新たな経済対策 減税は?給付は?内容詳しく

政府が2日に決定した新たな経済対策。その内容について、詳しく見ていきます。

所得税と住民税の定額減税 1人あたり年間4万円

今回の経済対策の注目点は所得税と住民税の定額減税です。岸田総理大臣が与党に検討を指示したことを踏まえ盛り込まれました。

経済対策では、「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担の緩和やデフレ脱却のための一時的な措置として減税を実施する」とした上で、「来年6月から減税をスタートできるよう、来年度の税制改正で結論を得る」と明記しました。

また「過去2年間の税収増を分かりやすく直接還元する」としていて、減税の規模は総額で3兆円台半ばを見込んでいます。

具体的には、納税者本人とその扶養家族を対象に1人あたり所得税3万円と住民税1万円、年間であわせて4万円を減税する方針で、対象は9000万人程度とみられます。

また、およそ1500万世帯とみられる住民税の非課税世帯は、減税による還元を受けられないことから、地方自治体を通じて1世帯あたり7万円を給付します。こうした世帯には、ことし春の物価高対策でも3万円の給付が盛り込まれていました。

一方、住民税は納めていても、所得税を納めていない人たちの世帯については、住民税の非課税世帯と同じ水準を目安に給付を行う方向で検討します。

また、子どもが多い低所得世帯や、所得税の納税額が少なく減税だけでは十分に還元を受けられない人に対しても適切な支援を行えるよう、ことし中に具体策をまとめるとしています。

ガソリン補助金 来年4月末まで延長 電気 ガスの負担軽減策も

今回の経済対策では物価高騰への対策などを「第1の柱」と位置づけていて、高い水準が続く燃料価格や電気・ガス料金の激変緩和措置を講じるとしています。

この中で、ガソリン価格を抑えるための補助金については、家庭や中小企業の負担を軽減するため、現在の負担軽減策を来年4月末まで延長するとしています。

具体的には、レギュラーガソリンの場合、全国平均の小売価格が1リットルあたり
▽185円を超える部分は全額を補助し、
▽168円から185円までの部分はその60%を補助することで、
実際の小売価格の平均を175円程度の水準に抑えるとしています。

また、電気とガスの負担軽減策も来年4月末まで延長するとしています。
電気料金は、1キロワットアワーあたり
▽家庭向けでは3.5円
▽企業向けでは1.8円を補助します。

都市ガスについては、家庭や年間契約量の少ない企業を対象に1立方メートルあたり15円を補助します。

政府は、来年5月には電気や都市ガスの負担軽減策について、国際的な燃料価格の動向などを見極めながら、支援の幅を縮小するとしています。

子育て世帯の支援団体 “継続的な支援が必要”

都内で子育て世帯などへの支援を行っている団体からは、物価高が続き家計の負担が増しているとして、継続的な支援を望む声が上がっています。

東京 足立区で、ひとり親の家庭など子育て中の世帯への支援を行っている団体では、月に一度、手作りの弁当を希望者に配っています。弁当の提供が行われた11月1日は、ボランティアの人たちが寄付された食材も使って調理や盛りつけにあたり、夕方からは、親子連れなどが弁当を受け取りに、次々に訪れました。

6歳の子どもと2人暮らしの40代の看護師の女性は、「仕事から帰って疲れているなかで夕食を作るのは大変で、お弁当はとても助かります。物価高の影響は大きく、外食や習い事も減らしていますが、4万円の減税1回だけでは生活は良くならず、シングルマザーへの支援策の拡充も検討してほしいです」と話していました。

また、5歳の子どもがいる30代のパート従業員の女性は、「給料が変わらないなか、食費や養育費も上がって家計の余裕がなくなり、旅行や遊園地も我慢してもらうなど子どもにもきつい思いをさせてしまっています。子どもへの支援を真っ先に考えてほしいです」と話していました。

1日は、100食限定で希望を募ったところ、30食分上回る130食の予約が入り、急きょ、追加で準備したということです。

弁当の提供を行った「あだち子ども支援ネット」の大山光子代表理事は「物価が高くなっているので支援を必要としている人たちは日に日に増えています。今では子育て世帯に限らず、高齢者や障害者が暮らす家庭でも困っているケースは多く、気持ちも暮らしも安心できる継続的な支援が必要だと感じます」と話していました。

横浜市の家族「助かるが一時的」食費は去年より月8000円増

横浜市中区に住む東愉香さん(37)は、5歳から10歳の子ども3人と会社勤めの夫と、5人で暮らしています。ことしに入ってから食費が大幅に値上がりし、先月までのひと月あたりの平均は、8万6000円ほどと、去年と比べて8000円ほど負担が増えたといいます。

このため、外食の回数を減らしたり、子どもたちのお菓子は週に1、2回手作りするようにしたりしているほか、なるべく新しい服を買わないようにして、外遊びが多い子どもがズボンに穴を開けても自分で直すようにしているということです。

