コロナ5類移行 医療費負担が増える?
受診できる医療機関はQ&A

2023年3月10日

5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行します。ただ、ウイルスの性質が変わるわけではなく、今後も感染するおそれはあります。

5類への移行で、医療費の自己負担は? 症状が出たらどうすれば?

Q&Aで詳しくまとめました。

目次

Q.患者の負担、どう変わる?
Q.医療機関はどう変わる?
Q.高齢者施設など介護現場への支援は?
Q.コロナ対応していなかった医療機関は?
Q.ほかの医療機関の動きは?
Q.専門家はどう指摘しているの?

Q.患者の負担、どう変わる?

コロナに関連する医療費の負担は、増えることになります。

厚生労働省は3月10日、無料となっている検査や外来診療の費用を患者の自己負担とすることなどを柱に見直しを行う方針を決めました。

現在、医療費の窓口負担分を原則として公費で支援しているために自己負担が無料となっていますが、5類に移行後は他の病気との公平性の観点から支援が縮小されることになります。

ただ、急な負担の増加を避けるため、一部の公費支援は期限を区切って継続するということです。

以下、具体的に見ていきます。

新型コロナ治療薬の費用は

高額なコロナ治療薬の費用は夏の感染拡大も想定し、9月末まで引き続き公費で負担されます。

その後は他の疾病とのバランスや国の在庫などを踏まえて冬の感染拡大に向けた対応を検討するとしています。

仮に公費負担が無くなれば、例えば飲み薬の1つ、ラゲブリオの現在の価格で計算すると

、外来での自己負担は最大で3万2470円になります。

外来医療費は

陽性が判明したあとの外来診療の窓口負担分はこれまで公費で賄われていて自己負担分は無料でしたが、5類移行後は自己負担が求められます。

70歳未満で窓口負担が3割の人の場合で見てみます(厚生労働省の試算・コロナ治療薬の費用が公費負担の場合)。

解熱剤とコロナの治療薬を処方された場合の負担は、最大で4170円。
季節性インフルエンザで外来にかかり、解熱剤とタミフルを処方された場合は最大4450円。
ほぼ同じ程度となります。

次に、75歳以上で保険診療で窓口負担1割の人の場合。

解熱剤とコロナの治療薬を処方された場合は、最大で1390円。
季節性インフルエンザで外来にかかり、解熱剤とタミフルを処方された場合は、最大1480円。
こちらも同じ程度になるということです。

入院医療費は

入院費用については、医療費や食事代の負担を求めることになるとしています。

ただ、急な負担の増加を避けるため、夏の感染拡大への対応として、まずは9月末まで、高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額する措置を講じるとしています。

厚生労働省の試算では、入院する割合が高い75歳以上の人のうち、住民税が非課税ではなく年収が383万円までの人が中等症で10日間入院した場合は、自己負担は3万7600円となるほか、別に食事代が1万3800円かかります。

検査の自己負担は

発熱などを訴える患者への検査については、検査キットが普及したことや他の疾病との公平性を踏まえ、自己負担分の公費負担は終了となります。

宿泊療養施設は

病床の確保や自宅療養が難しい軽症の患者などのためにホテルなどで受け入れて隔離する宿泊療養の制度は終了します。

しかし、高齢者や妊婦のための宿泊療養施設は入院とのバランスを踏まえ費用を自己負担することを前提に、自治体の判断で9月末まで継続されます。

今後は

厚生労働省は夏の感染拡大への対応として、治療薬や入院費用の自己負担を軽減する支援を続けながら、9月末に他の疾病との公平性を考慮しながら、支援を延長するかどうか検討するとしています。

Q.医療機関はどう変わる?

私たちがコロナの症状が出た時に診療にあたる医療機関については、今よりも幅広い医療機関で受診できる体制を目指すことになりました。

2024年4月までに段階的に移行を進めていくとしています。

具体的には次のとおりです。

外来診療については、現在は全国の約4万2000の医療機関で行っていますが、5類移行後は全国の約6万4000の医療機関で受け入れる体制を目指すとしています。

約6万4000というのは季節性インフルエンザの検査をシーズン中に1人でも行った医療機関の数です。

そのうえで、都道府県が医療機関に対し、受け入れる患者をかかりつけの患者に限定しないよう促すほか、都道府県が新型コロナに対応する医療機関を公表する取り組みを当面継続するとしています。

また、入院患者については、これまで新型コロナの病床を確保してきた約3000の医療機関を中心に受け入れてきましたが、5類移行後は全国に約8200あるすべての病院で受け入れる体制を目指すとしています。

