京アニ事件 被告は起訴内容認める 弁護士は無罪主張【詳しく】

「京都アニメーション」のスタジオが放火され、社員36人が死亡した事件の初公判が開かれ、殺人や放火などの罪に問われている青葉真司被告(45)は、起訴された内容について「間違いありません。こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった」と述べて認めました。

一方、被告の弁護士は、責任能力はなかったとして、無罪を主張しました。

初公判の内容を詳しくまとめました。

被告は起訴内容認める 弁護士は無罪主張

裁判員裁判は、午前10時半すぎに始まりました。

裁判の「冒頭手続」で、青葉被告は裁判長から名前や職業などを尋ねられました。これに対し、被告は小声で答えました。

青葉被告は、起訴された内容について「間違いありません。当時はこうするしかないと思っていた。こんなにたくさんの人が亡くなるとは思っておらず、やりすぎた」と述べ、起訴された内容を認めました。

一方、被告の弁護士は「被告は精神障害により、よいことと悪いことを区別して犯行をとどまる責任能力がなかった」などとして、無罪を主張しました。

検察「完全責任能力ある」

検察は、冒頭陳述でこの裁判の主な争点は責任能力だとしたうえで、「被告には完全責任能力があった。被告は、京都アニメーション側に小説のアイデアを盗まれたと一方的に思い込んだ。筋違いの恨みによる復しゅうだ」と述べました。

犯行に至ったいきさつについては、「被告は、京アニが制作したアニメに感銘を受けたことをきっかけに小説家を志し、京アニへの憧れを強めた。しかし、執筆しても満足できず人生を悲観して怒りを強めていった。その後、みずからの小説を京アニに応募したが落選し、京アニにアイデアを盗まれたという妄想を募らせていった。事件の1か月前、何も思い通りにならないことに投げやり感や怒りを強めた被告は、大宮駅前に行き、無差別殺人を起こそうとしたが断念した」と説明しました。

そして、事件の3日前、「人生がうまくいかないのは京アニのせいだと考えて筋違いの恨みによる復しゅうを決意し、京都に向かった。スタジオなどを下見したうえでホームセンターで犯行に使う道具を購入した。犯行当日、ガソリンを購入した被告は計画どおり実行するか、引き返すかを考えためらった。引き返すという選択肢もあったのに実行した」と述べました。

弁護側「人生をもてあそぶ闇の人物への反撃だった」

弁護側は冒頭陳述で被告には責任能力がなかったとしたうえで、事件のいきさつについて説明しました。

この中で弁護側は「青葉被告は、31歳の時、京アニの作品に感動し、小説を書き始めた。事件の1年前、テレビで京アニの作品を見ていた際、自分のアイデアが使われ、盗まれていたと感じるとともに京アニから逃れられないと苦しむことになった。その後、人や物との関わりを絶とうとし、スマートフォンを解約するなどした。事件の4日前にアパートの隣人と騒音のトラブルになった際には『失うものは何もない』と言って翌日、京都に向かった」と説明しました。

そのうえで「被告にとってこの事件は起こすしかなかった事件で、人生をもてあそぶ闇の人物への対抗手段、反撃だった。被告の責任について判断する前に、被告が何をしたのか知る必要がある。責任能力は複雑なものなので今後の証人尋問で専門家の意見を聞いて被告に責任を問えるのかどうかを議論すべきだ」と述べました。

《裁判で読み上げられた調書》

女性スタッフ「窓の隙間から必死に外の空気を」

裁判では、けがをした複数の被害者の調書が検察官によって読み上げられました。このうち女性スタッフの1人は事件の発生直後から避難するまでの行動を詳細に語っていました。

このスタッフは「2階で仕事をしていると、らせん階段の方向から悲鳴が聞こえました。光とともに『ボンッ』という音が聞こえ、らせん階段の下からキノコ雲のような煙が上がっていたので、避難訓練通りに西側の階段に向かいました」と述べたということです。

さらに「窓がなかなか開かず、煙が迫ってきたのでパニックになりました。煙を吸い込んでしまい、化学物質のような臭いがして苦しくて一度しゃがみ込んでしまいました。そのあと窓を拳で3回ほど殴りましたが全く割れず、後ろの男性から『落ち着いて固いもので割ってください』と言われても、パニックで何も思いつきませんでした」と説明していました。

