16歳から祖父の介護「大人になるのが不安」

2022年2月10日

「不安というか、見放された感じがします…」

こう話すのは高校2年生の女子生徒です。

ことし4月から成人年齢が引き下げられることについて尋ねると、こう答えました。

学校に通いながら、祖父の介護を担う、いわゆる「ヤングケアラー」と呼ばれる若者です。

大人になることについて、将来について、聞きました。
(成人年齢取材班記者 大西咲)

ことねさん(仮名)について教えてください

ことねさん
16歳の高校2年生です。

母と妹、それに認知症の祖父の4人で暮らしています。

母はシングルマザーで家計を支えるために働いています。母がいない時間は主に私が介護をしています。

介護をするようになったのは去年6月ごろからです。

祖父が転倒しひとりで歩くことが難しくなり、車いすが必要になったことがきっかけです。

まだ介護を担うようになって8か月あまりですが、休みがないのでとにかく疲れます。

心も体も疲れがたまってきたのか、最近はよく体調を崩すようになりました。

学校を休んだり遅刻したりするようになりました。

介護の内容について教えて下さい

ことねさん
祖父は認知症のせいか、自分はまだ健康で1人で歩くことができると思っています。

しかし実際は、それは難しく転倒する可能性もあるため、常に見守りが必要です。

また排泄のための動作が難しいようで、祖父のズボンを下ろしたりお尻を拭いたりと、トイレの介助をしています。

祖父は念のため、おむつも着けていますがその着替えもしています。

デイサービスも利用していますが、デイサービスに行く時には、着替えなど荷物の準備をしたり、迎えの車に車いすを乗せたりしています。

車いすは、かなり重さがあるので、持ち上げたり降ろしたりするのは大変です。

高校生で介護を担っていることについては?

ことねさん
母が働いているので私がやらないとほかにできる人はいません。当たり前という感覚だと思います。

それに祖父のことは大好きですし、いやいややっているわけではありません。家族の介護をしなければならない状況になってそれが高校生の時だったという感じです。

介護をしていて悩みはありますか?

ことねさん
祖父は認知症の影響か、何度も同じことを聞いてきて、それにすごくイライラして、当たってしまう時があります。

「さっき言ったよ!」などと強い口調で言っては、直後に後悔するということの繰り返しです。

祖父は忘れたくて忘れているわけじゃないのになって。本当は分かっているけど、自分自身も疲れていると、そういう言葉が出てしまいます。

学校と介護の両立は大変ですよね

ことねさん
そうですね。学校にはなるべく通いたいと頑張っていますが、体力的にも精神的にもきつくなって休んだり遅刻したりすることもあります。

何かあってというよりは介護は毎日のことなので、疲れやストレスがどんどん蓄積されていく感じです。

学校で友だちと話していてもボーとしてしまったり、笑おうとしてもうまく笑えなくなったり。

常に何かに追われているというかいっぱいいっぱいというか、感情さえも少なくなっている気もします。

最近は慢性的に頭痛もするようになって体調を崩しがちです。

どういうときに大変だと感じますか

ことねさん
友だちと遊ぶ約束をしていたのにいけなかったときです。

友だちとはなかなか遊べなくなりました。それが一番つらいです。

介護のことを友だちに相談したりしますか?

ことねさん
友だちには、自分が介護をしているという話はしたことがありません。

言っても、みんな経験したことがないから、大変さとか分からないだろうなみたいな感じで。

「なんで学校来ないの?」と聞かれることはありますが、その理由は言えず、「お腹が痛い」などと嘘を言ってごまかしています。

本当は大変さを理解してほしい、理解してもらえたら嬉しいなと思いますが、なんとなく理解してもらえなさそうな気がします。

ヤングケアラーと呼ばれることについては?

