米朝首脳会談US-North Korea summit

ベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談では、非核化の措置と、その見返りをめぐって合意に至らず、両者の立場の違いが浮き彫りになりました。互いに協議は続けていく姿勢を示しているものの、先行きは不透明で、今後の交渉は難航することが予想されます。この先、北朝鮮の非核化は本当に前進するのでしょうか?

首脳会談終了〜『非核化に合意せず』の衝撃

トランプ大統領とキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長は、当初、午後4時ごろに会談の合意内容について署名式を、午後6時すぎに記者会見を行う予定だった。
しかし、突然の予定の変更。
1時間半以上も時間を繰り上げ、ポンペイオ国務長官を引き連れて、会見場に現れたトランプ大統領に笑顔はなかった…。
記者会見でのトランプ大統領とポンペイオ長官の発言のポイントは以下のとおり。

(トランプ大統領)
■北朝鮮とは、建設的な議論ができたと思うが、私もポンペイオ国務長官も現時点で何かの文書にサインすることは、適切ではないと思った。

■キム・ジョンウン委員長は、かなりのやり手で、おもしろい性格の持ち主だ。今回の交渉で、良い関係は維持しているが、いくつかの選択肢のうちのどれかを取るということはしない決断をした。交渉が今後どうなるかは分からないが、とても興味深い2日間を過ごした。とても生産的な時間だったが、時には、(合意から)立ち去る判断も必要で、今回はそうしたということだ。

(ポンペイオ国務長官)
■チームで交渉を進めてきて、交渉はだいぶ進展したが、アメリカにとって意味ある内容には至らなかった。キム委員長にもっと努力するように言ったが、彼にその準備がないことがわかった。しかし、今後については楽観的な見通しを持っている。

(トランプ大統領)
■北朝鮮はすべての制裁の解除を求めてきた。でも、それはできない。北朝鮮は、我々が求めた施設の一部の解体について容認したが、我々は(それと引き換えに)すべての制裁の解除の要求を飲むことはできなかった。だから今回は席を離れるしかなかった。我々が解体を求めた施設の一部については受け入れたが、すべての施設では合意できなかった。

■(キム委員長はいくつかの核兵器を維持したいと言われているが、アメリカとしてそれを容認するのか?)そのことについては、具体的に回答したくない。彼には、我々とは違う独自のビジョンがある。1年前よりさらに我々の距離は近づいているが、今回は交渉の席から離れることにした。

■キム委員長は、昨夜、ミサイルと核兵器の実験はしないと私に約束した。彼が約束を守ってくれると信じている。今後も交渉を続ける。

■日本の安倍首相や、韓国のムン・ジェイン大統領にはまだ連絡していないが、この問題がまだ交渉の途中であり、きょう合意することは適切ではないと判断したと伝えたい。

■コーエン氏の公聴会での証言については、忙しかったのですべてを聞くことはできなかった。ただ彼はそこで多くのうそをついた一方で、ロシアとの共謀がなかったということだけはうそをつかなかった。1つだけうそをつかなかったのは興味深かった。その点はたいしたものだと思った。

■会談を途中でやめた時、雰囲気はとても友好的だった。帰り際にお互い握手をかわし、お互いに温かい気持ちでその場を後にした。このままこの温かい気持ちが続くことを祈っている。

■我々は北朝鮮の核開発問題を解決できる特別な時代にいる。この問題は、私が生み出した問題ではなく、過去何代もの大統領が解決できなかった問題だ。

■どのような交渉ごとでも、席を立つ備えをしなくてはいけない。もしこの内容で合意したら、みなさん批判するでしょう?今日も何らかの合意をしようと思えばできたが、それは適切ではなかったし、私は性急な判断ではなく、正しい判断をしたいと思った。

■非核化という単語については、多くの人が何を意味するのか理解していないが、私にとってはとても単純で、核兵器をなくすことだ。

■北朝鮮に対する制裁は、多くの国と協力してやっていることを忘れてはいけない。国連とも、ロシア、中国、韓国や日本も一緒にやっている。こうしたパートナーと築き上げてきた信頼を傷つけることはやりたくない。

■北朝鮮から、ニョンビョンの核施設解体については了解を得られたが、その見返りとしてすべての制裁解除を求めてきた。しかし、いろいろ議論した結果、ニョンビョンの核施設の解体だけでは、合意することはできなかった。なぜなら、まだ一般には明らかにされていない核施設も存在しているからだ。

