出口のない米中摩擦 ~ 一時休戦は「演出」?

アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席。

南米アルゼンチンで12月1日、1年ぶりに直接、向き合って会談しました。

焦点は、もちろん米中貿易摩擦。
会談が決裂して摩擦がさらに激しくなってしまうのか。それとも、ここでいったん歩み寄ることができるのか、世界が注目しました。

夕食を食べながら2時間半におよんだ会談で、2人は「一時休戦」を決めました。
最悪の事態は回避しましたが、米中は出口のない対立に入ってしまったことが、むしろはっきりしたように思います。 (国際部 布施谷博人)

やられたらやりかえす

中国製品への25%関税の大統領令にサイン 2018年3月

ことし3月に始まった米中の貿易摩擦。
仕掛けたのはアメリカ。
中国産の鉄鋼製品などに高い関税をかけました。

これに中国はすかさず報復。
アメリカ産の豚肉などに関税をかけました。

そこから互いに関税をかけあう応酬に突入し、アメリカはハイテク部品や電器製品。中国は大豆や牛肉に関税をかけあいました。
その結果、アメリカは中国からの輸入品のほぼ半分にあたる2500億ドルの製品に関税をかけています。
中国はアメリカからの輸入品の70%にあたる1100億ドルに関税をかけています。

さらに、アメリカは来年1月に関税のさらなる引き上げを計画。
中国からの2000億ドルの輸入品の税率を今の10%から25%に引き上げる予定でした。

米中のけんか 世界も迷惑

世界1、2の経済大国がけんかをすれば、世界全体の貿易の落ち込みや、モノの値上がりをもたらします。

OECD=経済協力開発機構は、米中の摩擦のせいで、ことしの世界経済の成長率は、すでに0.1%から0.2%下振れし、成長が鈍っていると警告していました。
関税がさらに引き上げられれば、もっと打撃は大きくなるところでした。
アメリカが追加の制裁に、踏み切るのか、それとも見送るのか。世界中が会談の行方をかたずを飲んで見守りました。

アメリカ:しょうがない。関税はいったん見送るよ

来年1月の関税の引き上げ。
アメリカが一時、見送ることにしました。
中国の声をくんで歩み寄り、「一時休戦」にしたのです。

関税を上げて迷惑するのは、結局、アメリカの国民や企業だ、という焦りもあったと思います。アメリカの人たちは、すでに関税が上乗せされた、中国製の冷蔵庫や掃除機、カバンなどを買わなければならなくなっています。

同じように中国の人たちも、中国政府が関税を上乗せした豚肉、大豆を食べなければなりません。

中国:お礼にたくさんモノ買いますので

一方の中国。アメリカから農産物、エネルギー、工業製品などいろいろ買って、アメリカの貿易赤字を減らしますと約束しました。 中国からアメリカへの大きな「おみやげ」です。

ムニューシン財務長官は、後日、メディアのインタビューで、中国から1兆2000億ドル、日本円でなんと136兆円規模のアメリカ製品を買うという提案があったことを明らかにしました。
何年間で買うのか、など具体的なところはわかりませんが、中国に対するアメリカの貿易赤字は、年間3700億ドルです。かなりの「おみやげ」なのは間違いありません。

トランプ大統領は、声明を出して、「両国の無限の可能性を引き出すことができる、すばらしく生産的な会合だった」と自賛しました。また、中国側は、王毅外相らが現地で記者会見を開いて成果を公表。中国が、会談の直後に会見するのは、めったにありません。どちらも会談は「成功」したとアピールしました。

90日の一時休戦期間

ただ、それをそのまま受け入れることはできません。
今回の合意の核心は、これです。

「知的財産権の侵害やサイバー攻撃について協議開始。90日以内に合意できなければ、アメリカは関税を25%に引き上げる」

アメリカは、中国が国家ぐるみでスパイ行為やサイバー攻撃を仕掛け、アメリカの技術を不当に手に入れていると主張してきました。もちろん中国は「そんなことはしていない」というスタンスです。その中国を交渉のテーブルに引きずり出して、今後、対応策を話し合うことで合意したのです。

しかも、90日以内に、中国側が、きちんと対策しなければ、アメリカは関税の引き上げを復活させるという「おどし」も盛り込んだのです。

会談のあとトランプ大統領は、得意のツイッターに何度も投稿して、中国に対応を迫っています。

12月4日には「合意できないときは忘れないでほしい、私はタリフマン(関税の男)だ」と書き込み、協議がまとまらなければちゅうちょなく関税を引き上げると、念を押しました。

一時休戦、真実は先送り

しかし、90日という短い期間で本当に結論を出せるのでしょうか?。

相当、難しいことだと思います。

中国は、アメリカをはじめ世界から最先端の技術を吸収し、さらなる経済成長を目指しています。
ハイテク分野などで世界トップの製造強国を目指す「中国製造2025」という産業政策も打ち出しています。
中国にしてみれば、アメリカの主張は、国家戦略そのものを批判、撤回させようとしていると映ります。おいそれと譲歩できるわけがありません。

結局、今回の結果は、「一時休戦」ではなくて、問題の「一時先送り」だという見方もあります。90日後の来年2月下旬、米中が、再び、同じような緊張状態に陥るだけなのかもしれません。

米中の対立は貿易だけにとどまらず、経済・軍事両面に及んでいます。悲観的な見方をすれば、米中は出口のない対立に入ってしまったことが、むしろはっきりしたように思います。