ガザ NICUの赤ちゃん“48時間の命” 悪化する子どもたちの環境

ロンドンを拠点にパレスチナの人々に医療物資の提供を行っている慈善団体の代表は、病院の発電機を動かすための燃料が届かなければ、ガザ地区にあるNICU=新生児集中治療室の赤ちゃんが48時間以内に命を落とすことになると訴えました。

慈善団体「メディカル・エイド・フォー・パレスチニアンズ」のメラニー・ワード代表は24日、NHKのインタビューに応じました。

この中でワード代表は「ガザ地区の6つの病院にあるNICUの保育器の中にいる赤ちゃん130人について特に懸念している。私たちは国連から、これらの病院に供給できる燃料の残りは48時間を切っていると聞いている。燃料が48時間以内に病院に届かなければ病院の発電機は動かせず、保育器は停止し、赤ちゃんは死んでしまう」と訴えました。

また、燃料が不足して発電機を動かせないため、井戸水をくみ上げることができず、支援物資も十分でないことから、飲み水が枯渇しつつあるということで、「人々は海水を飲み、ガザ地区にいる私たちのスタッフは、時には農薬で汚染された水を飲み、生き延びようとしている。危険だとわかっていても他に水源がない」と状況の深刻さを訴えました。

慈善団体は24日の声明で、子どもたちは空爆で命を落としたときに身元不明になり、家族とともに埋葬されないことをおそれ、手のひらに自分の名前を書くようになっていると明らかにし、子どもたちを守るために一刻も早い停戦を呼びかけています。

5歳未満の子どもたちの間で急性の呼吸器疾患が急増

イスラエル軍がガザ地区北部の住民に退避を通告し、多くの人が家を追われて厳しい生活を余儀なくされる中、とりわけ、子どもたちを取り巻く環境が悪化しています。

ロイター通信が24日に配信した映像では、ガザ地区南部のハンユニスで屋外に多くのテントが張られ、ペットボトルを使って子どもの体を洗っている様子などが確認できます。

ぜんそくの持病がある長男を含め、5人の子どもを連れて避難している女性は、十分な水や清潔な服が手に入らないと話し、衛生環境の悪化や子どもたちの体調を心配しています。

女性は「テントの中は昼は太陽が照りつけて暑く、夜は寒くて、毛布も足りていません。子どもたちはせきをしたり、鼻水を出したり、夜は熱を出していて、全員体調が悪いです」と訴えていました。

そして、「『戦争は十分だ、私たちには何も残っていない』と毎日泣きながら、母に言っています」と苦しい胸の内を話していました。

UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は、これまでに、5歳未満の子どもたちの間で急性の呼吸器の疾患や下痢の症状が急増しているとしているほか、ハンユニスにある病院の医師も、病院を訪れる患者のほとんどが胃や肺に関する症状や発疹などを訴えていると話しています。

増え続ける子どもたちの犠牲 ガザ地区で2000人超える

イスラエル軍がガザ地区への空爆を続ける中、子どもなどの民間人の犠牲が増え続けています。今月7日に衝突が始まってからのガザ地区の死者は5791人に上り、このうち子どもが半数近くの2360人を占めています。

ロイター通信が南部のハンユニスで24日撮影した映像では、亡くなった娘を抱いた父親の周りに多くの人が集まり、中には子どもの足にキスをしている人もいます。

父親は「娘を手放したくない。娘を埋葬するまで、できる限り長く一緒にいたい」と嘆いていました。

このほか、多くの人が集まって、建物のがれきを素手でどかして、下敷きになっている人を捜す様子も確認できます。避難している男性は「イスラエルは南部のハンユニスは安全だから行けと言ったが、安全な場所なんてどこにもない」と憤っていました。

国連WFPの担当者「状況は悪化の一途をたどるだけだ」

国連WFP=世界食糧計画で緊急事態の対応を担当しているブライアン・ランダー氏は24日、ガザ地区の人道状況について、「我々がいまだかつて経験したことがないほど状況はひどい。これからの数日間は、多くの人にとって非常に悲劇的なものになるだろう」と述べました。

その上で、ガザに搬入された人道支援物資について、「全く十分ではない。ガザで自由に物資を届け、スタッフが安全に活動できる保証もない。物資を必要としている人たちに届けることができておらず、状況は悪化の一途をたどるだけだ」と述べて、物資を届けるための安全の確保も大きな課題に直面しているとしています。

“生きるために海水を沸騰” 飲料水の確保も危機的

また、ランダー氏は「ガザ地区の人たちは1日1リットルの水で生活し、生きるために海水を沸騰させることもあると聞いている。こうした状況は許されない」として、飲料水の確保も危機的な状況にあるとしています。

その上で、まずはガザ地区の人口の半分にあたるおよそ110万人に支援物資が行き渡るよう、支援の規模を拡大させていきたいとしています。

WHO=世界保健機関で中東地域の危機対応を統括するブレナン氏も、ジュネーブで行われた記者会見で現地の過酷な状況を訴えました。

ガザ地区では海水を淡水化する装置を使って飲み水などを確保していますが、ブレナン氏によりますと、燃料不足によってこの機械を使えなくなっていることが深刻な水不足に拍車をかけているということです。

ブレナン氏は「ガザで避難している人たちは1日あたり1リットルから3リットルしか、きれいな水を使えない。国際的な基準では1人15リットルは必要だ。汚い水を飲み始めることも懸念される」と述べ、現地の衛生状態に懸念を示しました。

また、現地では風呂に入れないため、さらなる衛生状態の悪化や、感染症の流行が懸念されるということです。

病床稼働率150%も “医薬品が運搬できず”

さらに、ガザ地区最大級の医療機関である北部のシファ病院では、多くの病院が電力不足に陥り運営ができなくなる中、患者が集中して、病床稼働率が150%に達しているということですが、空爆が危険で医薬品が運搬できなくなっているということです。

ブレナン氏は人道支援物資を乗せたトラックが3日連続でガザ地区に入ったことについても、「微々たるもので、大海の1滴だともいえる。私たち人道支援者の能力ではこの甚大なニーズに対処することは困難だ」と述べ、支援の大幅な拡大が必要だと訴えました。