■北朝鮮に経済的に発展してほしいので、制裁を早く解除してあげたいと思っているが、北朝鮮ももっと努力しないといけない。

(ポンペイオ国務長官)
■核施設の解体の日程や方法などについても満足いく交渉ができなかった。そのほかにも(現在完成している)ミサイルや弾頭などさまざまな要素について合意にいたらなかった。

(トランプ大統領)
■(「完全かつ検証可能で後戻りできない非核化」にまだこだわっているのか?)それは、今後の交渉があるので、具体的に言いたくないが、北朝鮮にも多くをあきらめてもらわないといけないし、交渉の中でアメリカが譲歩する部分もある。

■アメリカは北朝鮮を経済的に支援する準備があるし、国際社会にも準備がある。日本、韓国、中国だって協力してくれるだろう。

■今中国とも(貿易)交渉を進めているが、私は交渉を打ち切ることも辞さないし、中国との交渉についても、今回同様、合意をしないこともありうる。

■北朝鮮との関係において中国は協力的だ。しかし同時に北朝鮮は、誰の言いなりにもならない。キム委員長はとても強い人間で、独力でとてもすごいことを成し遂げている。

■キム委員長との次の会談について、確約していない。

■韓国軍との合同軍事演習を(前回の会談の際に)とりやめたのは、たくさんのお金がかかるからだ。韓国のような裕福な国のためにアメリカが多額の出費をして演習をするのは不公平だと思ったからだ。

■北朝鮮で拘束され帰国した後に亡くなったアメリカ人大学生のオットー・ワームビアさんについては、最悪のことだったが、キム委員長がそれを望んで起こしたことだとは思わない。収容所は、とても過酷な場所で、キム委員長が逐一状況を把握していたとは思わない。彼はこの件をとても残念がっていた。この件についてはよく知っていたが、それはあとで知ったようだ。

■北朝鮮の査察については、簡単にできる。もし査察をするとすれば、スケジュールのめども立てており、とても簡単にできる。

■日本と貿易協議を始めた。日本とはとても不公平な貿易が続いている。交渉でアメリカにとっていいディールができるだろう。

■北朝鮮との次の会談については、いつやるのか分からない。すぐにやるかもしれないし、しばらくやらないかもしれない。

■北朝鮮にはすでに強力な制裁が科せられていて、今後さらに強化するかどうかについては、発言を控えたい。北朝鮮にはすばらしい人材がたくさんいて、国民には生活がある。キム委員長のことをよく知るようになって、私の態度は変わった。

北朝鮮外相・外務次官会見「キム委員長は意欲なくすかも」

北朝鮮のリ・ヨンホ外相とチェ・ソニ外務次官は、1日未明に記者会見を開きました。
米朝首脳会談のあと、アメリカのトランプ大統領が「北朝鮮が制裁の全面的な解除を求めた」と述べたことに反論したほか、会談でのやり取りを受けて「キム・ジョンウン(金正恩)委員長は今後、意欲を失うのではないか」という発言まで飛び出しました。

以下、リ外相とチェ次官の発言全文です

(リ・ヨンホ外相)
今回、2回目の朝米首脳会談の結果に対するわれわれの立場をお知らせします。質問は受けません。

朝米両首脳は、今回、すばらしい忍耐力と自制力をもって、2日間にかけて真剣な会談を行いました。
われわれは去年6月、シンガポールでの1回目の朝米首脳会談で共通認識として、信頼醸成と段階的解決の原則に従って今回の会談で現実的な提案を提起しました。

アメリカが国連制裁の一部、すなわち民需経済と特に人民生活に支障を来す項目の制裁を解除すれば、われわれは、ニョンビョン(寧辺)のプルトニウムとウランを含んだすべての核物質生産施設をアメリカの専門家の立ち会いのもとで、両国の技術者が共同作業で永久的に完全に廃棄するということです。

われわれが要求したのは、全面的な制裁解除でなく、一部の解除、具体的には国連の制裁決議、合わせて11件のうち、2016年から17年までに採択された5件、その中で民需経済と人民生活に支障を来す項目だけ、まず解除せよということです。

これは朝米両国間の現在の信頼基準でみるとき、現段階でわれわれができる最も大きい非核化措置です。われわれが非核化措置に出るにあたり、より重要なのは本来、安全の担保という問題ですが、アメリカにとっては、軍事分野での措置を取ることは、まだ負担だとみて、部分的な制裁解除を相応の措置として提起するものです。

今回の会談で、われわれはアメリカが感じる懸念を減らすために核実験と長距離ロケット発射実験を永久に中止するという確約も、文書の形で表記することも表明しました。

この程度の信頼醸成段階をへれば、今後、非核化の過程はさらに速く前進できるでしょう。

しかし、会談の過程で、アメリカ側はニョンビョンの核施設廃棄措置のほかに、もう1つやらなければならないと最後まで主張し、したがってアメリカが私たちの提案を受け入れる準備ができていないということが明白になりました。

