2021年1月14日
地域の雇用や経済を維持するうえで重要な役割を果たしている中小企業に新型コロナウイルスはどのような影響を与えているのか。また国の支援策は効果的に活用されているのかを調べるため、NHKは第一生命と共同でアンケートを実施しました。
アンケートは2020年11月20日から12月25日までのおよそ1か月間、第一生命の取引先企業を中心に全国の50994社を対象に行い、このうち35.7%にあたる18224社から有効回答を得てNHKが分析を行いました。
2021年1月14日
地域の雇用や経済を維持するうえで重要な役割を果たしている中小企業に新型コロナウイルスはどのような影響を与えているのか。また国の支援策は効果的に活用されているのかを調べるため、NHKは第一生命と共同でアンケートを実施しました。
アンケートは2020年11月20日から12月25日までのおよそ1か月間、第一生命の取引先企業を中心に全国の50994社を対象に行い、このうち35.7%にあたる18224社から有効回答を得てNHKが分析を行いました。
感染拡大前と比べて売上げに変化があったかどうかを聞いたところ、全体の68%の企業が売上げが減少したと答えました。もっとも多かったのは「3割ほど減少」と答えた企業で29%、売上げが5割かそれ以上の大幅な減少になったと答えた企業も16%に上りました。一方で「変わらない」は23%「増加した」という企業は9%でした。多くの中小企業に新型コロナが深刻な影響を与えていることがことが改めて明らかになっています。
影響が特に大きかったのが宿泊業と飲食サービス業です。売上げが感染拡大前と比べて5割以上減ったと答えた企業は宿泊業でおよそ3社に2社、飲食サービス業でおよそ2社に1社に上りました。ただ影響は接客型の業種だけでなくあらゆる業種におよんでいます。製造業や建設業、卸売業などでも売上げが減ったと答えた企業が大半を占めています。また感染リスクを避ける患者の「受診控え」が指摘されている医療・介護・福祉でも同様の傾向がみられました。
感染拡大の影響を受けて従業員を一時的に休業させた企業はおよそ4割にのぼりました。昨年末の時点でも従業員を休ませている企業は全体では約6%ですが、業種別で見ると宿泊業は19%と5社に1社にのぼり、今も厳しい状況にあることが分かります。また人員削減は非正規雇用の従業員を削減した企業の割合が正社員の倍に上っています。非正規で働く人が比較的多い飲食サービス業ではその差が特に大きくなっています。
【回答社数※無回答除く】
建設業:2334/製造業:2048/小売業:1346/生活関連サービス業:1044/飲食サービス業:805/卸売業:741/運輸業:563/不動産業:376/医療・介護・福祉:312/情報通信業:282/宿泊業:104(その他:1693 ※未掲載)
新型コロナの影響で従業員を休ませた企業に対し、国は「雇用調整助成金」を活用して休業手当を支払うよう促しています。しかし活用は従業員を一時的に休ませた企業で約半数、現在休ませている企業でも8割弱にとどまっています。活用しない理由についてアンケートでは「手続きが煩雑だったため活用しなかった(飲食サービス業)」「社会保険料の滞納があり使えないと思った(生活関連サービス業)」といった声があり、活用を検討したものの何らかの理由で見送った企業があったことがわかりました。
※実際には社会保険料の滞納があっても活用できる場合があります。
比較的活用されていたのが持続化給付金で、多くの業種で7割から8割の企業が活用していました。一方で活用しなかった企業にその理由を聞くと「売上げの減少が給付の条件である5割以上ではなかったため」とか「会社の設立から日が浅く売上げの減少を前年と比較できなかった」などといった声がありました。またGoToキャンペーンは飲食サービス業で約4割、宿泊業でも約6割にとどまっています。条件に合わず支援策を活用できない企業が一定数あることは、活用しない理由を聞いた質問でも明らかになっています。
【回答社数※無回答除く】
建設業:3304/製造業:2291/小売業:1520/生活関連サービス業:1118/卸売業:835/飲食サービス業:818/運輸業:520/不動産業:410/医療・介護・福祉:330/情報通信業:293/宿泊業:109(その他:1739 ※未掲載)
感染拡大の終息が見えない日本。今後も影響が続いた場合の対応を聞いたところ、もっとも多かったのは「従業員を休ませる」で全体の約3割、次いで「賃金をカットする」が約2割の企業に上りました。人件費の削減はやむを得ないものの何とか雇用を確保しながらコロナ禍を乗り切ろうとする企業が多いことが分かります。一方で人員の削減を検討している企業は正規・非正規雇用ともに1割前後に上っています。また廃業を検討している企業も1割近くありました。
業種別で見ると飲食サービス業と宿泊業では従業員を削減すると答えた企業の割合がほかの業種に比べて顕著に高くなっています。中でも非正規雇用の従業員については2つの業種ともにおよそ4社に1社が削減を検討していて、全体と比べて倍以上の割合にのぼっています。一方で従業員の休業や賃金カットは幅広い業種で検討されています。接客型の業種以外でも影響が続けば何らかの対応が必要になると考えていることがわかります。
【回答社数※無回答除く】
建設業:3153/製造業:2300/小売業:1623/生活関連サービス業:1197/卸売業:869/飲食サービス業:822/運輸業:621/不動産業:475/医療・介護・福祉:349/情報通信業:327/宿泊業:107(その他:1943 ※未掲載)
神戸国際大学 経済学部 中小企業論が専門
飲食や宿泊業に限らず、そこから波及していろいろな業種に本格的に影響が出てきていることが伺えます。特に雇用をいかに維持するかが重要な課題となっていて、現時点で従業員を休ませている企業は雇用調整助成金がなければ雇用を維持できないところが相当数にのぼっています。助成金の特例制度はずっとは続かないため、雇用を維持していけないと考える経営者が出てきています。雇用調整助成金の特例制度など支援策の継続が求められるとともに、業態の変更や新たな分野に進出する企業を支援することが重要です。また中小企業は以前から経営者の高齢化と後継者不足から「廃業予備軍」が多くありました。そうした企業が大きな負債を抱える前に廃業するのは一概に問題とは言えません。ただし働き盛りの経営者が廃業し中小企業がなくなって焼け野原のようになってしまったら、その後の地域経済の復興は非常に難しくなります。経営者の中にはそうした問題意識を持っている人も多くいます。国は今回はとにかく走りながら考えていくと繰り返し言っていますので、使いづらい仕組みになっている全国一律の支援策は見直し、経営者の声を反映して地域ごとにカスタマイズできるような仕組みづくりを考えて欲しいと思います。