• TOP
  • もっと知りたい
  • 成人年齢引き下げでターゲットのおそれ SNSやマッチングアプリで広がる不審なビジネス勧誘

成人年齢引き下げでターゲットのおそれ
SNSやマッチングアプリで広がる不審なビジネス勧誘

2022年5月27日

ことし4月の民法改正で、18歳・19歳の若者でも親の同意を得ずに、クレジットカードやローンなどさまざまな契約を結ぶことができるようになりました。

しかし、同時に消費者トラブルの増加も懸念されています。
若い世代には、SNSやアプリ上で、もうけ話に関する不審なメッセージも送られていて、トラブルにつながりかねない状況も起きていることが分かってきました。

最近はコロナ禍の“孤独”につけこみ、オンライン上のコミュニティーで知り合った人を勧誘するケースも見られています。
(報道番組センター ディレクター 髙野浩司)

“新成人”のSNSには…

「投資とか、副業とか、そういう勧誘のメッセージやコメントが送られてきた人いますか?」

4月中旬、都内の大学で開かれたSNSリテラシーの講義。この春、新たに成人となった18歳・19歳の学生たちが多く出席していました。

200人近くいる学生の中から、パラパラと数人の学生の手が上がりました。

都内の大学で開かれたSNSリテラシーの講義

この春に成人になったという女性に話を聞くと、SNSで多くの勧誘メッセージが届いているといいます。女性のツイッターには、不特定多数のアカウントに一斉に送られたとみられるメッセージがありました。

メッセージには、「私たちは副業者を募集しています」、「1日平均収益1万~5万円」、そして「興味があればLINEにメッセージをお願いします」と記され、相手のLINEのアカウントに誘導するリンクが添えられています。

学生に届いたメッセージ

この春に成人になった19歳の大学生
「知らない人からこんなメッセージがたくさん届くのはちょっと怖いですね。両親はSNSをあまり使っていないので、誰に相談していいのか分からず不安です」

渋谷で話を聞いた18歳の大学生

JR渋谷駅前。この春に大学生になったばかりだという18歳の女性に話を聞くことができました。

「めちゃくちゃ来てます!」

そう答えた女性のインスタグラムを見せてもらうと、「PR案件」と呼ばれるビジネス勧誘のメッセージが数多く送られていることが分かりました。

「PR案件」とは、特定の商品をSNSで紹介してくれれば、報酬や謝礼が発生するビジネスのこと。

SNSのフォロワーが多い人に依頼がよく届くといいます。

しかし、国民生活センターによると、「対象商品を購入する条件」があることを後から説明されるケースなど、契約上のトラブルの報告が相次いでいるといいます。

送られてきた「PR案件」の勧誘メッセージ

この女性は、高校生の頃からこうしたメッセージが頻繁に届いていたといいます。

18歳の女子学生
「怪しいので基本的には無視しています。それでも3日に1回はきますね。もう当たり前のようにメッセージが届くので、不安というかもう見慣れてしまいました」

国民生活センターによると、SNSに関する消費者トラブルの相談は、10代・20代だけで、昨年度およそ1万3700件に上り、その数は5年前から2.5倍以上に増えています。

コロナ禍の孤独につけこむ“マッチングアプリ勧誘”

成人年齢引き下げで、契約をめぐるリスクも高まっています。

去年、オンライン上で知り合った人から“ビジネスの勧誘”を受け、金銭トラブルに発展したという学生がNHKの取材に応じました。

都内の大学に通う男子学生のハルトさん(仮名)。

長引くコロナ禍で対面での講義が少なくなったため、親しい友人や恋人をつくることができず、孤独を感じていたといいます。

トラブルを経験した大学生のハルトさん

そうした中、出会いを求めて登録したのが「マッチングアプリ」。そこで知り合いになった、ある女性と連絡を取り合うようになりました。

ジュン(仮名)と名乗る同年代のその女性とは、ハルトさんの趣味であるアニメの話題などで盛り上がりました。そして、プライベートのLINE を交換し、チャットや通話などを繰り返した後に、実際に会うことになりました。

喫茶店でジュン(仮名)と会ったハルトさん そこで…(取材に基づく再現)

ハルトさんの証言をもとに当時の状況を再現します。

都心の駅前にある喫茶店で、ハルトさんはやってきたジュンと、家族のことや将来の夢などを互いに話しました。

話し始めて1時間ほどたったころ、ジュンは自分が所属しているサークルの写真を見せてきました。パーティーなどで盛り上がる若者達の姿が映っていて、ハルトさんにもサークルに入らないかと誘ってきました。居場所がほしかったというハルトさんは、興味を持ちました。

ジュンにサークルの責任者を紹介された(取材に基づく再現)

後日、ハルトさんはサークルの責任者と会うことになりました。

そこで責任者は、「これからの時代は資産形成が大事」と語り、投資でもうかる情報が入っているというタブレット端末を約40万円で購入するよう勧めてきました。

責任者は「自分を変えないか」とビジネスの勧誘をしてきたという(取材に基づく再現)