そのうえで「窓枠が熱くなって持つこともできなくなり、煙の苦しさと熱さから逃れようと、少し開いた窓の隙間から必死に外の空気を吸っていました。もう逃げられないと諦めていたところにおそらく熱でガラスが割れ、ベランダに出ることができました」と話したということです。

現場にいた社員「このままでは死ぬ」

当時、現場にいた社員の調書によりますと、この社員は、京都アニメーションが開設している養成塾の1期生で、アニメーションの基本を学んだあと、入社し、事件当時はスタジオの2階の自分の席にいました。

当時の様子について社員は「らせん階段の方から、『死ね』という野太い男の声がして『きゃー』という叫び声が聞こえた。『ボッ』という大きな音がしたあとにらせん階段を煙が上がっていくのが見えた。男の声が聞こえてから煙を見るまで、3秒くらいだった」と説明していました。

また、逃げようとしていた時の様子について、「何人ものスタッフが『助けてください』と叫んでいて、ベランダにいたたくさんの人が次々に飛び降りた。私も『このままでは死ぬ』と思い、ベランダに出て、思い切って下に飛び降りた。そのあと、男が警察官から『なんでこんなことをしたんや』と尋ねられていて、男は『小説をとっただろ』と言っていた」と話していたということです。

消防職員「ここまで悲惨な現場 見たことない」

裁判で検察は、当時救助に入った消防職員の供述調書を読み上げました。

職員は「全面に火が広がり多数の人が倒れていて、普通の火事ではないと分かった。火の勢いがおさまると建物の中に入って多数のご遺体を見た。私も消防の仕事を何十年もやっているが、ここまで悲惨な現場は見たことがない」と供述していました。

《遺族は》

「無罪主張は腹立たしい」

事件で亡くなったアニメーターの石田奈央美さん(当時49)の高齢の母親は初公判について「やっていることと主張がちぐはぐで、無罪主張は納得ができず腹立たしい」と話しました。

母親は5日は傍聴しませんでしたが報道で内容を知ったということで、青葉被告が「こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった」などと発言したことについて、「ガソリンをまいて火をつけたらどうなるか、誰でもわかることだと思います。やっていることと主張していることがちぐはぐだと思います」と話しています。

その上で、被告の弁護士が被告に責任能力がなかったとして無罪を主張したことについては、「何日も前からガソリンや台車を用意していてあれだけ周到に計画できるのに、善悪の判断がつかないというのは納得がいきません。遺族からしたら腹立たしいことこの上ないです」と話していました。

奈央美さんの80代の父親は、裁判の傍聴を望んでいましたが先月5日に亡くなっていて、母親は「お父さんも空の上から聞いているのではないかと思います。きょうの裁判の内容をどう捉えているかは想像もつきませんが、直接聞くことができず残念でならないと思います」と話していました。

母親は今後の裁判については「何の罪も、関係もない娘がなぜ殺されなければならなかったのか、どんな心境であのようなことをしたのかすべて話してほしい。娘を殺された身からすれば何を言われたところで憤りが収まることはありませんが、被告がすべきことは正直に説明することだけだと思います」と話していました。

「素直に話してもらうことが望み」

亡くなった男性アニメーターの高齢の父親は5日の初公判は傍聴しませんでしたが、
報道で裁判の内容を知ったということで、青葉被告が冒頭、「こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わなかった」などと発言したことについて「1番最初の発言では、謝罪のことばが出てくると思っていた。被告はその気持ちを持っているもののたまたま言うことができなかったのか、どう受け止めてよいのかわからない」と話しました。

そのうえで今後の裁判については「事件が起きた背景には被告が育った環境や孤独があるのかもしれないが、治療で一命を取りとめた以上、私のような遺族が2度と出ないようにするためにも、事件を起こすに至った過程を素直に話してもらうことが望みです」と話していました。

「後悔の思いがあるのかみていきたい」

事件で亡くなった武本康弘さん(当時47)の母親の武本千惠子さん(75)は初公判について「まだ始まったところなので、特段思うところはないが、これから審理が進むなかで被告の本心が出てきたときに、後悔の思いがあるのかどうかをみていきたいです」と話していました。

また、弁護士が被告に責任能力がなかったとして無罪を主張したことについては、「弁護側としては『心神喪失』を主張するしかないのだと思いますが、あれだけ計画的に実行していて、それはないだろうと思います。遺族が望む判決に影響が出ないでほしいです」と話していました。

