18歳成人で“AV出演強要”のおそれ?
なぜいま議論に

2022年4月5日

成人年齢の引き下げで、18歳になれば「成人」として親の同意がなくてもさまざまな契約ができるようになりました。

こうした中、「アダルトビデオ(AV)の出演契約」をめぐって若者がトラブルに巻き込まれないか、懸念する声があがっています。

政府も緊急対策をまとめ、若者への教育や広報の強化、出演の強要があった場合には契約を取り消せることを周知徹底することになりました。

しかし、業界関係者や法律の専門家などに取材すると、一筋縄ではいかない難しい実情も見えてきました。
(成人年齢取材班 橋本尚樹)

AV出演への懸念広がる いったいなぜ?

成人年齢引き下げを間近に控えた3月23日。

「高校生AV出演解禁を止めてください」という衝撃的な名称の集会が開かれ、与野党の国会議員も多数参加しました。

集会を開いたのは、性暴力に関する相談や支援に取り組むNPO法人。

成人年齢の引き下げで、意に沿わないアダルトビデオの出演契約をさせられる18歳や19歳の若者が増えるおそれがあると訴えました。

AVの出演契約は、これまでも18歳以上なら本人の同意があれば可能でした。

しかし、未成年であれば、親などの同意を得ずに結んだ契約を原則、後から取り消せる「未成年者取消権」を使うことができます。

事業者側にとっては、未成年と契約を結んでも後から取り消され販売出来なくなるリスクがつきまとうため、契約を見送るところが多いということです。

しかし、これから18歳・19歳は「成人」。未成年者取消権が使えなくなるのです。

NPO法人ぱっぷす理事長 金尻カズナさん

NPO法人ぱっぷす理事長 金尻カズナさん
「未成年であれば撮影した後であっても契約取り消しの書類を送るだけでプロダクションや制作会社も基本的に応じるが、成人だとその必要はなく、“若い性”を求める動きが活発になるのではないか」

NPO法人によりますと、未成年からのAV出演に関する相談は相次いでいて、昨年度は101人の相談者のうち20人が20歳未満だったということです。

DVDとして販売される作品だけでなく、有料の動画サイトで配信されるものに関する相談も含まれているということです。

さらに、AVの出演経験がある女性などのグループも、国に対策を求める4万人近い署名を提出しました。

グループでは「巧妙な勧誘で自分の意思に反して出演契約を結ばされるケースや、経済的な事情や華やかな一面への憧れなどから出演に同意した結果、望まない契約を続けさせられることもある」などとしています。

政府も緊急対策に乗り出す

こうした声を受け、政府は出演を強要される被害を防ぐための緊急対策パッケージをまとめました。

若者への教育や広報を強化するため、高校や大学などに情報を提供するほか、SNSを使うなどして直接、若者に出演を強要する手口を周知するとしています。

関係府省庁による対策会議(3月31日)

また、出演を強要された被害者を保護するため、民法や消費者契約法などのほかの規定によって契約を取り消すこともできることを広く周知徹底するとしています。

元スカウト「嫌だったら断ればいい」

ただ、出演契約を「強要」されるケースだけではありません。

AVの元スカウトで、プロダクションも経営していたという男性に話を聞くことができました。契約の交渉で「トラブルは一度もなかった」といいます。

元スカウトの男性

元スカウトの男性
「最初は一緒にご飯を食べたりしながら相談ごとを聞いて、時間をかけて信頼関係を作る。それが“口八丁手八丁”と言われるのかもしれないが、信頼関係ができてからAVの仕事があると説明しているだけで、強要なんてしていない。嫌だったら断ってくれればよいと思っていた」

一方で、勧誘ではリスクが十分に説明されないこともあると明かしました。

元スカウトの男性
「例えば、自分の脅し文句は“今しかできないよ”。10年、20年したらできない、今だけだよと強調していた。知り合いにばれるのではという不安には、“誰かに聞かれても私じゃないと言いきればよい、自分が言わない限り絶対ばれない”と。

企業が採用のときに“うちは残業が多いです”などとマイナス面を積極的には言わないのと同じで、勧誘する時に悪いことはできるだけ言わない人が多い」

なかにはインフルエンサーや実業家となっている一部の俳優に憧れて出演を希望する人もいるといいます。

しかし男性は、名前が知られるほど成功するのは並大抵のことではないと話します。

元スカウトの男性
「自分は2000人くらい勧誘したが、“単体女優”として名前が売れた子は4人しかいない。『失敗したらどうしよう』『10年後、20年後はどうなるんだろう』という考えが一瞬でも頭をよぎった人は出演をやめたほうがいい。

