2022年6月17日
コンドーム、低用量ピル、緊急避妊薬、子宮内避妊リング、妊娠検査薬。これってどんなもの?どう使うの?意外と知らないものも多いかもしれません。
そんな中、避妊などについて学べるキットができたと聞いて、開発メンバーの1人で、避妊についての啓発プロジェクトを進めている福田和子さんに話を聞かせてもらいました。
(成人年齢取材班記者 松田伸子)
避妊が学べるキットってどんなものですか?
「ポケット避妊教室」と名付けたキットで、次のようなものの実物や、実物大の写真が入っています。
- コンドーム
- コンドームの装着の練習ができる棒
- 低用量ピル
- 緊急避妊薬
- 子宮内避妊リング(IUD)
- 子宮内避妊システム(IUS)
- 妊娠検査薬
- 潤滑ゼリー
加えて、それぞれの使い方や注意点を書いた説明書、性的な行為をお互いが望んでいるか確認する性的同意のこと、性暴力を受けたときの対応などについて書いたカードも入っています。
どうして作ろうと思ったのですか?
避妊について、いろいろな方法があること、そもそも避妊は自分の体を守ることだということ、いやらしいものでも、恥ずかしいものでもないということを、偏見を持たずに知ってほしいという思いで作りました。
緊急避妊薬(※)を薬局で買えるようにすることを目指すプロジェクトを立ち上げて活動しているのですが、その中で、性の健康や適切な避妊について情報を提供していくことの必要性を感じていました。
※緊急避妊薬…性行為から72時間以内に飲むことで妊娠を防ぐ薬で、産婦人科など緊急避妊薬を扱っている医療機関を受診して処方してもらう。
「適切な情報提供ができる啓発キットを作りたい」とクラウドファンディングで寄付を募ったところ、600万円以上が集まり、今回300セットを作ることができました。学校や薬局などへ無料で配布することにしています。
避妊に関する性教育についてどう感じていますか?
避妊は、自分と相手の人生と体を守る大切なものです。ただ、学校などで教えてもらう機会は、少ないと感じています。最近では、教えている学校も出てきましたが、まだ一部です。
また、女性が「避妊をしている」と言うと、“遊んでいる、性に奔放”というイメージを持たれることも多く、避妊について学ぶということ自体、一般的にはなっていないと思います。
一方で、避妊について教えたいけど、どう教えていいかわからないという声も聞いていて、『ポケット避妊教室』の配布先を募集していたとき、応募してくれた人から「こういうものがほしかった」と言ってもらったこともありました。
避妊や性についての知識の重要性はいつ感じたのですか?
私がスウェーデンに留学しているときです。スウェーデンには、「ユースクリニック」という、性に関することも含めた幅広い若者の相談に、助産師、医師、看護師、カウンセラーなどが対応する場所がありました。
そこを訪れたとき、さまざまな避妊方法を紹介してもらい「自分の体のことを考えていて偉いね。自分に合ったものを選んでね」と声をかけてもらいました。
そのときに「避妊は恥ずかしいことではなく、自分の体を守るための大切なことなんだ」と気付きました。そして、自分の体を守ることをサポートしてくれる大人がいることで心強く、自分が尊重されていると感じることができました。また、自分を守るための選択肢がたくさんあるということに、勇気づけられました。
海外にも同じようなキットはあるのですか?
欧米では「避妊キット」という形で以前からあり、学校の授業などでよく使われています。数年前にイギリスで使われているものを取り寄せてみたこともあります。そのときから、日本でも同じようなものを作ってみたいと思っていました。
ただ、いざ日本で作ろうとすると、日本では認可されていない避妊方法も多く、キットに入れる避妊具などの種類が圧倒的に少なくなってしまいました。例えば、イギリスのキットには、体に貼る避妊シール、小さなチップを埋め込む避妊インプラント、避妊注射などが入っていましたが、日本ではいずれも認可されていません。
「避妊方法を教えるのはまだ早い」といった懸念の声もあります
UNESCO=国連教育科学文化機関は、「性教育の知識が増えるほど、性行動に慎重になる」というデータを示しています。知れば知るほど、リスクも認識して性行動が慎重になるといいます。
今は、インターネットなどで情報があふれていて、中にはリスクある性行動を誘発しかねないものもあります。そうした情報から自分の体を守るためにも、できるだけ早い時期に、避妊に対して偏見なく、避妊に関する知識を身につけてもらうことが大事だと思っています。
『ポケット避妊教室』でこだわった点はありますか?
保健室などに置いて、生徒の目に留まり、ちょっと気になって開けてもらえるようなものにしたいと思いました。そのために、ポップなデザインにして、開けたときにワクワクした気持ちになり、一目でいろんな避妊方法があることがわかるようにしました。性別や性自認にかかわらず手に取ってもらえるよう、色は緑にしています。
またキットの中には、避妊ではありませんが、妊娠検査薬と潤滑ゼリーの見本も入れました。妊娠検査薬は、心配になったときにすぐ使えるように。妊娠を望んでいないときに、妊娠検査薬を使うのはハードルが高いと思いますが、どういうものか知っていれば、手に取りやすいと思っています。妊娠の不安を抱えたまま過ごすのは苦しいですし、妊娠に気付くのが遅れないようにしてほしいと思っています。
潤滑ゼリーは、若者の中にも性行為の際に痛みを感じている女性の声を多く聞くので入れました。こうしたものを使うことは、いやらしいことでも恥ずかしいことでもないということを感じてもらえたらと思います。
どんなふうに使ってもらいたいですか?
学校の保健室などで、みんなが手に取って、実際に見て学べるものになるといいなと思います。恥ずかしいものではなく、“学ぶもの”という感覚で手に取ってほしいですね。
たとえそのときに必要がなくても、さまざまな避妊方法を知っておくことで、必要になったときに使うことができるようになると思います。緊急避妊薬も、いざというときに迷わず使えるように知識を持っていてほしいと思います。
キットと一緒に緊急避妊薬について冊子も作りました。そのタイトルは「もしものおまもり」としています。必要になったときに、自分を守ってくれるお守りのような役目を果たしてほしいという思いを込めています。
成人年齢取材班記者
松田 伸子
2008年入局
社会部を経て現在、国際部
ジェンダー問題、特に性と生殖の問題を取材
3歳の娘への「性教育」について模索中