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新型コロナ 働く女性への影響は

2020年12月7日

新型コロナウイルスの影響で女性の雇用は一時、最大74万人が失われ、男性の倍以上に上りました。近年、人手不足を補う形で就業が進みましたが、新型コロナは女性が多く働く飲食業や小売業など対面型のサービスを直撃しました。その実態を詳しく調べ、どのような対策が求められているのかを探るため、NHKは労働政策研究・研修機構(JILPT)と共同で2020年11月13日から19日までアンケートを実施しました。

調査は全国の20歳から64歳の雇用されている男女6万8000人に実施。このうち5000人(雇用に何らかの影響があった人4000人、無かった人1000人)を抽出して詳細な調査を行い、結果を性別や年齢、雇用形態などが日本の縮図となるよう補正しました。
(LINEリサーチにて実施)

「雇用にどのような変化を及ぼしたのか」(2020年4月以降)

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

2020年4月以降、仕事になんらかの影響(失業・離職・休業・労働時間急減)があった人は男性が18%、女性が26%で、女性は男性のおよそ1.4倍にのぼっています。雇用形態別でみますと、正社員が18%だったのに対し非正規雇用では33%とほぼ倍の開きがあり、特に非正規雇用の女性が大きな影響を受けていることがわかります。

「非正規雇用の女性への影響顕著に」

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

雇用の変化を詳しく見てみると2020年4月以降、解雇や雇い止めとなった女性の割合は男性の1.2倍、非正規雇用の女性に限って見ると1.8倍に上っています。また労働時間が半減した期間が30日以上あった人や7日間以上休業した人の割合も女性の方が高くなっています。中でも非正規雇用の女性への影響が顕著で、休業を余儀なくされた人は21%と5人に1人に上っています。

「家計への影響 今も色濃く」

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

※単身女性はシングルマザーを除く

雇用に何らかの影響があった人のうち10月の収入が新型コロナの感染拡大前と比べて3割以上の大幅減となっている人は女性が男性の1.4倍に上っています。このうちシングルマザーは24%と約4人に1人に上り、緊急事態宣言が解除された5月以降、経済活動が徐々に再開されたあとも家計への影響が色濃く残っていることがわかります。

「再就職 女性は6割にとどまる」

2020年4月以降、職を失った人のうち11月1日の時点で再就職している人の割合は男性が75%だったのに対し、女性は61%にとどまっています。世帯構成別で見ると、夫婦共働きだった女性の再就職の割合がもっとも低く57%で、単身は64%、シングルマザーは71%でした。調査では特に子育て中の女性が失業したあと仕事を積極的に探さない「非労働力化」していることもわかっていて、新型コロナの影響で家事や育児と仕事の両立が難しくなっていることをうかがわせます。

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

※単身女性はシングルマザーを除く

「続く家計の切り詰め」

雇用に何らかの変化があった人のうち食費を切り詰めた人は男性で26%、女性で27%にのぼり、3割近い人が暮らしに必要な消費を控えたことがわかりました。また貯蓄を取り崩したという人の割合も男女ともに25%を超えています。シングルマザーでは家賃や公共料金の未払い・滞納がいずれも10%を超えていて経済的困窮が深刻になっています。

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

※単身女性はシングルマザーを除く

「精神面の影響 男女ともに大」

雇用に何らかの変化があった人のうち精神的に追い詰められていたと答えた人の割合は男女とも約4人に1人に上りました。このほか、うつ病などと診断された、自殺を考えたという人は男性が多かった一方、育児や介護を放棄気味になったという人は女性に比較的多くなりました。世帯別ではシングルマザーでいずれの項目も顕著に高く、精神的に追い詰められたという人は38%に達しています。

『新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査』より

※単身女性はシングルマザーを除く

調査からは新型コロナが与える影響が女性に集中していることがはっきりとわかってきました。女性の就業率が高い飲食業や宿泊業などで多くの雇用が失われており、中でも非正規が大きな影響を受けています。 仕事を失った女性が再就職を控える、非労働力化する傾向が見られるのも特徴です。通常の不況であれば、夫の収入が減ると妻がそれを補おうと仕事を増やすという形で女性の就労が進む傾向がありますが今回はそうなっていません。学校の一斉休校や保育園の休園、在宅勤務の普及などによって家庭で引き受けることになった家事や育児を女性が多く担っていることを伺わせます。 また家賃や公共料金が払えないほどせっぱ詰まった人が一定の割合でいることも明らかになりました。生活が破綻するリスクのあるこうした人たちへの支援が急務です。

コロナ禍は女性の雇用にとって1つの試練となっています。政府は人手不足を背景に女性活躍を掲げて就労を促進してきましたが、雇用の質の問題、例えば非正規が多く不安定な雇用であることや比較的低賃金でスキルアップが難しい働き方などを長年、改善できずにいました。より質の高い雇用への転換に今こそ本腰を入れる必要があります。 新型コロナをきっかけに男性がもっと家事や育児を担うようになったり、テレワークなどの柔軟な働き方が定着したりすれば、女性が働くうえでは非常に有利に働くはずです。