「パリ五輪で目指すのは“金メダル”ただ1つ」 競泳 本多灯

「金メダル!」

競泳・日本男子のエース、本多灯選手、22歳。明るい性格で周りの選手を引っ張り、日本代表でも中心選手として期待されています。
初出場で銀メダルを獲得した東京オリンピックを経て、パリの舞台で目指すのは「金メダル」ただ1つ。その頂点の先には、日本のスポーツ界を競泳でも盛り上げたいという強い思いを抱いています。
(スポーツニュース部 記者 松山翔平)

悲願の世界一へ度胸と覚悟の3年間

3年前の東京オリンピック。

東京五輪(2021年)

当時、19歳の本多選手が男子200メートルバタフライで見せた泳ぎは多くの人に衝撃を与えました。

得意とする後半に驚くべき伸びを見せて一気に順位を上げ銀メダルを獲得。

そのダイナミックな泳ぎと、レース後の会心の笑顔は、競泳の日本男子の今後を背負う新たなトップスイマーの誕生を予感させました。

東京五輪で銀メダル(2021年)

そこからの3年間、本多選手は悲願の世界一だけを目指してレベルアップを図ってきました。

本多灯 選手
「東京オリンピックの時は何も知らなかったからこそ、勢いだけでいけたメダルだと思っている。今はそれ以上に考えているし、無知だった過去の自分よりも高い結果を出せると思っている。その分、迷ってしまうとか怖くなってしまうこともあるが、『度胸と覚悟』を持って行動することで乗り越えていきたい」

持ち味のキックにさらに磨きを

金メダル獲得へ向けて、徹底して鍛えてきたのが持ち味の力強いキックです。

手先から足の指先まで全身を使ってキックを打つイメージで、水に確実に力を伝えるフォームを目指しています。

キックの力が増せばレース前半からのスピードも増し、さらに強みとする後半でのキックの持続力にもつながると考え、重点的に鍛えてきました。

「僕が泳ぎでいちばん大事にしているのはキック。水泳は上半身だけで進むように見えるが、僕はキックの力を前の方向に伝えるイメージで泳いでいる。得意なキックに磨きをかけられれば、レースでもうまく泳げると思っている」

個人メドレーも強化メニューに

さらにバタフライだけでなく、練習やレースでは、400メートル個人メドレーにも積極的に取り組んできました。

競泳の種目の中でも特に体力的にきついと言われる400メートル個人メドレー。

バタフライに加え、クロール、平泳ぎ、背泳ぎと4つの泳法を組み合わせることで全身のパワーアップに成功し、持久力アップにもつながりました。

「全身を使って泳ぐ水泳で、バタフライだけやっていても偏ってしまう。400メートル個人メドレーはいちばんきつい種目だと思っている。その種目を強化として使うことは、本当にきついことだが、パリオリンピックで結果を出すための近道の1つだと思う」

世界選手権 金メダルが自信に

その成果が出たのが2月にカタールで開かれた世界選手権でした。

世界選手権(2024年2月)

大会前に足首にけがをしながらも、200メートルバタフライで自身初の金メダルを獲得。

パリオリンピックの代表選考の大会を前に、大きな自信をつけました。

世界選手権で初の金メダル(2024年2月)

「表彰式の時に、センターに立って金メダルをもらった瞬間っていうのは、ものすごくことばに表せないほどのうれしさがあった。足首のけがという不安要素があるなかで、心配で不安な気持ちがあったが自分に打ち勝つことができた。自信になるいい大会になった」

まさかの敗戦も糧に

しかし、迎えた3月のパリオリンピック代表選考の大会。

男子400m個人メドレー 予選敗退(2024年3月)

本多選手は、依然として足首の不安を抱えるなか「乗り切るという気持ちで臨んでしまった」と持ち前の強気な姿勢を欠きました。

男子400メートル個人メドレーでは予選で敗退。

そして、本命の男子200メートルバタフライも代表内定はつかんだものの、大学の後輩の寺門弦輝選手に敗れて2位と満足のいく結果とは程遠い内容に終わりました。

それでもこの敗戦は、自身の目を覚ますきっかけになったといいます。

「初めて世界選手権で金メダルを取って安心した部分が大きくあり、この大会では『なんとかなるだろう』という気持ちになってしまい、それでは勝てないと気付いた。負けて気付くことができたので、これをチャンスだと思いたい」

目標はただ1つ“金メダル”のみ

本多選手は、パリオリンピックでの目標を一貫して「金メダル獲得」と公言しています。

「自分が水泳をやってきた人生の中で最強の、最後の夢がオリンピックの金メダル。自分が金メダルを獲得する瞬間を想像しながら日々過ごしていきたい。金メダルを取って最高だなという気分を味わいたい」

そして、頂点を極めたその先に本多選手が抱くのは、競泳にとどまらない、スポーツ界のエースのひとりとしての強い思いです。

「野球のWBC=ワールド・ベースボール・クラシックとか、サッカーのワールドカップとかを見た時にすごい感動を僕ももらったが、水泳という競技でもそれはできると思っている。北島康介さんも萩野公介さんも、いろんな選手が水泳を通してスポーツの魅力を伝えてきた。僕もそれは継いでいきたいと思っている」

◇◇取材こぼれ話◇◇

この春に大学を卒業し、社会人となった本多選手。

水泳のレースやトレーニングで休む間もない毎日ですが、シーズンオフには「競技以外の時間に働いてみたい」と意欲を見せています。

その思いについて本多選手は「これまでアルバイトもせず、水泳だけしかせず生きてきたので、どれだけお金を稼ぐことが大変なのかを、働いて感じたい」と明かしました。

ちなみに興味があるのは居酒屋など飲食店のホールの仕事だということで、持ち味の明るさも生かせそうです。

《基礎情報》本多灯 選手

東京五輪 男子200mバタフライ 銀メダル(2021年)

▽生年月日:2001年12月31日
▽出身:神奈川県
▽主な実績:
・2021年 東京五輪 男子200mバタフライ 銀メダル
・2024年 世界選手権 男子200mバタフライ 金メダル