検察「完全責任能力を立証していく」

京都地方検察庁の堤康次席検事は初公判のあと報道各社の取材に応じ、「きょうの冒頭陳述で述べたとおり、被告には完全責任能力があるということを今後の公判で立証していく」と述べました。

また、証拠調べのなかで犠牲者36人の氏名を読み上げる際に、17人を実名、19人を匿名としたことについては、遺族の意向を尊重したと説明しました。

遺族や被害者のサポートに力を入れるとしていて「今後の公判でも分からないことがあれば検事から丁寧に説明していく」と述べました。

元裁判長「本人が動機を語ることに大きな意味」

大阪高等裁判所の元裁判長で関西大学法科大学院の和田真教授は裁判について「法廷で本人が動機を語ることに大きな意味がある。事件がなぜ起きたのかという真相をはっきりさせることは、事件に至らないための教訓を残していく上で意義がある」と話しています。

また争点となっている責任能力の有無については「検察側も被告の妄想は認めているが、遠い要因で直接的なものではなく、みずから計画してやったと主張している。一方弁護側は、妄想がかなり強く影響したという主張している。そもそも精神疾患があったのか、その症状は今回の犯行にどのように結びついたのかが一番のポイントになる。裁判官や裁判員は、医師の証言などを聞いたうえで難しい判断をすることになる」と指摘しました。

精神科医「動機や事実関係を明らかに」

精神科医で犯罪精神医学が専門の聖マリアンナ医科大学安藤久美子准教授は、裁判の大きな争点である責任能力について、「事件の動機が妄想に基づく可能性があるということで、その妄想がより病的なものなのか、実体験によるものなのかの判断が重要になってくるだろう。被告の生い立ちや生活の状況が明らかになる中で、どの時点で妄想的な発言や行動が出てきたのかを丁寧に見て、発言を裏付ける客観的な事実についても確認していく必要がある」と話しています。

裁判の意義については「被害者にとって事件の真相を知ることはつらいことであると同時に気持ちの整理や1つの区切りにもなりうる重要なものだ。裁判を通じて、動機や事実関係が明らかになることは、新たな事件を防ぐ意味でも意義があるのではないか」と話していました。

《傍聴した人は》

「自分の体が焼けていると思うくらいの証言」

きょうの裁判を傍聴した京都大学の法科大学院に通う25歳の男性は「被害者の方の証言内容は自分の体が焼けているんじゃないかと思うくらい悲惨だったので、遺族の方々は無念の思いが尽きないと思います。現場の状況が鮮明に説明されていて、被害の壮絶さを改めて思い知りました」と振り返っていました。

法廷内での被告の印象については「途中、寝ているように見える場面もあって、どれくらい真剣に裁判に向き合っているのか自分にはわかりませんでした。ご遺族の方にとって納得できるような判決が出ればいいなと思います」と話していました。

「被害の大きさを感じた」

裁判を傍聴した23歳の男子大学生は「昔から、京都アニメーションの作品が大好きで裁判を傍聴しに来ました。検察官が事件で亡くなった方々の名前や死因を一人ひとり読み上げたとき、その長さに被害の大きさを感じ、重い気持ちになりました」と話していました。

また、今後、長期にわたって続く審理については「被告人の生い立ちや事件の背景を丁寧に確認し、裁判員の方には適正な判断をしてほしいです」と話していました。

「思っていることを正直に話してほしい」

裁判を傍聴した京都市に住む大学3年生の女性は「どうして犯行に及んだのか、自分の目で確かめたくて傍聴しました。死因が焼死だけでなく窒息死した人もいたことなど、事件の悲惨な状況を知りました。被告には弁護士に言わされたことばではなく、自分が思っていることを正直に話してほしい」と話していました。

「被害者の家族に謝罪してほしい」

大阪市の大学3年生の男性は「自分が高校生だったころ、大好きだったアニメを作っていた会社が燃えたことがショックで事件の裁判が開かれたら絶対に傍聴に行こうと思っていました。検察側の証拠で出てきた、被害者の証言などを聞いて、改めて痛ましい事件だったのだと思い胸が痛みました。被告には裁判を通して被害者の家族に謝罪してほしいと思います」と話していました。

