渦中のファーウェイ 創業者に迫る
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いま世界で最も注目を集めている中国企業といえば、通信機器大手の「ファーウェイ」だろう。副会長の逮捕や、次世代通信方式「5G」の一部市場からの締め出しなど、米中対立の象徴的な存在となりつつある。そのファーウェイの創業者、任正非CEO(74)が日本メディアのインタビューに初めて応じるとともに、広東省・深セン※の本社などを公開した。渦中の創業者は何を語るのか、取材に向かった。(広州支局記者 馬場健夫)
※センは「土」へんに「川」
突然の電話
「任正非が取材を受けます」。
ファーウェイの広報担当者から電話があった時は耳を疑った。任CEOといえば、中国メディアにもほとんど登場せず、謎に包まれた存在だ。孟晩舟副会長が詐欺の疑いでカナダで逮捕されたうえ、安全保障上のリスクがあるとして、アメリカなどで製品が締め出されているファーウェイ。国際社会に懸念が広がる中、取材に応じることで理解を得ようという焦りを感じた。
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1月17、18日に行われた取材で驚いたのは本社の広さだ。面積は東京ドーム42個分の200万平方メートル。1987年、任CEOが仲間6人で、電話交換機の代理販売から始めたファーウェイは、いまや世界170か国以上で事業を展開する、従業員18万人の巨大企業に成長。「5G」の開発で存在感を高め、国家戦略「中国製造2025」をけん引する役割も担っている。
ファーウェイ生産方式?
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案内されたのは、スマートフォンの工場だ。自動化が進む生産ラインで、28.5秒に1台のペースで製造している。
目についたのが、壁に貼られた「改善(KAIZEN)」の文字だ。従業員による改善事例が紹介され、日本の「トヨタ生産方式」が参考にされていた。担当者はトヨタの工場を見学したことがあり、今では独自に「ファーウェイ生産方式」と呼んでいるという。日本の生産技術がファーウェイの躍進に一役買っているようだが、呼び方には違和感を覚えた。
研究拠点はまるでテーマパーク
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本社と離れた場所に建設中の「研究開発拠点」は、まるでテーマパークのようだ。フランスのパリやイタリアのベローナなど、ヨーロッパの12都市を再現。洋風の建物が建ち並び、モダンな外装の電車まで走っている。
デザインは日本の設計会社が担当し、年内に完成予定だという。ファーウェイでは8万人が研究開発に携わり、研究開発費は日本円で1兆5509億円(2017年)と、トヨタの約1.5倍だ。
壮大なスケールの拠点からは、ファーウェイが技術開発を重視する姿勢がかいま見えた。
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その拠点の池で休んでいたのが「ブラックスワン」ともいわれるコクチョウ。ブラックスワンには「想定外の衝撃的な事態」といった意味合いがあるため、「従業員に危機感を持って仕事をしてほしい」と、オーストラリアから輸入して飼っているという。
湖面に浮かぶコクチョウの姿は、今のファーウェイの立場を示唆しているようにも感じた。
謎に包まれた創業者登場
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最後に案内された洋風の迎賓館に、笑顔で登場したのが任正非CEOだ。
記者対応に慣れていないせいか、控えの女性幹部が回答が書かれた数十枚のカードを時折見せていたのが印象的だった。
内陸部・貴州省の農村出身の任CEOは、大学で建築を学び、インフラ建設の技術者として人民解放軍に入ったが、人員削減のため部門が解散。その後、退職金などを投じて43歳で起業したのがファーウェイだ。
中国メディアなどによると、仕事に厳しい一方、読書が趣味で、1人で過ごすのを好み、友達は少ないという。
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任CEOは、アメリカなどで製品を締め出す動きが広がっていることについて、「これまで重大な事件や事故が起きていないことが、製品の安全性を証明している。推測ではなく証拠を示すべきだ。われわれの製品を買わないのは少数の国で、多くの国々は買っている。5Gなど世界で最良の通信設備はわれわれの製品であり、買わない国は今後、立ち遅れるだろう」と述べた。
先進国の市場から締め出されつつある現状へのいらだちが感じ取れた。
そして、同じ中国の通信機器メーカー「ZTE」が、アメリカの制裁で部品供給を止められ、一時、操業停止に追い込まれたことについては、「(同様の措置を取られれば)影響はあるだろうが、大きくはない。本当にそうなれば自分たちで代替品を作らなければならないが、アメリカにとっては不利な状況になるだろう」と、けん制した。
スパイ疑惑にどう答える
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さらに軍出身の任CEOは、中国政府や軍と関係が深いと指摘する声もある。
中国では一昨年、「国家情報法」が施行され、「いかなる組織、個人も法に基づき国の情報活動に協力する義務がある」と規定されている。国の情報提供の要請に応じなければ違法となるため、製品が中国によるスパイ行為に利用されるのではないかと懸念されているのだ。
これについて任CEOは「これまで政府から指示されたことはない。私は共産党員であり、祖国を愛し、党を支持している。しかし、顧客の利益が第一という会社の価値観を守れなければ、会社は存在できなくなる。私はたとえ起訴されたとしても、情報を提供して顧客の利益を害することは決してしない」と弁解した。
『晩舟、早く帰ってきて』
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熱弁を振るう任CEOが話しぶりを変えたのが、娘である孟副会長の逮捕に触れた時だ。
任CEOは「逮捕を聞いた時は驚いた。かわいそうに思った。すでに司法プロセスに入っており、その中で解決されるだろう」と述べ、表情を曇らせた。
社内の喫茶店で使われている紙コップには「灯台は待っている。晩舟が早く帰ってくるのを」という詩が書かれていた。父親の心境が反映されているようにも感じた。
このほか任CEOが強調したのが、日本との取り引き拡大の意向だ。ファーウェイと日本の関係は、深い。経団連に加盟し、日本企業から多くの原材料や部品を購入している。
任CEOは、ことしの調達額を、去年より20%多い8700億円分に増やす見通しを示した。日本の政府調達では事実上、製品を排除する動きが進んでいるが、任CEOは「日本政府の要求を理解し、今後も企業によいサービスを提供したい」と述べた。
そして中国でも人気の日本の歌謡曲「北国の春」が好きで、「豚骨ラーメンがお気に入り」とも話すなど、親日ぶりをアピールしていた。
疑念の払拭には至らず
今回、任CEOへのインタビューで浮き彫りになったのは、認識のズレだ。
ファーウェイ側は「ないものをないとは証明できない」、「セキュリティー対策は万全にしている」と、再三強調するものの、国際社会が不安視しているのは、共産党や国家の利益が最優先される中国に情報インフラを握られることのリスクだ。
経営者として潔白を証明したいという意気込みは伝わってきたが、疑念の払拭には至らなかったと感じる。
任CEOは今後について、「みずからを頼りに奮闘し、辛抱強く説明していく」と述べた。米中の対立が激しさを増す中、メディアに姿を現した任CEOが、次にどのような手を打つのか、目が離せない。
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馬場 健夫
平成19年入局
秋田局、名古屋局をへて国際部
現在は広州駐在