また光熱費を抑えるため、お風呂には家族で続けて入るようにしているほか、使っていない部屋の電気をこまめに消すことなどを心がけているということです。

減税を含めた経済対策について東さんは、「5人家族なので、本当に大きな金額で助かりますが、物価高に対応できるのかと言われると一時的かなと思ってしまいます。余裕があるなら、子どもたちと外食したり、旅行に行ったりしたいですが、食費に充てそうな気がします。長期的に本当に困っている人のサポートに充ててもらえたら一番いいのではないかと思います。子どもたちの世代の負担が大きくなるのであれば少し心配だなと思います」と話していました。

子ども・子育て支援 児童手当の拡充 開始時期を前倒しへ

少子化対策を推進するとして子ども・子育て関連の政策も盛り込まれています。

【児童手当】
このうち、来年10月に施行予定の所得制限の撤廃を始めとした児童手当の拡充については、振込の開始時期を当初予定していた再来年(2025)の2月から来年12月に前倒しするとしています。

【こども誰でも通園制度】
また、すべての子育て家庭を対象とした支援の強化として、政府が導入を検討している「こども誰でも通園制度」が盛り込まれました。親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられるようにするもので、本格的な実施を前に来年度から試験的な事業を開始する予定でしたが、これを今年度中に開始することも可能となるよう支援を行うとしています。

【低所得家庭の受験料等支援】
さらに、こどもの貧困対策として、受験料などへの支援を行うことで、学習支援を拡充しこどもの進学を後押しするとしています。

具体的には所得が一定に満たないひとり親世帯や所得の低い世帯を対象にする予定で、
▽高校3年生には大学入学共通テストや大学の受験料として、あわせておよそ5万円を補助するほか、
▽高校3年生と中学3年生が模擬試験を受けるための費用を補助する方針です。

介護職員など 来年2月から月額6000円程度の賃上げ方針

賃上げや人手不足への対応として、医療や介護、障害福祉サービスの現場で働く人たちの処遇改善に向けた財政措置を早急に講じることも盛り込まれました。

具体的には、介護職員や看護補助者などに対し、来年2月から月額6000円程度の賃上げを行う方向で調整が進められています。

また食材費の高騰への対応として、20年以上、1食あたり640円に据え置かれている入院患者の食費の支援も盛り込まれました。

当面の対応として、拡充する「重点支援地方交付金」などを活用し、1食あたり20円程度上乗せする方向です。今後、自己負担額の引き上げについても検討が進められる見通しです。

“年収の壁”対策 従業員1人あたり最大50万円の助成

配偶者の扶養に入りパートなどで働く人が、一定の年収額を超えると扶養を外れて、社会保険料の負担が生じ、手取りの収入が減る「年収の壁」への対策として、先に政府がまとめた「支援強化パッケージ」を着実に実行していくことも盛り込まれました。

具体的には「106万円の壁」を超えても手取りが減らないように取り組む企業に対し、従業員1人あたり最大50万円を助成することなどが柱となっています。

医薬品 供給不足への対応も

インフルエンザや新型コロナなどの流行によって医薬品の供給が不足する場合への対応も盛り込まれました。不足する薬の増産の要請に応じたメーカーが、人員を確保したり生産設備を増強したりするなどさらなる増産に向けた取り組みを行うことを支援するとしています。

学び直し=リスキリングや高齢者の就労支援も

労働分野の政策として、非正規雇用の人たちの学び直し=リスキリングの支援や、高齢者の就労支援などが盛り込まれました。

【リスキリング支援】
リスキリング支援としては、非正規の人たちがキャリアアップできるように対面とオンラインで夜間や休日を含めて働きながら学び直しを行える職業訓練の場を設けるとしています。

訓練では学習支援を行ったり、キャリアの相談に乗る支援者を配置したりする予定で、全体で150時間程度を想定しています。

厚生労働省は今年度中にも試行事業を始め、効果を検証したい考えです。

【高齢者の就労支援】
高齢者の就労支援としては、シルバー人材センターに登録する高齢者を対象に公民館などを利用して働く場を設け、その場所への送迎費用を負担するということです。

免許を返納して移動手段がないなどの理由で仕事を行えない人を支援するとともに、集まって仕事をすることで高齢者の孤立を防ぐのがねらいです。

厚生労働省は深刻化する人手不足の対策にもつなげたい考えで、今年度中にもモデル事業として全国数十か所で開始したいとしています。

【両立支援等助成金】
働きながら子育てをする人の環境整備を図るために中小企業への助成金の拡充も盛り込まれました。

育児休業中の人や時短勤務で働く人の業務を代替した従業員に中小企業が手当を支給した場合、体制整備のための経費も含み
▽育休を取得した人1人に対して毎月上限10万円の支給を1年間で最大125万円
▽時短勤務中の人1人に対しては毎月上限3万円の支給を子どもが3歳になるまでで最大110万円が支給されます。

賃上げや成長促進へ 企業向け税制措置

企業に対して従業員の賃上げや成長に向けた投資を促すための税制措置を検討する方針も盛り込まれました。

このうち賃上げについては、いまある税制の強化を検討します。いまの制度は、来年3月末が期限となっていて、給与の総額を増やした分のうち大企業で30%、中小企業で40%を上限に法人税の税額から控除=差し引くことができます。

