【詳しく】中国軍 台湾周辺海域で軍事演習“頼政権への圧力”

中国軍は23日から2日間、台湾や台湾の離島の周辺で軍事演習を開始したと発表しました。

台湾の頼清徳総統は20日の就任演説で「台湾は中国の一部だ」とする中国の主張を否定していました。今回の演習について、中国外務省の報道官は「台湾独立を求める勢力は中国の完全な統一という歴史の流れの前にひどい目にあうだろう」と述べ「1つの中国」の原則を認めない台湾の頼清徳政権を強いことばで非難しました。

23日の動きを詳しくお伝えしています。

中国軍 台湾周辺海域で軍事演習開始 頼政権へ圧力強化

中国軍で台湾を含む東シナ海などを管轄する東部戦区は日本時間の23日午前8時45分から台湾の北部と南部、それに東部の、台湾をほぼ取り囲む海域や、台湾の離島の金門島などの周辺で軍事演習を開始したと発表しました。

東部戦区によりますと、軍事演習は24日までの2日間行われます。演習の内容については、日本時間の23日 午後5時時点の発表で、海や陸への攻撃や潜水艦に対応する訓練などを続けるとともに、部隊が連携して攻撃する実戦的な能力を検証するとしています。

中国外務省 報道官「台湾独立を求める勢力はひどい目に」

中国外務省の汪文斌報道官は23日の記者会見で、台湾周辺で中国軍が始めた軍事演習について国際法や国際的な慣行にのっとったものだとした上で「国家主権と領土の一体性を守る中国人民の決意は揺るぎない。台湾独立を求める勢力は中国の完全な統一という歴史の流れの前にひどい目にあうだろう」と述べ、「1つの中国」の原則を認めない台湾の頼清徳政権を非難しました。

その上で「アメリカに対し、台湾独立勢力を容認し、中国の内政に干渉することをやめるよう求める。国家主権と領土の一体性に危害を加えるいかなる行為も中国の強力な反撃に遭うだろう」と述べ、台湾への武器支援などを続けるアメリカを名指しでけん制しました。

さらに「台湾独立勢力が波風を立てるたびに、中国と国際社会は『1つの中国』の原則を守る力を強めていく」と述べ、今後も台湾への圧力を強めていく可能性を示唆しました。

◇台湾 頼総統 20日の就任演説の発言は

台湾 頼清徳 総統

今月20日の就任演説で、頼総統は「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」などと述べ「台湾は中国の一部だ」とする中国の主張を否定していて、中国はこれに反発するとともに、頼政権への軍事的な圧力を強めています。

中国軍“軍事演習を行う範囲の地図”SNSで発表

中国軍はSNSで軍事演習を行う範囲だとする地図を発表しました。地図には台湾本島を取り囲むように赤い太い線で囲んだ区域が5つ示されています。また、中国大陸に近接した台湾の離島の金門島や馬祖島などの周辺は、矢印の付いた赤い点線で囲まれています。

中国軍“午前の軍事演習の現場”映像投稿

中国軍の東部戦区は中国のSNSに「きょう午前の軍事演習の現場」だとして映像を投稿しました。1分余りの映像には、中国軍の艦船が海上を航行したり船内で乗組員が慌ただしく移動したりする様子や戦闘機にパイロットが乗り込む様子などがうつっています。

ただ、撮影された詳しい場所や時間などは明らかにしていません。

この映像について国営の中国中央テレビも日本時間の23日午後1時すぎ、軍の軍事演習を伝えるニュースで放送しました。中国中央テレビは複数の艦船が編隊を組み台湾本島周辺の海域に向かったほか、数十機の戦闘機が出動し予定の空域に向かったなどと伝えています。

台湾 海巡署が中国軍艦艇の画像公開

台湾の沿岸警備を担当する海巡署は、台湾の離島に近い海域で撮影したとする中国軍のフリゲート艦の映像と写真を公開しました。
日本時間の23日 午後1時すぎ、東シナ海にある離島、彭佳嶼の北西の沖およそ44キロ付近を航行していた台湾の巡視船から撮影したということです。巡視船が退去を求め、フリゲート艦はすでに進路を変えて台湾側の水域から離れたということです。

