ことし1月から2月にかけて札幌市で行われたカーリングの日本選手権。
“夢は冬季五輪の最年長メダリスト” カーリング 西室淳子
「出産したくらいの時が、1番いろいろと落ち込んでいました。カーリングをどうしようかと」
6年前を振り返り、こう語っていた西室淳子選手、43歳。
ことしのカーリング女子の日本選手権で初優勝を果たしたSC軽井沢クラブを豊富な経験で支えているチーム最年長です。日本代表として18年ぶりに世界選手権に挑むベテランが見据えるのは、45歳で迎える2026年のオリンピック出場です。
(長野放送局 記者 松下周平)
18年ぶりの世界選手権
女子ではSC軽井沢クラブが4回目の出場で初の日本一に輝きました。
優勝を決めた直後、氷の上にしゃがみ込み人目をはばからず泣きじゃくる選手がいました。
チームのセカンドを務める西室淳子選手。
チーム最年長の43歳で、競技歴30年のベテランです。
個人としては6年ぶり3回目の日本一。同時に18年ぶりとなる世界選手権への切符を手にした西室選手ですが、ここにたどりつくまでの道のりには紆余曲折(うよきょくせつ)がありました。
西室淳子 選手
「18年ぶりに世界選手権に行ける。みんなでがんばって優勝して、いろんな思いがありました」
【詳しくはこちら】カーリング日本選手権 女子 SC軽井沢クラブが初優勝
挑み続けた五輪
西室選手は長野県軽井沢町の出身。
11歳でカーリングを始め、かつて強豪として名をはせた「チーム長野」の創設メンバーとなりました。
2005年には日本選手権を制し、翌年には世界選手権にも出場しましたが、ライバルだった「チーム青森」(当時)の壁は厚く、オリンピック出場はかないませんでした。
2010年のバンクーバーオリンピックへの挑戦が終わったあと、メンバーの進学などもあり「チーム長野」は解散。オリンピックの夢を絶たれた西室選手は当時、次のように語っていました。
「これからまたチームを作って世界を目指すとなると、自分が選手を教えて育てなければいけない。しかも、そのメンバーが仕事を棒に振ってまで世界を目指してくれるかといったらそうではない。実際はもう、引退するしかないと正直思っていました」
夢を追って山梨へ
それでも夢を諦めきれなかった西室選手。
29歳の時、山梨県で創設された「チームフジヤマ」(当時)に、リーダーとして加入します。
オリンピック日本代表の元監督を指導者に迎え、再び夢を追いかけることになりました。
「またオリンピックを目指せると思い、感動して泣きました」
しかし当時の女子カーリング界では、北海道銀行(現 フォルティウス)やロコ・ソラーレなどの新たな勢力が台頭。なかなかオリンピックに手が届きません。
2018年には出産も経験し、競技とどう向き合うべきか悩むようになったといいます。
「出産したくらいの時が、1番いろいろと落ち込んでいました。カーリングをどうしようかと」
“地元からもう1度 五輪目指す”
その頃、声をかけてきたのがSC軽井沢クラブ。
2020年に加入し、10年ぶりの地元チームで心機一転、オリンピックを目指すことになりました。
「チームメートには『年齢とか関係ないよ』とか『子どもを連れてきてもいいよ』と言ってもらえて、本当に恵まれています」
年齢の離れたチームメートたち
SC軽井沢クラブの仲間たちは、ひとまわり以上も年齢の離れた20代前半の選手ばかり。
その中にあっても西室選手は40歳を過ぎているとは思わせない情熱とパワーで存在感を示しています。
持ち味は抜群の“スイープ力”。
ストーンのコースを自在に変化させます。
それでも、チーム内のコミュニケーションが必要不可欠なカーリングでは、年齢差が「壁」になることもあります。
実際、西室選手は一時期、チームメートとの距離の取り方に悩んでいたといいます。メンバーの入れ代わりがあった今シーズン序盤は、あえて積極的な声かけを避けていました。
「私たちの世代からすれば、先輩に言われたことは絶対だった。みんなの意見が出るまでは言いづらいし、自分は先輩には意見が言えなかった。そうじゃなくて、自分は(後輩の意見を)待っていようと思ったんですけど」
仲間の背中を押すことば
後輩たちを静かに見守り続けた西室選手。去年秋のカナダ合宿の頃から、次第に意見を求められるようになったといいます。
日本選手権の決勝では、ベテランならではのひと言で後輩たちを後押しするシーンが見られました。
SC軽井沢クラブが1点を追う第9エンド。
試合終盤の大事な場面で、22歳のスキップ・上野美優選手の作戦が、なかなか定まりません。
こんな緊迫した状況を何度も乗り越えてきたのが西室選手。
相手のガードストーンをはじくという提案を独特の表現で伝えました。
「前、切ったらいいんじゃない?楽しいよ」
このひと言に導かれたかのように、上野選手の表情は晴れやかに。
SC軽井沢クラブは直後の第10エンドで劇的な勝利をおさめ、念願の初優勝を果たしました。
西室淳子 選手
「『こうなっちゃうから、こうしたほうがいいよ』と言うと、緊張しちゃうかなと思いました。『これをやると楽しくなるよ』ということだけ伝えたら(ことばの意味を)くんでくれるかなと」
チームメートたちも、百戦錬磨の先輩、西室選手に全幅の信頼を寄せています。
上野美優 選手
「(西室)淳子さんはとても経験値があるので、教えてくれる情報がとてもチームの力になっています。ショットが決まったときの「ナイス」の声は1番若いなと思いますし、チームをどんな場面でも盛り上げてくれます」
目指すは“冬季五輪での日本選手最年長メダリスト”
いよいよ始まる世界選手権。
初めて出場した18年前の大会で、西室選手は参加選手が選ぶ「FRANCES BRODIE AWARD」を受賞。その経験が、ここまで競技を続けてきたモチベーションの1つになっています。
西室淳子 選手
「当時は全然勝てませんでしたが、個人的には調子がすごくよくてショット率が高かったから選ばれたと思っています。あの賞をいただけたので競技を続けることができましたし、落ち込んだときにも頑張れました」
世界選手権の先に見据えるのは、長年追い求めてきたオリンピックへの初出場。ターゲットは45歳で迎える2年後のミラノ・コルティナダンペッツォ大会です。
西室選手の最大の夢。
それは前回の北京大会で43歳にして銀メダルを獲得したロコ・ソラーレの石崎琴美選手の記録を抜き、冬季オリンピックの日本選手最年長メダリストになることです。
「五輪が夢、目標なんですけれど、出場するだけじゃなくて、しっかりメダルを獲得するのが私たちのチームの目標なので、金メダルを目指して進んでいきたい」
【NHK 連日試合をBSで中継】
西室選手たちSC軽井沢クラブが日本代表として出場するカーリング女子の世界選手権は3月16日にカナダで開幕します。
NHKは連日、日本の試合を中心にBSで中継する予定です。
(2024年2月27日「イブニング信州」で放送)