2022年10月28日
ことし4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられて半年。
まもなく新成人を迎える全国の高校生たちが愛媛県に集まり、「大人になること」について真剣に議論しました。
今の高校生たちにとって「大人になる」ってどういうことなのでしょう?
(NHK松山放送局記者 竹野帆香)
『大人』になったら何がしたい?
9月、愛媛県西予市に全国からおよそ30人の高校生が集まりました。
2泊3日の日程で、さまざまな社会問題をテーマに意見を交わしながら交流を深めます。
毎年恒例のイベントですが、ことしのメインテーマの1つは「18歳成人」です。
参加した高校生はほぼ全員が16歳か17歳で、まもなく18歳の成人です。
まず話し合ったのは「引き下げで新たにできるようになること」と「大人になってしたいこと」。
ことし4月に成人年齢が引き下げられ、18歳になれば親の同意を得なくても契約することなどが可能になりました。
そこで、高校生たちに「大人」になったらやりたいことを聞いてみると・・・
今は校則でできないけれど、髪を染めたりタトゥーを入れたりおしゃれしたい
“18禁”のホラーゲームがやりたい
容姿にコンプレックスのある友達は整形手術したいと言っていた
お酒も飲めるようになればいいのに
実際にできるようになることもありますが、年齢的な制約とは関係がないことへの興味も多く上がりました。
成人年齢引き下げそのものについてはあまりピンときていないようです。
話を聞いていくと、ふだんの生活で成人年齢の引き下げについて話す機会は少ないということで、高校生の間で浸透していない理由の1つは、ここにあるのかもしれません。
それってメリット?デメリット?
具体的に何ができるようになるのか、実行委員会の高校生たちが漫才を交えながら引き下げにより変わったこと、変わらないことを解説しました。
変わること(できること)
- 親の同意なしで契約(スマホ・賃貸契約など)
- 国家資格の取得(公認会計士・医師など)
- 裁判員に選ばれる
変わらないこと(できないこと)
- 飲酒
- 喫煙
- 公営ギャンブル(競馬・競輪など)
そのうえで、自分たちの生活にどのような変化が生じるのか、新たにできるようになったこと1つ1つについて、メリットとデメリットを議論しました。
例えばクレジットカードが作れるようになることについて、高校生たちは?
同意なく作れるようになっても、親が心配して反対しそう
高校生の生活に必要ないし、そもそも作ろうとは思わない
クレジットカードが作れるということはリボ払いできるってこと?お小遣い足りなくて借金して破産することも・・・
でも卒業して就職することを考えると、高校生のうちからお金の使い方の勉強にはなるかもしれない
不安もある一方で、学べることもある。じっくりと意見を交わしたことで、クレジットカードが作れること1つとっても、自分たちにとってよい面と悪い面があると気づきました。
さらに議論は6年前に「18歳以上」に引き下げられた選挙権年齢にも及びました。
多くの高校生が、若い世代が政治に関わることを肯定的に捉えていましたが、賛成意見ばかりではありません。
まだ投票したことないので早く選挙に行ってみたい
高校生でも投票できるのは、若い世代の意見を反映できるのでメリットだと思う
でも自分の周りは政治や選挙に興味ない人がほとんど。いいかげんな気持ちで投票する人が増えてよくないと思う
引き下げに賛成?反対?
最後に、成人年齢の引き下げに賛成か反対か聞かれると、賛成が15に対して反対が25。
反対が大幅に上回りました。
責任を自分でとらないといけないのは学生には荷が重い
17歳と18歳っていうのは実質的に中身は変わらない、今日から成人ですと言われても実感が持てない
大人と同じ扱いを受けていいのかという不安が大きい
戸惑いと不安の声があがった一方、今回の議論をきっかけに、少しずつ「大人になる」ことを「自分事」として考え始めた生徒もいました。
「18歳になれば新たにできるようになることについて、改めてもっと勉強したいと思いました」
「これまで意識していなかったけど、どうして成人年齢が引き下がったのか、これから家族や友達とも話し合い、知っていきたいです」
“社会全体で議論を”
高校生たちのやりとりを見守った専門家は、大人を含めた社会全体で議論を深める必要があると話します。
「成人年齢の引き下げは高校生が求めた結果ではないので、今は受け身かもしれないが、今後は自分事として主体的に考えていく必要がある。
主権者教育を進めるには、学校の授業だけではなく、日々の生活の中で、高校生たちに考えてもらう場を大人たちが継続して作っていくことが大切だ」
大人になるって何だろう
高校生たちの話し合いを聞いて、最も強く伝わってきたのは大人になることへの不安でした。
18歳になれば法律上は大人とみなされ、できることも増えますが、果たしてそれだけで「大人になった」と実感できるでしょうか。彼らの気持ちが置き去りにされたまま、制度だけが変わったようにも思えます。
高校生の彼らにとって、取材をしていた私(記者)は「大人」に見えたかもしれません。ですが、社会人1年目の私も「大人です」と胸を張って言いきる自信はありません。どうなれば「大人になった」と言えるのでしょう?答えは出ませんが、この日大人について考え、議論した経験は、間違いなく彼らの大人への一歩だったと感じます。「大人とは何か」、悩みながら話し合った問いに、高校生たちがこの先どんな答えを見つけていくのか、追いかけていきたいと思います。
松山放送局記者
竹野 帆香
令和4年入局
警察・司法担当
最近「大人になったな」と感じたのは初めて日本酒を美味しいと感じた時