“パリオリンピックは人生” 連覇目指す レスリング 須崎優衣

「私にとってのパリオリンピックは“人生”」

そう語るのは、オリンピック2連覇をねらうレスリング女子50キロ級の須崎優衣選手です。

オリンピックで、日本に数々のメダルをもたらしてきたレスリング女子。国内では今も激しい競争が続き、次々と若手選手が台頭するなど、まさに群雄割拠の様相を呈しています。そうした中でも圧倒的な強さを見せてただ1人、2大会連続でパリ大会への切符をつかんだのが須崎選手。東京大会の金メダリストは「人生を懸けて臨む」と不退転の決意をにじませています。
(スポーツニュース部 記者 持井俊哉)

東京五輪で勇躍

須崎選手の名前が世界にとどろいたのが3年前の東京オリンピック。

オリンピック初出場ながら並みいる強豪を寄せつけない圧倒的な強さで注目されました。

東京五輪で金メダル(2021年)

スピード抜群のタックルを持ち味に1ポイントも与えず勝ち上がり、決勝では開始から1分半あまりでテクニカルフォール勝ち(現在のテクニカルスペリオリティ勝ち)する内容。あっという間に金メダルをつかみました。

その須崎選手、苦しんだのは実は大会そのものよりも代表の座をつかむまでの道のりでした。

精神面での成長を実感

世界選手権 代表決定戦で敗戦(2019年7月)

メダルを取れば代表内定となる、2019年の世界選手権には、その前の試合で敗れたために出場することすらできず、一時は東京オリンピック出場は「絶望的」とも思われていました。

その時に出場した別の選手が内定の条件を満たせなかったため、その後、再び巡ってきた代表争いのチャンスを制して、辛うじて切符をつかんだという経緯があります。

それだけにパリ大会の代表内定がかかった去年9月の世界選手権には出場権を得たときからなみなみならぬ思いを抱いて臨みました。

去年9月の世界選手権 決勝

大会の3週間前、右ひざを痛めて練習がほとんどできませんでしたが、決勝ではタックルのあと、足首を固めて相手を回転させ1分半ほどで決着をつけました。

去年9月の世界選手権で優勝 五輪代表に内定

コンディションが十分ではない中でも目標に掲げてきた大会で結果を出し、前回とは違って早々にオリンピック代表の座を獲得。

精神面での成長を遂げたことを実感できたといいます。

須崎優衣 選手
「東京オリンピックの前に世界選手権に出られなかったという悔しさは今でも晴れなくて、同じ舞台で晴らすしかないと思っていた。痛み止めを飲んで本当にぶっつけ本番という感じだったが、パリを一発で決めるという気持ちが私を強く保たせてくれた。これまでに経験したことがないような厳しい状況ではあったが、これを1つ乗り越えられたという事は自分の大きな自信にもなった」

史上最強の自分でパリへ

そして、パリに向けて掲げたテーマが“史上最強”です。

オリンピック連覇に向けて東京を超えた強さを見せたいと考えています。

そのために現在、強化に取り組んでいるのが、得意とするタックル以外の技。返し技や投げ技などにも取り組んでいます。

どんな状況でもポイントを奪えるようにするのがねらいです。

ほかの技を意識して警戒が緩めば、タックルが決まりやすくなるという利点も生まれるといいます。

練習拠点の母校、早稲田大学のレスリング場では、自分より体重が重い専属パートーナーの男子選手を相手に返し技や投げ技や繰り返し練習しています。

スパーリングの合間には基礎トレーニングも怠らず継続。強さを追い求める姿勢は貪欲です。

「まだまだだと自分では思ってるので、もっともっと強くなりたい。いろんなことができるようにしたら相手は何が来るか分からなくて怖くなると思うので、いろんな得意技を増やしていきたい」

そして、無観客での開催となった東京大会とは異なり、パリ大会では金メダルを獲得する喜びを観客とも共有したいと考えています。

「東京オリンピックの決勝戦が終わってすぐに、このすばらしい舞台で金メダルを獲得する瞬間を直接、見ていただきたいと思うようになった。私は応援が力に変わるタイプなので、有観客となるパリオリンピックが楽しみだ。より多くの人に金メダル獲得の瞬間を見てもらいたいし、喜びを分かち合いたい」

“人生懸けて”パリへ

パリオリンピックイヤーが始まった2024年元日。

地元、千葉県松戸市の神社で須崎選手は、ことしにかける決意を新たにしました。

絵馬に書いたのは「金メダルを絶対に獲得して、オリンピック2連覇を絶対に達成する」。

その須崎選手にとってのパリオリンピックとは?

須崎優衣 選手
「私にとってのパリオリンピックは“人生”。オリンピックで金メダルを取るということは、そんな簡単なものではないと思うし、人生を懸けた人こそ、最高の喜びを手にできると思っている。自分の攻めて勝つレスリングスタイルで絶対に金メダルを獲得して、2連覇できるように人生を懸けて頑張りたい」

◇◇取材こぼれ話◇◇

オリンピックの切符を手にした須崎選手は去年11月には決戦の地、パリに1人で赴きました。

フランスのナショナルチームの選手たちと手合わせをしたり、町並みを見たりして2連覇に向けてイメージを高めたといいます。

「オリンピックの前年に現地を確かめておきたいというのと、レスリングの考え方や向き合い方、それにトレーニング方法など日本とどういった違いがあるのかも吸収したいと思っていた。フランスの皆さんはオリンピックを待ちわびているんだと感じることができて、気合いが入ったし、ワクワクする気持ちが増えた」

(2024年1月26日「ニュースウオッチ9」で放送)

《基礎情報》須崎優衣 選手

▽生年月日:1996年6月30日生まれ
▽出身:千葉県松戸市
▽主な実績:
 東京五輪女子50キロ級 金メダル
世界選手権 2017年(48キロ級)、2018年、2022年、2023年 金メダル