両親や家族が自分のビデオを見たらどう思うか、まず、そういうことを考えた上で契約するかどうか決めてほしい」

最近はこうしたスカウトだけでなく、SNSでのやり取りをきっかけにAV業界に勧誘されるケースもあるということです。集会を開いたNPO法人に寄せられた相談事例です。

<17歳の女子高校生のケース>(NPO法人ぱっぷすに寄せられた相談事例)

・テレビに出ていた男性タレントのツイッターをフォローしたところ男性からダイレクトメッセ-ジが届き、連絡を取るようになった。

・しばらくして「直接会おう」と誘われたので会いに行くとマネージャーもいて、事務所に行った。

・男性はAVの出演経験もあり、共演しようと誘われたが女性は「AVならやめておきます」と対応。しかし後日、「芸能界全体の仕事の契約で、仕事は選べる」として、AV出演を含む契約を結ぶことに。2週間後には「AVの仕事が決まった。3本の出演で10人くらいのスタッフがすでに動いている」と連絡がきた。

・女性は出演を断り続けたが、事務所の社長から反論され最後は諦めて応じてしまった。

業界は自主規制の動き 一方“網の外”も…

業界の対応はどうなっているのでしょうか。

業界の健全化を目的としてプロダクションや制作会社などの団体で構成された「AV人権倫理機構」は、成人年齢の引き下げを前に、加盟する団体に対して「AVの出演年齢を20歳以上とすることを強く推奨する」という通達を出しました。

AV人権倫理機構の通達

AV人権倫理機構理事 河合幹雄 桐蔭横浜大学教授
「大手を見る限り、ニーズの面でも18歳・19歳を起用する必要はなく、若い女性を起用するのはごく一部だと認識している。ただ、一部であっても放っておいてよいわけではなく、“18歳解禁”だと勘違いすることがないよう業界全体に厳しい通達を出した」

ただ、法律上、契約ができる年齢に達した人と出演契約を結ぶことは禁止できないため、あくまでも自主規制にとどまるということです。

さらに、機構に加盟しない事業者も多く、対策には限界もあるといいます。

AV人権倫理機構理事 河合幹雄 桐蔭横浜大学教授
「出演契約は意思確認が最も重要で、加盟団体は確認事項を定めた契約書を使わなければならないとしている。しかし、業界の問題として、非合法な行為をする人たちがいるのも事実。我々の自主規制に従った“適正AV”よりもモザイクをかけないなど非合法なものの方が売り上げは多いのではないか」

専門家「契約にはリスクも 今後も議論を」

成人年齢引き下げに詳しい弁護士も問題の複雑さを指摘します。

神内聡弁護士

神内聡弁護士(兵庫教育大学大学院 准教授)
「契約内容と実態がまったく異なるような場合には、未成年者取消権でなくても民法の別の規定や、消費者契約法で救済することができる。

問題になるのは、みずからの意思で契約内容も理解したうえで合意し、出演したあとに後悔するようなケースだが、自分で契約できるようになるということは、自分で責任を負うということで、AV出演に限らず、あらゆる契約にはリスクがつきまとう。

そのことを社会としてわかったうえで、18歳には判断能力があるとして成人年齢を引き下げたのに、未熟だから保護するというのは整合性がないことになる」

社会科の教員として高校でも働く神内弁護士は、好奇心旺盛な若者に正しくリスクを理解させる難しさも実感しています。

契約に伴う被害やトラブルを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。

神内聡弁護士(兵庫教育大学大学院 准教授)
「難しい問題ですが、高校生で成人するので、学校で目の前にいる子がリスクを負う立場になる。その教育効果は大きいと思う。

また、実際にリスクが顕在化した今、例えば学校や家庭での教育が行き届くまで2~3年は取消権を認める経過措置を設けるなどの方法はありうる。18歳と19歳は救済されなくてよいのか、社会の責任はないのかという議論は今後も必要ではないか」

若者を守るべきと言う声と、成人としての意思決定を尊重するという矛盾を抱えながら、始まった18歳成人。今後、被害やトラブルが拡大することないか、検証を続けることも大人の責任だと思います。

成人年齢取材班記者

橋本 尚樹

2011年入局
岐阜局→名古屋局→社会部
事件や事故の取材を長く担当