この期限を延長した上で、賃上げしてもその年が赤字となり控除を受けられなかった分は、翌年度以降の一定期間内に黒字を計上した年に繰り越せるようにして赤字企業にも適用しやすくすることなどが検討される見通しです。

一方、成長力の強化を促すための新たな税制としては、国内で開発した特許などの知的財産で得られた所得にかかる法人税を優遇する案などがあがっています。

また、脱炭素や経済安全保障の観点から重要となる蓄電池や半導体といった物資を国内で生産する場合に、法人税を優遇する措置なども検討される見込みです。

具体的な要件や税率については、年末の税制改正大綱のとりまとめに向けて与党の税制調査会で議論されます。

中小企業の賃上げ対策で設備投資への支援なども

また、来年以降も中堅・中小企業が賃上げできる環境の整備に向けて、価格転嫁対策の強化や設備投資への支援策などが盛り込まれました。

このうち、価格転嫁対策では、原材料費や燃料費が上昇する中、中小企業や小規模事業者が取引先と円滑に価格交渉ができるよう、年内に指針を策定するとしています。

また、深刻な人手不足の解消につながる設備の導入に対し新たな補助金を設けた上で、より多くの事業者が利用しやすいよう、補助の対象となる設備をまとめた一覧を作るとしています。

さらに、中堅・中小企業が行う工場の新設や大規模な設備投資に対し、新たな補助金を設けます。

政府としては、こうした取り組みによって、中堅・中小企業の収益力を向上させ、従業員の持続的な賃上げにつなげたい考えです。

半導体分野への支援は

経済安全保障上、重要な先端・次世代半導体のサプライチェーン=供給網の強じん化などを通じて、国内への投資を促進し、地方経済の活性化も図るとしています。

半導体などの国内での生産拠点の整備に向けては、▽年内をめどに、開発が規制されている「市街化調整区域」での開発許可の手続きの緩和を図るほか、▽農地から工場の建設用地への転用の手続きにかかる期間の短縮などを行っていくとしています。

また、国が支援するいわば国家プロジェクトの生産拠点に対しては、工業用水や下水道、道路などのインフラの整備を迅速に支援できるよう、新たな交付金を創設することも盛り込んでいます。

内閣府 GDPを19兆円程度押し上げる効果と試算

内閣府は、物価の変動を除いた実質のGDP=国内総生産を19兆円程度押し上げる効果があると試算しています。そのうえで、今後3年間で平均すると、1年あたりの実質の成長率を1.2%程度、引き上げるとしています。

▽所得税の定額減税や低所得世帯への給付が家計を下支えして消費を促し
▽政府の企業への支援によって大型の設備投資にもつながるためだとしています。

また、現在、消費者物価指数は3%前後でガソリン価格の抑制策や電気・ガス料金などの負担軽減措置で1.0ポイント程度抑えられていますが、引き続き、この効果が続くとしています。

規模や手法は妥当か 財政規律のあり方問われる

新型コロナの感染が拡大した2020年度以降、政府は景気の落ち込みなどに対応するため、繰り返し経済対策を策定し、20兆円から30兆円規模の巨額の補正予算の編成を重ねてきました。

昨年度までの3年間に補正予算は6回編成され、その総額は140兆円にのぼり、財源の多くを追加の国債発行で賄ってきました。

一方で、コロナ禍前の2013年度から2019年度までの7年間をみても、補正予算は多くても5兆円規模で、10兆円を上回ることはありませんでした。

政府は、ことし6月に閣議決定した「骨太の方針」では、「歳出構造を平時に戻していくとともに、緊急時の財政支出を必要以上に長期化・恒常化させないよう取り組む」と明記し、大規模なコロナ対策から転換し、持続可能な経済財政運営を目指す方針を示していました。

こうした中、決定された今回の経済対策は、▽低所得者世帯への給付や▽ガソリン価格を抑えるための補助金の延長など加え、来年度の実施を検討する定額減税が盛り込まれ、減税分も含む規模は17兆円台前半となります。

一般会計の追加の歳出は13兆1000億円程度となる見込みで、政府は補正予算案を編成し、財源として、今年度の当初予算に計上した新型コロナや物価高対策などの予備費5兆円の半分を活用する方針です。

一方で、足元では税収が減少しています。ことし9月末までの今年度上半期の税収は、制度が一部、変更された影響で法人税収が減ったことなどから昨年度の同じ時期を2兆円余り、率にして10%程度下回っています。

今年度の当初予算で、30兆円を超える国債の発行を計画する中、補正予算案での国債の追加発行の可能性もあります。

また、定額減税については来年度の財政収支に影響を与えることになります。

コロナ禍から社会・経済が正常化に向かう中、今回の経済対策は国民の暮らしを支えるために実効性のある内容かといった観点だけでなく、その規模や手法が妥当なのか、財政規律のあり方も問われることになります。