特に高齢者の退院に向けたリハビリなどの支援を行う「地域包括ケア病棟」での受け入れを積極的に推進するとしています。

そして新たに受け入れを行う医療機関を増やすため、院内感染対策のガイドラインを見直すほか、対策のために必要な設備の整備などに対し、支援を行うとしています。

診療報酬の特例措置は

医療機関に支払われる「診療報酬」については、コロナの医療提供体制を維持するために設けられていた特例措置が見直されます。

具体的には、
▽「発熱外来」であることを公表した場合の加算を廃止するほか、
▽新型コロナの重症者などを入院させた際の加算も縮小します。

一方で、
▽医療機関内の感染防止対策への加算は維持するほか、
▽これまで自治体が主に担ってきた入院調整の業務が想定されるとして、調整を行った場合の診療報酬を新たに設けるとしています。

「病床確保料」は

診療報酬の特例措置の見直しとあわせて、新型コロナの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関を補助するための「病床確保料」も見直されます。

病床確保料は「空床補償」とも呼ばれる制度で、病床の種類によって額が異なります。

重点医療機関の大学病院など特定医療機関の一般の病床は1日1床当たりの上限は7万4000円でしたが、5類に移行後、9月末をめどとした措置として3万7000円に半減させます。

また、コロナ病床を確保する際に周囲で使用を控えていた「休止病床」にも病床確保料が支払われてきましたが、通常の医療体制への移行を目指す中、病床を有効に活用する観点から、病床確保料が支払われる「休止病床」の範囲が半分に見直されます。

9月末以降の対応については医療機関の拡充の状況などを踏まえて見直しを行うとしています。

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「入院調整」は

現在、保健所などが行っている入院調整については、原則、医療機関の間で調整する仕組みに段階的に移行するとしています。

医療機関の間での調整は、まずは軽症など症状の軽い人からはじめ、秋以降は重症の患者にも広げていくとしています。

そのうえで、医療機関どうしが病床の状況を共有するためITの活用を進めるほか、円滑な移行のため、都道府県の実情に応じ、当面「入院調整本部」などの枠組みを残すことも可能だとしています。

厚生労働省は各都道府県に対し、医療提供体制の拡充や医療機関での入院調整を円滑に進めるための移行計画を4月中に策定してもらう方針です。

計画の期間は冬の感染拡大を想定して9月末までとしていて、その後、各地域ごとの計画の進ちょく状況を踏まえ、必要な見直しを行う計画です。

Q.高齢者施設など介護現場への支援は?

重症化リスクが高い高齢者へ介護サービスを提供している介護事業者については、引き続き感染対策の徹底が必要だとして、厚生労働省は現在の支援を当面、継続することにしています。

具体的には、感染対策に必要な物資や介護人材の確保にかかった費用の助成や事業所で働く職員を対象に検査キットなどで定期的に行う「集中的検査」への支援を引き続き行うほか、感染のために入院しその後退院した高齢者の受け入れ促進のための介護報酬の上乗せなども継続します。

また、感染した高齢者が入院できず高齢者施設で療養する場合に1人当たり最大30万円が支払われる施設への補助も継続しますが、協力する医療機関との連携体制を確保することなど、要件を設けることにしています。

介護現場からは、こうした支援は5類移行後も必要だとの声が上がっています。

千葉県八千代市の特別養護老人ホーム、「グリーンヒル」では週2回、自治体から配布された検査キットで、職員が感染していないか調べる「集中的検査」を行うなど感染対策を徹底しています。

また、毎日使用する消毒液などに加え、「N95」と呼ばれる高性能の医療用マスクや、ガウンやキャップなども買いそろえています。

一方、対策を続ける中でも施設では2023年1月、入所者の感染からクラスターが発生しました。

職員にも感染が広がって他の事業所から応援を呼ばざるを得なくなり、追加の人件費が必要になったということです。

Q.コロナ対応していなかった医療機関は?