犠牲者の半数 匿名で審理

証拠調べの中で、検察は事件で犠牲になった36人の名前や当時の年齢、それに死因などを読み上げました。

半数以上の犠牲者については、名前は読み上げず、裁判所に提出した被害者の一覧表の番号を示すことで、匿名で審理が進められています。

被告は車いすで法廷に

車いすに乗って法廷に入った青葉被告は、上下青色のジャージを着て、マスクを着用していました。髪型は丸刈りに近い短髪で、視線はまっすぐ前を向いていました。

検察の冒頭陳述の間は、車いすに深く腰かけ、じっと検察官の方を見ていました。事件の犠牲者の人数やけが人の数が読み上げられた際には、少しうなずくような様子も見られました。

また午後1時25分ごろに審理が再開されたとき、自分の席に向かう途中、遺族や検察が座る席に向けて2回ほど小さく頭を下げました。

被告 午前10時ごろに京都地裁に

青葉被告を乗せたとみられる車は、午前8時過ぎに勾留されている大阪拘置所を出て先ほど午前10時ごろ、京都地方裁判所に入りました。

傍聴希望者は500人

今回の裁判を傍聴しようと、京都地方裁判所の近くの京都御苑富小路広場では、5日朝早くから多くの人が傍聴券を求めて列を作りました。

裁判所によりますと、用意された傍聴席35席に対して、希望者は500人に上り、倍率は14倍あまりとなりました。

大阪・堺市から来た20代の男子大学生は「アニメファンとして『来なきゃいけない』という使命感で来ました。罪を認識しているのであれば、被告の口から謝罪してほしい」と話していました。

また、京都市の60代の男性は「とても大きな事件で注目していたので、来ようと思っていました。この4年間、被告が何を考えて生きてきたのか、今になって事件をどう考えるのか聞きたいです」と話していました。

京都府福知山市の20代のアルバイトの男性は「10年前、高校1年生で勉強についていけず、家に引きこもっていましたが、京都アニメーションさんの作品を見たときにすごく感動して、引きこもりから脱した経験がある。被告は医療従事者の方たちに命を助けられて、もう自分だけの命ではないと思うので、自分の思ったことを、自分の言葉で発してほしい」と話していました。

起訴内容の詳細は

青葉被告は、京都市伏見区にある「京都アニメーション」の第1スタジオに放火して多数の従業員を殺害しようと計画し、4年前の2019年7月18日、午前10時半ごろ、正面出入り口から侵入したうえ、1階のフロアでバケツに入れたガソリンをまいてライターで火をつけ、社員70人がいるスタジオを全焼させるとともに36人を死亡させ、32人に重軽傷を負わせたとして建造物侵入と放火、殺人、それに殺人未遂の罪に問われています。

また、スタジオ前の路上で包丁6本を所持していたとして銃刀法違反の罪にも問われています。

殺人事件としては、記録が残る平成以降、最も多くの犠牲者を出し、被告みずからも重いやけどを負って長期間入院したこともあり、裁判が始まるまでに4年余りが経過しました。

捜査段階での供述は

青葉被告は、捜査段階では、警察の調べに対し、「ガソリンを使えば多くの人を殺せると思った」、「小説を盗用されたから火をつけた。会社に恨みがあった」などと供述していたということです。一方で、犠牲者については「2人ぐらいと思っていた。36人も死ぬと思わなかった」と供述していたということです。

裁判で、被告人質問の期日は10回程度設けられていて、被告が、事件の動機などについての質問にどのように答えるのかも注目されます。

主な争点は責任能力

裁判を前に裁判官、検察官、弁護士が争点を絞り込む「公判前整理手続き」が行われ、事件当時、被告に物事の善悪を判断する責任能力があったかどうかや責任能力の程度が主な争点となっています。

検察は、捜査段階で半年間にわたって専門家による精神鑑定を行い、被告には責任能力があったとして殺人などの罪で起訴しました。

一方、弁護側は、被告が起訴されたあと、2度目の精神鑑定を裁判所に請求し、数か月間にわたって鑑定が行われました。結果は明らかにされていませんが、弁護側は、当時の被告について、▽責任能力がない「心神喪失」の状態だったとして無罪を主張するか、▽責任能力が著しく減退した「心神耗弱」の状態だったとして刑を軽くするよう求めるものとみられます。

