政府 新たな経済対策を決定 所得税の定額減税など盛り込む

政府は、所得税の定額減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ17兆円台前半の規模となる新たな経済対策を決定しました。対策の裏付けとなる補正予算案を今月中にも国会に提出し、成立を目指す方針です。

政府は2日夕方、臨時閣議を開き、物価高に対応し、持続的な賃上げや成長力の強化を実現するため、新たな経済対策を決定しました。

それによりますと、物価高対策として、来年6月にも所得税と住民税を合わせて、納税者と扶養家族1人あたり年間で4万円差し引く定額減税を実施するため、年末に向けて与党で検討を行うとしています。

また、▽住民税が非課税となっている低所得世帯には7万円を給付するほか、▽ガソリン価格を抑えるための補助金や電気・ガス料金の負担軽減措置を来年4月末まで延長するとしています。

このほか、持続的な賃上げや成長力強化の実現に向けては、▽中小企業が行う設備投資への支援や、▽国内に半導体の生産拠点を整備するための基金の積み増しも行うとしています。

これらを合わせた経済対策の規模は、減税分も含め17兆円台前半となり、国と地方の歳出や財政投融資を合わせた「財政支出」は21兆8000億円程度となる見込みです。今年度予算の一般会計の追加歳出では13兆1000億円規模となり、政府は、その裏付けとなる補正予算案を今月中にも臨時国会に提出し、成立を目指す方針です。

効果や課題は? 一橋大学 佐藤主光教授に聞く

経済対策の効果や財政上の課題について、財政や税制が専門の一橋大学の佐藤主光教授に聞きました。

Q.経済対策の規模は17兆円台前半、一般会計の追加の歳出は13兆1000億円程度となった。

A.コロナ禍の巨額の財政出動と比べると減ったが依然として大型の補正だ。
コロナ以降、大型の補正予算が常態化しているかなと思う。
物価は上昇基調にあり、生活に困っている人たちへの支援はあってしかるべきだが、需要喚起するような新たな経済対策が求められている状況ではない。
政府に求められているのはやみくもな予算の拡大ではなく費用対効果に応じて優先順位をつけて賢くお金を使っていく知恵だ。

Q.経済対策の注目点は税収増の「還元」として所得税と住民税を減税する方針が盛り込まれたことだ。

A.国民に還元できるだけの財政余力があるのか疑問だ。
税収は伸びているが、他方で歳出も過去最高の水準になっている。
増えた税収を国民に還元すれば財政赤字は減らない。
今の財政状況は低金利で何とか続いてきたが、金利が上昇する局面で減税をすると、財政赤字を減らしていくことができなくなってしまう。
巨額の財政赤字を抱える中、増えた税収は、本来であれば将来の世代に還元するのがあるべき姿ではないか。

Q.今回は低所得世帯への給付も打ち出された。

A.生活に一番困ってる低所得の人たちを支援するのは大切だ。
ただ問題は、今の日本の制度では、本当に困ってる低所得の人を把握できないということだ。
例えば住民税の非課税世帯の多くは高齢者で、年金収入があり、金融資産を多く持ってる人も含まれている。
ややもすれば「バラマキ」になってしまうので正しく所得や資産を捕捉し、柔軟に支援する仕組みが求められる。

Q.ガソリン価格を抑えるための補助金を来年4月末まで延長した。

A.ガソリン価格の上昇が家計を直撃してるという面はある。
低所得層やどうしても車を日常的に使わなければならない地方の人たちの生活を支えるという意味での支援はあってしかるべきだ。
ただ、エネルギー価格の高騰は今の世界情勢では常態化していく。
そうだとすれば本来やるべきことは、省エネ化や再生エネルギー、電気自動車の普及など「グリーン化」経済への転換だ。

Q.半導体や宇宙開発の支援で複数年度にかけて支出できる「基金」に資金が積まれた。

A.半導体や宇宙開発の支援は複数年かかり、単年度予算にはなじみにくい。
例えば「今年は補助金が出るけど来年はどうなるかわかりません」というのでは、開発する側は先行きが不透明になる。
複数年にわたる支援を確約し、単年度予算の弊害を解消するという点で、基金は有効だ。
基金が適切に管理されているかは今後も見ていく必要がある。

自民 萩生田政調会長 “国民に活力と安心届ける”

自民党の萩生田政務調査会長は党の会合で「今回の対策は、長年続いたコストカット型の経済からの転換とデフレからの脱却を図るものだ。まず足元の物価高から国民生活と産業を守り、物価上昇を超える構造的・持続的な賃上げなどの実現に向け、あらゆる施策を総動員して大いにエンジンを吹かせたい。早期に補正予算案を成立させ、1日も早く国民ひとりひとり、日本のすみずみに活力と安心を届けたい」と述べました。