中国軍直属の専門家「民進党当局への打撃となる」

中国国営の中央テレビは、今回の軍事演習のねらいについて、軍直属の国防大学の専門家の分析を伝えました。
このうち、台湾本島の北部周辺での演習については「台北にある政治と軍事の重要目標に対する威嚇だけでなく、民進党当局への打撃となる」としています。

また、南部周辺での演習については、与党・民進党の支持者が南部に多いとされていることを念頭に「『台湾独立』勢力の本拠地に政治的に大きな痛手を与えられる」と指摘しています。その上で台湾南部には貿易などで重要な高雄港があり、台湾の経済や貿易に打撃を与えることもできるなどとしています。

そして、東部周辺での演習については、太平洋に面していることから「台湾のエネルギー輸入の生命線や『台湾独立』勢力が海外に逃亡するルート、それに、アメリカなどによる支援ルートを絶つ上で重要だ」としています。

《台湾側 反応》

台湾 頼総統が海軍陸戦隊の部隊を激励

3日前に就任したばかりの台湾の頼清徳総統は23日、海兵隊にあたる海軍陸戦隊の部隊を訪問して、激励しました。

頼総統が訪問したのは、台湾北部の桃園に駐屯する海軍陸戦隊の部隊です。この部隊は、総統府などがある台北やその周辺地域の防衛を担当しています。頼総統はまず、台湾が自主開発した無人機や対戦車ロケットなどの装備の性能などについて説明を受けました。

3日前に就任した頼総統が軍の部隊を視察するのは初めてで、訓示では、みずからそのことに触れながら「私は軍を信じているし、諸君ひとりひとりが持ち場をしっかりと守り、国の安全を守っていることに感謝する。国民の皆さんにも安心してほしい」と、隊員らを激励しました。

今回の訪問は、中国軍が台湾周辺での軍事演習の開始を発表する前から予定されていて、演習について直接には言及しませんでしたが「国際社会は、民主主義の台湾に非常に注目している。外からの挑戦と脅威に直面しながらも、われわれは自由と民主主義の価値、地域の平和と安定を守り続ける」と述べました。

台湾国防部「理性がない挑発」遺憾の意を表明

中国側の発表について、台湾国防部は「理性がない挑発、地域の平和と安定を破壊する行動だ」として「遺憾」の意を示しました。
さらに「口実を設けて軍事演習を行うことは、台湾海峡の平和と安定に役立たないうえ、横暴な本質をはっきりと浮かび上がらせている」と中国軍を非難しました。

台湾 総統府「一方的な軍事挑発は遺憾」

台湾の総統府の報道官もコメントを発表しました。
「中国が一方的に軍事挑発を行い、台湾の民主主義と自由、および地域の平和で安定した現状を脅かすのを目にするのは遺憾だ。地域の平和と安定の維持は台湾海峡両岸の共通の責任と目標であるというのが総統府の一貫した立場だ」としています。
また、台湾の市民に対しては「国家安全チームと軍は、演習の状況を全面的に把握している。安心してほしい」と呼びかけました。

台北市民「攻めてくることはない」

中国軍の演習発表があったのは、ちょうど台湾の朝の通勤時間帯でしたが、台北市内のオフィス街は人も車もいつもどおり通行していて、ふだんの平日と変わった様子はありませんでした。

中国軍の発表について、44歳の女性は「演習をしたければすればいいですよ。本当に攻めてくることはないでしょう」と話していました。

26歳の男性は「一種のデモンストレーションだと思います。私たち一般人はいつもどおり出勤するだけで、全体的には大きな影響はないでしょう」と話していました。

《日本の反応》

林官房長官「推移注視し外交努力続ける」

林官房長官は23日 午後の記者会見で「関連の動静について政府として強い関心を持って注視しており、中国側にはわが国の懸念を伝達した。台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決されることを期待する」と述べました。その上で「台湾海峡の平和と安定の重要性を中国側に直接しっかりと伝え、アメリカをはじめとする同盟国や同志国と緊密に連携しながら、各国共通の立場として明確に発信することが重要だ。両岸関係の推移をしっかりと注視し外交努力を続けていく」と述べました。

