大人でも、、マイナスからのスタート

2022年1月31日

「借金生活の始まり」

ことし4月から成人年齢が引き下げられることについて尋ねると、19歳の女子大学生はこう答えました。

地方出身の彼女は奨学金を借りて都内の大学に通っています。奨学金で大学に通う学生は全国で100万人以上。

コロナ禍で学費や生活費の捻出のために厳しい生活を余儀なくされている学生も少なくありません。大人になることについて、将来について、聞きました。
(成人年齢取材班記者 小倉真依)

さくらさん(仮名)について教えてください

さくらさん
19歳の大学2年生です。都内の大学に通っています。おととし4月に上京し1人暮らしをしています。

コロナの影響で親の収入が減っていることもあり、仕送りは受け取っていません。家賃や学費、それに生活費は貸与奨学金とアルバイトで捻出しています。

生活はギリギリで厳しいです。基本、自炊して食費を節約したり、化粧品や洋服も高いものは買わないようにしたりしています。

大学の授業や資格取得のための勉強時間を確保するために、アルバイトはシフト制で勤務の融通が利くところにしました。現在は、週4~5日、ガールズバーで働いています。

学業とアルバイトの両立は大変では?

さくらさん
親には負担をかけたくないので、アルバイトをしながら大学に通うしかありません。

毎月15万円は稼がないと生活していけません。家賃と学費あわせて13万円。残り2万円で生活費や交通費などをやりくりしています。

学業とバイトの両立で、睡眠時間が短くなってしまい体力的にも精神的にもきついことはありますが、授業はこれまでのところ休まずに、単位はちゃんと取っています。

授業の合間やバイトの休憩時間などを使って、課題をこなしています。

将来のために資格を取得したいのですが、勉強時間を確保するのは難しいです。

正直、時間もお金ももっとあればなと思います。

ほかの学生の状況は?

さくらさん
アルバイト先や大学の友だちの中にも、奨学金を借りて大学に通っている子はいます。

奨学金を借りている子は、私のように地方出身が多いなと感じています。

みんな、私と同じように家賃や学費を捻出するためにアルバイトをしています。

実家に住んでいる東京出身の学生と比べると、お金や時間の使い方について価値観が違うなと感じてしまうこともあります。

大学の授業が終わったあと、遊びに出かける友だちを見ていると、羨ましいと感じることもありました。でも、それはしかたがないことだと思っています。

奨学金についてどう思う?

さくらさん
借金ですよね。私の場合は貸与奨学金なので。

ただ奨学金がないと大学に通えないので、借りるしかありません。

今回、記者さんに給付型の奨学金が支給されるなどの国の「修学支援新制度」というものがあることも聞きましたが、学校などから説明がなかったこともあり、私自身は知りませんでした。知らない学生はほかにもいると思います。

奨学金は将来の選択肢を増やす投資なのでプラスにはなりますが、一方で、返済で大変な思いをしている人の声も聞いています。

大学を卒業したあとに奨学金の返済が始まるので、就職できても、マイナスからのスタートですよね。

これから10年以上かけて、毎月返済していかなければならないというプレッシャーがあります。

返済期間と結婚や出産期間が重なり、子育てでお金がかかるときに、奨学金を返し続けなければならないかと思うと不安です。

返済のため、収入が安定している企業に就職したり、公務員になりたいと思っています。

成人年齢が18歳に引き下げられますが?

さくらさん
高校に通っている18歳というのは大学などに進学するタイミングですよね。

私のように奨学金を借りる、借金生活が始まる、という人も少なくないと思います。

親の同意がなくてもできることが増える一方、18歳はまだ未熟な部分もあると思います。そうした中でも、背負わされる責任が大きくなるように感じます。

大人になってやってみたいことは?

さくらさん
親の同意がなくてもクレジットカードをつくることができるようになるといいますが、私の場合は、奨学金を返済していかないといけないので、カードを作っていろいろと物を買ってしまったり、お金を借りたりすることはしたくないです。

これ以上、借金が増えるのが怖いんです。

将来の返済額を少しでも減らすために、いまはどんなに生活が苦しくても、奨学金を限度額いっぱいまで借りず、アルバイト代を学費の一部に充てています。 とにかく奨学金をできるだけ早く返済したいです。

奨学金の返済、生活困難に悩む若者は?

若者の労働や貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」で、ボランティアとして活動する、大学4年生の岩本菜々さん(22歳)は次のように話してくれました。

岩本菜々さん

岩本さん
奨学金を借りて、アルバイトで家賃や学費を捻出している学生は少なくありません。コロナ禍で親やアルバイトの収入が減り、アパートの退去や退学を迫られている人もいます。

それに、大学を卒業したあと、奨学金の返済に苦しんでいる20代や30代も少なくありません。

返済のために、ブラック企業で働いていても辞められず、体調を崩すまで追い詰められている人もいます。

奨学金を借りて大学に通っている若者たちは、そうした厳しい現実を知っているだけに、大人になることに不安を感じていると思います。

どうにか生き延びるために、安定した生活を手に入れなければならないというプレッシャーを感じていると思います。

18歳から大人、どう思いますか?

岩本さん
クレジットカードをつくったり、ローンを組んだりできるようになって、自己決定できるようになるのはいいことだと思います。

一方で、親に頼らずに生きていこうとしたら、例えば学校に行くためには借金するしかないとか、就きたい仕事につけないという壁にぶつかることもあると思います。

「あなたは、きょうから大人だから」と言われても、自分のやりたいことをやりたいように自己決定できる環境には今の社会はなっていないと思います。

それに、多額の借金をしたり、悪質商法の被害にあったりしても「自己責任」だといって突き放されてしまうのではないかという懸念もあります。

新成人に伝えたいこと

岩本さん
私自身も、お金や時間に余裕があってNPOの活動をしているわけではなく、たまたまやれているだけで、不安定な状況にいるのはみなさんと同じです。

岩本さんたちの活動

これから私たちが生きていく社会は、ある意味すごく厳しいものだと思います。

だけど、将来に期待できないからこそ、自分らしく生きられる社会をつくっていけるチャンスがあるし、つらいとき、しんどいとき、みんなで声をあげていこうよとも思っています。私たちは、無力な存在じゃないと思っています。

ネットワーク報道部記者

小倉 真依

2007年入局
鳥取局、大阪局、盛岡局、首都圏局を経て現所属。
教育や人権などをテーマに取材