体操 パリ五輪代表 岡慎之助 萱和磨など内定 橋本含む5人で

パリオリンピックの代表選考を兼ねた体操のNHK杯は大会最終日の19日、男子の2日目の競技が行われ、20歳の岡慎之助選手が初優勝を果たしました。
2位の萱和磨選手、それに団体総合での貢献が期待される杉野正尭選手谷川航選手とともに新たにパリオリンピックの代表に内定しました。
男子は、エースの橋本大輝選手がすでに代表に内定していて、これで代表の5人が出そろいました。

記事後半では代表に内定した5人の特徴などを詳しく紹介しています。

体操NHK杯の男子 パリ五輪代表をかけた戦いのもようはNHKプラスで配信中↓↓↓(2024年5月26日まで)

体操のNHK杯は4月の全日本選手権の得点を持ち点に男女ともに2日間の演技で争われました。

このうち男子は
▽すでに内定しているエースの橋本大輝選手を除く個人総合の上位2人と
▽団体総合で得点に貢献できる2人の合わせて4人が、
パリオリンピックの代表に内定します。19日は男子の2日目の競技が行われ、右手の中指を痛めた橋本選手は大会を棄権し、エース不在の争いとなりました。

1日目を終えてトップに立った20歳の岡選手は、落下が続いている2種目目のあん馬でミスが出て12.466と得点を伸ばせませず、2位の萱選手に0.3余りまで迫られました。

それでも、続くつり輪では、力を入れてきた取り組んできた「中水平」を力強くこなすと、着地を完璧に止めて14.366と立て直しました。

5種目目、得意の平行棒ではつま先まで伸びた美しい倒立姿勢を見せるなど、14.466をマークして一度もトップをゆずることく最終種目の鉄棒を迎えました。

NHK杯 初優勝の岡慎之助 選手

鉄棒でもコールマンなどの手放し技を成功させると最後の着地まで完璧に決め、全日本選手権との合計得点を342.727として初優勝を果たし、初めてのオリンピック代表に内定しました。

2位は持ち味の安定感を発揮し、5種目で14点台をマークした萱選手で、岡選手とともにパリオリンピックの代表に内定しました。

このほか、得意のあん馬と鉄棒でともに高得点をマークした杉野正尭選手、得意の跳馬で世界最高難度の大技「リ・セグァン2」を決めて15.433の高得点をマークした谷川航選手が団体総合で貢献が期待されるとして、代表に内定しました。

これで、男子の代表は5人が出そろい、2大会ぶりの団体金メダルの奪還を目指します。

《男子 結果》

▽1.岡 慎之助 342.727 ★内定
▽2.萱 和磨 341.426 ★内定
▽3.土井 陵輔 340.660
▽4.田中 佑典 340.392
▽5.杉野 正尭 339.861 ★内定

▽6.三輪 哲平 339.758
▽7.松見 一希 339.460
▽8.長谷川 毅 338.627
▽9.角皆 友晴 337.726
▽10.谷田 雅治 336.891

▽11.藤巻 竣平 335.726
▽12.谷川 航 335.592 ★内定
▽13.川上 翔平 335.393
▽14.橘 汐芽 333.227
▽15.上山 廉太郎 333.224

★橋本大輝選手はすでに内定

《代表内定選手 談話》

橋本大輝「金メダルを取って笑い合いたい」

すでに代表に内定していた橋本大輝選手は右手中指のケガのため今大会は棄権し、会場で仲間の演技に声援を送りました。
大会の後、橋本選手は「世界一厳しい代表選考会といってもいい戦いを勝ち抜いたメンバーで、4人ともいい顔をしていた。ただゴールはここではないのでメンバー全員でオリンピックに向かって戦っていきたい」と代表入りを決めた選手たちをたたえました。
自身の状態については「もう一度詳しく調べる予定で治るまで、どれくらいかはドクターと相談しながらいつ復帰できるのか計画を立てていきたい。まずは治すことを最優先にそこからうまく仕上げたい」と説明しました。
その上でオリンピックに向けては「東京大会で悔しい思いをしているのでまずは団体金メダルを取って、その勢いに乗って個人総合や種目別でも金メダルを取れるようにやっていきたい。みんなで最後『金メダル取ったね』と笑い合いたい」と意気込んでいました。