沖縄県 玉城知事「情報収集し状況を注視していきたい」

沖縄県の玉城知事は23日午前11時ごろ、県庁でNHKの取材に応じ「台湾の頼総統の就任式にあわせて中国が演習に出たのではないかと思うが、情報収集にあたり、状況を注視していきたい」と述べました。

沖縄 石垣島住民「平和であってほしい」

中国軍の演習について、台湾からおよそ270キロの距離にある沖縄県の石垣島では「話し合いで解決してほしい」とか「平和であってほしい」などと、これ以上、緊張が高まらないことを願う声が相次いで聞かれました。

60代の地元の男性は「解決するのは難しいかもしれないが、仲良く、平和であってほしいと思う。争いごとをなくして1日1日、平和を続けてほしい」と話していました。

両親が台湾出身の60代の男性は「中国はプライドもあり脅かしてやろうと演習をしたのだと思うし、台湾の人に聞いてもみんな“台湾有事”が起きることはあり得ないと思っている。お互いがどこかで妥協することが大事で、話し合いで解決し、戦争が起きないことが一番です」と話していました。

軍事専門家「台湾独立の動きと捉え“懲罰”と強い表現」

笹川平和財団 小原凡司 上席フェロー

今回の台湾周辺での軍事演習について中国の軍事情勢に詳しい笹川平和財団の小原凡司上席フェローは「頼総統の就任演説での中国と台湾、あたかも2国が存在するというような表現に対する反応だ。台湾独立の動きだと捉えて懲罰だと強い表現を使っている」と述べました。

そして今回の軍事演習のねらいについては「中国軍が、台湾を封鎖する海上封鎖・航空封鎖を行える能力を誇示するものだ」と分析しました。また、これに先だって、中国軍が訓練を行っていたとした上で「ある程度、準備ができたところで大規模な演習として開始したところを見ると、突然こういった演習を開始して、より相手に対する圧力を強める効果もねらったのではないか」と述べました。

そして「東部戦区の発表によれば実弾演習などを伴わない、複雑な演習ではないということになっている。中国としては台湾に対する懲罰は見せなければならないということと、アメリカや日本との緊張を過度に高めたくないという思いもあるように見受けられる」と述べ、今後の軍事演習の動向を慎重に見極める必要があると指摘しました。

《中国軍 台湾周辺での過去の演習》

米ペロシ下院議長が台湾訪問(2022年8月)

【2022年8月】
当時のアメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことへの対抗措置として、中国軍は、台湾を取り囲むようにあわせて6か所の海域と空域で軍事演習を行いました。この演習は当初の日程から延長され、7日間にわたって続きました。
この演習では、中国軍が発射した弾道ミサイルの一部が日本のEEZ=排他的経済水域の内側に落下し、日本政府が中国に抗議しました。また、ペロシ氏の台湾訪問のあと、中国軍機が台湾海峡の「中間線」を越えて台湾側の空域に入る飛行を常態化させるなど、中国は台湾に対する軍事的な圧力を強めました。

台湾 蔡英文総統が米下院議長と会談(2023年4月)

【2023年4月】
いずれも当時の台湾の蔡英文総統とアメリカのマッカーシー下院議長が会談した対抗措置として、中国軍は台湾周辺で3日間にわたって、パトロールと軍事演習を行いました。
この演習には、中国軍では2隻目で、国産としては初めての空母「山東」も参加して空母から艦載機が飛び立つとする映像などが公開されました。

台湾 頼清徳 副総統が米訪問(2023年8月)

【2023年8月】
今の頼清徳総統が副総統として南米のパラグアイを訪問した際、アメリカを経由したのにあわせて台湾周辺でパトロールと軍事演習を行いました。中国軍は、この時の演習の日程については当日、1日だけ発表しています。
このほか、中国は、アメリカの議員団の台湾訪問への対抗措置だとして台湾周辺で軍事演習を行うなど、台湾への軍事的圧力を強めています。