大人にこそ知ってほしい「性」のこと

2022年2月4日

「妊娠や避妊、生理など性の基本的なことを知らない大人はたくさんいる」

こう話すのは、性教育ユーチューバーで助産師のシオリーヌさんです。

「性の話をもっと気軽にオープンに」を掲げ、性に関する動画をユーチューブで配信していて、その動画は若者を中心に注目を集めています。

そして、だからこそ「若者にも大人にもちゃんと性について知った上で、話してもらいたい」とも。大人になるってどういうこと、性のことについて、詳しく聞きました。
(成人年齢取材班記者 松田伸子)

松田
記者

シオリーヌさんについて教えてください。

シオリーヌさん

性教育ユーチューバーで助産師です。動画では、生理痛や性的同意、避妊など学校や家庭では話しにくい話題をテーマごとにまとめ、わかりやすいことばで発信することを心がけています。

シオリーヌさんの動画
シオリーヌさん

ユーチューブのチャンネルには16万人以上が登録してくれていて、若者や保護者の方も見てくれています。

また、学校などでも性教育についての講演活動も行っています。

松田
記者

どうして性教育動画を制作・発信しようと思ったんですか?

シオリーヌさん

私自身が助産師になるため看護学校で学んでいた時に、妊娠や避妊など体の仕組みや性に関して、初めて知ることがとても多くて、実はもっと早く知っておくべき知識だったのではとさえ感じました。

また助産師として働く中で、病院で出会った女性たちの中には、妊娠や出産などの状況になって、はじめて自分の体のこと、性の基本的なことなどを知るという人も多くいました。

オンラインで取材
シオリーヌさん

予期せず妊娠したり避妊方法を詳しく知らなかったりする人も少なくありませんでした。

こうした経験もあり、女性たちがみずからのライフプランをたてて、それにあった選択ができるように、特に若い人たちに向けて性に関する情報を届けていくことが大切だと思っています。

松田
記者

若者に動画が注目されている理由は何ですか?

シオリーヌさん

性のことをちゃんと学ぶ機会が少ないことがあると思います。

ちゃんと教えてくれる大人が少ないということもあるのかもしれません。

学校でも性教育は教えていますが、私たちの時代とあまり変わっていなくって、生徒たちの知りたいことにきちんとこたえられていないのかと。

動画で妊娠の仕組みについて説明
シオリーヌさん

熱心に取り組んでいる学校や先生もいらっしゃいますが、まだまだ少ない感じがします。

学校や親など大人のなかには、責任が持てるようになるまでは性的な行為はしないほうがいいとか、そういう事に関心を持たないほうがいいという考え方の人が少なくない、もしくは一般的なのかなとも思います。

性的なことは、大人になるにつれて自然と学ぶことなんだという考え方なのかもしれません。

では、誰がいつ、ちゃんと教えてくれるのかというと、実は自分のことを振り返ってみてもそういう機会はほとんどありません。

なので、大人になっても、実は妊娠や避妊、生理など性についての基本的なことについて、ちゃんとした知識がない人が多いのだと思います。

若い人たちからすると、誰も教えてくれないので私の動画でということなのかなと。

松田
記者

特にどういう動画がよく見られているんですか?

シオリーヌさん

基本的なもの、具体的なものがよく見られています。たとえば、コンドームの正しい装着のしかたを解説した動画(2月上旬時点で再生回数は410万回超)とか妊娠の仕組みを解説した動画(2月上旬時点で120万回超)、それにピルについて、マスターベーションをする時に気をつけることなどといったものです。

シオリーヌさん

大人からよく「自分の事を大切にしてね」と言われることがあります。

でも自分を大切に、大事にするということがどういうことなのかや、具体的な方法については学校や家庭などではあまり教えてもらえません。

若い人たちは、具体的な性の知識や、実際に心配、不安になる問題に直面したときに、具体的にどうすればいいのか、どういう行動をとればいいのかということをもっと知りたがっているし、そういう情報をほしがっているのだと思います。

松田
記者

大人はどうすればいいのでしょうか?

シオリーヌさん

大人は子どものことが心配だから情報を隠しておきたいと思ったり、学生のうちはそんなことしなくてもいいと思ったりしがちですが、決めるのは彼ら彼女ら自身です。

性行為を経験しないことを前提にした性教育だけでは若者の心や体は守れないと思っています。

彼ら彼女らがその意思決定をする際に必要な情報を、本人たちが理解できるようにきちんと提供したり、相談相手としてしっかり寄り添ったりするということが大人の役割であり責任であると思います。

そのためには大人がまず性についてしっかりとした知識を身につけ、隠すのではなく、オープンに話していくということがとても大事になると思います。

動画でおすすめの漫画を紹介
シオリーヌさん

そして、性教育や性に関する正しい知識を身につけることがとても大切だということにまだ気付けていない若い人たちに、さまざまな形でアプローチをして、関心をもってもらうように努力をする必要があるとも思っています。

松田
記者

“性行為の経験があれば大人?”と悩む若者にアドバイスは?

シオリーヌさん

「童貞ってはずかしいでしょうか?」
「まだ性行為を経験してません。いけないことですか?」という質問が、学校のオンライン講演の質問コーナーで寄せられたりします。

こうした質問は本当によく寄せられます。

童貞とからかわれたり、性行為を経験していないことをプレッシャーに感じたりする若い人が少なくないのだと思います。

性行為の経験があれば大人という雰囲気があるという声が寄せられることもあります。

性行為を経験したとかしないとか、そういう意思決定に対して、他人がとやかくいうことじゃないということも性教育でしっかりと伝える必要があると思います。

松田
記者

大人になるってどういうことですか?

シオリーヌさん

性行為を経験したから大人とか、大人になったから性行為を経験するということはまったくないと思います。

したいと思う人は、健康かつ安全にする方法を知った上で、当然、相手も同じ気持ちでいてくれるのならばしてもいいのかと。逆に、したくない人はいくつになってもしない権利があると思います。

私が若い人や子どもたちに一番知ってもらいたいことは、あなたの体とあなたの人生、それにあなたのことはあなたにしか決められないということです。

シオリーヌさん

そして、あなたの権利は誰にも侵害されてはいけないものだし、それを奪おうとする人からは離れるべきだということ。その上で、自分の人生を選んでいきましょうと。

そのためには性教育はとても大切だと思います。

性に関する正しい知識を身につけるとともに、今度はその知識をより若い人たちに積極的に語っていくことも大切になると思います。

成人年齢取材班記者

松田 伸子

2008年入局
社会部を経て現在、国際部
ジェンダー問題、特に性と生殖の問題を取材
3歳の娘への「性教育」について模索中