岡慎之助「ケガを乗り越えて結果を出せてうれしい」

優勝した岡慎之助選手はおととし、右足の前十字じん帯を断裂したけがを乗り越えて初のオリンピック代表入りを決めました。
岡選手は「目標にしていたパリの代表を勝ち取ることができてほっとしている。ケガをしても『絶対パリに自分が行く』という思いがあったから前を向くことができたし、きついトレーニングばかりだったが、それを乗り越えて結果を出せてうれしい。乗り越えてよかった」と話しました。
オリンピックに向けては「まずはチーム全員で力を合わせて団体の金メダルを絶対に取るということと、個人でも種目別の平行棒で金メダルを取れるように頑張りたい」と意気込んでいました。

萱和磨「団体で金メダルをとることしか考えていない」

2大会連続のオリンピック代表に内定した萱和磨選手は「選考会全体を振り返って4日間を通じて大きなミスなく戦い抜けたことは自分らしい戦い方ができたということだと思う。最後の鉄棒は『ゾーンに入った』というか、指先から足の先まですべてが自分の思うように鮮明に動く感覚だった。本当に練習を積み重ねて来たからこその結果だと思う」と振り返りました。
そして、オリンピックに向けて「団体で金メダルをとることしか考えていない。大会までに5人全員で練習する期間はそんなにないが、代表合宿を大切にしてチーム力を高め、自分自身も現地に入っても変わらない自分を出せるように準備していきたい」と意気込んでいました。

杉野正尭「本当に持てる力を最大限出しきれた」

あん馬と鉄棒で高得点をマークし、チームへの貢献度で代表入りした杉野正尭選手は「本当に持てる力を最大限出しきれたので、今はやりきったという気持ち。最後の鉄棒はオリンピックの金メダルがかかる場面を想像しながら演技した中で、練習でやってきたことを出しきれたのでよかったし結果代表に入れてうれしい」と話しました。
初めてのオリンピックに向けては「団体の金メダルを目指すチームの1人として最大限に自分の力を発揮できる演技をして必ず金メダルを取って日本に帰ってきたいと思う」と意気込んでいました。

谷川航「あれ以上 出せないというような演技」

跳馬で世界最高難度の大技「リ・セグァン2」を決めて貢献度で2大会連続の代表入りを果たした谷川航選手は「練習でそこまでうまく跳べていなかったので難度を落とすことも考えたが、オリンピックで金メダルを目指すことを考えたときに、ここで難度を落とすことに意味があるのかと思って挑戦した。結果的には、あれ以上出せないというような演技をすることができた」と振り返りました。
オリンピックに向けては「きょうみたいに跳馬を跳べたらすごく爆発力があって、ほかのチームと差を付けられると思うがそこだけではなくて前回大会を経験している立場として、みんなが自信を持って演技できる方向にチームを導ければ」と意気込んでいました。

【解説】“日本の宝” 大きな成長遂げパリ五輪へ

おととし手術した右足のけがを乗り越えた岡慎之助選手が大きな成長を遂げ、初めてのオリンピックの切符を手にしました。

柔軟性のある美しい演技を持ち味に世界ジュニア選手権を15歳で制し「日本の宝」と称されるほどの逸材として大きな期待を集めた、岡選手。幼い頃からオリンピックを見据えてきた岡選手は、前例のない道を進んできました。

中学卒業後は、体操の強豪社会人チーム「徳洲会体操クラブ」に加入。高校生が社会人チームに加入するのは異例のことです。「徳洲会体操クラブ」は、アテネオリンピックで金メダルを獲得した米田功さんが監督を務め、数々のメダリストを輩出しています。

中学生の頃から、オリンピックで活躍するためにはどういう選択をすべきか、常に考えていたという岡選手。
「小学生の頃からオリンピックで金メダルを獲得するという考えになっていた。そのために力を伸ばしたかった」と、あえて厳しい環境に身を投じました。

岡選手に大きな試練が訪れたのは、おととし。全日本選手権で跳馬の着地に失敗し、右足の前十字じん帯を断裂。全治8か月の大けがで手術を受け、一時はオリンピック出場も危ぶまれる状態でした。

