2022年4月8日

成人年齢の引き下げに伴い、裁判員に選ばれるようになる年齢も20歳から18歳に変わります。
ことしの候補者にはすでに通知が発送されているため18歳以上の人が実際に裁判員に選ばれるのは来年以降になりますが、殺人などの重大事件を高校生が裁く可能性もあるんです。
自分が高校生だったらどんな気持ちになるだろう…?
そんなことを考えていたとき「18歳成人をテーマに模擬裁判を開く高校生たちがいる」と聞いて、取材に向かいました。
(岡山放送局記者 冨士恵里佳)
“被告の人生を左右” 18歳で重い責任
2年前に記者になり、岡山へ赴任した私は警察・司法担当として裁判員裁判を取材しています。
法廷で飛び交うのは「罪状認否」や「冒頭陳述」それに「論告」といった難しい法律用語。
殺人事件の裁判で明らかにされる証拠の数々に圧倒されたり、被告や証人のことばに胸がえぐられるような気持ちになったりすることもあります。
たくさんの人々の人生が交錯する裁判に戸惑うばかりで、慣れるまでずいぶん時間がかかりました。正直なところ2年たったいまでも私にとっては難しい仕事の一つです。

模擬裁判を企画したのは岡山市の高校生、黒田琉介さん(17)です。
黒田さんが裁判に興味を持ったのは高校で所属している法律ゼミがきっかけでした。
最初は「面白そう」という軽い気持ちで入りましたが、実際に学んでみると18歳で裁判員になることの難しさを突きつけられたと打ち明けてくれました。

黒田琉介さん
「実際に裁判所に行って刑事裁判を傍聴したとき裁判員になる恐ろしさを肌で感じたんです。自分たちが出す判決が被告の人生を左右してしまう。こんな重い責任は抱えられないと感じました」
高校生として裁判員裁判にどう向き合えばいいのか。
黒田さんは「自分が所属するグループの仲間と一緒に考えたい」と思ったそうです。
“JK”が開く「18サミット」
グループの名前は“JKノート”。
JKと聞くと「女子高生?」と思う人もいるかもしれませんが、「ジャスト高校生」の略なんです。
「いままさに高校生」というメンバーたちの「やりたいことを主体的に行いたい」、「自分たちの思いを行動に移せるようになりたい」という気持ちが込められています。

岡山県内の異なる高校に通う30人あまりが活動する「JKノート」が岡山市でおととしから開いてきたのが「18サミット」という催しです。
模擬投票や消費者トラブルに関するセミナーなど、成人年齢の引き下げで何が変わり、自分たちにどのような影響が出るのかを1から学べる企画が盛りだくさん。
黒田さんは模擬裁判を通じて裁判員制度の仕組みを紹介しました。
高校生がつくる模擬裁判 “桃太郎殺人事件”
どうすれば裁判の仕組みをわかりやすく伝えられるか。
黒田さんはほかのメンバーと何日もかけて話し合った結果、岡山県にゆかりの深い昔話「桃太郎」を題材にした殺人事件を取り上げることにしました。

犬、サル、キジを従えた桃太郎が村の人たちを困らせていた鬼を倒したものの、殺人罪に問われるというオリジナルストーリーです。
黒田琉介さん
「正義のヒーローとされている桃太郎をあえて被告にすることで、高校生の興味を引きつけたいと思いました。検察と弁護側が主張するそれぞれの『正義』がぶつかり合う裁判になるので、どう判断するのが一番いいのかみんなに考えてもらいたいです」

そして、成人年齢引き下げを目前に控えた3月21日。
会場には県内外から高校生が集まりました。まず検察官役の黒田さんが桃太郎の起訴状を大きな声で読み上げます。
「複数人で話をしていた鬼に刀で切りつけるなどして3名を殺害した」
桃太郎は起訴された内容を認めましたが、弁護側は「鬼に襲われる人々を守るためにやむをえなかった。動機には情状酌量の余地がある」と主張しました。

これに対して検察官役の黒田さんは証人として呼んだ犬役の高校生に「鬼退治に行くまでの2日間何をしていたんですか?」と問いかけます。
犬役の高校生は「鬼退治の作戦会議をしていました。2人だと難しいので友達のキジとサルも連れて行こうと話しました」と証言し、検察官役の黒田さんは計画的な犯行だったと主張しました。
最後に黒田さんは「桃太郎は鬼ヶ島に行く前から細かい計画を立て、村を守るためには鬼を殺すしかないという明確な殺意を持って鬼を殺害した」と述べ、死刑を求刑しました。
一方の弁護側は「村のことを思って勇敢に行動した桃太郎さんを決して死刑にしてはいけません」と述べ、刑を軽くすべきだと訴えました。
高校生が裁判に参加 その意義は…
「死刑か」それとも「死刑回避か」。
30分にわたって繰り広げられた模擬裁判は判決を出さずに終わりました。
参加した高校生の反応は…。

参加した高校生
「裁判員制度について全く知らず参加したのですが説明もわかりやすく勉強になりました。もし裁判員に選ばれたら積極的に参加したい」

参加した高校生
「責任の重さを感じました。刑事裁判についてまずは知ることから始めようと思います。知識を増やして裁判を身近に感じられるようにしたい」
参加者に、裁判のことを「自分ごと」としてとらえてほしいと考えていた黒田さん。
被告や被害者、その家族などに1人1人が真摯に向き合うにはどうすればいいか考えながら、これからも法律を学び続けたいと話しています。

黒田琉介さん
「そもそも裁判がどんなものか知らなかった同世代の人から『これほど責任が求められるんだ』という声を聞けて、伝えたいことが伝わってよかったと思いました。法律だけにとらわれずどのような背景で犯罪が起きたのかをしっかり考えてみることが大事だと感じました」
判断を誤ることがないか、事件の内容を聞くことで精神的な負担がかかるのではないかなど、18歳で裁判員になることに不安を感じる声も聞かれます。
それでも、まずは「知る」ことから始めて、じっくりと「考え」を深めていく。
前向きに活動する高校生たちの姿を取材して、若者の考えを裁判に取り入れる意義を感じました。

岡山放送局記者
冨士 恵里佳
2020年入局
警察・司法担当
18歳選挙権やヤングケアラーを取材