恐竜ポーズ?日本代表 松田力也のキックでベスト8をつかめ

「恐竜のようだ」

そう言われるルーティンから繰り出すキックが、ゴールポストの間に吸い込まれていく。日本代表、松田力也選手のプレースキックがいま、絶好調だ。

10月8日に行われるアルゼンチン戦。勝てば決勝トーナメント進出となる大一番で “松田選手のキック”がチームの命運を握っている。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)

絶好調 松田力也のプレースキック

9月30日、日本のベースキャンプ地となるフランス、トゥールーズで行われた会見で松田選手の表情は晴れやかだった。

それもそのはず、ワールドカップに入ってから、松田選手のプレースキックが次々と決まっているからだ。

プレースキックとは、その名のとおり「置いて蹴ること」。

トライの後に与えられるゴールキックを決めれば2点、ペナルティーゴールの場合は3点が入る。

ワールドカップに入ってからの松田選手は、ここまで3試合で16本蹴って15本成功。大会でのキック成功率は驚異の93.75%となっている。

松田選手も自信を深めている。

松田力也選手
「自分のキックをすれば絶対に決められるっていう自信を持っているので、それを毎回、再現するだけだと思っています。いまは、いい感じで蹴ることができています」

直前のテストマッチでは絶不調

昨シーズンのリーグワンで、キック成功率トップの85.5%をマークした松田選手。

その正確無比なキックでベストキッカーに選ばれたが、大会直前は不調にあえいでいた。

W杯前のイタリア戦はキックが不調(8月)

ワールドカップ本番前のテストマッチでは、出場機会が限られていたこともあり4試合で蹴ったのはわずか4本。このうち決めたのは1本だけだった。

特にイタリア戦では、トライ後にチャンスが2回訪れたものの2回とも失敗。ゴールポストから大きく外れるキックに、周囲からは心配の声があがった。

松田選手も、自信なげにこう語った。

「自分らしく蹴ることができていない。もう一度、自分のルーティンでしっかり決めるように見直したい」

大会直前にフォーム改造へ

それでもイタリア戦からワールドカップ初戦までの2週間の時間が、松田選手に立ち直りのきっかけを与えてくれた。

試行錯誤を続ける中、トレーナーのアドバイスで、蹴る際に右肩が下がっていることが安定感を欠く要因になっていることに気づく。

そして右肩が下がらないように意識するため、現在のフォームに行き着いた。

左が改良前の構え、右が新しい構えだ。

新しい構えは、蹴る前に両ひじを直角に曲げていることがわかる。

この構えの変化が松田選手のキックに安定感をもたらした。

松田選手によると、変更したのはワールドカップの初戦を控えた前日練習のことだ。

「変えることに不安はなく、絶対そっちの方がいいと思った」

直前も直前だったが、確信があったと言う。

初戦から決まり始めたキック

迎えた初戦のチリ戦。

松田選手は、前半10分にトライ後のゴールキックを冷静に決めると、手応えをつかみ、この試合6本中6本のキックを決めてみせた。

その後、2戦目のイングランド戦でも4本中4本、3戦目のサモア戦でも6本中5本を決めた。

SNSでは「松田のキック」がトレンド入りし、大きな注目を集めるようになった。

SNSのX(旧ツイッター)より

「松田のキックすごすぎる」
「松田のキックの精度たるや 精神力半端ない」
「松田のキックが勝負を分けたかな」

日本の戦術にも好影響

一緒にプレーする選手やコーチも、松田選手のキックに絶大な信頼を寄せる。

スクラムなどを担当する長谷川慎コーチは、フォワードの選手にも「気持ちの余裕」を生んでいると話す。

長谷川慎アシスタントコーチ

長谷川慎アシスタントコーチ
「力也のキックは本当に助かっている。例えばフォワードがペナルティーを獲得したときに3点になるのと、ならないのでは大きな違いだ。エリアによって『ここは松田力也のエリア』というのが今はある。そこで3点を刻んでくれる。フォワードとしては『ここ頑張ったら3点取ってくれる』という気持ちの余裕が出てくる」

恐竜ポーズ?で さらなる高みへ

“小さく前へならえ”のようにも見えるこの姿勢。

レメキ ロマノ ラヴァ選手から…

チームメートのレメキ ロマノ ラヴァ選手からは「恐竜に似ている」と言われているそうだ。

9月30日の会見で松田選手は、異例の呼びかけを行った。

松田選手が記者会見で呼びかけ(9月30日)

「いい名前があればつけてほしいなと思います。“前ならえ”はちょっと…(笑)」

10月8日に対戦するアルゼンチンはフィジカルが強く、そう簡単にはトライを奪えない相手だ。

接戦になればなるほど “松田選手のキック”がチームの命運を握ることになる。

松田力也選手
「1本1本、丁寧に自分のキックを蹴ることが成功率にもつながるし、それが一番勝利に貢献できるところだと思います。毎回、自分のキックをし続けるところに焦点を当てていきたい。自分たちがやってきたことをしっかり出せれば、どこのチームにも負けない。まずは1日1日を大切に、今までと変わらない、いい準備をしていきたい」