さらに責任者は、知人を勧誘して端末を購入してもらえれば、紹介料が得られると説明したといいます。

サークルの実態はマルチ商法を手がける組織だと感じたハルトさんは、「お金が無い」と言って断ろうとしましたが、責任者は「学生ローンでお金を借りれば大丈夫」と主張。その場で消費者金融に電話をするように促され、契約をしてしまったといいます。

ハルトさん(仮名)
「断り切れずに学生ローンを借りてしまいました。その時に、責任者が『1人暮らしで家賃が払えないと話せ』と書かれたメモを差し出してきたんです。本当は実家暮らしだったんですけど、怖くてうそをついてしまいました」

50万円ほどの借金を負うことになったハルトさん。購入したタブレット端末には、投資やビジネスを始める上での基本的な情報がありましたが、投資で勝てる具体的な戦略方法は別途有料のセミナーに参加しないと得られないと言われました。ハルトさんは、タブレット端末の購入を解約したいとサークルの責任者に申し出ましたが、お金は戻ってきませんでした。

ハルトさんは一連の対応を不審に思い、利用していたマッチングアプリをもう一度見返してみました。するとサークルの事務所で見かけたほかの女性も複数登録していたことが分かり、ハルトさんは「はめられた」と感じました。

ハルトさんはショックで大学にしばらく行けない日が続いた

ハルトさん(仮名)
「本気で出会いを求めていたのに、最初から勧誘目的だったんだと思ってショックでした。もう人が怖いです。今でも人怖いです。本当に。(他の人には)自分と同じような思いをしてほしくないっていう気持ちでいっぱいです」

未成年であれば、親の同意を得ていない契約の場合、後から取り消すことができます。しかし、ハルトさんは当時、20歳になっていたため、年齢だけを理由に契約を取り消すことはできず、泣き寝入りせざるを得ませんでした。

成人年齢は、4月から18歳に引き下げられ、18歳・19歳でも年齢を理由にした契約の取り消しはできなくなりました。契約を結ぶ際にはより注意が必要です。

勧誘された私が“勧誘する側”になるまで

取材に応じるYさん

マルチ商法などのビジネスに勧誘された若者が、今度はSNSで勧誘する立場となり、周囲にいる同世代の学生などを巻き込んでいくケースも…。

取材に応じてくれた20代の女性Yさんは、大学生だった数年前に、マルチ商法の勧誘グループで活動をしていたといいます。彼女がグループに入ったきっかけは、他の大学に通う面識の無い学生からの勧誘がきっかけでした。

ある日、Yさんのツイッターに、ある学生から「一緒にビジネスを手がけないか」という内容のメッセージが送られてきました。興味を持ったYさんは学生と連絡を取るようになり、グループで活動する同年代の女性を紹介されます。

その女性は、「ビジネスの意義」について熱心に説明。自信に満ちあふれた女性の姿に影響を受けて、次第に憧れを抱くようになったYさんは、その後、正式にグループに参加することになりました。

Yさんが参加したのは、投資や暗号資産などのビジネスを広めている若者たちのグループ。メンバーのほとんどが学生でした。Yさんは海外の法人に数十万円の投資をすれば、毎月高い配当金が得られると言われ、その投資を始めることにしました。

さらにこの案件を他人に紹介すれば、グループ内での報酬(紹介料)も得られると説明を受け、仲間と競い合うように勧誘をしていたといいます。

バイトなどでためたお金を切り崩して、高額な投資に費やしたYさん。当初は説明された通り、高い利率の配当金が毎月支払われていて、この投資は本当にもうかるものだと信じていました。

Yさんが送っていた勧誘メッセージ

Yさんはこの投資を広めてさらに報酬を得ようと、不特定多数の人にSNSで勧誘のメッセージを送ります。

ターゲットにしていたのは、自分と同じ地域に住む同年代の若者たちでした。SNSを利用している割合が高い若者たちの方が、メッセージに反応してくれる可能性が高く、その後も直接会って勧誘ができると考えたからです。

Yさんはまずツイッターで、同じエリアにある大学名が記された投稿を探しました。そして、そのアカウントにひも付いているフォロワーのほぼ全員にメッセージを送っていたといいます。

フォロワーの多くはその大学に通う学生の可能性が高く、効率的に若い世代を勧誘することができると考えていました。

Yさんの勧誘方法のイメージ

しかしYさんは、わずか数か月でこのグループを退会します。
ある日、幹部から突然「配当金が支払われなくなった」と伝えられたのです。

具体的な理由については何も説明が無く、Yさんは不信感を募らせました。グループに参加していた多くの人は、最終的に投資金を回収することができなかったといいます。

その後、そのグループは事実上解体。Yさんは、「後悔している」と振り返った上で、「今はコロナ禍でつながりが希薄な学生も多い、誰もがSNSで怪しいビジネスに勧誘されやすい状態にあるので気をつけてほしい」と話します。