一方、これまで新型コロナの患者を受け入れられなかったクリニックでも受け入れへ検討が進んでいます。

東京 新宿区の「木島内科クリニック」は感染拡大当初、感染の疑いがある患者の受け入れを検討しましたが、診療所の構造や一般の患者への影響を考えて断念しました。

通院患者の多くは高齢者で、高血圧や糖尿病、呼吸器疾患など持病を抱えていて感染したら重症化するリスクが高い上、出入り口や待合室が1つしかなく経路を分けることも難しかったためです。

その後、発熱などの症状のある患者は電話で状況を聞いた上で、近くの医療機関に診察を依頼してきましたが、今回の国の発表を受けて、今後はクリニックでも新型コロナの患者を診察することを検討しています。

受け入れにあたっては、電話で受付を行った上でほかの患者と時間をずらして来てもらうなどの対応や、診察後は院内の換気や消毒が必要になります。

それでも、コロナの疑いのある患者と一般の患者が同じ空間を利用する以上、感染のリスクが全く無いとは言い切れず、不安に感じる面も残るといいます。

木島冨士雄院長は「5類への移行は患者に対するかなりの配慮を必要とする。医者や看護師には感染した患者に対する覚悟や防御の用意もあるが、一般の患者はそうしたガードがないまま来院する。危険要因のある患者にできるだけ感染の機会を少なくする方法を診療所側の責任者として常に考えなければいけない」と話しています。

Q.ほかの医療機関の動きは?

5類移行に伴って、コロナ患者を治療する「最後の砦」として多くの患者を受け入れてきた大学病院の中には、コロナの専用病棟を廃止して以前の診療体制に戻し、患者の持病に応じたそれぞれの診療科で診るようにするところが出てきています。

東京 文京区にある東京医科歯科大学病院は、感染が拡大した3年前の2020年4月以降、重症と中等症の患者約1500人の入院を受け入れるなど、都内でコロナ診療の中心的な役割を担ってきました。

感染状況が落ち着いている現在も重症患者用に2床、中等症患者用に20床を確保していますが、先週初めには7人入院していたのが、徐々に減って10日の時点では入院している人はいないということです。

病院ではコロナによる症状よりも、もともとの持病が悪化して入院治療が必要となる患者が多くなっていることや、今後5類への以降に伴い、コロナ患者に対応する病床を確保した医療機関を補助するための交付金が見直されるのを受けて、3月15日からは重症患者用の病床を残して中等症患者の専用病棟は廃止することを決めました。

今後は原則として持病に対応する診療科が個室で受け入れるということで、すべての職員を対象に防護服の着脱の方法など感染対策の研修を進めています。

ただ今後、コロナ患者が急増した場合には入院できる個室をすぐに準備できず、看護師など対応にあたる医療スタッフが十分に確保できなくなる懸念もあるため、感染状況によっては再び専用病棟を設けることもあるとしています。

植木穣病院長補佐は「8回に及ぶ感染拡大の波に対応した経験から、これで終わりになるとは到底思えないが、コロナ以外の病気の診療のニーズが大きく、5類への移行によって国からの補助金の制度も変わる中で、今の方法を漫然と続けることは経営面からも難しい。この3年間の中でも非常に大きな転換点で、現場も負荷がかかると思うが病院で一丸となってなんとか乗り越えたい」と話しています。

Q.専門家はどう指摘しているの?

新型コロナウイルス対策にあたる政府分科会のメンバーで東邦大学の舘田一博教授に、今回の見直しについて聞きました。

検査や外来診療の費用が自己負担となることについては「インフルエンザの疑いで受診する場合と同じ程度の費用になるので、受診控えにはつながらないと考えられるが、コロナの治療薬や入院時にかかる費用は自己負担だと高額となるので、しばらくの間は行政がしっかりとサポートするなどして、見直しは段階的に進めることが重要だ」と指摘しています。

また、コロナ患者を診療した場合に医療機関に支払われる診療報酬の加算や、病床を確保した医療機関を補助するための交付金が見直されることについては「5類への移行後も患者を受け入れた場合には、防護服やマスクなど感染対策のための消耗品や検査、コロナの重症患者に対応する集中治療室の運用など、病院には日常の診療を行う以上の負担がかかるので、安心してコロナ患者の入院を受け入れられるよう、引き続き国がサポートする仕組みを維持する必要がある」と話しています。

さらに外来診療について、これまでより多くの医療機関で患者を受け入れる体制を目指すとしていることについては「今までコロナ患者を診療してこなかった医療機関が、突然、対応を依頼されても混乱すると考えられるので、無理をせず、できる範囲で協力してもらうことが重要だ。多くの医療機関ではインフルエンザの患者は受け入れているはずなので、インフルエンザに準じた対策に加えて患者どうしの距離や動線の確保や換気など、少し強めた対策をとってもらうなどして、協力してもらえる医療機関を段階的に増やすことが大事だ」と述べました。