貿易摩擦激化 これまでの経緯を振り返る

世界の2大経済大国、アメリカと中国。 両国の貿易摩擦がいっそう深刻な局面を迎えている。

対中貿易赤字やアメリカの技術流出を問題視するトランプ大統領は、中国製品への関税を一気に25%にまで引き上げることを決め、報復措置も辞さないとする中国側との間で緊張が高まりを見せているのだ。(国際部取材班)

トランプ大統領 怒る

トランプ大統領は「中国が約束を破った」と連呼

8日、フロリダ州での演説でトランプ大統領は9日の米中の貿易交渉を前に「関税を課すのは、中国が合意を守らなかったからだ」と中国の姿勢を厳しく批判した。

トランプ政権は中国からの2000億ドルの輸入品に対する10%の関税を10日に25%へ引き上げると官報で通知した。

「中国が我々の労働者をだまし、我々の技術を盗むのをやめるまで、引き下がらない」(トランプ大統領)

摩擦のいきさつ

中国 山東省の青島港

「米中貿易戦争」とも表現される対立が始まったのは去年3月。 トランプ政権が中国から輸入される鉄鋼製品やアルミニウムが不当に安いとして10%から25%の関税を上乗せする措置を発動したのだ。

7月になると、トランプ政権は中国がアメリカ企業の高い技術を不当に手に入れて知的財産権を侵害しているとして、新たな制裁を次々と実施。中国からの輸入のほぼ半分にあたる2500億ドル分の中国製品に関税を上乗せした。

中国も黙っていない。
報復措置を繰り出し、アメリカからの輸入品の70%以上にあたる1100億ドル分のアメリカ製品に関税を上乗せ。

2大経済大国が際限なく対立をエスカレートさせる事態に、世界が震撼した。

和解への動き

左からアメリカのライトハイザー通商代表、ムニューシン財務長官、中国の劉鶴副首相(5月1日・北京)

潮目が変わったのは去年12月。
アルゼンチンで行われたトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談で、摩擦の激化を避けることで一致。
アメリカは中国製品への関税引き上げの一時見送りを決めた。

両首脳は、中国による
▼強制的な技術の移転
▼知的財産権の侵害
▼国有企業を過剰に優遇する補助金などについて交渉を始めることでも合意。

貿易摩擦解消に向かうかに思われたが・・・(2018年12月1日・アルゼンチン)

中国の劉鶴副首相とアメリカのライトハイザー通商代表が北京とワシントンを行き来する形で、交渉を続けた。

この間、中国側は、アメリカの農産物などの輸入拡大を約束したほか、中国で活動する外国企業に技術の移転を強制することを禁止する法律を成立させ、譲歩の動きを見せた。

トランプ大統領は「交渉は順調だ」と、繰り返し強調し習主席との首脳会談を開いて交渉を決着させることにも意欲を見せていた。

1年以上にわたる米中貿易摩擦が解消に向かうのではないかという期待感が世界に広がっていた。

急転直下

ところが今月5日、アメリカ側が態度を一変。
トランプ大統領はツイッターで中国の交渉姿勢に不満を示し、10日を期限に2000億ドル分の輸入品の関税を25%に引き上げると表明した。
アメリカのメディアは、アメリカ企業への技術移転の強制をめぐって中国側が、アメリカに約束した内容を急に撤回したためと伝えている。

中国商務省報道官の会見(5月9日)

一方、中国側も「アメリカが実際に関税を引き上げたら、必要な反撃措置を取らざるを得ない」と報復措置の実施を示唆し、やはり関税引き上げに踏み切るとみられる。

IMF=国際通貨基金は、アメリカが中国からのすべての輸入品に関税を課した場合、アメリカのGDP=国内総生産は、最大で0.6%、中国も最大で1.5%減少する可能性があるとしている。

米中の対立が深刻化すれば、日本や世界への影響も避けられない。