裁判では、2つの精神鑑定をそれぞれ担当した2人の医師の証人尋問が行われます。

被告 車いすで移動できるまでに回復

この事件では、青葉被告自身も重いやけどを負いました。

被告を治療した医師や関係者によりますと、当時、被告のやけどは全身の9割に及び、ひん死の状態で大阪の病院に搬送され、入院しました。治療は、広範囲の重いやけどの治療に用いられる「自家培養表皮移植」で行われたということです。

ウエストポーチを身に着けていたためやけどをしなかった皮膚を培養するなどして全身に移植していきました。3か月後には、介助されながらも食事をしたり、車いすでリハビリをしたりするまでに回復しました。

京都の病院に転院したあとも移植した皮膚を定着させる手術など、半年間であわせて12回の手術を受けたということです。そして、10か月余り入院したあと、被告は逮捕されました。

関係者によりますと、今も自分の力では立てませんが、車いすで移動できるまでになっていて、会話もできるということです。

警察署に移送される被告

《今後の裁判は》

被害者参加制度の利用も

関係者によりますと、今回の裁判では、プライバシーの保護を求める被害者や遺族の希望を踏まえて一部の被害者について、名前など個人が特定される情報を伏せて匿名で審理するということです。

憲法は、公正な裁判を保障するために公開の原則を定めていますが、刑事訴訟法に基づく制度では、被害者などから申し出があり裁判所が許可すれば、被害者の名前や住所などを伏せて審理を進めることができます。対象となるのは、名前などが法廷で明らかにされることにより、被害者などの名誉や社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある事件としています。

また、今回の裁判には「被害者参加制度」を利用して、希望する遺族などが審理に参加します。「被害者参加人」として検察官の隣などに座り、被告に質問したり、刑の重さについて意見を述べたりすることができます。

裁判の日程

先月末に遺族に示された審理計画の概要によりますと、期日は、予備日を含めて32回設けられています。

初公判では、起訴された内容を認めるかどうかを聞く罪状認否などが行われるほか、検察と弁護側が、冒頭陳述を行います。7日から被告人質問が始まる予定で、はじめに被告の弁護士、次に検察官の順番に被告に質問することになっています。

今後、被告の精神鑑定を行った医師の証人尋問が行われるほか、京都アニメーションの社長や対応にあたった消防の職員が証言する予定です。そして、再び被告人質問を行ったあと、物事の善悪を判断する責任能力が被告にあったかどうかについて、検察と弁護側が、冒頭陳述を行います。

11月下旬に検察と弁護側が、刑の重さに関わる情状について冒頭陳述を行い、12月上旬にかけて遺族などの供述調書の読み上げや意見陳述が行われます。これについて、2回目の検察の論告と弁護側の弁論が行われて結審します。その後、非公開で裁判員と裁判官が最終評議を行い、来年1月25日に判決が言い渡される予定です。

傍聴席に遺族用の席

裁判が行われる101号法廷は、京都地方裁判所で最も大きな法廷です。88ある傍聴席は4つのブロックに区切られています。関係者によりますと、被害者や遺族などのために確保された席もあり、ほかの傍聴者から見えないよう遮蔽板が設置されるとみられます。

また、法廷では警備を理由に、被告のほか裁判官や検察官、それに弁護士などが座る訴訟関係者の席と傍聴席の間に透明のアクリル板が設置されました。ほかにも検察官が遺族や被害者とともに座る席と被告との間にも同じアクリル板が設置されていました。

《初公判前に 遺族は》

「しょく罪の気持ちあるのか知りたい」

事件で亡くなった武本康弘さん(当時47)は、兵庫県赤穂市出身で地元の高校を卒業したあと大阪府内のアニメの専門学校で学び、京都アニメーションに入社しました。

30代の若さで監督に抜てきされると、「らき☆すた」や「氷菓」といった数々の人気作品を世に送り出し、京都アニメーションのアニメ制作の中心的な存在でした。

手がけた作品は、優しさとユーモアにあふれ、いまもファンに愛されています。

武本さんは後輩のアニメーターたちに講義を行うこともあり、その様子が記録された映像では短いカットや1つ1つのセリフにこだわることの大切さを繰り返し説いていました。

母親 千惠子さん(75)
「事件から4年余りたちましたが、息子を亡くした悲しみの大きさはいまも変わりがありません。裁判が始まるといっても、息子がかえってくるわけではないので特別な感情はありませんが、被告が今どう思っているのか、しょく罪の気持ちはあるのかを知りたいです。判決がどういう結果になるのかこの目で見届けたいと思います」

