ラグビーW杯【データ解説】日本の勝因はキックの精度

ラグビーワールドカップフランス大会、日本は1次リーグの初戦で初出場のチリに42対12で勝って3大会連続で白星スタートを切りました。6つのトライを奪い、ボーナスポイントを獲得した日本。その勝因をデータからひもときます。
カギは「キックの精度」、特にゴールキッカー・松田力也選手の復調も大きな勝因となりました。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)

◆勝因1:効果的なキック

まず、勝因の一つに挙げられるのがプレー中のキックが効果的だったことです。

日本は25回蹴って696メートルを獲得しました。
これはチリの19回、417メートルを大きく上回っています。

松島幸太朗選手

日本は、松島幸太朗選手などのロングキックで陣地を挽回したり、ハーフ団が相手ディフェンスの裏に蹴り込んでチャンスを作るなど、効果的なキックを織り交ぜました。

こうしたキックはエリアの支配率の向上にもつながり、日本が66%とチリを大きく上回りました。日本は敵陣でより多く攻撃を展開し、相手にプレッシャーを与えることができました。

◆勝因2:トライ後のゴール すべて成功

2つめの勝因は、トライ後のゴールキックの精度が高かったことです。

松田力也選手

大会前、キックの不調に苦しんでいたスタンドオフの松田力也選手が6本をすべて成功させました。ワールドカップの初戦というプレッシャーがかかるなか、着実に得点を積み重ねチームに勢いをつける形となりました。

リーグワンでトップのキック成功率85.5%をマークしてベストキッカーに選ばれた松田選手ですが、先月下旬のイタリアとのテストマッチでは後半から出場してトライ後のゴールキックを2本蹴って2本とも大きく外しました。

松田選手は、その後、上半身と下半身のバランスを見直し、キックの動作をいちから修正してきました。

チリとの試合では、ゆったりした本来のフォームで危なげなく6本のゴールキックをすべて決め、日本代表が過去のワールドカップで決めた1試合でのゴールキックの最多本数を1本更新しました。

松田選手は、試合後「自分らしく蹴るということに集中していた。これまでの試合でうまくいかないこともたくさんあったが、それがあったからこそ決めることができた。ここで満足せずにさらに高めていきたい」と話し、次に対戦する強豪・イングランドとの試合を見据えました。

このほかフィジカルが強いチリに対し、日本のスクラムが安定していたことも試合を優位に進める要因となりました。

◆課題:タックルミス

一方、課題となったのがタックルミス。日本はチリより多かったのです。

【タックル成功数】
日本 149回/チリ100回
【タックルミス】
日本28回/チリ20回

こうしたタックルミスは相手の突破につながっていて、リーチ マイケル選手は「後半は修正できたが、相手が外にパスするだろうと予測しすぎて近場をいかれた」と反省していました。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは試合を振り返って「タックルは課題が残った。次のイングランド戦で同じことをしてはダメなので改善したい」と話しています。

世界ランキング8位のイングランドは、1次リーグの初戦で世界6位のアルゼンチンに快勝し、実力を示しています。去年11月、イングランドに13対52で大敗した日本は、課題のタックルを修正し、ディフェンス面でいかに粘りを見せられるかが鍵を握ります。

《第2戦の相手 イングランドとは》

初戦に勝利した日本の第2戦の相手は世界ランキング8位のイングランドです。

ワールドカップには10大会連続10回目の出場で、2003年の大会で北半球にあるチームで唯一となる優勝を成し遂げています。

イングランド今大会初戦はアルゼンチンに勝利

イングランド代表は距離の長いキックを使って敵陣深くまでボールを運び、強力なフォワード陣が攻め込むというスタイルを伝統とし、今大会もこの戦術に合ったワールドクラスの選手がそろっています。

オーウェン・ファレル主将は出場停止

キャプテンを務めるオーウェン・ファレル選手は、8月に行われた試合で相手選手へのタックルが危険なハイタックルと判断されてレッドカードで退場となり、日本戦には出場できません。

それでも同じスタンドオフのポジションには、俊敏性と相手の意表をつくプレーに定評があるマーカス・スミス選手がいるほか豊富な経験を持ち、正確なキックが持ち味のジョージ・フォード選手がおり、選手層の厚さが際立っています。

ジョージ・フォード選手

1次リーグの初戦となったアルゼンチン戦では、前半に、トム・カリー選手が危険なプレーで退場になり、数的に不利な状況のなか、フォード選手が鮮やかなドロップゴールを次々に決め、ペナルティゴールも含めキックでチームの全得点となる27点をたたき出し、勝利しました。

また、スクラムでもプロップのエリス・ゲンジ選手を中心にアルゼンチンを上回る場面が目立ち、強さを見せつけました。

日本は去年11月 イングランドに敗戦

日本のイングランドとの過去の対戦は1987年のワールドカップで7対60で敗れるなど、通算成績は0勝10敗と1度も勝てておらず、去年11月に行われたテストマッチでもイングランドのキックを多用する戦術とフィジカルの強さに力負けし、13対52と大敗しています。

それでも初戦のアルゼンチン戦のあと、イングランド代表のスティーブ・ボーズウィックヘッドコーチは十分な対策を取る考えを示しています。

スティーブ・ボーズウィックヘッドコーチ
「アルゼンチン戦は序盤の退場処分で試合状況が変わり、残りの時間の戦術が決まっていった。この試合をよく分析するが、日本戦は別の戦い方になるだろう」

1次リーグ突破、そしてベスト8進出に向けて大きな壁となるイングランド。日本代表の真価が問われる一戦となります。