【詳しく】「複雑だ」防災情報 統一キーワードで整理へ 気象庁

「複雑だ」と指摘されてきた土砂災害や洪水などに関する防災情報が整理されることになりました。
国の専門家による検討会は、同じ災害の危険度を異なる名称で発表している「大雨警報」と「土砂災害警戒情報」を新たに「土砂」などの統一したキーワードを使った5段階のレベルに整理することなどを盛り込んだ気象に関する防災情報の改善案を示しました。

6日、気象庁で開かれた検討会には災害情報の専門家や気象庁、国土交通省の担当者らおよそ60人が出席しました。

会合では、気象庁などが発表する防災情報について
「数が多すぎる」とか
「同じ災害が異なる名称で伝えられわかりにくい」といった指摘があるとしたうえで、情報を見聞きした人が取るべき行動や対応をすぐに判断できるよう改善する案が示されました。

今回は「土砂災害」「洪水」「高潮」の3つの情報について議論されました。

【土砂災害】「土砂災害警戒情報」など名称変更の可能性も

大雨による土砂災害の危険度が高まった際には「大雨警報(土砂災害)」や「土砂災害警戒情報」などが発表されています。「大雨」と「土砂」という2つのキーワードが入り交じり、どの災害についての情報かわかりにくいという指摘から、今回の改善案では「大雨警報」から土砂災害の要素を切り離し、「土砂」など統一したキーワードを使った名称にするとしています。

具体的な名称については、今後の検討会で議論されることになっていて、「土砂災害警戒情報」などが変更になる可能性があります。また、「大雨警報(土砂災害)」は発表されても実際には大雨とならなかったり、土砂災害のおそれが高まらなかったりするなど「空振り」が多いという指摘をふまえ、発表の基準を見直すことも盛り込まれました。

気象庁によりますと、2021年発表された「大雨警報(土砂災害)」のうち「空振り」となったのは全国であわせて3045回でしたが、改善した基準で推計したところおよそ1割の296回と大幅に減らすことができるとしています。

【洪水】“水位基づく情報に統一”を検討

一級河川や二級河川のうち、洪水が発生した際に住民に被害のおそれがある「水位周知河川」では、これまで水位に基づいて発表される「氾濫危険情報」などと、気象庁が市町村ごとに発表する「洪水警報」などが並行して発表されています。

情報の重複を解消するため、改善案では“水位に基づく情報に統一”したうえで、上流で降った雨が下流へどれぐらい流れるかを示す「流域雨量指数」を活用して、今後の水位の見通しを情報に盛り込むことが検討されています。

また、中小河川については警戒レベル3相当の「洪水警報」と警戒レベル2相当の「洪水注意報」で警戒や注意を呼びかけていますが、避難指示などの判断につながるレベル4や5相当の情報が存在していないことが課題となっています。

一方、中小河川は水位の変動が激しい上影響が及ぶ範囲も狭く、大規模な河川を対象とした情報との混同を避けるため、改善案では現行の「大雨警報(浸水害)」の枠組みに組み込み直し、5段階のレベルに整理する方針を示しています。

【高潮】各レベルに情報1つに整理

このほか、「特別警報」と「警報」がいずれも「レベル4相当」となっている高潮の情報については発表の基準を見直し、各レベルに情報が1つとなるよう整理するとしています。

6日の会合ではこれらの案についておおむね了承された一方、水位の変動が激しく影響範囲も狭い中小河川について、
▽警戒レベル相当情報とどこまで結びつけるのかや、
▽市町村より細かな発表単位のあり方などを検討すべきといった意見が出されました。

検討会では今後、整理した情報の具体的な名称や「顕著な大雨に関する情報」などのあり方について、議論を続けることにしています。

検討会座長 矢守教授「普及している名称はできるだけ踏襲」

検討会の座長を務める京都大学防災研究所の矢守克也教授は「以前と比べるとより分かりやすい形で整理できたと考えているが、実際に運用した際の扱いなど検証が必要な部分もある。名称については、すでに普及している情報についてはできるだけ変えずに踏襲していくことも重要で、幅広く意見を聞きながら慎重に検討を進めていく」と話していました。

情報の利用者「ぴんと来なかった」「人ごとのように感じた」

気象庁などが発表する防災気象情報は、見聞きした人が災害の危険度を把握して避難や準備などの判断に役立ててもらうことを目的としていますが、利用者からは情報が分かりにくく危険性を認識しづらいという指摘があります。

ことし7月の記録的な大雨で地域が浸水した秋田市の横森地区の町内会で副会長を務める中村昭三さん(79)もその1人です。

横森地区では浸水の深さが大人の腰のほどまで達したところもありました。

当時、地区を流れる川が大雨で増水していて、
▽避難準備などを呼びかける警戒レベル3相当の「氾濫警戒情報」や
▽「川がいつ氾濫してもおかしくない」として避難を求める段階、警戒レベル4相当の「氾濫危険情報」が発表されていました。

当時について、中村さんや地域の人たちからは、
「『自分のところは大丈夫だろう』と考えて、どういった情報が発表されているか気にとめていなかった」とか
「身の回りにどれほどのリスクが迫っているのか情報を耳にしてもイメージがぴんと来なかった」、
「『何丁目』単位のようにピンポイントでなかったので、情報が出ても人ごとのように感じてしまっていた」などといった意見が聞かれました。

中村さんは「床上浸水になった人もいて、大変な思いをしたと思う。高齢の住民も多い地区なので、発表された情報をきちんと理解できていれば町内会の役員として注意喚起できたかもしれない」と振り返ったうえで「『洪水』と『浸水害』がどう違うのか、まぎらわしさは感じる。もう少し平たいことばだとわかりやすいと思う」と話していました。

情報整理の一方、新しい情報が次々と

西日本豪雨(2018年)

国は、行政による「公助」を前提とした避難対策には限界があり、みずから避難を判断する「自助」や地域で助け合う「共助」に取り組んでもらおうと、2019年に5段階の警戒レベルを導入しました。避難の情報については、例えばレベル4を「避難指示」、レベル3を「高齢者等避難」などとすることで意味や取るべき対応を直感的に理解できるよう整理しました。

一方で、気象に関する防災情報については、高潮のように同じ「レベル相当」に複数の情報が存在するほか、線状降水帯の発生を伝える「顕著な大雨に関する情報」など新しい情報が次々と導入され、利用者からは「情報が複雑で多すぎる」とか「意味が分かりづらい」といった声があがっていました。

このため気象庁では気象に関する防災情報についてもシンプルでわかりやすく再構築する必要があるとして、2022年から専門家による検討会で議論を進めてきました。

専門部会座長 牛山教授「国は自治体の人材育成などに注力を」

検討会の専門部会の座長で、情報の改善案をとりまとめた静岡大学の牛山素行教授は、気象庁などが発表する防災情報について「激しい気象状況が生じているので、出勤や通学、企業の活動などの際に必要に応じて何らかの対応をしましょう、という判断材料を提供するというのが本来の意義だ」と指摘しました。

一方、情報体系が複雑になっていることについては、大雨警報と土砂災害警戒情報を例に挙げ「新しい情報や仕組みがパッチワーク状にできあがり、1つの系列の情報ということがわかりにくい状況になってしまっていた。それらを整理をする必要があり、今回の改善案となった」と述べました。

その上で「防災情報の住民への伝達は自治体の仕事だが、現状、市町村の担当者にとっても複雑な情報になってしまっている。住民への周知や啓発の機会をつくるためにも市町村の人材育成など、国はさまざまな支援策にかなり力をかけていかなくてはならない」と指摘していました。