顔認証のギモン メーカーに聞いてみた

顔認証のギモン メーカーに聞いてみた
スマートフォンのロックの解除など社会に浸透しつつある「顔認証」の技術。活用の場が金融分野にも広がっています。先月、コンビニ系の銀行が顔認証や暗証番号などでお金の出し入れができるATMを来年春に導入することを発表しました。このニュースに対して視聴者からはさまざまな意見や質問が寄せられました。
「便利になる」という声もある一方、多く寄せられたのが、「マスクをつけていても認証するの?」「他人がなりすますおそれはないの?」といった質問です。皆さんの質問への答え、銀行と開発したメーカーに聞いてきました。
(経済部記者 真方健太朗)

ATMの顔認証に多くの質問

9月12日、セブン銀行がATMの新サービスを発表しました。

来年春からは、顔認証の技術を活用して、ATMからお金の出し入れができるようになるということで、キャッシュカードを持ち歩く必要はなくなります。

NHKではこの内容について、テレビやインターネットで紹介しました。
すると、金融という最もセキュリティが求められる分野の1つということもあって、視聴者からは顔認証について多くの質問が寄せられました。
顔にケガをしてばんそうこうをつけていたらどうなるの?

マスクをつけている場合、しかめっ面や“変顔”でも認証するの?

登録した写真と比べて、極端に痩せたり太ったりしても大丈夫?

双子の場合は区別できるの?

写真をかざして他人がなりすますおそれはないの?
まずは発表した銀行に聞いてみました。

答えは、来年春を目指して開発中のため、まだ質問に回答できないということでした。

そのうえで次のように話していました。
セブン銀行
「特にセキュリティ面は万全の対策を行って、皆さんが安心・便利に使っていただけるように新サービスを開発していきたい」

開発したメーカーに聞いてみた

次に私はこのシステムを開発した大手メーカーNECのショールームを訪ねました。

セブン銀行のATMにこの会社の技術がどの程度採用されるかは未定とした上で、寄せられた質問や最新の顔認証の動向について、聞いてきました。

会社の協力のもと質問の状況を再現しました。
まずはタブレット端末やスマートフォンで認証の元になる顔写真を撮影してシステムに登録します。

はじめに、顔にけがをした想定で試してみました。
顔にはばんそうこうとガーゼ、目には眼帯をつけます。

顔の3分の1ほどが覆われているような状況です。

これでも同一人物だと判定できるのでしょうか。

私がカメラが付いたモニターの前に立つと、システムが顔の輪郭を認識して四角形で囲われ、線の色が緑に変わりました。
同時に画面の右側に先ほど登録した私の写真と名前(NHK_MAGATA)の文字が。

一瞬で本人だと認証できました。

「マスクをつけた場合」と「“変顔”をした場合」も試してみましたが、同様に問題なく認証が可能でした。

私が驚いたのが、事前に登録した写真が過去のものであっても、顔認証ができるという点です。

この会社の広報の女性があらかじめ登録していたのが高校時代の卒業アルバムの写真。
大人になって髪型と髪の色が変わり、メイクをするなどの変化がありましたが、すぐに同一人物だと判断しました。

いったいどのような仕組みで顔を見分けているのでしょうか。

この会社のシステムでは、認証にAIを活用しています。
撮影した顔写真から目や鼻、口の位置など、その人の特徴をとらえて数値化。

実際の人物と特徴が一致するかを瞬時に統合し、見分けています。

このため質問があった「ケガやマスクで顔の一部が隠れるケース」や「体重が極端に増減したケース」であっても、例えば目と目の間など特徴が変わりにくい場所を重点的に照合することで正確な判定ができるということです。

また他人からは見分けが付きにくい「双子」であってもAIが細かな違いを見抜くことができるそうです。

この会社では、30年以上、顔認証の技術開発を続けていて、近年その精度がより高まってきているということです。

なお、撮影した顔写真は数値データとして管理。

写真そのものが外部に流出しないようにしているということです。

セキュリティは大丈夫?

今回寄せられた質問の中には、セキュリティ面を心配する声もありました。

例えば、他人のなりすましはどう防ぐのでしょうか。

今回は、私の顔写真を別人がカメラにかざした場合に認証されるか試してみました。
結果はそもそも人だと認識されませんでした。

会社によると、本当の人か写真かをAIが見分けることができるということです。

さらにセキュリティを高めるためには複数の認証を組み合わせることも重要です。

そもそも顔認証は「生体認証」と呼ばれる方法の1つで、ほかにも指紋や手の静脈、目の虹彩を読み取る方法もあります。

これらを組み合わせる数が増えるほど、セキュリティは破られにくいというわけです。

今回顔認証を活用したATMを発表した銀行によりますと、「顔認証」や「暗証番号」など複数のキーを組み合わせることで安全性を高めていくことを検討しているということです。
高島慎也さん
「例えば顔認証と両目の虹彩認証の3つの生体情報を組み合わせれば、他人と誤って照合される可能性は100億分の1まで低くなる。セキュリティが必要な場所や状況によって最適な認証方法を開発していきたい」
医療機関の受け付けや空港での入国手続き、それに今回のような金融分野など、顔認証の技術は、私たちの暮らしにより身近なものとなっています。

便利さが増す一方で、「顔」という個人の情報をどのように扱い、活用していくのか。

活用する企業の側には、セキュリティやプライバシーにより一層配慮することが求められていると取材を通して感じました。
寄せられた質問への答え ※NECの顔認証システムの場合

顔にケガをしてばんそうこうをつけていたらどうなるの?
→ケガの程度によるが、多くの場合認証できる

マスクをつけている場合、しかめっ面や変顔でも認証するの?
→高い確率で認証できる

登録した写真と比べて、極端に痩せたり太ったりしても大丈夫?
→高い確率で認証できる

双子の場合は区別できるの?
→高い確率で認証できる

写真をかざして他人がなりすますおそれはないの?
→写真と本物の人を見分けることができるので、他人がなりすますのは難しい
「顔認証で現金引き出し」9月13日「おはよう日本(おはBiz)」で放送
経済部記者
真方 健太朗
2011年入局
帯広局、高松局、広島局を経て現所属