それでも、不思議と焦りはなかったといいます。

2大会ぶりの団体金メダル奪還を目指す「日本に必要なパーツだと思われるように」とパリオリンピックに向け、苦手な「つり輪」の克服に取り組むことを決めました。

上半身の力が最も必要なこの種目は、日本選手の多くが苦手とする種目です。

手術からわずか2か月後には、練習を再開し、つり輪に欠かせない基礎的な「倒立」を繰り返したほか、難度の高い『中水平』にも挑みました。

技の完成度を高めるため1週間、毎日つり輪しか取り組まないこともあり、技の難しさを示すDスコアは、けがをする前から比べ1点近くも向上しました。

「絶対に代表になると、最後は自分を信じてやりきるだけ」と臨んだNHK杯。

このところ落下が続いていた2種目目のあん馬は、今回もミスが出て、2位の萱選手に肉薄される展開となりましたが、磨いてきたつり輪で立て直します。

『中水平』を決めると、最後の着地までほぼ完璧に決めました。

最後の鉄棒では「今まで感じたことのない緊張感」と言いながらも最後の着地をかんぺきに決め、大歓声の中で夢の大舞台への切符をつかみ取りました。

大会後、岡選手は「きつかったが、けがをしてからもここまでこれることを証明できた。ここまでは通過点なのでパリ大会に向けて自分を信じて頑張る」と力強く話しました。

【解説】エース橋本大輝を中心に“団体 金メダル奪還へ”

わずか0.103の差で惜しくも団体銀メダルとなった東京オリンピックから3年。日本は、エースの橋本大輝選手を中心に新たな顔ぶれで、リオデジャネイロ大会以来となる2大会ぶりの金メダル奪還を目指します。

日本体操協会の水鳥寿思 男子強化本部長は「パリを戦う上でベストなメンバーが選考された。点数的にもかなり高い得点がとれているので積み上げていけば金メダルがねらえる」と評価しました。

橋本選手は大会後、NHKの単独インタビューに応じ「東京の悔しさを経験した人が僕を含めて3人で、なおかつこれまで代表選考で悔しい思いをした選手が2人いて、それがパリに向けた僕らの原動力だ。爆発力を持った選手もいれば安定感を持った選手もいて安心して信頼できる人たちだ」と話しました。

最大のライバルとされる中国に勝つためには、絶対的なエース、橋本選手を中心としたチーム作りを目指すことになりますが、水鳥 男子強化本部長は、中国が得意とするつり輪だけでも、2点以上の差がつくという見通しを示しています。

つり輪以外の種目でいかに点数を積み上げられるか、その鍵になるのが貢献度で代表に選ばれた2人です。

谷川航 選手

その1人が、跳馬が得意な谷川航選手。大きな武器となる「リ・セグァン2」は、15点台の高得点が出る世界最高難度の大技です。

東京オリンピックの団体で成功させ、15点台の高得点をマーク。19日も着地まで完璧に決めて15.433と、この種目トップの得点をマークしました。

杉野正尭 選手

さらに、日本選手ではほとんど取り組んでいないF難度の大技「ペガン」など、鉄棒で難度の高い演技構成をこなす杉野正尭選手は、15点中盤近くまで得点を上積みできる可能性があります。

爆発力のある2人が最終種目の鉄棒でエースの橋本選手に演技をつなぐことができれば、日本は団体の金メダルに大きく近づくといいます。

水鳥寿思 男子強化本部長
「力を出し切れば世界王者の橋本選手がいるので最後、鉄棒で逆転するというそんな流れがシナリオとしてはあるのではないか。そのポイントはミスをしないことだ。自信を持って最後の鉄棒につなげられるようにしたい」

《代表内定選手 紹介》

◇橋本大輝(はしもと・だいき)選手

世界選手権 個人総合で2連覇(2023年10月)

橋本大輝選手は、千葉県出身の22歳です。6歳の時に2人の兄の影響で体操を始めました。手足の先まで伸びた美しい演技にダイナミックさを兼ね備え、「ゆか」や「跳馬」、それに「鉄棒」を得意としています。

