仮設トイレ設置進むも… 深刻な「トイレ問題」適切な使い方は

能登半島地震の被災地で「トイレ問題」が深刻になっています。

仮設トイレの設置が進んでいますが、断水が続き、避難所や自宅などでは水洗トイレが使えないところが多くあります。

専門家は「トイレの衛生環境が悪ければ、感染症のまん延や体調の悪化につながるおそれがあり、災害関連死を引き起こす命にかかわる問題だ」と指摘しています。

(記事では、仮設トイレを利用するときの注意点や、携帯トイレの使い方などをまとめています)

「ペーパーを必要以上に流さないで」

環境省が10日、旧ツイッターのXに投稿した仮設トイレを利用する際の注意点です。

紙詰まりや衛生環境の悪化を防ぐため、消毒液などを使用すること、トイレットペーパー以外のものや必要以上のトイレットペーパーを便器に流さないように呼びかけました。

輪島市の避難所では、水を流せないトイレにし尿がたまって衛生環境が著しく悪化するケースも。

避難する女性は「水がないので掃除もできません。はじめはきれいだったトイレが何百人と利用するうちにあっという間に汚くなりました」と話していました。

石川県珠洲市(7日)

被災地では仮設トイレの設置が順次進んでいて、石川県内の避難所などでは9日までに400基余りが設置されました。

一方で、し尿処理施設も被災し、いまも一部で稼働を停止していて、仮設トイレなどから回収した し尿は停止中の施設に一時的にためる対応をとっています。

避難生活の悩み「トイレ」が「食事」上回る

災害時には、これまでもトイレの衛生環境の悪化が深刻な問題となっています。

NPO法人「日本トイレ研究所」が2016年の熊本地震で避難生活を経験した200人余りを対象に行ったアンケートでは、「避難生活の初期においてもっとも困ったことは?(複数回答)」という質問に対し、62%の人が「トイレ」をあげ、50%だった「食事」を上回っています。

熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」日本トイレ研究所調べ

また、避難所の仮設トイレを利用したときに衛生面で気がついたことについて複数回答で尋ねたところ、「臭い」がもっとも多く62%、次いで「足下が汚い」が49%、「便器が汚い」が40%、「手洗用水が足りない」が29%などとなっています。

過去に起きた災害の避難所では、トイレの衛生環境を保つことができずにやむなく利用を中止せざるを得ないケースもありました。

石川県能登町の避難所(7日)

トイレの衛生環境が悪化すると..

避難所などでトイレの衛生環境が悪化することで、多くの深刻な問題を引き起こす。

そう指摘するのは「日本トイレ研究所」で代表理事を務める加藤篤さんです。これまで災害現場でトイレの環境改善に取り組んできました。

1. 感染症のリスク問題のひとつが感染症です。

トイレには、ドアノブや鍵、便座といったたくさんの人が触れる場所が多くあります。トイレを不衛生な状態のままにしておくことで、ノロウイルスなどの集団感染のリスクが高まるといいます。

2. 体調悪化で死に至るおそれも次に、“我慢”が招く体調の悪化です。

トイレが汚かったり、トイレに行きづらかったりすると、用を足す回数を減らしたいという心理が働きます。なるべくトイレに行かずに済むようにと水分をとるのを控えてしまうと、深刻なからだの不調につながるおそれがあるということです。

脱水症状を起こしたり、エコノミークラス症候群も懸念され、場合によっては死に至る危険もあるといいます。

トイレの環境悪化によるリスク

3. マナー意識にも影響もうひとつ、加藤さんがあげたのが、不衛生なトイレが、避難生活の秩序を乱しかねないということでした。

汚いトイレをみているたびに、心理的に「ルールを守ろう」という気持ちがそがれてしまったりすることがあるそうです。

また、トイレは、避難所での集団生活の中で唯一、ひとりになって一息つける空間でもあります。そんなトイレが安らげるような場所になっていなければ、避難生活が続く人たちのさらなる心の負担になりかねないということです。

水洗トイレが使えないときには..