自民各派 経済対策めぐり意見

新たな経済対策をめぐり、自民党の各派閥の会合では、国民生活を守るため裏付けとなる補正予算案を速やかに成立させる必要があるという意見の一方、減税に対する国民の理解が進んでおらず丁寧に説明するべきだという指摘が出されました。

茂木派の茂木幹事長は「足元の物価高対策に加え、持続的な賃上げや国内投資の拡大といった、わが国が直面する内外の課題を解決するためのさまざまな施策が盛り込まれている。極めて重要な補正予算案になるので1日も早い成立を図り、国民生活を守り経済を再生するため全力で取り組みたい」と述べました。

また、岸田派の林 前外務大臣は「非常に広範囲にわたった経済対策がまとまった。説明のための資料も早く準備するということなので、党としても、岸田総理大臣を支える総裁派閥としても、しっかり説明していかなければならない」と述べました。

一方、安倍派の塩谷 元文部科学大臣は「支持率なども厳しい中、減税に対する理解が得られていないことは誠に残念だ。しっかり国民に伝え、実効性があるものにするのがわれわれの責任だ」と指摘しました。

立民 長妻政務調査会長 “甘くみない方がいい”

立憲民主党の長妻政務調査会長は記者会見で「岸田総理大臣は『増収の果実を国民に還元する』と話しているが、ことしの税収は9月末の時点で前年比で2兆円減っていて、バラマキをして大丈夫かと心配するのは私1人ではないと思う。イギリスのトラス前首相は打ち出した減税で市場が混乱し辞任したが、岸田総理大臣もたかをくくって甘くみない方がいい」と述べました。

その上で「給付の方が圧倒的に早く、事務的負担も少ないのに説得力のある説明は一切ない。総理大臣が増税のイメージを払拭(ふっしょく)しようと政策をゆがめることはゆゆしき事態だ。右往左往し、たたかれるとそれを気にして方針転換する『気にしや総理』と呼びたい」と述べました。

公明 山口代表 “党の提案ほぼ盛り込まれた 国民の理解に努力”

公明党の山口代表は記者団に対し「地方や生活者、中小企業などの声を最大限に生かした党の提案がほぼ盛り込まれたと評価している。速やかに補正予算案を編成して早期成立を図り、国民の元に届けたい。限りある財源の中で、財政健全化も視野に入れながらの対応だと思う。政府の基本的な考え方を丁寧に説明し、国民に理解していただけるよう、いっそう努力することが大事だ」と述べました。

共産 志位委員長 “その場しのぎの減税は国民のためにならない”

共産党の志位委員長は記者会見で「圧倒的多数の国民が、経済対策の内容も減税も評価しないと言っているにも関わらず、無視して閣議決定をするのは、異常な姿勢だ。所得税の減税は1回限りで、その後、かぶせられるのは増税だと国民は見抜いている。減税ならば消費税の減税に踏み切るべきで効果のない、その場しのぎの場当たり的な減税は誰も支持せず、国民のためにもならない」と述べました。

国民民主 礒崎 参院国対委員長 “減税なぜその金額か 見えない”

国民民主党の礒崎 参議院国会対策委員長は記者会見で「最終的に賃上げを実現するために何をすべきかということと、定額減税や給付がなぜその金額で、いつまで続けるのかという点がまだ見えてきていない。今後の質疑の中で明らかにしていきたいし、財源についてもしっかり説明してもらいたい」と述べました。

日商 小林会頭 “中小企業への支援 全体として評価できる”

日本商工会議所の小林会頭は2日の記者会見で、中小企業に必要な支援が盛り込まれているとして、全体として評価できるという考えを示しました。

この中で、小林会頭は「中小企業の観点からみると来年以降の持続的な賃上げに向けた環境整備や人手不足に対する省人化の支援、それに生産性の向上など、潜在成長率を底上げする対策も多く打ち出されている」と述べ、中小企業への支援という側面で評価できるという考えを示しました。

一方で、所得税と住民税の定額減税については、「所得制限というか、高額所得者の扱いは別にしてなだらかに差を付けていくのがいいのではないか」と述べ、所得の水準などを踏まえた対応が必要ではないかという考えを示しました。

鈴木財務相 “必要な財政出動だ”

鈴木財務大臣は臨時閣議のあとの記者会見で、今回の経済対策に伴う一般会計の追加の歳出が13兆円にのぼることと政府が「骨太の方針」でコロナ禍で膨らんだ歳出構造を平時に戻すとしていることとの整合性を問われ「コロナ禍がおさまってきているのは事実だが、その一方で、物価高による国民生活や事業活動への影響がある。そういうものに対して手を打たなければならずその分、必要な財政出動だ」と述べました。

そのうえで鈴木大臣は、今後の財政運営について「潜在成長率の引き上げや社会課題の解決に重点を置き、メリハリの利いた予算編成を行うなど、2025年度にプライマリーバランス=基礎的財政収支を黒字化するという目標の達成に向け、歳出歳入両面の改革に取り組んでいきたい」と述べました。