学生時代に勧誘グループで活動していたYさん
「当時は、洗脳状態にあったなと思います。勧誘グループのメンバーはみなポジティブだったし、周囲のみんながやっているから大丈夫なんだと安心してしまった。狭いコミュニティーってどこか冷静な判断が損なわれてしまう可能性があると思うので、自分もそこに染まってしまっていたと感じます」

「社会人経験が無く、投資やマルチ商法ってどんなものかよく分からないというのが若者の特徴のひとつだと思うんですね。そういった点で、後から契約が取り消されるリスクがある未成年より、新たに成人となった18歳・19歳のほうが勧誘されやすいと思います。一度、勧誘に乗ってしまうと、グループから抜け出しにくく相談もしづらくなります。そうなる前に、少しでもおかしいと思ったら早めに離れることが大切だと思います」

トラブルを回避するために 対策は?

成蹊大学 高橋暁子客員教授

SNSやマッチングアプリを通じたビジネス勧誘のトラブル。
18歳に成人年齢が引き下げられた今、どのような点に注意をすればいいのでしょうか。

SNSリテラシーが専門で、成蹊大学客員教授を務める高橋暁子さんに話を聞きました。

高橋さんは去年、自身の講義を受講した学生を対象にアンケートを実施。「SNSなどを通して詐欺めいた“副業”や“投資”を見かけた」、または「引っかかった」と回答した学生は全体の35%に上ったといいます。

学生を対象にしたアンケートの一部

学生のアンケートから見えた傾向は?

高橋暁子
客員教授

昨年度の受講生のケースですが、SNSで「#春から成蹊大」というハッシュタグで近づいてきた人にビジネスの話を持ち込まれたけれど、途中でこの人は怪しい、大学生じゃないと思ったのでブロックして離れたという話を聞きました。

王道なのは、SNS経由で同じ大学の同級生のふりをして近づき、心を許したところで説明会やもうけ話に勧誘されて借金を背負わされるパターンです。それから、仲良くなった人から投資などのもうけ話に誘われる。これだけ投資をすれば大きくもうけられるよ…なんていう話を聞いて、借金を背負うパターンもあります。

成人年齢引き下げに伴う懸念は?

高橋暁子
客員教授

現状でも18~20歳ぐらいの若者の消費者トラブルは多く、さらにそれがSNS経由であるケースも非常に多いんです。

ただ、これまでは18歳・19歳は、仮に誤って契約をしてしまった場合でも、民法の“未成年者取消権”(契約を取り消すことができる権利)によって守られていました。

しかし、成人年齢の引き下げで取消権が使えなくなってしまった今は、借金を背負わされてしまったり、クレジットカードでローンをしてしまったりという学生が増えるのではないかと非常に懸念しています。

具体的にどのようなことに注意をすればいいのでしょうか?

高橋暁子
客員教授

特に新生活を始めたばかりの大学生は、一人暮らしをしていて保護者に簡単に相談ができない、それから周りに友達がいないような環境があると思います。コロナ禍では特に、そういった孤独感につけ込まれる可能性があります。

SNSを通じて同じ大学の友達を広げていこうと思った時に、投資話とか詐欺話に勧誘されてローンを組まされるケースもありますので、お金がらみの話を持ち掛けられた時は一度持ち帰って、例えば信頼できる大人にしっかり相談して、これは払ってもいいものなのかどうか、そして自分が支払えるものなのかどうかを考えて、冷静に判断することが大切だと思います。

また、SNSでは素性や身分・年齢・性別などすべて偽ることができるので、それだけで信用して個人情報を教えてしまったり、お金を出したりするようなことは決してしないようにするのも大切かと思います。

国民生活センターによりますと、SNSが使われた消費者トラブルは契約相手の特定ができず、救済が難しいケースも多いということで、まずは、トラブルに巻き込まれないことが重要です。

そのためには、
①SNSやアプリに身元が分かるような書き込みを安易にしないこと
②ネットで知り合った相手が本当に信用できるか慎重に判断することが重要だといいます。

不審な勧誘を受けたり、判断に迷ったりした時は 全国一律のホットライン「188」に相談してください。

今回の取材では、SNSのやりとりのみで相手を信用してしまい、対面で直接会うこと無く多額の契約を取り交わしてしまった…という若者のケースも耳にしました。

SNSやオンライン上でのコミュニティーはコロナ禍によってより日常化し、名前を知らない相手とのコミュニケーションも抵抗感が無く受け入れられる時代になってきています。

そうした中で、最近は「相手への信頼のハードル」も低くなってきているように感じます。学生に対する不審なビジネス勧誘の手法は日々変化してきています。悪質な契約トラブルを減らしていくためにも、リスクがどこに潜むのか、今後も注視し発信していくことが大切だと感じました。

報道番組センター ディレクター

髙野 浩司

民放記者を経て平成29年入局
令和2年から報道局・おはよう日本に所属し、SNSを中心とした情報リテラシーの分野、
東日本大震災・原発事故に関する分野などを継続的に取材