現段階でわれわれの提案より、よい合意がなされることができるのかというと、この場で申し上げるのは難しい。 このような機会が再び訪れるのも難しいかもしれません。

完全な非核化への道のりには、必ずこのような最初の段階行程が不可避であり、われわれが出した最良の方案が実現される過程を必ずへなければならないでしょう。 われわれのこのような原則的立場は、少しも変わることがなく、今後、アメリカ側が交渉を再び提起してくる場合にもわれわれの方案は変わりありません。以上です。

(チェ・ソニ外務次官)
ニョンビョンのすべての施設を、アメリカの専門家の立ち会いのもと永久に廃棄することについて歴史的にこれまでにない提案をしました。 その代わりにわれわれがアメリカに要求したのは、さきほど明らかにしたように、民生用、民需用の制裁5件の解除でした。

アメリカが提案を受け入れないのは千載一遇の機会を逃したと私は思います。
われわれが提案した5件の制裁決議において、軍需用(の制裁解除)について、われわれは要求しませんでした。

しかし、人民生活に関する項目についての制裁解除を要求しました。2016年から採択された対朝鮮制裁決議は6件あります。

このなかで(安保理決議)2270号、2375号など5つありますがこれらについて100%ではなく民生にかかわるものだけ、解除を要求しました。
われわれが提案したのは、ニョンビョンにある施設全体の永久廃棄です。これを実行する際にはアメリカの専門家が来て立ち会うということになります。

今回、私が首脳会談を横で見ながら、国務委員長同志(キム委員長)がアメリカ式のやり方について理解が難しいご様子だったのではないかと感じました。

過去にはなかったニョンビョンの核施設を丸ごと廃棄するという提案をしたにもかかわらず、部分的な制裁解除も難しいというアメリカの反応をみて、国務委員長同志は今後の朝米の交渉に意欲を失われるのではないかと感じました。

次の会談について決まっていることはありません。

私が1つ強調したいのは、アメリカのヘッカー博士がニョンビョンにある濃縮ウラン工場を訪問したことがあります。
こうした工場も、巨大な濃縮ウラン工場を含んだすべての核施設も含めて、永久に廃棄するという提案をしましたが、アメリカ側の回答、反応がありませんでした。

今後、こういう機会が、アメリカ側に設けられるかはお答え申し上げにくいです。

<国連安全保障理事会の制裁決議 これまでの経緯>

国連の安全保障理事会は、核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返してきた北朝鮮に対して、2006年以降、制裁決議を採択し、核・ミサイル開発につながる取り引きを外国とできないように圧力を強めてきました。

このうちリ・ヨンホ外相がアメリカ側に制裁の解除を要求したと明らかにした2016年以降の決議では外貨稼ぎの柱となってきた輸出品が対象となり、北朝鮮経済に大きな影響を与えているとみられます。

▼2016年3月に採択された決議は、石炭や鉄鉱石に輸入制限をかけるなど、これまでになかった分野の制裁が初めて盛り込まれました。

▼2016年11月の決議では、北朝鮮から各国が輸入する石炭の量をそれまでの半分以下に制限しました。

▼2017年8月に採択された決議は、北朝鮮の外貨稼ぎの中心である石炭、鉄、鉄鉱石、それに海産物の輸入を上限や例外を設けることなく一切、禁止しました。このとき、アメリカのトランプ大統領は、「単独では、北朝鮮に対する過去最大の経済制裁で、10億ドル以上の損失を与える」と強調しました。

▼2017年の9月には、北朝鮮からの繊維製品の輸入に加え、北朝鮮の出稼ぎ労働者に各国が新規の就労許可を与えることも禁じる決議が採択されました。

▼2017年11月に採択された決議は、北朝鮮への石油精製品の輸出制限が盛り込まれ、一連の制裁の影響で、2017年の北朝鮮の輸出額は前年より40%近く少なくなりました。

米国務省高官発言 北朝鮮側会見を受けてのアメリカ側主張

2回目の米朝首脳会談で合意に至らなかった理由について、アメリカ国務省の高官が1日、同行記者に語った。
この高官は、北朝鮮がニョンビョンの核施設の廃棄に応じる代わりに、「事実上、武器を除くすべての制裁の解除を要求した」と述べ、非核化の進め方をめぐり、米朝のあいだの主張が大きく隔たっていることを明らかにした。
国務省高官の発言を詳しくまとめた。

