春の実績が「減った」と答えた企業が28社、「変わらない」と答えた企業は23社でした。

この春の入社人数を減らした企業が今後、2022年春入社に向けてどのような採用方針をとっていくのか。アンケートでは半年後の景気が「緩やかに拡大」とみる企業が7割にのぼっていますが、実際のところは、コロナの影響次第となることは間違いなさそうです。

(回答企業・五十音順)
IHI、旭化成、アサヒグループホールディングス、味の素、イオン、いすゞ自動車、出光興産、伊藤忠商事、インターネットイニシアティブ、AGC、ANAホールディングス、SGホールディングス、ENEOSホールディングス、王子ホールディングス、花王、鹿島建設、川崎重工業、キヤノン、京セラ、キリンホールディングス、KDDI、神戸製鋼所、小松製作所、サイバーエージェント、JFEホールディングス、JTB、J.フロント リテイリング、資生堂、清水建設、シャープ、商船三井、すかいらーくホールディングス、スズキ、SUBARU、住友化学、住友金属鉱山、住友商事、西武ホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス、ゼンショーホールディングス、ソニー、大和証券グループ本社、武田薬品工業、中部電力、ツルハホールディングス、ディー・エヌ・エー、デンソー、東海旅客鉄道、東京海上ホールディングス、東京ガス、東京電力ホールディングス、東芝、東レ、凸版印刷、トヨタ自動車、日産自動車、日本製紙、日本製鉄、日本電気、日本航空、日本生命保険、日本電産、日本電信電話、任天堂、野村ホールディングス、博報堂、パナソニック、東日本旅客鉄道、日立建機、日立製作所、ビックカメラ、ファーストリテイリング、ファミリーマート、富士通、富士フイルムホールディングス、ブリヂストン、マツダ、マレリ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三井不動産、三越伊勢丹ホールディングス、三菱ケミカルホールディングス、三菱自動車工業、三菱重工業、三菱商事、三菱電機、三菱UFJフィナンシャル・グループ、村田製作所、明治、メルカリ、モスフードサービス、ヤフー、ヤマトホールディングス、ヤマハ発動機、ユニ・チャーム、楽天、リクルートホールディングス、ローソン