では、水洗トイレが使えないときには、どのようにすればいいか、具体策を聞きました。

○携帯トイレの使い方は?災害時、断水などでトイレの水が流せないときには携帯トイレや簡易トイレが使われています。

避難所などにも支援物資として携帯トイレが届けられていますが、初めて使うという人も少なくないため、使い方が正しく理解されていないケースもみられるということです。

携帯トイレの正しい使用方法です。

まず便座を上げて便器に大きめのビニール袋を取りつけます。簡易トイレが便器にたまった水でぬれてしまうのを防ぐためです。

そして、便座を下げたあとに携帯トイレを取りつけるようにしてください。

用を足し終わったら、1回ごとに空気を抜いて口を縛って閉じてください。

使い終わった携帯トイレは、基本的には燃えるごみとして出せますが、自治体の指示に従ってください。

ごみの回収までの間は、ふたのついたバケツなど臭いが漏れにくい容器にためておいて、保管するといいそうです。

○バケツで水を流していいの?「バケツで水をくんで、それでトイレを流してもいいんでしょうか?」

災害が起きたあと、NPOにはそんな相談が多く寄せられるそうです。

加藤さんによりますと、排水設備や処理施設が機能していれば、バケツなどでトイレの水を流すことも問題ないということです。

水は一気に入れて、汚物を便器の奥に流し込むようにするのがコツだそうです。

※ただし、次のような場合には、バケツなどの水でトイレを流すのは避けるようにしてください。
(バケツなどで流せない場合)
▽自治体が下水道の使用の自粛を呼びかけているとき
▽地盤沈下などの影響で排水設備の点検をしているとき
▽浄化槽の点検をしているとき

みんなのトイレを保つために

内閣府(防災担当)は、避難所でのトイレの管理や衛生状況を保つためのポイントをまとめたガイドラインを示しています。

衛生管理のポイントとして、体育館など室内のトイレでは専用の履物を用意すること、避難者の中からトイレの責任者と掃除当番を決めることなどをあげています。

内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」より

また、加藤さんによりますと、ほかにも避難所などでトイレを利用するときにいくつか心がけた方がいいことがあるそうです。

1. 声かけ避難所ではどうしても、トイレに行くのがおっくうになってしまったりしてタイミングを逃してしまう人もいます。自分がトイレに行くときには、周囲の人に「一緒に行きませんか?」などと声をかけてみるようにしてください。

ささいなことかもしれませんが、トイレに行くということは体を動かしたり気分転換をする機会にもなるので積極的に声がけをしてほしいということです。

2. 清掃の工夫トイレの清掃は、避難している人たちが自分たちで分担して行うことになるかもしれません。

小学校などでトイレの数が十分に足りている場合には、どのトイレを利用するか話し合ってみるのもいいかもしれません。過去の災害では、使用するトイレの数を減らし、清掃をしやすくする工夫したケースもあるということです。

3. 屋内と屋外トイレの使い分け避難所などのトイレは、屋内にあるものだけではなく、屋外の仮設トイレも徐々に設置が進められています。一方で、移動が困難なお年寄りなどは屋外のトイレまで行くのが難しかったり、女性や子どもは夜間にひとりで外に出るのは心配かもしれません。

屋内のトイレと屋外のトイレ、それぞれを必要としている人がいることに配慮したうえで、どちらかに偏ることなくトイレを使い分けていくことも大切だといいます。

トイレの悩みも声に出して

加藤さんはさまざまな避難所を訪れ、トイレの衛生環境に危機感を抱いてきたということです。

今回の地震を受けて石川県にも調査に入り、現場の状況を目の当たりにしてきたということで、命を守るために避難している人たちからきちんと要望を伝えてほしいと呼びかけています。

NPO法人「日本トイレ研究所」加藤篤さん
「排せつは食べることと同じくらい大切なことです。ただ、トイレの困りごととなるとあまり声に出しづらく、支援が必要なのに気がついてもらえないということも少なくありません。トイレを快適にすることはぜいたくなことでもなんでもないので、そのニーズを口に出して伝えてもらいたい」