父親 保夫さん(80)
「被告があれだけの事件を起こして、今どう思っているのかをまず知りたいです。後悔しているのかどうか、していないのであれば許せないです。被告がどういう顔をしているのか見たい気持ちもあるので、判決には行くつもりです」

「娘はもう帰ってこない」

事件で亡くなったアニメーターの石田奈央美さん(当時49)は、鮮やかな色使いに定評がある京都アニメーションでキャラクターなどの色を決める「色彩設計」を担当していました。

人気テレビアニメ「涼宮ハルヒ」シリーズなど数多くの作品に関わり、映画「聲の形」では、ヒロインが流す涙の色を淡いピンク色で表現して話題を呼ぶなど、独創的な色使いで多くのファンを魅了しました。

遺品のノートには、カットごとに細かく色を設定して映像の奥行きや質感などを表現しようと試行錯誤を重ねたメモが数多く残されていたということです。

石田さんの80代の父親は、裁判を傍聴することを希望していましたが、この4年のあいだに体調を崩し、先月、亡くなったということです。

石田さんの母親
「娘はもう帰ってこないという悲しみは癒えません。もし被告が法廷で後悔や謝罪を述べたとしても、今さら遅いことです。相応の裁きが下されることを望んでいます」

「被告が何を話すか 関心はない」

事件で亡くなった横田圭佑さん(当時34)は、京都アニメーションでアニメ制作の進行を管理する「マネージャー」を担当していました。

マネージャーはスタッフが作業を円滑に進められるよう、スケジュール管理などを通じて作品づくりをサポートする役割です。

横田さんは人気作の「けいおん!」や「Free!」などでマネージャーを担当し、映画「響け!ユーフォニアム」ではチーフマネージャーを務めました。

アニメーターの悩みや仕事の進め方について常に親身に寄り添い、同僚から頼りにされる存在だったということです。

横田さんの父親
「裁判の結果がどうなろうと、息子がかえってくるわけではないので、被告が何を話すかについては関心がありません。『なぜあんなことをしたのか』と知りたいという人の気持ちはわかりますが、それを突き詰めたとしてもわが子を失った遺族個人が救われる裁判ではありません」

「再発防止につながる裁判に」

事件で亡くなったアニメーターの男性は、京都アニメーションでキャラクターが使う道具などを描く「小物設定」を担当してきました。

「小物設定」は、アニメのキャラクターが使う道具や乗り物などの複雑な構造を細やかに描く技術で、男性は、人気作の「けいおん!」や「響け!ユーフォニアム」で楽器の作画などを担当しました。

事件後に京都アニメーションが初めて完成させた新作映画、「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」でも、男性が手がけた小物設定が生かされました。

長年にわたって作品の世界観を支え、ファンの間では京都アニメーションの作品に欠かせない存在として知られていました。

父親
「どんな刑が出ても、36人の命を考えれば償うことはできない。遺族としては今でも息子の命を返してほしいが、裁判では、事件を起こすに至った心情や経緯を知りたい。2度と同じような事件が起こらないよう、同じように悲しむ被害者や遺族が出ないよう、再発防止につながる裁判にしてほしい」

《第1スタジオの跡地は》

事件の現場となった「京都アニメーション」の第1スタジオの跡地は、建物が解体されたあと周辺は板で覆われ、さら地のままとなっています。

会社は、将来的に慰霊碑の設置が想定されるとしていますが、会社の事業用地としての利用も考えられるとして一般には公開しない見込みです。

そのうえで、遺族や会社などは、事件や犠牲者の存在、それに多くの支援への感謝を記憶にとどめる象徴として、スタジオ跡地とは別に、会社の本社がある京都府宇治市内へ碑の設置の検討を始めています。

ことし7月、遺族や会社の社員などが参加して初めて開かれた検討会では、▽設置場所は多くの人が集まることができる公園が望ましいという意見や、▽鉛筆やフィルムなどアニメにかかわるデザインを取り入れたいなどの意見が出されました。

今後さらに検討を重ね、事件から5年となる来年7月までの完成を目指すということです。