ことねさん
学校の先生に祖父の介護をすることについて話をした時に、「ヤングケアラー」ということばを知りました。私のこと「ヤングケアラー」というんだと。

そういう風に呼ばれることについてあまり考えたことはありませんが、なんとなく「普通」とは違うと言われているような気がして、複雑な気持ちです。

自分で思う分にはなんともないんですが、人から言われると「あなたは普通じゃない」と言われている気がして、少し嫌な感じがするのかもしれません。

どうやって息抜きを?

ことねさん
「家にいたくないな」と思う時はあります。そんな時は、放課後に景色がきれいな海や夕焼けが見える場所に行って、ひとりになるとリセットできる気がしています。

外に行けない時は、帰宅後誰とも話さずひとりで部屋にこもります。

好きな音楽を聴いたりユーチューブを見たりして、自分の中で気分転換できるようにしています。少しでも気持ちを切り替えることが大事だと思っています。

今の私にとっては、この時間が一番大事かも知れません。祖父に優しく接するためにも。

18歳から大人、どう思いますか?

ことねさん
最初聞いたときに「どうして急に?」と思いました。私の場合は来年早々に、成人になってしまいます。

まだ2年あると思っていたのに突然、大人になると言われて、不安というか、なんだか見放されたような感じにもなりました。

なぜ、見放されたと?

ことねさん
高校生、未成年というのはある程度、守られている存在だと思います。

私自身は学校と介護の両立は大変で疲れることも押しつぶされそうになることもたくさんあります。

それでもまだ未成年、高校生なので、「許される」「守られてる」部分があると思います。

それが成人、大人になると、突然、責任が大きくなる感じがします。

特に祖父の介護の部分で。大人、成人なんだから、やって当然とか、しっかりやらないと、と言われてるような気がします。

直接、誰かに言われるわけではなくても、「もう大人なんだから」「成人なのに」と自分自身で思ってしまうかも知れません。

いまでもいっぱいいっぱいなのに、これ以上、責任が大きくなると思うと本当に不安です。

不安ですよね…

ことねさん
特に、祖父の介護に関する部分が心配です。
成人になると自分自身の判断で契約ができるようになってしまいます。

私は介護制度について詳しく知っているわけではありません。だから悪質な業者などから「祖父のためになるから」と言われ、よくわからずに契約してしまうのではないかという不安もあります。

私自身のことでもよくわからずに契約してしまうのではないかという不安が大きいです。

責任が大きくなるというのは、本来はうれしいことなのかもしれませんが、今の私にとては重荷です。

大人に求めることは?

ことねさん
家族の介護をしていたり病気を患っていたり経済的な困難を抱えていたりするなど、今の生活でもいっぱいいっぱいな若者は少なくないと思います。

ただでさえ余裕のない状況の若者たちに「大人になったんだから」と責任を求めるだけではなく、安心して成人の仲間入りができるよう、サポートをする環境や体制をつくってもらえたらいいなと思っています。

そういう若者がいるということを想像、前提にしてもらうだけでも、変わってくると思います。

私の場合は、介護の契約に関することについて悩んだり迷ったりしたら、相談にのってもらえるような、行政の窓口などがあるといいなと思います。

将来については?大人になるって?

ことねさん
北海道の大学で学びたいと考えていました。でも、祖父の介護が始まり、母や妹を残して家を離れることはできないと思うようになり、北海道に行くことは諦めざるを得ないと思っています。

祖父ともなるべく一緒にいたいという気持ちもあります。今は家から通える学校を考えています。

それと、学校の授業の一環ではあるのですが、ヤングケアラーの人たちが集まれる場所を作ろうと思っています。

同じ経験をしているからこそ話せることがあると思うし、友だちなどに話せない分、みんな同じようにたまっている思いがあるんじゃないかと思います。

また場を作るだけではなく、どうしたら話しやすくなるか、色々頑張って考えていけたらなと思います。

リンク

ヤングケアラー座談会に参加 ことねさんの関連記事はこちらからご覧ください。
『ヤングケアラー座談会 VR空間で話してみた “ことねさん”』

成人年齢取材班記者

大西 咲

2014年入局
熊本局、福岡局を経て現在、さいたま局
介護福祉分野を中心に取材