2019年に高校生で史上2人目となる世界選手権代表に選ばれ、日本の団体銅メダル獲得に貢献しました。3年前、NHK杯で初優勝を果たして東京オリンピック出場を決め、個人総合で史上最年少で金メダルを獲得したほか、種目別の鉄棒を制し、若きエースとして不動の地位を築き上げました。

去年の世界選手権では内村航平さん以来となる史上4人目の個人総合2連覇を果たしたほか、種目別の鉄棒、それに団体で3冠を達成しました。

ことしはパリオリンピックでの2連覇を見据えて苦手種目のつり輪に取り組んできたほか、平行棒でも新しい技を取り入れるなどして4月の全日本選手権に臨み難度の高い演技構成を着実にまとめ、4連覇を果たしました。

◇岡慎之助(おか・しんのすけ)選手

岡慎之助選手は、岡山県出身の20歳。4歳で体操を始め、柔軟性のある美しい体操を持ち味に、15歳で世界ジュニア選手権の個人総合を制した次世代のホープです。

中学を卒業したあと、アテネオリンピック男子団体金メダリストの米田功さんが監督を務める「徳洲会体操クラブ」に所属しました。しかし、おととしの全日本選手権で予選3位で決勝に進みましたが、4種目目の跳馬で着地に失敗し、右ひざの前十字じん帯を断裂して全治8か月の大けがをしました。

手術後、リハビリに励みながら苦手な「つり輪」の克服に取り組み、技の難しさを示す「Dスコア」を大きく上げるなど4月の全日本選手権では得意種目の「平行棒」に加え、「つり輪」でも高得点をマークしました。

◇萱和磨(かや・かずま)選手

萱和磨選手は、千葉県出身の27歳。ミスの少ない安定した演技で「あん馬」や「平行棒」などの種目を得意とし、初めて出場した東京オリンピックでは、あん馬で銅メダルを獲得し、日本代表のキャプテンとして団体銀メダル獲得に大きく貢献しました。

2022年のNHK杯はパリオリンピックに向け、得意の「あん馬」のほか「鉄棒」や「ゆか」の技を大幅に変え、難度の高い演技構成に挑戦しましたが4位に終わり、代表入りを逃しました。その悔しさを胸に、ことしは技の出来栄えを示す「Eスコア」にこだわって“美しく失敗しない体操”を目指したほか、最大の持ち味の安定感にさらに磨きをかけ、4月の全日本選手権で3位に入りました。

◇杉野正尭(すぎの・たかあき)選手

杉野正尭選手は、三重県出身の25歳。6歳で体操を始め、体操の強豪・鯖江高校からアテネオリンピックの団体金メダリスト、米田功さんが監督を務める「徳洲会体操クラブ」でキャプテンを務めています。

1メートル70センチと体操選手の中では大柄で、ダイナミックな体操を持ち味に鉄棒とあん馬を得意種目としています。このうち鉄棒では、日本選手では、ほとんど取り組んでいないF難度の大技「ペガン」など難度の高い技をこなし、2022年の全日本シニア選手権では、個人総合で優勝しました。

4月の全日本選手権でも鉄棒で全体トップ、あん馬で3位に入るなど、スペシャリストとして力を発揮していました。3年前、東京オリンピックの代表入りをあと一歩のところで逃し、初のオリンピック出場を目指していました。

◇谷川航(たにがわ・わたる)選手

谷川航選手は、千葉県出身の27歳。小学1年生の時に体操を始め、抜群の跳躍力と着地の正確さでゆかと跳馬を得意としています。高校3年生だった2014年に全日本種目別選手権のゆかで3位に入り、2年後の同じ大会では跳馬で優勝しました。

2017年に初めて世界選手権の代表に選ばれると、その後、3年連続で代表に選ばれました。東京オリンピックの団体では、跳馬で世界最高難度の大技「リ・セグァン2」を決めて15点台の高得点をマークするなど、日本の銀メダル獲得に貢献しました。

おととしの世界選手権では、個人総合の6種目すべてで大きなミスのない安定感のある演技を見せて銅メダルを獲得しました。弟の翔選手とともに出場した去年のアジア大会では、種目別の「跳馬」で日本勢で45年ぶりとなる金メダルを獲得していました。