2022年2月25日

「大人たちにもっと話を聞いてもらいたかった」
こう話すのは、高校時代にいじめを受けた経験がある20代の男性です。
当時のことを振り返り、こう話してくれました。
同級生に、存在を否定されるようなことを言われ、嫌がらせを受け、一時、みずからの命を絶とうとしたことさえあったといいます。
大人たちに悩みをしっかりと受けとめてもらえなかったことがショックだったとも。大人になるってどういうこと?いじめについて、詳しく聞きました。
(成人年齢取材班記者 古河美香)
松元さん(仮名)について教えて下さい
松元さん
現在20歳で、高校1年の時にいじめられた経験があります。いじめサバイバーと呼ばれることもあります。
いじめの経験について可能な範囲で教えてください
松元さん
高校1年生の5月に、突然、同級生から存在を否定されるようなことを言われました。
それを聞いた同級生たちは大爆笑をしていました。
その後も、そうしたことを言われたり、机の中にごみを入れられたり棚の中が荒らされたりと、嫌がらせをされるようになりました。
ある日突然、いじめが始まりました。
何が理由だったのかわかりません。
それが恐怖で。あの日を境にすべてが変わってしまいました。
それからは学校に行くのが嫌になって、教室に入るのが怖くなりました。
1学期はなんとかがんばって学校に行って夏休みに入るとほっとする気持ちもありました。
でも夏休みが終わりに近づくと、食欲が落ちたり、眠れなくなったりしました。
またあの日々が始まると思うと絶望感を覚えました。

教師や親の対応は?
松元さん
親にはいじめのこと、学校に行きたくないことを話しました。
でも「気にするな」「頑張れ」と励まされました。
逆に、学校に通うようにお願いされたりもしました。
親は私のことを心配してくれたのだと思います。
担任にも話しましたが、個別の指導だと松元さんが復しゅうされるおそれがあると言われ、全体での指導にとどまりました。

当時の私は学校に行くのが、ただただ恐怖でした。
そして夏休み最終日に私の異常に親が気づいて、一命をとりとめたときでさえ、なぜそのままにしといてくれなかったのかと思ったことを覚えています。
本音を言うと、どうして、いじめを受けていることを打ち明けたときにもっと話を聞いてくれなかったのか。
いじめをやめさせたり、私が前を向けるような効果的な方法を考えてくれたりしなかったのかと思いました。

学校にはいつから行けるように?
松元さん
学校にはすぐに通うようになりました。
居場所がなかったから無理をしてでも学校に行っただけです。
せめて高校は卒業したいとも思っていました。
それでも校舎に入ると、いじめの記憶や恐怖がよみがえってきました。
教室に入ることができず、保健室に行きました。
1年近く、保健室や図書室で勉強をして過ごしました。
当時は、そんな自分がなんだか情けなくて、とてもつらかったことを覚えています。

どうやって乗り越えたのですか?
松元さん
途中で別の高校の試験を受けて、転校しました。
当時、実現したい夢がありました。
映像に関係する仕事をすることです。
実現するために今の自分を変えたい。
でも、高校にはどうしても怖くて行くことができない。
それなら学校を変えるしかないと思いました。
ただ、それは目の前の現実から逃げることなんじゃないかなとも思いました。
何度も何度も自分と向き合い、答えをだしました。
親にはどのように切り出したの?
松元さん
「もう環境をかえるしかないから、別の高校に行かせてください」と頭を下げました。
最初は親には、もう少しだから今の学校でふんばってほしいというようなことを言われました。
そして、そこまで考えているのならと転校することを認めてくれました。
新しい学校はどうでしたか?
松元さん
不安はありました。
それ以上に、変わりたいという思いが強かったです。
転校先の高校では、同級生に少しでも自分のことを理解してもらおうと、前の学校での、みずからの経験を話すようにしました。
いじめを受けたこと、みずから命を絶とうとしたこと、学校に通えなくなったことを。
同級生たちはしっかりと話を聞いてくれました。
「無事に元気でいられてよかったね」と声をかけてくれました。
また、同級生の中には、いじめを受けた経験を打ち明けてくれる人もいました。
学校の先生たちも、しっかりと話を聞いてくれて、何かをやろうとすると、支えてくれました。
話を聞き、支えてくれる人がいるというのはとても大事でした。
受け入れてもらったとも感じました。
ここにいてもいいんだとも。
久しぶりに安心感がありました。
大人たちに知ってもらいたいことは?

松元さん
まず、いじめを受けている子どもの話をしっかりと聞いて下さいと言いたいです。
いじめの場合は、すぐに解決策が見つかるということはないと思います。
まずはとことん話を聞いてあげてほしい。
その子がどう感じて、どうしてほしいと思っているのかを。
そして、一緒に解決策を考えてほしいと思います。
その際も想像してもらいたいことは、周囲や大人が思う解決と、本人にとっての解決は異なることがあるということです。
そのためにも時間をかけてしっかりと話を聞いてもらいたいです。
そして、解決に向けて行動してもらいたいです。
信頼できる大人はいるんだということを示してもらいたいです。
私が乗り越えられたのも、転校先の学校で、ちゃんと話を聞いてくれて、サポートしてくれる大人や同級生たちと出会えたことです。
いじめを受けている人へメッセージはありますか?
松元さん
「ひとりで悩みを抱え込まないでください。誰かに悩みをこぼしてみませんか」ということです。必ず、どこかに話を聞いてくれる人はいると思います。
「助けて」「つらい」「話を聞いて」なんでもいいので、勇気を出して誰かに悩みを打ち明けてください。
そして、「今いる場所がすべてではありません」とも伝えたいです。
私の場合も転校をして救われました。
居場所を変えるのも1つの方法だと思います。
私は居場所を変えて、そして、転校先で仲間たちに出会えて救われました。

いじめの後遺症で、私は今も心が不安定になることがあり、薬を服用しています。
心の傷は完全に癒えたわけではありません。
それでも心の底から「生きていてよかった」と思えます。
大人には、子どもたちにとっていい世の中に、過ごしやすい世の中にしていく責任があると思っています。
私も、今、いじめを受けて悩んでいる人たちのために何かできることがないか考えて、発信し続けていきたいと思っています。
相談窓口一覧
古河記者
悩みや不安を感じたりしたら電話やチャットで気軽に相談できる窓口があります。1人で苦しまず、ぜひ話をしてみてください。
< NHKのサイトを離れます >
厚生労働省がまとめているSNSやチャットなどで相談を行なっている団体の一覧です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_sns.html
また、電話などで相談を受け付けているのは、以下の連絡先です。
24時間 子供SOSダイヤル
0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
子どもの人権110番
0120-007-110
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
チャイルドライン
0120-99-7777
https://childline.or.jp
いのちの電話の相談
0120-783-556
https://www.inochinodenwa.org

成人年齢取材班記者
古河 美香
2004年入局
長崎局のあと鹿児島局に
現在、若者や教育問題などを取材