<冒頭発言>
トランプ大統領が会見で話したとおり、キム・ジョンウン(金正恩)委員長とすばらしい会談ができた。生産的・建設的で、多くの分野で前進があり、両首脳にとって価値のある会談だった。

一連の交渉で北朝鮮は、非核化の措置を取るには制裁の解除が必要だと主張した。トランプ大統領が話したように、北朝鮮は事実上、すべての制裁の解除を要求した。 北朝鮮のリ・ヨンホ外相は会見で彼らの立場を明らかにした。
ここで私ははっきり確認しておくが、北朝鮮がここ数週間、実務協議で要求してきたのは、2016年3月以降に科された国連安全保障理事会の制裁を解除することだった。

※以下、記者との質疑応答のポイント

「北朝鮮が求めたのは、武器を除くすべての制裁の解除」
・アメリカは実務協議で北朝鮮にどの制裁の解除を求めるのか聞いた。国連安保理決議の制裁対象には、金属、原料、輸送手段、海産物、石炭の輸出、原油や石油精製品の輸入が含まれる。
・北朝鮮が求めてきたのは、大量破壊兵器の技術や装置に直接関わるものを除く、2016年3月16日以降に科された事実上、すべての制裁の解除だ。
・それらを独自に計算してみたところ、何十億ドルにものぼった。アメリカは詳しく検討した結果、受け入れられないと伝えた。
・問題なのは、北朝鮮がいまのところ大量破壊兵器の計画を完全に凍結する気がないことだ。制裁の解除で多額の資金を与えることは、北朝鮮の大量破壊兵器の開発を助けることにつながる。

「北朝鮮が廃棄に応じるとしたのは、ニョンビョンの一部の施設だけ」
・制裁を解除する代わりに北朝鮮が提案したのが、ニョンビョンの一部の核施設の廃棄だ。ニョンビョンは1990年代の初めから北朝鮮の核兵器開発計画の中心に位置づけられてきた重要施設だ。ニョンビョンには、数多くの施設があり、それらをつまびらかにすることが重要だが、北朝鮮はニョンビョンの施設の全容を正確に定義することに抵抗した。
・トランプ大統領は会談で、キム委員長にもっと踏み込むよう求め、アメリカ側も踏み込む準備ができていた。合意には至らなかったが、議論の中では、ニョンビョンの詳しい状況など、これまでわからなかったことを知ることができた。これは北朝鮮の大量破壊兵器の計画を解体するためには非常に重要なことだ。
・ニョンビョンの施設の廃棄は新しい提案ではない。北朝鮮は去年9月19日の南北首脳会談でも取り上げたが、それはニョンビョンにある施設の一部でしかない。詳しくは言えないが、ニョンビョンの施設は3平方マイル(7.7平方キロ)に及び、300を超える施設からなり、それらすべてが北朝鮮の核兵器計画に関わっている。
・商業用の原子力発電については議論していない。

「ニョンビョン以外は詳しく述べない」
(記者)ニョンビョン以外の施設についても話し合ったか?
・両首脳はよい議論ができたが、詳しくは述べない。

「実務協議にアメリカ側は16人の各分野の専門家が参加した」
・実務協議の北朝鮮代表団は5人からなり、アジア太平洋平和委員会や、キム委員長直属の国務委員会のメンバーらだ。
・アメリカ側代表団には、国際法、核燃料サイクル、ミサイル、経済制裁の専門家や、経済学者など16人が参加した。われわれはいかなる提案についても評価を行う準備をしていたし、実際に非常に真剣に評価を行った。その結果、提案を受け入れなかった。

「求めているのは実験停止ではなく、核兵器そのものについての議論だ」
・北朝鮮は実験を停止したのだから、すべての制裁は解除されるべきだという主張を聞いたことがあるかもしれないが、実験は核兵器開発のプロセスの一部に過ぎない。兵器の実験ではなく、既に存在する核兵器そのものを議論のテーブルに載せなければならない。当然ICBMは議論の中心をなすべきだ。

「今後も協議を続ける」
・北朝鮮と議論したいと思っていたことが議論できた。
・アメリカは協議を続ける用意がある。けさの北朝鮮の国営メディアの伝え方を見て、心強く思った。協議を続ける余地は十分にあると感じている。
・トランプ大統領とキム委員長は個人的な関係を築き、お互いに成果を期待できると信じている。アメリカは北朝鮮側の準備が整いしだい、さらに協議を行うことを楽しみにしている。
アメリカが交渉で求めているのは、北朝鮮の最終的かつ完全に検証された非核化だ。実現までにはまだやることがたくさんある。